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タイのマーケットでひとめぼれしたダイニングテーブルを日本まで運んだ話

もしずっと探し求めていたものが突如として目の前に現れたら、どうしますか?
受け入れる準備はできていない。
どうやって受け入れるのかもわからない。
でも、このチャンスを逃したら、もう出会えないかもしれない。
不安と葛藤とワクワクで胸がドキドキする。

私はちょうど先日、タイでそんな出来事に遭遇し、いつもならばただスルーしてしまうようなそのチャンスを、勇気を出してえいっと掴んでみました。その時の出来事を綴ってみようと思います。


***


2024年3月末、私はタイのバンコクにあるチャトチャック・ウィークエンド・マーケットへ向かっていた。暑さを避けて朝9時に出発したが、すでに太陽は輝きを増しながら空高くのぼりつつあり、アスファルトで照り返された熱が空気中の水分を温め、じわっとした熱気が地面から立ち昇る。道路の両側にそびえたつ塀からは、木々がわさっと顔を出し歩道に日陰をつくっている。熱気から逃げるようにその日陰に潜り込むと、少しばかり涼しい。その枝先についている熱帯の花々に癒されながら、歩を進める。

途中、ゴミ捨て場には、大きな収集用バケツの中に、マンゴーやドラゴンフルーツ、スイカ、バナナなどフルーツの皮が山積みになっていた。濃いピンクや黄色、緑などカラフルで美しいが、この気温なので、すでにすえた匂いを発している。屋台でフレッシュジュースが大人気なのだろう。ゴミの様子からマーケットが近づいてきたのがわかる。あともう少しだ。

チャトゥチャック・ウィークエンド・マーケットは、毎週土・日限定でオープンするバンコク最大規模のマーケットで、約 10,000 の屋台と 300 以上の移動式屋台が並ぶという、超巨大マーケットだ。

地図で見ると整列されているが、屋台の数が多すぎて実際は迷路のように感じる。同じ店に戻るのは困難。

私は20年前に一度訪れたことがあったが、ツアーだったので時間が決められていて十分に見ることができず、いつかまたゆっくり来たいと思っていた。今回は丸1日時間を確保したので、マーケットを端から端まで踏破するつもりだ。

それにしても暑い。私の記憶の中のバンコクと比べても暑すぎる。
なぜか。明確な理由がある。
それは今、バンコクが暑季だからだ。

海外に行く人は乾季雨季という季節を聞いたことがあるかもしれないが、3月末のタイは乾季でも雨季でもなく、暑季なのだという。

…暑季。

なんじゃそりゃ。海外旅行のガイドブック作ってたし、海外旅行会社で働いてたこともあるけど、初めて聞いたぞ(←おい)。

               …

私「暑季さん、はじめまして。あの、突然ですみませんが、自己紹介してもらっていいですか?」

暑気「はいはい、いいですよ〜、私一年で一番暑い時期でして、連日、灼熱の暑さが続きます。日中の最高気温は35℃〜37℃。40℃を超える日もあります。」

私「40℃!すごい頑張りますね!それもう昼は外歩けない感じですね。それならそうと、もう少し存在感出しといてくれないと、私知らなくてもう飛行機取っちゃいましたよ。」

暑気「あら〜そうでしたか。でもね、これでもタイではかなり有名なんですよ?」

私「え〜…」

暑季「えー…」

               …

ショックのあまり謎の脳内劇場が繰り広げられたが、もう遅い。すでに航空券は予約済み。行くしかないのだ。

そんなわけで、灼熱のバンコクに降り立った私は、帽子とサングラスで熱中症対策の完全防備をしたところ、怪しいおじさん風のいでたちになった。

たまたま泊まったホテルのキャラクターとそっくり。

自らの出立の怪しさに若干躊躇するが、ここはバンコク。知り合いに会うこともないのだから、知ったこっちゃない。

いざ、マーケットへ!

立派な正門もあるのだが、今回はこんな脇道からマーケットに入ってみる。

アパレル、雑貨、土産物、食器、食品、アート、マッサージ、レストランなどなど、いろいろな種類の屋台が所狭しとひしめき合っている。

少し歩くと汗が吹き出してくる。背中が汗でびしょびしょで、ハンカチでふくもすぐにまたびしょびしょになる。まずいぞ、汗が目立つ色のTシャツを着てきてしまった。…若干躊躇するが、ここはバンコク。知り合いに会うこともないのだから、知ったこっちゃない(2回目)。逆にTシャツが全部びしょびしょになってしまえば、もう汗は目立たない。

フレッシュすいかジュースで水分補給をしつつ、唯一クーラーがあるマッサージ屋で休みつつ、散策をする。

チャトチャックは庶民派のマーケットなので、基本的にリーズナブルな屋台が多く並んでいる。

暑さでフラフラになりながら、マーケットの奥へ進んでいくと…

なんと!家具のゾーンを発見!
しかもとってもオシャレ!好み!

こんなセンスのいい家具屋があるんだなぁと眺めていたところ…
出会ってしまった。。。
ドンズバの、ドンズバのテーブルに…!

私が10年近く探していたイメージにピッタリの白木の一枚板のテーブル!!

白木、一枚板、厚め、長さ2メートル以上、曲線美、そして足のデザイン。
私がずっと頭の中で妄想していた理想そのもの。
家具屋や製材所を見かけるたびに探していたけれど出会えていなかった、理想のテーブル。

まさか、まさか、ここで出会うとは…!
めちゃくちゃ、めっっちゃくちゃほしい!!!
いや待て、ここはバンコクだ。どうやって日本まで運ぶ。無理だ。冷静になれ。

気を落ち着けるために、売り場を離れて、歩き回る。
そうだ、久々の海外でテンションが上がって、よく見えているだけかもしれない。頭を冷やして、もう一度見たら、大したことないのかも。

しばらく歩いて、再び先ほどの店へ。



………いや、やっぱりめっちゃいいやんけ!


下のアングルからも確認しちゃう。
節が素敵すぎる。手触りも気持ちよすぎる。そしてちょっと荒っぽい加工も好みすぎる!

いや待て、ここはバンコクだ。どうやって日本まで運ぶ。無理だ。冷静になれ。…つらい!バンコクで出会いたくなかった!

気を落ち着けるために、売り場を離れて、歩き回る。(2回目)
少し頭を冷やして、もう一度先ほどの店へ。

………間違いない、どう考えても、すごくいい。

実は私は知っている。日本に運べる手段がありそうだということを。さっき歩いている時に、船の輸送会社を見つけていた。なんならチラシももらって日本への輸送料金もだいたい把握している。

テーブルの前で迷っていると、店員さんが声をかけてくれた。

店員「このテーブルいいでしょ。無垢板で手作りだよ。」

私「うん、めっちゃかっこいい!すごく好き。でも日本に住んでるからさ。日本までは運べないしな。」

店員「運べるよ〜!船で。ちょっと待って。運送会社のスタッフ呼ぶよ。」

携帯で運送会社のスタッフを呼び出すと、若いお兄ちゃんが息を切らして登場した。背が高くすらっとして真面目そうな印象。
お兄ちゃんはさわやかに、日本に輸送は可能なこと、輸送料金、港での税関手続きや港からの輸送は彼らの範囲外なので、日本の業者につないでくれること、梱包に2,3日・輸送に2週間ほどかかることなどを説明した。

テーブルが10万円
輸送代が10万円

ドキドキしてしまう金額ではあるのだが、テーブルの代金と輸送代を足しても、日本で一枚板のテーブルを買うよりもだいぶお得であったし、何より長年探してきた理想のテーブル。ここで逃したらもう出会えない可能性が高い…。

見極めなくてはいけないポイントは、この家具屋さんと運送会社のお兄ちゃんが信用できる人たちなのかどうか。ここでお支払いをして、彼らが商品を輸送しなかったとしても、私はもう日本にいるので、問い詰めようがない。

家具屋と運送会社のウェブサイトを確認する。ちゃんと会社は存在するようだ。
あとは人として信用できるか。長年海外とやりとりをしてきた経験から、人を見る目には多少の自信がある。
今回、運送会社のお兄ちゃんは、自分たちにとって不利なことも、ちゃんと説明をしてくれていた。騙すつもりであれば耳障りのいいことだけ言っておけばよいはずだ。そして、彼の振る舞いや話しぶりからも誠実さを感じた。

信じて大丈夫。私の勘がそう言った。

よーーーし!買おうではないか!!

「買います。」と伝えてから、一連の流れはとてもスムーズだった。
お兄ちゃんの事務所に行き、契約書を取り交わし、支払いをすませ、連絡先を交換した(なんとLINE)。

タイの人たちの、こういう時のスピード感はものすごい。
普段はゆっくりしているのに、ここぞという時はギアが切り替わる。
一緒に仕事をしていると「そんなに速く動けるのなら全体的に速くしてくれ」と思ってしまうのだが、まぁこのメリハリが健やかさの秘訣なのかもしれない。

梱包に2,3日・輸送に2週間ほどかかるということは、今が3/31だから普通に解釈すれば4/17あたり日本着になるけれど、タイのことだから4月末だろうとこの時は予想していた。

ここからはLINEの会話を時系列で書く。()は心の声。

4/5(購入から5日後)
お兄ちゃん「日本の業者が、個人の荷物は担当しないと言っているので、あなた自分で税関と港からの輸送をしてね。」

私「(いや契約締結する時にそれは確認しとけよ)わかった、税関に電話して自分でできるかどうか聞くわ。」

そして税関に電話したところ、どうやら税関の手続き自体は自分でもできそうなことを確認。ただ、問題は輸送。テーブルの重さは120kg。男性3,4人が必要とのこと。なので、個人でも対応してくれる通関と輸送の代行業者もあたりをつけた。

4/13(購入から13日後)
私「今の状況はどういう感じ?」

お兄ちゃん「今タイの長い祝日だから、来週船に載せるね。」

私「OK」

2,3日がすでに2週間だが、まぁ予想の範囲。
仕事じゃないのでそこまで気にならない。

4/23(購入から23日後)
さすがに遅すぎて騙されたのかと不安になってきたので、お兄ちゃんに電話をする。

お兄ちゃん「絶対に来週には船に載せるから!」

私「(いやまだ載せとらんかったんかい!)うーーん、わかった。」

電話に出るということは、輸送する気はあるのだろう。まだ想定内。

5/7(購入から37日後)
数日前に船に乗せたという事後報告とともに、税関に必要な書類一式が届く。その輸送先を見てみると…。

……………OSAKA………?
急いで契約を確認すると、ちゃんとYOKOHAMAと書いてある。
ちょっと、これは、、、ギリギリ!想定外!!

驚きが抑えきれず、リビングを歩き回りながら何度も「OMG!!」と叫んだ。

私「届いた書類を確認したんだけれど、重大なことを見つけてしまった。宛先が横浜じゃなくて大阪になってるよ。大阪は私の家からは遠すぎる。500kmあるのよ。」

お兄ちゃん「OMG!気づくのが遅すぎたよ。もう変えられない。え………待って。僕の間違い?」

私「うん………。ここに横浜って書いてある。」

お兄ちゃん「本当にごめんなさい。ちょっと時間ちょうだい。解決する。」

私「わかった、よろしく!」

彼はすぐに謝り、そして「解決する。」と言った。これは日本だと当たり前なのだけれども、信じられないことに、海外とのやり取りだとそうでないケースも多い。ここで私は彼を信用して正解だったと確信した。

5/9(購入から39日後)
お兄ちゃん「解決方法を探してるんだけどまだみつからない。最悪の場合、大阪の倉庫まで取りに行けない?」

私「OMG!大阪と横浜の距離ってバンコクとチェンマイくらいあるのよ。私は取りには行けない。このテーブルを横浜まで運ぶのは、あなたの仕事の責任範囲だよ。」

お兄ちゃん「わかってる。責任はとる。なんとか解決するから。本当にごめんね。」

私「ありがとう。信頼してる。」

この信頼してる、は本当にそう思っているのと同時に、だからお前きばれやという圧力でもある。

5/13(購入から43日後)
お兄ちゃん「船がもうすぐ大阪に着くから、今すぐこの大阪の業者に電話して大阪で税関通過してもらって。そうしたらうちの会社でトラック手配して、家まで運ぶから。」

仕事中でLINEに気づかずにいるとすぐに電話が来て、今すぐに対応してと急かされる。今まで1ヶ月以上もゆっくりしていたのに、人のことはすぐに急かすのである。

この大阪の会社が、どういう会社なのかもわからないまま、とにかく言われるままに電話する。
ここからの流れがめちゃくちゃ早かった。
やりとりがタイの会社から日本の会社に渡ったやいなや、我が愛しのテーブルが大阪港から我が家に来るまでの段取りが数時間で組まれた。
なんなら私がせかされる始末。

ここまで1ヶ月半なんやかんややっていたものが、数時間で片付くこの奇跡。アリと風くらいスピードの次元が違う。
日本人の仕事ぶりって、正確で迅速で本当にすごい。心からそう思った。

ただ、日本の会社は融通が効かない部分もある。お兄ちゃんのいうように、大阪で税関を通過して、大阪港から我が家に届けてもらうのが最短ルートであり、タイ側はそうしたかった。でも大阪の業者は(なぜか)大阪での税関は面倒なので、大阪港から横浜港にトラックで運び、横浜港で税関を通過し、そこから我が家に運ぶことしかできないと主張した。

よってテーブルは大阪港から横浜港を経由して我が家に届けられることになった。横浜港での通関と輸送は、以前自分で見つけていた横浜の業者さんにお願いした。

ちなみにこの横浜の業者のおじちゃんが本当に親切な方で、個人輸入のことを何も知らない私に、優しくいろいろと教えてれた。

5/17(購入から47日後)
輸送代金の請求書が届いた。タイで払ったのになぜか。タイで払ったのはタイでの港への積込代、タイから日本への船代であり、日本側の港では荷物を下ろす代金、倉庫へ運び保管する代金、検査代金などなどが更にかかるということだった。寝耳に水すぎる。

お兄ちゃんに騙されたのかと思ったが、おじちゃんに聞いたところ、この方式は業界では常識のようだ。契約時のお兄ちゃんの説明不足だったのかもしれないし、私の理解不足だったのかもしれない。知らない世界に飛び込むとこういうことはある。勉強代だったと思おう。
内訳を見ても、low sulphur fuel surcharge、Other chargeなど業界外の私にはよくわからない。お兄ちゃんとおじちゃんに確認してもらって、引けるところを引くように交渉。

5/21(購入から51日後)
最終の請求書が届く。30%ほど値引きしてくれたので、これでOKとする。


そして購入した日から62日後の6/1、ついに我が家にテーブルが到着した!!

あぁ、ついに!!近づいてくる。
120kg。力持ちのお兄さん二人でやっと。自分で運ぶのは無理だったと悟る。
近所の子と一緒に、プロの仕事を見守る。
ジャストフィット!ちなみに今まで使っていた奥のテーブルは、お洋服を作られている方の作業台としてもらわれていきました。
手触りがあたたかくて、きもちがいい。朝起きてこのテーブルを見るたびに嬉しい気持ちになる。

お兄ちゃんと、横浜の代行業者のおじちゃんに、それぞれ上の写真付きでお礼のメールを送ったところ、ふたりからこんな返信が届いた。

お兄ちゃんから:
「わぁ!リビングに完璧にフィットしてるね。報告ありがとう〜✨」

おじちゃんから:
「ご連絡、大変ありがとうございました。無事納品できたようでとても安心致しました。お部屋にとても馴染んでいますね、サイズもぴったりですね。当初より少し費用が掛かったようですが、十分見合いそうな価値、ありですね。佐野様のお幸せのお手伝いができてうれしく思っております。」

ふたりをはじめ、いろいろな人の仕事の結果、このテーブルはあの遠い遠いマーケットから、我が家に届いた。いろんな人の想いをのせて。

“わからないことは、わかる人に教えてもらう。”
これで大抵のことは乗り切れる。

タイの森に生えていたアカシアの大木。ここまで大きくなるまでには、何十年、もしかしたら何百年という年月が必要だったに違いない。
その間、どんな景色を見てきたんだろう。
いろんな鳥や昆虫が、枝で羽を休めただろう。
もしかしたら猿も登ったかな。
風が吹いたら幹を回してやり過ごし、菌糸でつながった他の木々とはどんな会話をしていたんだろう。
その木を切って、我が家に迎え入れた。
私も覚悟を持って、私の生きている間は、この木とともにいよう。
そして願わくば、私がいなくなった後も誰かの家で大切にされますように。

もしずっと探し求めていたものが、突如として目の前に現れたら、あなたはどうしますか?
私は今回、えいっと掴んでみたら、予想以上にいろいろと大変だったけれど、最後にはあたたかい気持ちになれました。



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