夫が4年働いてない
2024年2月29日、うるうの日に1通のメールが届いた。
差出人は、4年前のわたし。PRESENT4229という、4年に1度、うるう日のみ利用できる「4年後にメールを送る」というWebサービスで、自分で自分に送ったメールだった。
4年前、2020年2月29日のわたしは東京に住んでいて、転職したばかりで、コロナ禍の入り口に立っていた。そうだった、こんな状況だったな、不安と期待とない混ぜだったな、と懐かしく思い返しながら読んでいると、続けてこうあった。
この文を読んで、ひとり愕然とした。
前回のうるうの日からまる4年、夫はずっと仕事をしていないのだ!
2019年頃に全方位的にやる気をなくしてしまったフリーランスの夫は、締切をぶっち切りまくり、メインの仕事を失っていた。そしてやってきたコロナ禍。その影響をもろに受けるイベント関係の仕事だったので、いよいよ仕事はゼロになっていた。そんな!まさか夫が仕事をしなくなるなんて。結婚前のわたしは予想もしていなかった。
ちなみに、わたしと夫は22歳離れている。結婚適齢期の女性が22歳も歳の離れた人と結婚するのならば、ある程度安定した経済状況を期待してもばちは当たらないだろう。
しかし、結婚して1年ほどで、夫は働かなくなってしまったのだ。
いつか歳をとって、歳の離れた夫がリタイアした時を覚悟して、一馬力でも大丈夫なくらい稼ぐ意気込みでいたので、その点はまあまあ平気だった。けれど、想像の20年くらい早くその日がやってきたのには焦った。
仕事をしなくなって最初の2年は、夫は貯金を切り崩して生活費を折半していた。けれど、2年経っていよいよ、どうやらこのまま働かないな……?と、察した。夫の貯金が底をつく前に、わたしが提案したのは夫が専業主夫になり、わたしが一家の大黒柱として家計を担う新体制。
ほぼ100%の家事分担が夫に、そして100%の仕事分担はわたしになった。一昔前の専業主婦家庭の逆転版だ。しかし、この生活を始めてみると、家事が得意で淡々と生活を送る夫と、仕事が好きなわたしと、お互いにとても心地よく過ごせた。意外なほど、おだやかで幸せな毎日がやってきた。
なにも順風満帆だったわけじゃない。「働か……ないのかな……?ほんとに?」と何度も思ったし、経済力が一馬力なことに、わたしが倒れたら?という不安もある。ちゃんと声にして伝えた。それでも、どうにも夫は働くことに意欲を見出せないようだった。わたしの周りの友達には、そりゃもう心配された。
しかし実際のところ、毎日いい感じだ。朝、夫の方が早く起きてお茶やコーヒーや白湯を体調にあわせて用意してくれる。のそのそと起きた寝起きの悪いわたしがそれをいただく。その横で、曜日を決めて洗濯と掃除と植物の水やりをしている夫が、てきぱきと家事をこなしていく。いつものなんてことない朝だ。
平日わたしが仕事をしているあいだ、夫は家事を終えると紙ペンパズルをおとなしく、もくもくと解いている。あとはオーディブルで本を聴いたり、YouTubeを見たり。わたしと比べてひとり遊びが上手なのね。
そんな余暇たっぷりの日々のなかで、夫はボードゲームのアイデアを考えはじめた。「これがいつかお金になったらえぇなぁ」と言いつつ、毎日膨大なアイデアをメモに書き留めている。月に一度、仲間とテストプレイをする会にも出かけていくようになった。時々、出版社にも売り込みに行っている。よく物語に出てくる「まだ売れない作家」の妻ってこんな感じなのかしら、なんて思う。
ゆったりと過ごし、自分の得意な家事を毎日こなしていくなかで夫は少しずつ回復してきたのかもしれない。ボードゲームのアイデアを考えることだって、得意で、しかも好きなことだ。嫌なことからうまく逃げて、得意なことや好きなことをして毎日を過ごす生活を続けた結果だと思う。どうか夫のアイデアが実って、いつかボードゲームが出版されますように!
これからも、想像していなかった生活の変化がきっと2人を襲うと思う。だけど、わたしたち2人なら、気のあうなかよしな2人なら、きっと大丈夫。しなやかに変化を受け入れて、一緒に生きていこうね。