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丹後のトモブト

トモブトの実測調査

2021年明けて、トモブトという船を実測することが出来た。
2017年に丹後で開催された「ART CAMP TANGO 音のある芸術祭」に参加し、この時自分は美術作品の展示と、それから但馬地方から丹後にかけて日常的に使われていた「丸子船」という船を復刻したのだった。

そのリサーチの時に見て以来、トモブトがとても気になっていた。

トモブトと丸子船はなんとなく似ているところがあるように思っている。大きさはトモブトの方が一回り大きい。トモブトを小型にして、船首の部品点数を少なくしたら但馬・丹後の丸子船になるような気がする。

構造はもちろん違う。しかし断面はどちらも船底から船べりに向かってやや狭くなり、舷側板を無理に曲げることなく素直に使うという点も似ている。
どちらの船も容易に左右にロールするように設計されている。ロールするのは安定しないが、それが彼の地の使い方に都合が良いという。

断面001

「トモブト」という名前は「トモ=艫=船尾」が太い、というこの船の形状からとられているというのが通説で、

挿絵001

広いトモから箱メガネで水中を覗きながら、海藻や貝を採るという作業に適しているという。前に書いたが、ロールするという点も、水中を覗くには都合が良いのは想像できる。

今回、トモブトの実測の機会を得た。作る予定は全くないが、将来に備えて作るに十分な資料が欲しい。

いくつか実物も残されているので、それらは図面よりも雄弁な資料ではあるのだけど、天災・人災、さまざまな災厄で失われる可能性がないとは言えない。


細部

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上の写真が実測した船体。因みに、奧に見える白い船が丸子船だ。
この船体は、船首の先端が短く切られているが、下の写真のように突き出ているのがトモブトの通常の形。恐らく破損したかなにかで短くされてしまったのだろう。

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船首部分の構造に際立った特徴がある。

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スクリーンショット 2021-03-14 11.24.03

黄色点線部分が「ハタ」と呼ばれる舷側板で、厚み1寸≒3cmの板材。赤色点線部分は木のかたまりを2段で積み上げ、それをマサカリやちょうなで彫刻して整形している。
これが左右対称なので、4個のブロックを積み上げて作っているのだ。

挿絵006

一本ミヨシの船から船作りを始めた自分にとってはこの構造は衝撃的だった。最初見た時はこの構造が見抜けず、困惑した。

下の写真は一本ミヨシの氷見型テント船。板をひねりながら曲げてミヨシ=船首の柱状の部材に接合している。万力や、ツカセというつっかえ棒を何本も使って、かなりの力をかけて曲げつける。

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木材を積み上げ彫刻して整形するトモブトの構造は、ハタを強い力で曲げつけなくても良い。無理な力がかかっていないので船体の構造自体はとても安定しているだろう。
無理に曲げることで部材に亀裂が入ったり、接合部が開く、ということは実際にあり得る。

今回はそれぞれの部材の接合部と形状の変換点の座標を取ったので、この値は彫刻して整形することに役立つだろう。


まとめ

船首に木の塊を積み上げ、整形するという船でいうと、実物を見たことがあるものは氷見の「ドブネ」もそうだ。

トポロジックに姿を変えながら、共通の構造を持った船があるというのは面白いことだ。

「良い作り方」が少しづつ隣の集落に伝えられ、その土地の風土と使い方に落とし込まれて、最適化されていったのだと思うと、船という道具は面白いとつくづく思う。

トモブトはどことなく古めかしい姿をしていて、丹後に良く馴染んでいる。古い社のようでもある。

この船に対する気持ちは「憧れ」に近い。
作る日がくるかどうかはわからないが、気長に思い続けることにしたい。

機会をみて実測図面を公開します。



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