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【目印を見つけるノート】249. 1980年12月のある日に

今日は小説のようですが、中学生(当時)による音楽の話です。

📆

あれはね、たぶん12月9日の朝のことだった。
学校に行くとショートカットのMちゃんが駆け寄ってきて、私に言ったんだ。
「ねえ、大丈夫?」
「え?どうしたの」と私はキョトンとした。
「ニュース、見てないの?」とMちゃん。
「ああ、見てない」
「撃たれたんだって」
「誰が?」
「ジョン・レノンだよっ!」
「え?」とまた私は言った。

そう、そういうときたいてい私はニュースを見ていない。なんという体たらく。Mちゃんは私の顔を心配そうにのぞきこんでいる。
私はといえば、キョトンとしたままだった。

そう、その年は確かジョンの『Love』とThe Beatlesの『Girl』を練習していて、『Girl』でカポタストというのを初めてギターにはめていた。それに、その年の夏にハリウッド・ボウルっていう野外会場を見て、The Beatlesの聖地巡りをしている気分になっていた。

『Girl』The Beatles

だから、ジョンのことがすごくショックだろうとMちゃんは心配したのかもしれない。
でも私はやっぱり、ボーッとしていた。
それから、
「いや、Aの方がショックだと思うよ。休んじゃうんじゃないかなあ」と私は言った。Aはずっと前からThe Beatlesが好きで、学年一のファンだったから。
私は彼の席を見やった。

Aは一時間目が始まる前に学校に来た。
彼の白い肩かけカバンだけ、妙に目に焼き付いているんだ。
声をかけたらいけないような気がしたけれど、「ねえ、休んじゃうかと思った」と私は声をかけてみた。
「休まないよ」とAは答えたけれど、後はもう何も言わなかった。

その日のこと、あとはもう覚えてないんだ。

次の日になったら、Mちゃんはスポーツ新聞の切りぬきを持って学校に来た。それを私の前に置いた。私のために切り抜いてくれたらしい。Mちゃん、私のこと好きなのかな。いや、優しいね。そういえば、ジョン・ボーナムの記事も持ってきてくれたね😢

でもやっぱりね、新聞をたくさん見ても何か現実感がなかったんだ。ちょっと前に『ダブル・ファンタジー』ってアルバムが出たのは知っていたけれど、それとこれがうまく結びつかないというか……。

この年の始めにポール・マッカートニーが日本に来たのだけれど、とある事情により入国できなかった。あれもスポーツ新聞に大々的に出ていた。それがやたらと頭に浮かんで、「ポールで始まって、これで終わる年なのか」なんて思っていたのは覚えてる。

それからね、テレビはそれほどではなかったような気がするけれど、ラジオはAMもFMも全てジョンとThe Beatlesの曲ばかりになった。あと、『ダブル・ファンタジー』のリリース後のインタビューが流されていた。最後のインタビューだった。あとで本にもなっていた。それをラジカセで録音して、何度も聞いていたんだ。

こんなに晴れ晴れとして、
これからいろいろな計画を描いていた人が、
何で突然生命を絶たれなければならないの、って、
いったい何をしたっていうの、って、
それしかなかったよ。

私ね、
ジョンの曲もThe Beatlesの曲も、
FMからひたすら録りまくっていたよ。
(もちろん、個人で楽しむだけ)
だってその時に持っていたのは、『RUBBER SOUL』だけだった。
カセットはほんの2週間ぐらいですごくたくさんになったよ。私は繰り返し聴いて覚えた。
歌詞がわからないのはどうしたと思う?
三省堂の神田本店の洋書コーナーでペーパーバックの歌詞集を買った。それで、片っ端から覚えた。

初めて買ったペーパーバックだった。

クリスマスにはサンタさんが『青盤』(The Beatles後期のベスト盤)をくれたから、それも聞き倒した。
悲しいことに、それでジョンの曲の1/3ぐらいとThe Beatlesの4/5ぐらいは覚えたんじゃないかな。

ラジオの特集は年が明けてもずっと続いていたね。

私たちはThe Beatlesになじみが深かったような気がする。
中1の英語の教科書(三省堂のNew Crownね)にはしょっぱなからジョンとポールが固有名詞として出てきて、巻末には『Yesterday』が載っていた。それどころか、セイウチまで! 『I Am A Walrus』を指しているのだけれど、あの歌詞は中1の教科書向きではないかな。『Mother Goose』をもじっているんだなって、あとで分かった。Mother Gooseの方が初心者向きかなあ。

もちろん、The Beatlesが解散して10年になることも。

だけど本当に、習ったばかりのことがひっくり返されるような思いがしたんだ。


ジョンのイメージはそのときのままのようでもあるし、受け手の私たちが年を取って変わったようにも思える。ジョンがいい、ポールがいいと言っていたのもとんがらなくなって、そう、中庸になった気がする。

でも、キョトンとしていたあの日の自分は、変わらずそのまま残っているような気がしてる。

ジョンの曲なら何が好きかなって、いろいろ考えていたんだけど、頭の中でずっと同じ曲が流れて止まらないの。
もっと玄人っぽい曲を選んだらいいのかと思う。あなたは、いたずらっぽく「ふーん」って意味ありげにつぶやくかもしれない。
それでもいいの。
だって、好きなんだもん。

この曲を引用します。
JOHN LENNON『Jealous Guy』

あの日のことを、これだけ書くのは初めてです。
(ちょびっとは書いたことあるけれど)

R.I.P

尾方佐羽
(おがたさわ)

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