モヤモヤを見つめなおし 考え行動しよう野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?
野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?
命と向き合う現場から
朝日新聞取材チーム
岩波ジュニア新書 940円+税
購入して、1ヶ月以上。
外来種を排除して、本来の自然を取り戻そうと苦闘している、とある現場をよく知っているだけに、よみながら現場の苦悩が伝わってきて、苦しくなり、いったんページを閉じ……。また読み始めてまた閉じて……を繰り返して、読み終わるのに1ヶ月以上かかってしまった。
自然観察会を行っている人の、「外来種防除作業に子どもをかかわらせたくない」という発言、その裏にあった、観察会でアメリカザリガニを見て「これは殺していい奴」と子どもが言ったという話、
まさに、まさに、世界遺産を目指して外来生物除去に力を入れていた小笠原で、同じ発言を耳にした。
ちょっと前まで子どものいい遊び相手だったグリーンアノールというトカゲは、小笠原の特異な自然を学べば学ぶほど、子どもにとっては「殺していい奴」になってしまって、そういう扱いを受けるようになった。
「子どもを外来種除去に巻き込むな!」あるイベントで、大人の誰かが「自然に関する意見を書いてください」と張り出したボードにポストイットで貼り付けた。
ああ、あのときに感じた感情を、この本でまた味わってしまった……胸の奥がジリジリする……。パタン。と本を閉じ……。でも、読み進めずにはいられなかった。
「ではどうすればいい?」
明確な答えをいまだ持たず、モヤモヤしている自分を、もう一度見つめ直さなければならなかった。
本書では、感情移入できるような書き方を排除して、読者を「こうしなければいけないんだな」と思わせる誘導をしていない。意識してそう書かれた本だと思う。
そして、どの事例も、考えるためのヒントをさりげなく指し示して終わっている。
「こうすればいいんだね!」
そんな単純な答えはなく、その生きものごとに、その土地ごとに、改めて学んで、考え、話し合わなければならないのだ。
だから読み終わった今は、読みながら感じていたモヤモヤは消えず、重い宿題を手渡されたままという心境。
外来種をめぐる取り組みに、万国共通の正解はない。その土地の自然の特性、地域社会の特性に応じて「この場所を(将来にわたって)どんな場所にしていきたいか」を、そこに暮らす人々が、話し合って、納得してどうするかを決める……のが理想だと思う。
なので、奄美大島の宇検村で、ハイビスカスを伐採するのに村の人達で話し合って決めたという事例に「ホントか?」と、疑って読んでしまった。すいません。
世界自然遺産登録に向けて、IUCNの視察団が来たときに、宇検村湯湾岳にハイビスカスが植わっているのを見て、視察団が「なぜ園芸種がここに植わっているのか」と指摘したという。
そこで、宇検村では環境省からの「ハイビスカスを伐採してほしい」という要望にこたえ、村民と話し合った結果、伐採することにしたという話。
小笠原でも外来種であるアカギを駆除するときにいろんな論争が起きて、結局、説明会は開かれたけれど、そこで立ち止まってもう1回考えましょうということもなく、まあまあ、最初に説明されたとおりに粛々とアカギの幹にドリルで穴を開け、ラウンドアップを薬剤注入し、コルクで蓋をするという作業を行っていった。さしものアカギも枯れて、山の一部がきれいに(?)灰色に立ち枯れた様相を呈したときに、恐ろしいものを見るように話題になったけれど、みんなで話し合って決めるというところからは遠かった気がする。
(ちなみに、そうやって枯れたアカギの一部はまたも萌芽更新したと聞いているが)。
なので、このハイビスカスのことについて、不信感を抱いている人がいないか、ブログなどを検索してみたが、個人的に村政について文句を言っている人は散見されたけれど、話し合いが無視された! という不満は(今時点では)見つからなかった。
まあこれは、本書に書いてあるように、特別保護地区のハイビスカスは伐採したけど、それ以外の地域のものは残したというバランスを取ったやり方だったということもあったのだろう。
第2章の「専門家だって悩んでる」が、読んでいて一番モヤモヤ、ジリジリしつつも、子どもにはこの章はしっかり読んでくれ! といいたい部分だった。
専門家が抱えている矛盾や悲しみは、外来種の問題に一歩踏み込んだら誰もが感じる感情。
「アカミミガメは冷凍できても、クサガメや、クサガメとイシガメの雑種を冷凍庫に入れることはとても難しい、理屈ではなく、ただただ気持ちの問題」
在来種であるイシガメを守る活動をしている人のこの言葉。排除すべき対象は、アカミミガメとクサガメ。でもクサガメは、少し前まで在来種と考えられていて、保護されてきた対象だった。
クサガメとイシガメは交配できるので、イシガメを守るならクサガメも排除しなければならない。
でも、気持ちの問題がそこにある。
理屈じゃない!
最先端で活動してたって、みんな、やりきれない気持ちを抱えて、
モヤモヤしている。悩んでいる。
そういう感情と真正面から向き合って、専門家たちはどう行動しているのか? それを読んで、では自分はどう考えるのか? につながる一章だと思う。
だからこの本は、考える「種」の本だ。
何が正解かがわからない世界で、見つけるのはあなた自身。あなたならどう考えて行動する? そういう問いかけをしている本なのだ。
ということで、考え続ける人にはモヤモヤが消えない本なのだ。答えは、考えた先にしかない。逆にモヤモヤしなかったら問題だ。「あ、そうなんだ〜。いろいろあるよね〜」で終わらずにしっかりモヤモヤして、しっかり考えなければと思う。ついでにいえば、それから自分はどうするか決めて行動しなければと思う。
以下余談。
P186のマングースバスターズの活動がストップしかけたことがあるという記述の部分、これは民主党政権時代の「事業仕分け」の俎上に載せられたときのことだろう。
そのあたりには触れていないけれど、政治的な見解次第で、地道に積み上げてきた活動が無に帰す危険性もあることも、ちょっと書いても良かったのではと思ったりした。
このとき、小笠原の属島でのノヤギ排除の事業も俎上に載せられたのだ。マングース排除も、ノヤギ駆除も、いったん止めたらもとに戻ってしまう可能性が高いのに、内容をよく知らない仕分け人によって事業を止められそうになった驚きは今も忘れられない。
両事業ともからくも各所からの反対で(小笠原のノヤギについては私もパブリックコメントを書いた)止まらずに済んだ。小笠原の属島でのノヤギ排除は、2010年に終了した(父島のノヤギはまだ残っている)。
あっ、「参考図書」のページに、拙著『ネコがくれた幸せの約束』が載っています! うれしい。こちらは小笠原の希少生物を守るために、ノネコを捉えて内地へ送り、新しい飼い主へ引き渡すという「小笠原ネコプロジェクト」をネコの目線で書いた児童図書です。