Cパラニューク“Escort”を読んで
チャック・パラニュークの“Escort”(短編集Stranger Than Fiction収録)を読んだ。
3月末に青山ブックセンターで行われたパラニュークと都甲幸治先生の対談で先生が言及していて、後でTwitterで呟いたら先生が教えてくださった。いつもご親切にありがとうございます。
大学を出たは良いものの、稼ぎの良い仕事にも就けずアルバイトをしていた「僕」は、死を待つ若者が暮らすホスピスで働くことになる。
面会に来た家族のために、希望に応じて観光名所や海や山に連れて行く。そこでゲイが集まるサウナで大火傷を負い片足を失った青年に出会う。
後半、屋根裏のブランケットの話のあたりでうるっときてしまった。
「僕」に宛てて贈られてくる色とりどりのブランケットは、我が子のために編んだものの行き場がなくなってしまったものだろう。
子が無保険なまま放っておいたということは、あまり仲の良い親子ではないか、キチンとした家庭ではない。しかも今から40年くらい前の同性愛者となるとアタリはとても厳しい。
それでも長期休暇をとって面会に来て、時間のかかるブランケットを編む。
モチーフ編みのブランケットなんて、小さなモチーフを100枚くらい編んでつなげて作るものだから、完成までにものすごく手間がかかる。
けれど一度パターンが頭に入れば、編み図を見る必要もなくて、ただただ無心で編める。針と糸さえあれば、隙間時間に、どこででも編める。そして時間は溶けるように経っていく。
だから固くて重たい手作りのブランケットって、作る側にしたら最適な贈り物だ。
平易で必要最低限の言葉と淡々とした静かなトーンで語られる。私の中ではイギリス映画のようなトーンで終始物語が進んだ。曇っている。海に行っても山に行っても曇っていて、ピアノなんかがBGMに流れちゃう。
パラニュークを『ファイト・クラブ』でしか知らないと驚くかもしれない。
けれど先日の対談を踏まえると、パラニュークの源流はここにあるんだなとはっきりと分かる。
人は死ぬ。誰でもすぐ死ぬ。それは明日かも知れないし今日かも知れない。だとしたらどうする?と強くまっすぐに訴えかけてくる。
お前がさっきまで信じて縋っていたものを失うかも知れない。だとしたらどうする?
青年はどうだったのだろう。
彼が失ったのは片足だけではない。サウナで寝落ちしてついつい足焦がしちゃいました、なんてことはあり得ない。酒か薬物か喧嘩か分からないけれど、そのまま放っておかれてしまうし、海や山に連れて行ってくれるのはボランティアだけだ。
ディルドやらエロ本やらを片付けて、綺麗になったアパートで物語は終わる。ゲイ向けのセックストイを、母親が見る前に処分してくれと青年は頼んだ。
彼は最期に何を思ったのだろう。
ブランケットは間に合わなかった。
それでも、と思わずにはいられない。