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クリエイター化するアスリートたち スポーツメディアのこれから【Off Topic Ep219】

宮武徹郎と草野美木が、アメリカを中心とした最新テクノロジーやスタートアップビジネスの情報を、広く掘り下げながら紹介するポッドキャスト「Off Topic」。このnoteでは、番組のエピソードからトピックをピックアップして再構成したものをお届けする。

今回は「#219 新世代スポーツメディアとメディア業界のPower Law」から、クリエイター化するアスリートたちについて。NBAファイナル出場直後に解説ポッドキャストを収録するプレーヤー、高度な分析・解説を行うレブロン・ジェームス。にわかに信じがたい、そしてファンにとってはこれ以上なく楽しめるコンテンツが生まれるフェーズに突入した、スポーツメディアの現在を見渡していく。


“They wanted more.”では物足りない?

近年、NBAやNHL、NFL、MLB、MLSといったスポーツコンテンツの配信権利を、AppleTVやAmazonといった動画配信プラットフォーム・大手テック企業が獲得する動きが活発になっている。スポーツコンテンツはいま大きくシフトしているタイミングであり、宮武は、それはメディアにおいても同様だという。

アメリカのスポーツ番組にはスポーツキャスターやコメンテーター的な役割の出演者がロングデスクを囲む形式でニュース報道や試合・プレーの分析、解説を行うことが多い。これらの出演者は、ジャーナリズム的なバックグラウンドはもちつつも、彼らが提供するのはプレーや事象における深いインサイトというよりも、ストーリーを軸にしたナラティブ型、あるいはエンタメ型の解説が多いと、宮武は指摘する。

それを表すわかりやすい事例が、スポーツ番組のなかで頻出する“They wanted more.”というフレーズだ。あるチームの敗戦の要因を語るとき、つまり「相手の方がより勝利を欲していた」「ハングリーだった」という表現をするのである。

マスの視聴者を対象にするテレビにおいては、こうしたアプローチはなかば仕方のないものともいえる。しかし一方で、ファンは結果の背景にある具体的な事象や細かい戦術、プレーについて知りたい。つまり、感情ドリブンなナレーション以上のものがほしいのである。

NBAチームのダラスマーベリックスの元オーナー、マーク・キューバンは、スポーツ番組にゲスト出演した際、彼は「お前たちは何もわかってない」「感情論だけでものを話すのをやめてくれないか」と、スポーツメディアをこきおろした。彼は戦術への介入はしないが、スポーツチームのオーナーとしては珍しくチームに深くコミットする。どういう判断で選手を採用したか、試合中のあの判断や勝利・敗北にはどのような背景があったのかなど、通常のスポーツキャスターからは得られないそのインサイトは、これまでの(多くの)スポーツ番組が、いかに曖昧な言葉と感情論で解説されていたのかを認識させる出来事だったという。

NBAファイナル出場直後にポッドキャスト配信するプレーヤー

多くの場合、スポーツキャスターやコメンテーター、ジャーナリストは、プロ選手としての経験をもたないことが多く、また選手間やチーム内の細かい事情を知ることの限界もある。引退した選手が出演することも多いが、プレーと解説の技術はまた異なるものであり、さらにいえば当時と現在ではチーム・個人戦術のトレンドや考え方、個人技術のクオリティも大きく異なる。

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