概念崩し〜領域のバガボンド〜
まだデザイン学校の学生だった頃の10数年前。桑沢デザイン研究所では食っていくための技術というよりも、思想や信念みたいな軸の作り方を学んでいたように思う。
その中でも特に印象に残っている言葉がある。桑沢デザイン研究所の創始者である桑沢洋子先生の語られていたというワンフレーズ。
それは「概念くずし」という言葉だ。
桑沢洋子先生は僕が生まれる前にお亡くなりになっているので、これは直接聞いた話ではない。僕の師でもある内田先生からのまた聞きである。
乱暴に要約すれば既成概念をくずしたところに魅力がうまれるという事なのだけれど、今風に言うとブレークスルーってところだろう。
この概念くずしという言葉、当時はデザイン概論か何かの授業で教わった。事例としては倉俣史朗さんのアクリルに薔薇が埋め込まれた椅子(ミスブランチ)や、吉岡徳仁さんの折りたためられたハニカム構造の紙の椅子(ハニーポップ)なんかがスライドで出されて説明されていたと思う。
(画像転載は著作権触れそうなのでウィキペディアや公式サイトで見てほしい)
授業ではスライド中心だったが、学外の内田先生の私塾では異分野の第一人者を集めて講演や対談を毎月のように開催していた。
ゲストは文化人類学者の方や、茶道の家元の方、編集者など、どの方も某テレビの仕事の流儀などでお見かけするような各分野のトッププレイヤーの方ばかりだった。
社会人ばかりの塾生に混ざっていた僕はまだ20代前半の生意気盛りな若造の学生で、したり顔で出席こそしていたけれど、もしも今またああいう場に参加できたならばあの頃よりも深く感動できるような気もしている。
もちろん、経験が浅く未熟な時に様々な業界のトップの話を直接聞いて回るような体験は、きっと根っこの部分でだいじな栄養になっているのかもしれない。
あれから10年以上の月日が流れた。
内田先生は鬼籍に入られたけれど、既成概念を疑ったところにデザインのインスピレーションを得られるという視点や、多種多様な領域をクロスオーバーして既成概念を更新できる人物が世の中に必要なんだというあの言葉は、今まさに様々なジャンルで世に出て活躍されている人たちが実践されていると感じる。
失われた20年とか呼ばれたりしたバブル経済崩壊後の低迷期を経て、今度は世界初の少子高齢化社会に突入していくこの国で、僕もまた概念くずしに挑戦する領域の放浪者=バガボンドでありたい。
そして1人、2人と領域のバガボンドが増えていけば、意外とお先真っ暗なこの国の未来は明るくておもしろくなるんじゃないかと、こっそり希望を抱いている。
そんなことを、夜明けの仕事帰りの車の中のラジオで新卒就職人気ランキングTOP10から金融が消えたという話を耳にして思った。金融と経済の20世紀が終わり、21世紀の渦が回り始めようとしているのかもしれない。