遺伝の情報と社会: GeneAwarenessを深める活動の担い手として
私たちが暮らすこの社会には、遺伝の情報がどのように私たちの健康、生活、医療や治療、そして未来に影響を与えるのか、というテーマが隠れています。でもそのテーマを日ごろから意識して生活している方ばかりではないと思います。そして意識することが必要かどうかも、その人の置かれている立場よって様々です。ただ、もしあなたや家族が、遺伝情報を理解する必要があったとき、その情報に基づいてどう行動を選択するのか、想像してみてもいいかもしれません。
認定遺伝カウンセラー: 社会と科学をつなぐパートナー
遺伝情報は人々の健康や治療の選択に大きく影響を与える可能性がありますが、遺伝子の情報を知ること、遺伝子の検査で私たちの健康について情報を得ることは、私たちが健康であるかどうかの全ての答えとなるわけではありません。
認定遺伝カウンセラーは、遺伝情報の専門家です。一人ひとりが遺伝情報をどう理解しするのかを見届け、その人の選択をする力を育む支援をします。
そしてそれは、単に個別のケースに対してのみならず、家族や社会全体への啓発と教育にも広がっています。社会と連携し、広く多くの人々に対して遺伝情報に関する教育や情報提供を行うことで、歴史的に生じた遺伝への誤解や偏見の解消、遺伝に関わる社会全体のリテラシーの向上を目指します。
サイエンスカフェとGeneAwareness
筆者は、大学時代よりサイエンスカフェという社会と科学をつなぐ啓発活動に取り組んできました。サイエンスカフェは、科学のエキスパートと一般市民が気軽に科学の話題について語り合う場です。これが始まったイギリスとフランスでは、カフェやバーなどの社交の場でありながら、科学技術の話題や社会倫理について深い議論がなされました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnlsts/5/0/5_31/_pdf
この多様な立場の参加者とともに考えるという特性をもつサイエンスカフェは、認定遺伝カウンセラーの社会啓発活動ととても親和性があり、遺伝に関する科学的に正しい理解と遺伝の情報がどのように私たちの健康、生活、そして未来に影響を与えるのか、というテーマを多くの人々と共有し、その周りにある心理的な動きや倫理的な課題について知識を広め、社会で遺伝情報をどう選択していくのか、GeneAwarenessを深める活動になると考えています。
遺伝カウンセリングの拡充と社会啓発活動
医療機関での遺伝カウンセリングは、個人や家族が遺伝情報をどう活用し、治療方針決定や将来への対応をどう選択するかをサポートするプロセスです。遺伝性疾患が分かった本人だけではなく、血縁者で同じ疾患を発症する可能性のある家族や次世代への関わりも認定遺伝カウンセラーの重要な役割の一つです。
こうして自身の遺伝的背景がわかった個人が生活をおくる社会はどうか?誰もがもつ遺伝情報について考えるきっかけや、倫理的社会的な問いを考えるための、学校や地域コミュニティ、企業などでの教育プログラムやワークショップなど教育啓発活動にも認定遺伝カウンセラーは力を入れています。 こうした活動を通して、一人ひとりが遺伝情報についての理解を深め、自身の健康や家族の健康をどう考えていくか、他者と自身の多様性をふわっと包んでいけるような社会、想像力が備わっていくこと、それがGeneAwarenessが深まっていく社会なのではないでしょうか。
今年はサイエンスアゴラ2023に、日本認定遺伝カウンセラー協会としてワークショップを開催することになりました。このワークショップでは、小学校5年生以上のお子様が参加対象です。小学生、中学生、高校生、大学生の皆さん、一緒に遺伝情報について考え、学び、話し合い、未来の遺伝医療を考えてみませんか?
詳細・お申し込みは下記URLからお願いいたします。
遺伝情報が私たちの生活にどう関わり、未来のあなたの生活や医療の選択にどう影響を与えるのか。それは、遺伝情報そのものだけでなく、社会がその情報をどう受け入れ、理解し、活用していくかに大きく依存します。これからも認定遺伝カウンセラーとして、一人ひとりが自身の遺伝情報について理解を深め、それに基づいた選択をする力を持てるよう、また、社会全体が遺伝情報を不利益なく扱い、それを尊重したコミュニケーションが生まれるよう、啓発活動を続けてまいります。(文責:鈴木美慧)
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