13年5ヶ月で消滅した満州帝国。10歳の少年が戦地を独り生き抜くその奇跡は手に汗握る
人々よ。
日本人である福岡県柳川の旧家柳川藩立花家の名門一家の父と、ロシア帝国最後の皇帝ニコライ二世直属のコサック近衛騎兵を務めたロシア人を父に持つ母、サムライとコサックの混血、白系ロシア系日本人のビクトル古賀のノンフィクション。
41戦全て一本勝ちのサンボの生ける伝説のビクトル古賀の満州からの日本までの引き揚げを綴る。
満州関係の文献になるとどうしても、陰鬱にならざるを得ない。
が、この一冊には爽やかさすら漂う。
もちろん、想像を絶する凄惨な有様を垣間見るが、10歳の少年が戦地を独り生き抜くその奇跡は手に汗握る。
また、一冊を通して、満州の成り立ちから衰退、ロシア、中国、日本の動きも非常に分かりやすい。
各国の軍隊の編成、呼び名、同じ河にしても、満州側からの呼び名、ロシア側からの呼び名なども実に飲み込みやすくまとめられている。
ロシア人、中国人、日本人、その中でも革命派、反革命派、保守派、改革派、キリスト教、仏教、小難しくなりそうな題目も、そこに暮らす民の行動が描かれることで、物凄くよく分かる。
ロシア、中国、モンゴル、朝鮮、日本とその周囲を囲まれた満州。
1932年に建国し、たったの13年5ヶ月で消滅した満州帝国。
立地的環境ではスイスと同じだが、何故スイスは現在まで存続し、満州は滅びたのか...
知りたい欲を掻き立てられる。
兎にも角にも星5の一冊でした。