【共生型新産業創出コロキウム|フィールドワーク報告】IMAT ほか、広島・大崎上島に微細藻類の研究拠点をたずねて
One Earth Guardians育成プログラムは、いま注目される微細藻類を基点に新たな産業を提案するための新講座「共生型新産業創出コロキウム」を2024年10月に開講しました。環境と調和しながら人々のwell-beingも叶える、これからの産業を創出する力をもった人材の育成とネットワークの形成を目指しています。
多彩な講師陣によるオムニバス講義のほか、国内外フィールドワークやハンズオン実習など、手や足を動かす実地での研修も充実。社会人と大学生・大学院生がともに受講することも特徴で、多様な立場の受講者が互いに刺激し合いながら学びを進め、新しい産業に向けた提案を生み出そうとしています。
◆「共生型新産業創出コロキウム」講座についてはこちら
今回は、2024年12月9日(月)~10日(火)に実施した広島へのフィールドワークの様子をレポートします。
訪れたのは、広島県の大崎上島という瀬戸内海に浮かぶ島。本州にある竹原港からフェリーで渡るこの島には、微細藻類の産業利用を目指す研究拠点であるIMAT(一般社団法人日本微細藻類技術協会)の研究施設「IMAT基盤技術研究所」があります。
2日間の滞在では、IMATのほか島内の微細藻類に関わる事業者らも訪問しました。
IMAT(一般社団法人日本微細藻類技術協会)
IMATは、微細藻類の産業利用と関連技術の発展を推進することを目的に2020年に設立されました。IMAT基盤技術研究所は大崎上島発電所構内にあり、発電所から供給される二酸化炭素を利用して微細藻類の培養試験を実施し、様々な環境条件で培養して得られた結果を測定・分析して標準化する拠点として、バイオジェット燃料の生産など産業化に必要な技術開発を行っています。
微細藻類に関連した技術が集約される国内の拠点であり、微細藻類を基点とした新産業の創出を目指す本講座にとって訪問必須のフィールドワーク先ともいえます。
まずIMATの野村純平事務局長から概要説明を受けたのち、実際に微細藻類の培養や分析などが行われている研究施設の現場を見て回りました。
大規模培養室では3タイプの装置を用い、それぞれ光や水温を制御することで、世界各地の環境条件に応じた微細藻類の培養試験が実施されています。
培養につづく、遠心分離機やろ過装置を用いた収穫と乾燥、化合物の抽出、成分分析など、微細藻類の生産における各工程について詳しい説明を受けながら見学しました。
2日目には、IMATの研究施設も含まれる形で整備される大崎上島の「カーボンリサイクル実証研究拠点」についても説明を伺いました。
拠点内では二酸化炭素の分離・回収技術を組み合わせた石炭火力発電の実証試験が行われており、パイプラインで送られる二酸化炭素で微細藻類が培養されるほか、二酸化炭素を固定したコンクリートの技術開発など様々な先端的研究が進められています。
これまで座学をメインに微細藻類の学びを進めてきた受講者たちですが、実際の開発現場に足を運び、設備やスケール感を目の当たりにすることで、微細藻類を産業に利用するイメージをよりリアルに想像する機会になりました。
ファームスズキ
次に訪れたのは、株式会社ファームスズキという、島内の塩田跡で牡蠣や車エビを養殖し販売している事業者です。広島と言えば牡蠣!ですが、海外でカキの養殖を学んだ鈴木隆社長が欧米式の養殖法を採用しており、クレールオイスター(塩田熟成牡蠣)がつくられているのが特徴です。
約10万㎡と広い塩田跡の養殖池には数珠つなぎでバスケットが浮かんでおり、その中で牡蠣は微細藻類など植物プランクトンを餌にして育ちます。
こちらの養殖方法だと、池の環境を生かし、様々な生き物が共存する池の生態系も守りながら牡蠣の養殖ができます。そのぶん丁寧に手をかけており、鈴木社長によれば、1年に数か月は池の水をすべて抜いて、池底の土を干してふかふかになるまで耕すそうです。
今後はIMATともコラボレーションし、養殖池のリン/窒素比を調整して、より良い養殖環境に有用な微細藻類の増加を目指す研究を行うとか。
広島商船高等専門学校 大沼みお准教授
大崎上島にある広島商船高等専門学校では、大沼みお准教授が微細藻類からの油脂生産に関する研究に取り組まれています。
2日目には、大沼准教授の研究について講義を受け、高専にある研究室をご案内いただきました。
大沼准教授は有用な微細藻類の単離と、バイオ燃料の原料となる油脂をより安価に生産するため海上培養系の構築に向けた研究開発を行っています。楕円形の透明なバッグに入れた微細藻類を海上に浮かべ、波の力を活用して培養する独自のシステムに関する研究成果なども紹介されました。
今回のフィールドワークでは、微細藻類のさまざまな生産設備を実際に見ることができたのはもちろん、その土地ならではの風土や、研究に関わる人々の“想い”にも触れることができたのが大きな収穫でした。
ご協力いただいた皆さま、ありがとうございました。