【実学研修_2023年度Vol.2】学生発!みずから提案し関係者を巻き込んで行う活動も
One Earth Guardians育成プログラムの活動の一つに、社会とのかかわりの中で課題を見出し、解決する力を培うことを目的に、学生が産業等の現場に赴いて、産官学連携で社会の実課題に取り組むインターンシップである、「ワン・アーソロジー」実学研修があり、受講生にとっての必修科目にもなっています。
▼「ワン・アーソロジー」実学研修について
https://www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp/activity/training/
【Vol.1】では、実施企業・団体からのテーマのもと、学生が参加する実学研修を中心にご紹介しました。
一方で、学生が自ら課題を見い出してテーマを掲げ、関係する方々や組織を積極的に巻き込んで進めていくタイプの活動も増えてきています。学生たちはどんなテーマに関心があって、どう課題解決を目指そうとしたのか。そして、自らが主導し手探りで活動を進める中でどんな苦労や学びがあったのでしょうか。
【Vol.2】では“学生発”で行われた3つの活動のレポートを紹介します!
学生が地域と関わりを持つことでもたらす効果を探る 〜石川県珠洲市の方々と対話するツアーの企画を通じて〜 | OEGs3期生 髙田瑛仁
アステナミネルヴァ株式会社をはじめ、石川県珠洲市の方々にご協力いただき、実学研修を自ら提案し、行いました。
対象とした珠洲市は革新的な取り組みを行う生産者や経営者が多い一方、人口減少に伴い荒れた田畑・山林が増加するなど、課題も抱えています。
私は、大学で研究に取り組む学生が、地域の「人」と強い関わりを持つことで、その地域に経済的な効果以上の正の影響をもたらし、かつ人口減少に伴う問題を解決する糸口を掴めるのではないかと考えました。そのため、珠洲市を対象に、OEGsの学生を巻き込んで活動を始めました。
本研修では、「珠洲市の面白い人と出会う」というコンセプトを掲げ、学生と珠洲市の方々の対話に焦点を当てたツアーを企画し、OEGs受講生3名に参加してもらいました。ツアーでは、酒蔵から炭焼き職人、葉タバコ農家など様々な所に訪問し、それぞれの方の思いや、抱えている問題などを中心にお聞きしました。
本研修を通じ、私は、学生が「知」のハブとして地域に正の影響を及ぼす点に気付かされました。ツアーの最中、ある学生の研究テーマと珠洲市の炭焼き職人の試みが偶然合致したタイミングがあり、研究の知見を地域の方々に共有できる貴重な場を設けられたと感じました。このような学生のハブを活かし、人口減少に伴う問題解決の素地を作ることができたと考えています。
珠洲市は地震で大きな被害を受けましたが、研修で繋がった生産者や経営者にヒアリングを行い、珠洲市と関わりのある学生を巻き込みながら、長期的に活動を行いたいです。
里山林再生に向けた市民参加型の森林管理を模索する | OEGs受講生有志
認定NPO法人環境リレーションズ研究所のご協力の下、熱海市の里山林を再生させる森林管理体制の提案と実現を目標とした、OEGs受講生有志によるプロジェクトに取り組みました。私は特に森林管理の担い手創出に関心を持って活動しました。
2年間の活動のうち1年目は、フィールドとなる放置里山林を訪れ、森林管理と利用が行われなくなり里山林特有の生態系が消失しつつある現状を目の当たりにしました。また、市内のイベントや交流会における地域住民の方々との交流を通して、市の産業や生活、地元で森林施業を行うNPOの普及活動についてお話を伺いました。
2年目は、里山林管理の担い手確保に向けた具体的な解決策として、専門家以外が森づくり活動に関わる地域コミュニティの体制を提案し、行政や大学、企業との関係性を整理しました。
最後に、森づくり活動の担い手養成を目的として、森づくりの知識や技術を座学とフィールドワークで学べるプログラムを企画しました。プログラムには地域内外の方々に参加してもらえましたが、人数は少なく、目標とした地域コミュニティの醸成には繋げられませんでした。
市内で地域活動をされている方々とのお話を振り返ると、些細な日常会話から生まれる信頼関係、長い時間をかけた活動に対する理解獲得の積み重ねによって、活動が支えられていることに気づかされます。離れた土地に暮らす私たちが2年間で得られる地域との信頼関係や情報発信力には、限界があったのかもしれません。
また、放置林問題に直結しそうな取り組みに加えて、アクセスや地形が良好な森林で体験会を開く、参加者同士の交流の場を設けるといった、結果が出るまでに時間のかかる取り組みを、段階を踏んで実施することが必要だったと思いました。
これらの気づきを通して、課題に取り組む際は、1回の理想的な方法の実践により成果を得ようとするよりも、長期に渡り実践を繰り返す中で、人との繋がりや新たな課題を得て方針を調整することが重要だと考えるようになりました。これから地域課題に取り組む場面では、大目標を見据えつつ、地道な活動を継続することを心がけたいです。
「農学×サッカー」サッカーの力を活用した地域資源の持続可能な利用を考える | OEGs4期生 津旨まい、金子竣亮
本研修は私ともう1人の受講生が、サッカーが持っている「人をつなぐ力」を農学に活かしたいと考えて始めました。株式会社ワークライフスポーツをアドバイザーに迎え、サッカーグラウンドや動物園などの長野市の公共施設を管理する一般社団法人長野市開発公社(以下、長野市開発公社)の皆様にご協力いただきながら、長野市をフィールドに活動を行っています。
活動を始める際にサッカーの力を活かして何を実現するかを考えたところ、地域資源を活用する小規模・循環型社会を実現したいという結論に至りました。では、どの分野で資源循環を作り出すのかということを考えたときに、畜産の分野が思い当たりました。私は3年前の実学研修で畜産農家に訪れており、畜産業による環境問題が現在は問題となっているものの、上手く行えば資源循環の手段となると感じていたためです。また、畜産業の課題として畜産生産物が安すぎるという思いがありました。適正な価格で買ってもらうために、サッカークラブの力を活用できるのではないかとも考えて、廃棄されているサッカーグラウンドから出る刈芝を家畜の飼料として利用することを考えました。
現在の産業構造では遠方から食料や石油製品などの資源を運搬することが多いですが、これは資源の消費だけでなく安全保障の観点からも課題であると感じています。ただ、地域内で資源を循環させたいと考えたときに、外部から購入するよりも費用や労働力などのコストがかかります。そして、そのコストを支払おうと思えるのが、サッカーの力であると考えました。
長野市開発公社が管理するサッカーグラウンドの芝の特徴として、自然の力を最大限利用することで農薬の使用が夏季の最低限のみに抑えられているため、動物が食べることも可能です。一方で、競技用の芝であるため飼料として用いた前例はなく、畜産農家で使ってもらうには壁がありました。そこで、長野市開発公社が運営する動物園で試験的に羊や山羊、小動物などに給餌を行いました。
他にも、刈芝を給餌して育てた羊肉の価格が高くても、消費者は買ってくれるのかを調べるために、アンケート調査を行いました。また、飼料以外にも排泄物処理を考えて、ミミズコンポストを行う株式会社みみずやとも連携を図っています。
研修の中では、「何をやることが100年後の地球のために意義があるのか?」という問いかけに何度も直面しました。すぐに出来ることを考えてみたときに、一見資源を活用できていそうでも別の資源を消費してしまっている場合もあります。刈芝を使えればそれでいいというわけではなく、刈芝を運搬して利用することによる二酸化炭素排出や労働力などのコストと、刈芝を資源として利用することによって削減されたコストを比較することが必要です。今出来ることを考えつつも、理想の未来を描いてそこから逆算する思考を忘れずに、今後も取り組みを続けていきたいと思います。
2024年度はさらに学生発の研修が増えて、中には、国を超えて行われている活動もあります。
その様子もまた、ご報告します!