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『独自国家のススメ~見渡すな!キリがない~』熊谷拓明

いささか大そうなタイトルになってしまいましたが、僕の中ではそのくらいの心意気と言う事で、今日の話は自分の世界をこの世の中に浮かべてみよう。というお話です。
現在42歳。いまさらながら知らない事や、自分には感じる事の出来ない感覚がこの世界には沢山存在するという事実の気配だけは感じる事が出来るようになり、自分への戒めと、同世代への忠告と(笑)、
僕より若い方々へのお手紙になればと思い記してみる。

■憧れて、憧れられるサイクルの終了期。

僕自身踊りを踊り、舞台に出演し、作品を創る行為を長年続けてきたわけですが。その中で憧れる先輩や、嫉妬する同年代や、多くの方々への感情をエネルギーに自分の活動を続けてこれた気がしています。そしてこれからも憧れや、嫉妬とうまく付き合っていく必要があり、そのなかから幸せと感じる時間や、ほんのわずかな絶望を味わいながら大きくとらえると「楽しく」過ごしていくつもりでおりますが。最近では自分より若い方々と接する機会が増え、僕自身の人生や活動がまた豊かに変容していくような感触を覚えております。
そんな中で、僕の諸先輩方に伝えてもらったものを、何も変換せずに彼ら、彼女らに伝える事は不可能であり、求められていない事に関しては無意味だと感じている事も事実であり、それでも無理矢理自分の正義やエゴを振り回す事はクリエイティブとはとてもかけ離れた行為であると思っています。

きっと終わったんです(笑)1つのループが。
2020年という節目の数字が我々の世界を次のループに送り込んだのか、例の感染症がそうさせたのか。ここではその事は置いておいて、とにかく変化した事自体はおそらく確かであり、いま思えばその足音は何年も前に聞こえていた気がします。
僕が20代中頃から味わった感触としては、どの現場に行っても周りの先輩方から昔はよかった、というフレーズを沢山聞くようになったんです。
バックダンサーのギャラが昔は数倍だったとか、公営劇場公演の予算が今とは全く違ったとか、とにかくみな遠い目で「昔は良かった」と言い出したんです。僕らはそれを聞いて、またそんな黄金期が来る日まで、先輩たちの後を追って耐えるんだと思っていました。ぼくはそうでした。
しかし30代中ごろから、耐える気力が薄れ、しかしもう後戻りはできない一心で、現在に至るわけですが。この節目の時代を人生の折り返し地点で迎えている僕らの世代はいわば瀬戸際世代なわけですから、その責任はある程度自覚した上で、しかし自分のせっかくの人生を謳歌する必要と権利があるわけです。
ですからいち早く、この過去の成功ループを終わらせ、次へ進む事に焦点を合わせてみましょう。

■知らない世界を見つめる。

タイトルで見渡すなと言っておいて、知らない世界を見つめるお話です。
見渡すとは知る事ではなく、浅い情報を都合の良い範囲で入手する事であり。見つめるとは、そのことに興味を持ち、知りたいという気持ちを真摯に持つ事です。

海外のダンサーを取り巻く状況は、日本とは全く違うんだぜ!まったく羨ましいぜ・・・
このセリフからは何も建設的なものは生まれない。なぜ違うのか、なぜ日本はこうなのか、本当に海外の方がいいのか、本当に興味があるのならぜひ今の自分の環境を悲観的にとらえずに、公平な目で情報を集め、研究したらいい。ぼくはそこに時間を費やすなら、自分の本当にやりたい事に目を向ける事に人生の時間を使おうと思っているんです。
自分の中にでもまだまだ沢山知らない心境や、蓋をしている感触や才能があり、それを見つめる事もまた知らない世界を探求する行為になり、そうしてやっと他者への関心へと移っていく。

自分の中にある世界の深さを知る事が出来ると、他人の世界を軽視することは難しくなってくるだろう。その相手が年上であろうと、年下であろうと、他の世界の存在を認める事が自分の世界を成長させる事に繋がるのは言うまでもない。

何年ものあいだ、僕は自分の中にある世界で創作し続けているので、やはり自分の世界は好きなんだろうと思う。そしてこの生き方を気に入っている。
嫌いな食べ物を人にすすめる人間はまずいないが、美味しい食べ物を押し付けがましくなく、さらっと紹介するくらいが良いと感じる僕は、これを読んで下さっている方に、自分の世界に目を向ける事をさらっとおすすめします。

■独自国家のススメ。

世界は広い事を知るよりは。世界は幾つも存在する事に気が付く方がワクワクできるはず。
例えばいじめで悩んでいる中学生に、世界は広いんだ!希望を持て!と説くよりは、君の事を誰もいじめない学校が山ほどあるという事を伝えてあげた方がスイートだと思うんです。
だからどこまで登っても果てしなく上がある世界を生きている感覚を持つのではなく、他国の存在を知りながら自国の特徴に目を向け、常に新しい改革を起こしていく方法を沢山身に着ける事が大切です。
僕の行っている活動は多くのスタッフ、キャストに支えられて続いていますが、団結のような言葉のイメージのもとではこれから先、新しい出来事に出会う事はまずできないでしょう。
関わって下さる方々をそれぞれの国家として捉え、団体ではなく、集落な心持で進んでいく事を実践していくつもりでいます。

新たな参入国が僕より若くても、先輩であろうとも関係なく、国同士のお付き合いですね。
歳の差がもたらす事柄として、経験のあるなしのお話をする方もいらっしゃいますが、2019年の経験を2022年に生かすことが社会的に難しくなっている現在、そしてこれからにおいて経験は今まで以上に価値のないものになり。
これから先はいかに経験を忘れ、リアルタイムに人生を生きるかに目を向けていく事が、血の通った創作活動に通ずるのではと感じる今日この頃です。

ダンス劇作家/熊谷拓明

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熊谷拓明【ダンス劇作家】15歳より宏瀬賢二に師事。2008~2011、シルクドゥソレイユ『Believe』に出演。850ステージに立つ。帰国後は自身のオリジナルジャンル「ダンス劇」を数多く発表。言葉と踊りに境界線を持たない独自のスタイルを確立させた。『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(振付)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2017『不思議な森の大夜会』(演出)、 めぐるりアート静岡2019参加作品 『近すぎて聴こえない』(演出)、ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020『パラトリテレビ』(出演)、おうちで見よう!あうるすぽっと2020夏『おはなしの絵空箱』(出演)、『ぼくの名前はズッキーニ』(振付)、『染、色』(振付)など。

公演情報やワークショップ情報、過去作品のアーカイブ等↓odokuma.com

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