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SixTONESが今『フィギュア』を歌う意味

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8月11日。SixTONESの5th Single『マスカラ』が発売される。この5th Singleは表題曲である『マスカラ』の作詞作曲をKing Gnu/millennium paradeの常田大希が務めたことでも話題になっている。発売に先駆けて、既に音楽番組やYouTubeでパフォーマンスを公開しており、注目を集めている。表題曲だけでなく、カップリングとしてもボカロやネオソウル、HIP HOPやJ-POPといった様々なテイストをMIXしており、『フィギュア』、『Make Up』、『Lost City』とどれをとっても異なる魅力が詰まった1枚になっている。

今回新たに制作されたこれら4曲の中で、私の心にいちばん響いた『フィギュア』について、この記事で話していきたい。
もちろん『フィギュア』以外も素晴らしい楽曲なのだが、この『フィギュア』という楽曲を今、このタイミングで、SixTONESが歌う意味を一人でも多くの人に感じ取ってもらいたい。

なぜなら、この『フィギュア』は作詞作曲を手掛けたくじらさんからの常に挑戦し続けるSixTONESに対する応援歌であり、SixTONESのこれまでの軌跡だから。



『フィギュア』について

今回取り上げる『フィギュア』は先にあげた通り、SixTONESの5th Singleに収録されたカップリング曲の一つである。しかし、カップリング曲でありながら、とてつもない存在感を放っている。というのもこの楽曲はボカロPであり、自身もアーティストとして活躍し、話題を生んでいる気鋭のコンポーザー“くじら”による楽曲提供なのだ。

ボカロPは、音声合成ソフト・VOCALOID、UTAU、CeVIOなどで楽曲を制作し、動画投稿サイトへ投稿する音楽家であるが、今や日本の音楽業界の中心に立ち、新たな流行を生み出し続けている無くてはならない存在である。

今回SixTONESへの楽曲提供をしてくださったくじらさんは昨年の大ヒット曲、yama『春を告げる』の作詞作曲・編曲を務めるなど、数々のヒット曲を生み出し、ボカロPを代表する一人と言っても過言ではない。

そんなくじらさんが作詞作曲をしたこの『フィギュア』はうまくいくことばかりでない世の中でも、個性を大事にし、どんなときも自分らしくあろうという強いメッセージを、軽快なCITY POPサウンドに乗せたエールソングである。


そのMVは、SixTONESとしてはアルバム『1ST』収録曲「うやむや」以来の“全編アニメーションによるリリックMV”となっている。前作「うやむや」のMVが公開された当初は、ボカロ要素を含む楽曲に挑戦したことはもちろん、アイドルでありながら一切本人出演が無く、楽曲の歌詞と世界観をまっすぐ伝えたその姿勢とクリエイティブさに、多くのネットユーザー、音楽ユーザーから高く評価された。


いわゆる“第二弾”、“続編”的なポジションであるという言葉がメンバーからも出ていたが、私が感じたのは全く別物であるということだ。

今回の『フィギュア』は、SixTONESが歌わなければならない、SixTONESが歌うからこそ意味を持つ楽曲なのだ。



ボカロの世界

『フィギュア』について語る前に、この楽曲を作られたくじらさんが活躍されるボカロの世界について触れておきたい。

私が中高生だった頃、VOCALOIDという音声合成技術が誕生し、それらを用いて作られた楽曲がニコニコ動画等にUPされる文化が始まった。「歌ってみた」や「踊ってみた」というのが流行り、歌い手や踊り手という存在が誕生。私自身ももれなくそれらのコンテンツを享受していた。当時はボカロと言っても今のようにアーティストが最前線で活躍するような文化ではなく、初音ミクが最前線だった。2次元、アニメ文化とすごく近く、「キャラクターソング」が主流だったように思う。当時私がボカロに感じてたのはそもそも楽曲の音域が限られた人しか歌えないものであったり、キャラクターが歌うことを前提としているため、人が歌うには攻撃性や刺激が強い歌詞が多かったりしたということだった。ただその中でも『炉心融解』や『ペテン師が笑う頃に』、『ブラックロックシューター』、『メルト』といった楽曲は代表的なボカロ曲であった(歌い手はしゃむおんさんがめちゃくちゃ好きだった)。

しかしそんなボカロにも変化が訪れ、それまで「キャラクターソング」が中心であったが、徐々にクリエイターの思想やマインドが直接的に反映された楽曲が増えていった。おそらくこの頃、VOCALOIDを使って楽曲制作をしていたクリエイターの多くはなんらかの形で過去に音楽を作っていた人が多かったように思う(バンドでデビューを目指していたが、うまくいかず、ボカロに転向といった形)。そのため、ボカロ曲という枠組みに囚われることなく、クリエイターが伝えたいことを伝えるためのツールとしてVOCALOIDを使う、という傾向に変わっていったのだ。

この頃からボカロシーンには特有の文化が生まれ始めた。最初はメジャーシーンに対するアンチテーゼのようなものだったと思う。世の中の流行曲が恋愛ソングなら、こちらは死生観を歌ってしまおう、といったものだ。リーマンショックによる経済不況やSNSの普及による弊害等も起こり始めた時代であり、社会の閉塞感の中での苦悩を表現する楽曲が増えていった。

これは現在のボカロシーンにも通ずるものだと感じる。昨年大ヒットしたAdoさんの『うっせぇわ』や、てにをはさんの『ヴィラン』からも読み取れるが、ボカロの世界から生まれる楽曲には「世の中とのズレ」を表現する鋭角性がある。そのズレに対して、ひとつの答えを楽曲として提示しているのだ。だからこそみんなが心を重ねられる、共感できる楽曲となっている。

また多くの楽曲はリリックMVが制作されている場合が多い。視覚的に言葉を伝えることができるため、難しい言葉を盛り込んだり、込み入った表現もできる。言葉から生まれるリズムのハマりやメロディーの心地よさは、音の観点でも、楽曲というひとつのアート作品の観点でもボカロという世界にとっては非常に重要なのだ。

そこにこだわり続け、人々が感じている生きづらさを赤裸々に表現するからこそ、そこに共感する人が集まり、今の支持があるのだと思う。



『フィギュア』の歌詞から読み取るSixTONESの軌跡

この『フィギュア』の歌詞もボカロ特有の言葉遊びや絶妙なニュアンスを表現する言葉が並んでいる。同時にストーリー性があり、まさしくそれこそがこの楽曲を歌うSixTONESの軌跡なのである。

くじらさんは今回の楽曲に込めた想いとして、ある雑誌の中で下記の通り語っている。

SixTONESさんの個人的な印象の1つとして、Jr.時代が比較的長かったというものがあります。エンターテイメントやそれに隣接した世界で活躍しようとしている人は数字や露出度、好感度によって態度をコロコロと変えていく…。何者かになろうと足掻く事の大変さ、その道中で人格を形成していく難しさなどを書きました。
僕らは皆裏切らないものを探して生きているのだと思います…。
-『MG』 NO.6

SixTONESと同じエンターテイメントの世界で生きるくじらさんならではの目線でSixTONESを捉え、表現しているのだ。

そして、くじらさんの楽曲制作の特徴として詞を先に書いた後に曲を付ける、「詞先」で作ることが多いというものがある。

「僕は言葉に対する思い入れが強いので、初めに歌詞を全部書き、それにメロディーとコードを弾き語りで付けてDTMに落とし込んでいきます。やはり、どれだけ曲がかっこよくても、言葉がハマっていないとダサくなる。特にバラードなどは言葉が聴こえやすいのでより大事ですね。」

ここから先は私なりの歌詞の解釈を書いていくので、実際にくじらさんが書いた『フィギュア』の歌詞と照らし合わせながら、読んでいただきたい。


エンターテイメントの世界は流行の移り変わりが激しく、不確実性の高い世界。今日「いいね」と言われていたものが、明日には目もくれられなることさえある。そんな世界の中で生きていくためには自分自身のブレない信念が必要であり、その信念をまだ持てていなかった頃の彼らを表しているように感じる。

自分がいる世界がそんな世界であることに徐々に気付いていく。まさしく思春期から大人になるそんな時期をエンターテイメントの世界で生きてきた彼らの姿である。そんな世界で生きていることに対し、違和感を感じながらもどうすればいいかわからない葛藤、後戻りもできず、前に進むこともできず、そんな自分に嫌気が差し、投げやりな気持ちで毎日を過ごしている。

その状況を打破するためにはどうすればいいのかも分からない。これまで自分たちの目指す夢に向かって、努力をして、積み重ねてきたのにも関わらず、評価されないもどかしさや、後輩のデビューによる焦燥感、同期の退所等により生まれる「本当にこのままでいいのか」という迷い。沸々と湧き上がるネガティブと不安たちに蓋をするように「生まれ変わりを信じて」いたのかもしれない。描いたもの、期待したものが花占いの花びらのように一枚一枚散っていく日々。そんな中でも、腐らないように、全てに蓋をして、なんとか、無理矢理でも自分たちの夢を描き直し、走り続けていたのがSixTONESなのである。

もどかしさ、焦燥感、迷い…不安の全てに蓋をしていても、ふと1人になるとそこに引き戻されそうに、溢れ出しそうになる。そして自分が描いていたはずの夢へのドラマのエンドロールが流れてしまう気さえしてしまう。自分の感情を理性で押さえ込むことなく、そのまま素直に表現することが許される「こども」という存在を引き合いとして出すことで、その不安が溢れる様子を表現している。周囲から簡単だと言われた夢へのドラマ、簡単だと感じていた夢へのドラマの結末は毎回ガラス越しに取り替えられてしまい、叶わないまま。「次のデビューは君たちだよ」と囁かれ続けた彼らはまさしくこの状況。毎回掴みかける「デビュー」という夢に、裏切られてきた彼らを表しているように感じる。

「これが理想だよ」と言われ、それに従って自らを型にはめてしまうことや、人の顔色や評価、数字を窺ってしまうことによって、自分の意思を封じ込めたり、魂を売ってしまうこともデビュー前にはたくさんあったはず。なんとなくその場は上手くいっても、自分の中で虚無感・無力感が残る。そして結果、「あなたの代わりはいる」という現実を突きつけられることも経験し、「これじゃダメだ、自分らしさを大切にしなければ」「自分らしさを受け入れてもらえるだけの力をつけなければ」とSixTONESの6人は感じてきたのではないだろうか。

自分らしさの大切さに気付きながらも、それを発信すること、表現することを躊躇い、後ろ向きのまま。「本当にこれでいいのか?」と自問自答を繰り返す。3歩先にあるスポットライトまで進めば、自分にスポットライトが当たるかもしれない、何者かになれるかもしれない。でももしかしたら、そのスポットライトに辿り着く前に影に飲み込まれてしまうかもしれない、そんな不安との葛藤なのである。ずっとこのままではいられないと分かりながらも踏み出せない3歩なのだ。

いろんな人の思惑や感情の中でずっと生きてきて、ジャニーズJr.として、アイドルとして、生きて。その中でいろんな人から言われる「これが正しい」に迷い、悩み続けた日々。時には自分は正しいと思えなくても、正しいと思い込み、やったことがたくさんあったはず。「本当にこれでいいのか?」と頭を抱えてきたはず。

でも彼らはあるところで完全に吹っ切れる。これまでずっと自分たちの番を待っていた。自分たちが夢を叶える番を待って、いろんなことをこらえてきた。でももうそれはやめて、自分の本音や心を隠すことももうやめよう、自分たちのやりたいことを、信念を貫こうという決意が芽生えるのだ。

ここでいう「正しさ」はもう人から言われる正しさではない。自分たちが後悔のない生き方であれば、それが全て正しいことなのだと。自分たちの「正しさ」を信じて、進んでいこうと。スポットライトに向かって、3歩踏み出す勇気を持つのだ。

これまで悩んできた過去を振り返ると、「何をしてたんだ」と後悔することもある中で、それを完全に削除するのではなく、受け入れ、昇華していく様子が歌詞のワードに込められているように思う。何者かになろうと足掻いた日々を削除するのではなく、一つ一つの過去に花束という称賛をあげながら。アイドルという存在である自分たちをショーウィンドウに並べられたフィギュアに見立て、誰にも代えられない存在、唯一無二の存在になるよう、「代替不可であれよ」と、自分たちに願いを込める。本来は代替不可の存在であるはずだが、でもいつか代替されてしまう不安と戦うアイドル。その道を選んだからにはあるがままの姿で、代替不可の存在になるんだという決意なのである。きっとデビューの際に彼らはこんな決意をしたことだろう。



この曲をSixTONESが歌う意味

ここまで歌詞として綴られたくじらさんの言葉とそれに込められているであろう想いを、SixTONESのこれまでの軌跡とともに説明をした。

SixTONESというと、バラエティーに出ている陽気な姿や、派手なパフォーマンスのイメージが強い。でも先に話した通り、一人一人が物凄く苦労人で、それを乗り越え、今の姿がある。

ジャニーズの中で「何者か」になったとされる指標の一つにCDデビューがある。もちろんそれだけが全てではないが、ユニットを組んでいる場合は特に大きな指標として存在する。しかしSixTONESはそのCDデビューまでに平均12年程度かかっているのだ。10年以上ジャニーズJr.として活動していた。各メンバー幼少期から注目を浴びる立ち位置におり、人気・実力共に兼ね備えていたのにも関わらず、なかなかデビューに恵まれなかった。

だからか、彼らの人間性の部分は画面の向こうで見るものと少し違う。

今回『フィギュア』をはじめとするボカロ要素を含む楽曲をSixTONESが歌うことについて、メンバーの松村北斗は下記のように語る。

「これは一個人の意見ですけど、ボカロ的ないわゆるサブカル的と言われる曲って、なんだろう……すごく精神的な話ですけど、ネガティブ要素と多様性へのものすごく強い自我のようなものが中心にあるのかなって思っていて。そう思うと僕らって実は全員がそういうタイプで(笑)。その中の振り幅で、明るいやつ、暗いやつがいるくらいのグループなので、そこの気持ち的な親和性はあるのかもしれないです」
-『CUT』 2021.8

「いやいや、あのSixTONESが?」と感じるかと思うが、実際、SixTONESの6人は、全員が地に足をしっかりとつけ、現実的に物事を捉えながら、道を作ってここまで歩んできている。

その様子が窺える言葉たちを紹介したい。

ジェシー
人それぞれ、目の前のことをどう捉えるかですよね。例えば怒られて『信頼なくした…もうダメだ』ってなる人もいれば、『チャンスだ。怒ってるのは俺を育ててくれようとしてるからだ』って思う人もいる。どっちで捉えるかなんだけど、終わりって言っちゃったらもう終わりだから。ずっと終わりが始まりという考え方でいたほうが楽じゃないかな。
-ジェシーさんはなんでそういう考え方になったんですか?
たぶんもともとネガティブだからです(笑)。だからこそポジティブに考えなきゃって思って。
-『音楽と人』 2021.9
松村北斗
基本ネガティブ思考です。褒められても気を遣ってるんだなとか、思ってもないことを言ってるなってとらえてしまう。それでだんだんその人のことも嫌いになっていく。それって自我が強いからなんですよ。今日の服を見てもらえばわかると思いますけど、自分が好きなことをやりたいんですよね。みんなが好むような服を着ます、大勢に認められる人になります!ってやれる人もいるだろうけど、僕はできない。

続けて、松村北斗は「代替」という言葉に繋がるような不安も吐露している。

松村北斗
-認めてくれる人や応援してくれる人がどんどん増えてると思いますが、そういう感覚はなくならないものですか?
今好きだって言ってくれてる人や、応援してますって言ってくれてる人も、いつかは冷めるだろうって思うんです。今は熱中してるけど、みんな錯覚してるだけじゃないのかって
-『音楽と人』 2021.9
髙地優吾
「(中略)人の顔色を窺っていると疲れて、精神的に持たなくなっちゃうんで
-そういう時期もありましたか?
デビューの前はとくにありましたね。グループの中ではイジられキャラなんですけど、最初はそれがすごい嫌で。最年長だし、カッコ悪いと思われるんじゃないかって見られ方を気にしてて。でもみんなが作ってくれたポジションに乗っかろうってやってから、すごい気持ちが楽になったんです。例えば失敗してもみんながイジってくれる。前は完璧にやらなきゃ、とか変なプレッシャーに押しつぶされそうになる時もありましたけど、そういう重荷をグループが外してくれた。
-『音楽と人』 2021.9

こういった個々人が抱えるネガティブや不安はあれど、SixTONESという「6人」の存在が掛け合わされることで、そのネガティブや不安をパワーに変えてきているように感じる。

結成当初、デビューへの道のりが見えない中で、どこに自分たちが身を置けばいいのかわからなかった彼らがそれまでの6人分の努力や葛藤を掛け合わせることで、「常に挑戦し続ける姿勢」と「アイドルが誰もやっていないことを必死でやる」という強さを身につけた。足掻きながら、もがきながら、ジャニーズでもアイドルでもない「SixTONES」というスタイルを創り上げたのだ。

まさしくその過程がこの『フィギュア』に詰まっていると感じる。

京本大我
SixTONESらしさって、みんな、自分たちじゃわかんないって言うんですけど、僕がなんとなく思ってるのは、挑戦し続ける姿勢、なんですよね。今回の楽曲も、ジャンルで括ったらバラバラですけど、評価されるのってそこだと思うんです。自分たちじゃ予想もつかないことをやろうとするから、いつも不安が顔を覗かせるんですけど、それがあるからSixTONESらしくやれてる気がする。
-『音楽と人』 2021.9
松村北斗
グループを組んでからここまで、失敗もあったし、思うように結果が出ないこともいっぱいあったけど、今日も唄っているのが何よりの証拠っていうか。僕はそこに変な信頼感があって。隣の人を気にしてた時もありましたよ。でもSixTONESなりの道を進むようになって、その先に今がある。これを続けていけば、いつかの未来でも6人で唄ってるイメージが浮かぶんです。だから今はやりたいことをやってそれぞれの楽曲に全力でこだわりを注ぐことが大事なんだろうなと思いますね
-『音楽と人』 2021.9
森本慎太郎
各々やりたいようにやってるだけ。俺らは振り付けの細かい確認作業もしないですし、最初の振り付けで『ここは揃えたい』って言われても、そこから数日経ったらもう揃ってないですから(笑)。みんな周りを気にせずにパフォーマンスしてると思うしそれがいいんだと思いますよ。(中略)信頼関係、阿吽の呼吸みたいなものがあるんでしょうね。
-『音楽と人』 2021.9
田中樹
いい音楽を作りたいという気持ち自体が反骨精神的なところからきてますから、なくなってないですね。例えば、アルバムが上半期1位を獲ったことで、ジャニーズの音楽に触れてこなかった人が「初めてジャニーズの音楽聴いた!』って言ってるのを見ると、『お前ら、人生損してたな』って思う。『ありがとう』とは思わない。これは今後もそうですね
-『音楽と人』 2021.9

これこそがSixTONESが持つネガティブ要素と多様性へのものすごい強い自我なのである。一人一人が過去経験してきた、嬉しいこと、称えられるべきこと、苦しかったこと、後悔していること、全てを一人一人が乗り越える力を持ち、その力を持ち寄って、掛け合わせたからこそ生まれた彼らの強さなのである。

たった一人の少年が不確実性の高い世界で、苦悩しながら自分の人格を形成した結果、アイドルという枠にも、ジャニーズという枠にもハマらない、SixTONESという強い志を持った新たな存在が誕生したのだ。

そんな彼らが歌う『フィギュア』だから私たちの心にスッと入り、共感が生まれる。この歌詞のメッセージを自分事として捉え、心を重ねることができるのだ。ボカロの世界の核である人々が感じている生きづらさを赤裸々に表現することに自然と繋がっている。


ボカロの世界の話に戻るが、ボカロというのは多くの場合、ボカロPや歌い手は顔出ししていない。顔出ししない理由はそれぞれあると思うが、私の感覚としては顔出ししないからこそ守れる世界観があると感じる。例えば、昨年大ヒットしたAdoさんの『うっせぇわ』をあいみょんさんが歌ったとする。そうするとなんだか歌の持つインパクトが減りそうな気がするのだ。頭の中で「あいみょんさんはそんなこと思う人じゃなさそう」といった感覚が生まれる。その人のパーソナリティを印象付ける「顔」というものを見せることの弊害と言えばいいだろうか。見せないことで、楽曲の強いメッセージ性がストレートに伝わってくるような感覚がある。

ただ、今回のようにSixTONESという、顔もパーソナリティも知られている存在がボカロというメッセージ性のある楽曲を歌う上で、最も大切なのは彼らのイメージときちんとマッチしながら、みんなが心を重ねられるようなメッセージを届けることである。その点で言うと、くじらさんはSixTONESの過去も現在も未来も理解した上で書いてくださったように思う。デビュー2年目に入り、自分たちの道を切り拓きながら、これまでの道を自分たちのものとして強固にしていくSixTONESへの応援歌である。本当にお見事だ。



今回の5th Singleにおける『フィギュア』

このSixTONESの過去と現在と未来を指し示すような『フィギュア』が今回の5th Singleに収録されたことにも意味があると感じる。

表題曲である『マスカラ』は冒頭にも話した通り、作詞作曲をKing Gnu/millennium paradeの常田大希が手掛けている。これまでのSixTONESにはなかったテイストの楽曲であることはもちろん、楽曲の難易度としても非常に高い。しかしメンバーはこの楽曲こそが「今のSixTONESだ」と話している。

松村「常田さんに『こういう曲をお願いします』とお願いしていない以上、常田さんはこれまでの僕らを見て、『俺ならSixTONESをこうするけどな』と思ってこの曲を作ってくれたんだと思うんです。そういう意味では、今のSixTONESの姿が“マスカラ”なんじゃないかなと。今までになかったタイプの曲であることに違いないけれど、ここに来るまでの道は、僕らの過去が作ったものなんだと思うんですよね」
-『CUT』 2021.8

過去のSixTONESが作ってきたものを未来のSixTONESへと繋ぐのがこの『マスカラ』という楽曲なのだ。そして過去のSixTONESを全肯定する「あの時悩んだけど、これで正解だった。俺たちの『正しさ』はここにある。」ということを示す『フィギュア』が『マスカラ』という新たな挑戦に立ち向かう彼ら6人を支えているのだ。

先日ザ少年倶楽部で放送された『フィギュア』のパフォーマンスはとても明るく前向きなもので構成されていた。あのパフォーマンスにこそ、彼らの過去の道のりへの自信が詰まっていたのではないだろうか。


SixTONESの存在は国内の音楽シーンを活性化し、またジャニーズのイメージも刷新している。そして何よりも、これまでの日本のアイドルの要素にはあまりなかった、クリエイターの色を大切にし、その中で自分たちの色も出し、音楽・作品の力で勝負している。日本発のボーイズグループの新しい在り方を、これからも「常に挑戦し続ける姿勢」で魅せてほしい。



※あくまで個人の主観です。
※この記事を読んで共感された方は是非下記URLより雑誌『CUT』『音楽と人』をお買い求めください。とても良いインタビューがてんこ盛りです。お願いします。。。!




おけい



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