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認知症になった母のこと(その6)

2021年コロナウィルス感染者が国内で初めて確認されたと
ニュースで話題になった。

それからものすごい勢いで感染拡大して、
重症化して入院したり、死亡する人も増えていった。

子どもから大人までみんなマスクをして手洗い消毒をするようになった。

病院はどこも対策に追われ
また医療従事者にも感染者がでて世の中大変な事態になってしまった。

高齢者施設にも対策が施され、入所した1月以降、
面会禁止という措置が取られたのだ。

なんと言うことだ!
自分は最悪のタイミングで母を入所させてしまったのだ。

暮れから母に会っていないというのに、
面会出来なくなるとは想定外の出来事だった。

私は毎週特養に面会にいった。
母の好きなおやつやドリンクを持って。

入り口はビニールシートで仕切られ、中には入ることが出来ない。

受付で4階の担当の方お願いしますと声を掛けると
誰かしら介護士がやってくる。

母の様子はどうですか?と尋ねると、
お変わりなく元気ですよ、と答える。

それは嘘だ。母はきっとものすごく怒っている。

そしてこんな所に自分を追いやったと私を恨んでいるに違いない。
きっと寂しくて家に帰りたいと思っているに違いない、
そう思えて辛くて苦しかった。

何度目かにスマホでビデオを撮ってもらうことを思いつき、お願いした。

スマホを向けられた母は、写真だと思ったようでポーズをして笑っている。

食堂で自分の荷物を全部もっている。

「それで私は今日泊まって明日は帰れるのね?そうだよね?」
と介護士に何度も確かめている。

介護士もどうかなー、そうかもねーと調子を合わせている。

渡されたおやつを喜んでのぞいている。少しホッとした。

私は次々に母が喜びそうな物を考えては持って行った。

昔編み物が得意だったからと毛糸と鍵棒と本を、
それから猫の写真集と猫のぬいぐるみを、
両開きの色紙に孫・ひ孫達の写真を貼ってデコレーションした物を、
母に宛てた手紙ももっていった。

そんな風に毎週通った2月の終わり頃、
いつものようにおやつを渡しにいき、対応した介護士さんに色々質問した。

母は毎日何をしていますか?
編み物やってます?
足の爪はきってもらえてますか?歩くと食い込んで痛いんですよ。
それからお風呂はどうですか、はいってますか?
お店やっていたんでお喋り好きなんですよ。
誰か話し相手はいますか?
もし誰もいないなら、介護士さん声を掛けてくれませんか?
私がいって話したいんですけど今コロナで大変だから。
でもいつでも面会出来るって言ってたじゃないですか。
それがこんな事になっちゃって、もうどうしていいのか・・。」

そう話しながら私は泣きじゃくっていた。

もう母に会えないことが辛すぎて悔やまれて、どうにかなりそうだった。

直接顔を合わせることも出来ないのだ。

一時帰宅も許可されなかった。

そのうちに特養の介護士に複数コロナ感染者が出たことで
ますます状況が悪くなり、
ついに多数の入所者にもコロナ感染者が出て
何人も救急搬送されたようだった。


           


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田中もなか
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