カフェで誰かの人生にふれる
そのカフェは再来月に移転してしまうという。
SNS等で見かける現店舗の雰囲気が素敵だったので、今のうちに行っておこうと思い、札幌はすすきの方面へお出かけしてきました。
狭くやや急な階段をギシギシ踏み締め3階分上ったところ。
パッと目の前の壁が青みがかればそこが「Brown Books Cafe」です。
ヴィンテージの家具が、どっしりとした本棚がやはりギシギシと音を立てる床の上に鎮座しています。
本日のケーキとクッキーアソート、ブレンドコーヒーの到着を待ちながら、店内の本をお借りしようかと。
自分にはちょっと背伸びなアート系の本や、背伸びしても到底読めそうにない洋書などがこのカフェの雰囲気を作っています。
ふと目をやると、今の私にもぴったりそうな雑記ノートがありました。
ページを繰ると、「かわいいお店です」と小さな子どもと思しき元気な文字、
「彼氏が髪を切ってますますかっこ良くなっちゃって直視できない」なんて微笑ましい惚気話、
「私は23になって随分と大人になった気がする。でも大人から見たらまだ若いんだろうなあ」というみずみずしい記述。
中でも特に目を引いたのが、それぞれの辛さをそっと打ち明けているページが多いこと。
「眠っては食べて日々仕事に行って。一杯一杯な中でこのお店に来られて嬉しいです。」
すごく頑張り屋さんなのでしょう。
私も仕事がしんどかった時期、“今のまま”がずうっと続くんじゃないかとたまらなく怖かったから、わかる。
カフェで一息つけて、よかったね。
「今、私は直面している困難に立ち向かわなければならないのです。」
と真っ直ぐにペンで書かれたページには、後日、加えられたであろう「頑張って!」の鉛筆書き。
書き手はまたこのカフェに現れるかどうかもわからない、
そしてこのノートを再び開くかもわからない、
それでもエールを送りたくなる気持ちがよくわかるページもありました。
1ページにも満たない僅かなスペースに並ぶ小さな手書きの文字はデジタルのそれとは異なり、書いている時の心情まで思い図れそうです。
どれもネットの掲示板なんかに溢れる悩みかもしれない。
けれどもさしてアドバイスをすることなく、心の中で、あるいは後日に寄せるたった一言で応援したり共感したりが静かに繰り返されている特別なノートでした。
熱心にノートを読み耽りながら届いた焼き菓子とコーヒーをいただくと、深い苦味と寄り添う甘味。
それらを味わっていると、なんとなくこのカフェで、抱える辛さをそっとノートに託したくなる気持ちがわかる気がします。
優しい空気がノートにも、コーヒーにもスイーツにも流れている空間。
嬉しさも悲しさも打ち明けると包み込んでくれそうな許された場所。
このカフェは再来月に移転してしまうという。
ノートと優しい空気感も一緒にお引っ越しして欲しいな、と思うし、きっとそうだろうなと思います。