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蝶番

夜の電車の中から
窓の外を見ると
目の前の夜景と
ガラス窓に反射した
自分と背後の夜景とが
重なり合って
現実には存在しない
景色が見える

自分を蝶番にして
二つの別の世界が折りたたまれて
一つの世界が生まれている

蝶番を乗せた電車は
ミシンのように
折りたたんだ二つの世界を
縫い合わせながら進む

この電車を降りる時
縫い合わせていた糸は
一瞬でほつれ
二つの世界は何事も無かったように
元に戻るだろう

ほんの束の間の蒸発

この電車に乗っていた
ほんの一駅分だけ
私はどこの世界にも存在せず
誰にも認識されることなく
蝶番としての役目を
全うしていた

この駅で降りるのは私一人
私が降りた後の車内には
もう誰も乗っていない



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