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”NEXT GENERATION”で、アーノンがABFシルバー王座獲得、ノックアウトは敵地でWBA世界王座を防衛~2024年9月7日
TL&GALAXY ボクシングプロモーションは、9月7日にバンコク・RCAのSPACE PLUS にて定期興行のTHE FIGHTER”NEXT GENERATION”を行った。メインイベントでは、TLプロモーション所属のアーノン・ユーパンがアルジェリアのワリド・ハリマ・サレムとABFスーパーフェザー級シルバー王座決定戦を行い、5ラウンドKOで同王座を獲得した。
また、同じこの日にはタイが誇る、唯一のプロボクシング世界王者、WBA世界ミニマム級チャンピオンのノックアウト・CPフレッシュマートが、敵地オーストラリアに乗り込んで、8位のアレックス・ウィンウッドと防衛戦を行い、判定勝ちで防衛に成功を収めた。今回はアーノン対ワリド戦、ノックアウト対アレックス戦について紹介したい。
ABFスーパーフェザー級シルバー王座決定戦~アーノン・ユーパン対ワリド・ハリマ・サレム
アーノンはピサヌローク県出身の27歳、ワリド戦までは14勝(5KO)5敗の戦績を誇る。デビューから5連勝を記録しながら、その後の地域タイトル戦では3連敗、昨年4月には日本で現日本スーパーフェザー級王者の奈良井翼と対戦して判定負けしている。
その後、昨年11月敵地フィリピンで、アイマン・アブ・ベイカーに勝利し、WBCアジアインターコンチネンタル王座を獲得した。しかし、今年6月にフィリピンでの防衛戦でジョー・サンティマに4ラウンドKO負けで王座を失った。ジョー・サンティマは、日本人選手との対戦も多く、日本のファンにはお馴染みの選手である。
そして、今回のABF王座決定戦は、フィリピンの試合からの再起戦でもある。対するワリド・ハリマ・サレムはタイをベースに戦うアルジェリア人で、これまで5勝(4KO)2敗、バンコク、スクンビットエリアにある、THE BOX Thailand Boxing Academy の所属選手で、NEXT GENERATIONには3度目の出場となる。 毎月行われている”NEXT GENERATION”、この日は7試合が組まれたが、テレビ放送の関係で、第2試合がメインイベントとなった。
第1試合は、新人同士の4回戦、ナラビット対レワットが終始打ち合いの熱戦で、結果は引き分け。会場が温まったところでアーノンとワリドがリングインした。テレビ用に派手に演出された入場、花道には火花が下から噴き出すようにもなっていた。会場で流された選手紹介ビデオで、アーノンは「何の為に練習するか常に意識してやっている。悪いところを直して、日々良くなっています。ワリドは、以前の試合を見たけど好戦的で油断できない相手、でもオレのパンチに気を付けろと彼に言いたい」と話していた。
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共に好戦的なファイターの二人は、1ラウンドから危険なタイミングでパンチを交換する。ワリド側の応援団、サポーターのTHE BOXファミリーが青コーナー側から大きな声援を送る。その声に後押しされるように、格上であるアーノンに積極的に打っていくが、クリーンヒットは出ない。
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それでも、3ラウンドまでは拮抗した試合となっていた。3ラウンドにアーノンの右フックでワリドはダウン、ワリドのダメージは深くなく、立ち上がって試合は続行される。4ラウンドも右フックがクリーンヒットしてダウン、5ラウンドに右カウンターでワリドはヒザをついて、レフェリーは試合をストップした。アーノンがABFスーパーフェザー級シルバー王座を獲得した。
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ABF(アジアボクシング連盟)はタイのボクシング界の重鎮プロモーターである、ナリス・シンワンチャー氏が設立したもので、タイのボクシングイベント用の王座の印象が強いが、有名選手でこの王座を獲得したものも多い。ムエタイで活躍するクマンドーイ・ペットインディーアカデミーや、コントゥアラーイ・JMボクシングジムも元ABF王者である。
メイン後に行われた5試合は、いずれもパキスタン、オーストラリアの選手対タイ選手の構図で好試合が繰り広げられた。
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これで4戦4勝(4KO)
↓ ↓ 試合動画、40分あたりからメインイベント。タイ国外は視聴制限が掛かる場合もあり。
WBA世界ミニマム級タイトルマッチ~ノックアウトCPフレッシュマート対アレックス・ウィンウッド
この日、タイのボクシングファンは午後2時から、NEXT GENERATIONの中継があり、また午後7時からはオーストラリアからのノックアウト・CPフレッシュマートの防衛戦の中継と楽しめる日となった。他の格闘技まで広げると、この日の午前中には、アメリカ・デンバーでONEチャンピオンシップの大会があり、タイでも注目を集めた。スーパーレック・キアトモー9が衝撃KOでONEバンタム級ムエタイ世界王座を奪取し、タイのムエタイ、格闘技界には明るい話題となった。
オーストラリアのパースで行われたWBA世界ミニマム級タイトルマッチは、ノックアウトは16度目の防衛戦、試合間隔が空き、1年10か月ぶりの試合となる。ノックアウトは、これまで24戦全勝(8KO)で33歳、基本的にはタイ国外へはあまり出ない選手で、15度の防衛の中で2018年7月に中国で元WBC世界ミニマム級王者の熊朝忠を相手に判定勝ちを収めたのが、唯一の海外防衛戦だった。
今回の相手は8位のアレックス・ウィンウッドで、東京オリンピックにも出場した元アマエリート。プロ入り後は4戦全勝(2KO)、僅か5戦目で世界王座獲得に挑む27歳。
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左はトレーナーのチャチャイ・サーサクン氏(元WBC世界フライ級王者)
ノックアウトにとって、約2年ぶりの試合となるこの試合、第1ラウンドから3ラウンドは、脚を使ってアウトボクシングを試みるアレックスの動きが良く、特に3ラウンドは明確にアレックスに取られたラウンドとなった。3ラウンド終盤には、アレックスの右ストレートがクリーンヒットする。ただ、試合開始時から3ラウンドまで、ノックアウトはアレックスに翻弄されたというほどではなく、どっしり構えて重そうなパンチを撃ち込んでいった。
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4ラウンド終盤には、ノックアウトの右が当たり、アレックスがリングにダイブした。パンチが当たった瞬間に足が滑ったのか分からないが、日本人レフェリー染谷氏はスリップの判定。5ラウンド開始時にリング上に散らばる氷を片付けるようノックアウト陣営に指示、自身も氷を片付けるレフェリー、挑戦者を救う時間稼ぎに見えなくもない。
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最終ラウンドまで戦い抜いた
7ラウンドに強烈なノックアウトの右ストレートで、アレックスはひと呼吸おいて痛烈なダウン。倒れ方は危ないように見えたが、挑戦者は立ち上がる。そして、カウント8以内にファイティングポーズを取っていないのに試合続行の合図。残る1分、危険なパンチにさらされ、脚もフラフラ、スリップダウンを繰り返す挑戦者、何発かノックアウトの良いパンチが入るが、レフェリーはストップしない。
このラウンドを生き延びた挑戦者、8回開始時、再びレフェリーからリング上の氷について指示があり、挑戦者陣営が片付ける。回復の時間を少し稼いだ。9ラウンドに挑戦者はダウンを追加される。ただ、逃げ足は速く、脚は止まらない挑戦者、追い足がないチャンピオンはとどめを刺せない。
最終12ラウンドになると、挑戦者の脚の動きも鈍り、チャンピオンに打ち合いに挑む。しかしすぐにクリンチ、挑戦者のホールディング、そしてラビットパンチも気になる。ノックアウトも挑戦者を倒し切れないまま、試合終了。ジャッジの判定は114-112が2名で、113-113の引き分けが1名と2-0の判定でタイ人勝利を支持した。ちなみに著者の採点は117-109でノックアウトだった。チャンピオンには厳しい判定とレフェリングだったが、何とかタイ唯一の世界王座を防衛できたことは確かだ。
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タイの報道では各社「4ラウンドのダウンは日本人レフェリーによって、なしにされた」と説明していた。テレビの解説者も同様にそう話しており、ノックアウトが負けていたら、大きな問題になったかもしれない。
※NEXT GENERATIONは会場にて取材、WBA世界戦はタイのテレビ(TRUE 4 U 24)にて観戦、WBA世界戦の写真はTRUE 4 U 24の放送映像から。
↓ ↓ ↓ WBAミニマム級タイトルマッチ、試合動画