チャイヤプックが初回KOで再起、アストロラビオがWBCバンタム級指名挑戦者に~2023年8月26日のボクシング興行 in バンコク
4月にNOTEで紹介した、プロボクシング・スーパーライト級のチャイヤプック・チャイニコムは、8月26日バンコクのアンバサダーホテルにて行われた、The Box Thailand 主催のWBCアジアダブルタイトルマッチのアンダーカードに出場し、イラン選手を相手にKO勝利した。この試合は、4月16日に大阪で野口海音選手に4回KO負けして以来の再起戦だった。
チャイヤプックが出場したこのイベントは、インドネシア人王者が持つWBCアジアコンチネンタル・ウェルター級、スーパーバンタム級両王座にタイ人選手が挑むタイトルマッチをメインとしたもので、主催者である The Box の所属選手や、オーストラリアから遠征してきたジェフフェネクアカデミーの選手らも出場し、選手の国籍も、タイ、インドネシア、オーストラリア、イラン、イタリア、ロシアと国際色が豊かな顔ぶれとなった。
この8月26日は、注目のWBC世界バンタム級挑戦者決定戦がスタジオマッチの形で別で行われており、ボクシングファンの中に私と同様にネット中継で挑戦者決定戦を見てから、WBCアジアダブルタイトルマッチに駆け付けたものもいただろう。
WBCバンタム級挑戦者決定戦(12回戦)は、白熱した攻防の末に、11回にフィリピンのアストロラビオがKOでタイのナワポンを下した。
序盤のポイントを失ったナワポンは6回から前に出て、積極的に攻め、疲れが見えたアストロラビオに逆転の判定勝ちの線も見えてきた中で、11回に一発を喰らい、痛烈なダウン。試合が決まってしまった。
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WBC挑戦者決定戦の緊張した攻防を見た後に、盛り上がった気持ちで、このThe Boxのイベントに参戦した。会場ではプロ興行に先立ってアマチュアのファイトが行われていたが、すでに満席に近い状態で、リングは大歓声に包まれていた。
アマチュア選手のセコンドには、オーストラリアが産んだ名世界王者ジェフ・フェネック氏の姿も見られた。今回のイベントに際して、プロの女子ウェルター級のケイト・マクラレンなど、何人かオーストラリアから選手を連れてきたようだ。
ジェフ・フェネック氏はセコンドには付かなかったが、オーストラリアからは日系人選手、ケンジ・オカヒサがプロのクルーザー級4回戦も出場していた。
ロシアのユーリを相手に、ボクシングプロデビュー戦を飾った。クルーザー級の試合は大迫力で、ケンジは初回から積極的に攻めるが、ユーリは決定打は許さず、うまくパンチを逃していた。
ケンジ・オカヒサが今後プロ活動を継続していくのか不明であるが、その筋骨隆々な肉体から繰り出されるパンチは可能性を秘めているように思う。機会があればまた試合を観てみたい。
そして、プロの部門4試合目にチャイヤプックが出場し、イランのユーネスと対峙した。
初回、静かな立ち上がりから、開始50秒、サウスポーのチャイプックのワンツーがヒットするとユーネスはダウン。
ダメージは深刻な様子で、倒れた瞬間にもう立ち上がれないことが明らかだった。レフェリーはそのまま試合をストップした。チャイヤプックは初の敗戦となった4月の大阪での試合は相当悔しかったようで「また日本での試合も挑戦して、リベンジしたい」と、語っていたが、この日はあっという間のKO勝利だった。
前日の計量時には「日本と比べてタイはやっぱり調整しやすいです」と語っていたチャイヤプック、リング上で喜びを爆発させ、コーナーポストに駆け上がって勝利をファンや観客にPRした。これで戦績は6勝(4KO)1敗となった。
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セミファイナルはインドネシア人王者イラムに、タイのチャン・サラーが挑んだWBCアジアコンチネンタルウェルター級タイトルマッチで、チャン・サラーは2回にカウンターを喰らって痛烈なダウンを屈するも、迫力のあるボディ攻撃を続けて徐々に盛り返し、7回に連打でイラムを仕留めて新王者となった。
チャン・サラーは、シリモンコンジム(シンマナサックジム)所属の選手で、この5月には日本に遠征し、後楽園ホールで左右田康臣と対戦し、6回判定負けをしている。
その後、ハイペースで試合をこなし、左右田戦から3連勝で王者となった。この日まで12勝(10KO)1敗1分のイラムが有利と思われたが、チャン・サラーが”番狂わせ”を起こした。この試合を経て、新王者のチャン・サラーは8勝(4KO)3敗となった。
この日のメインイベントはWBCアジアコンチネンタルスーパーバンタム級王者ジョンジョン・ジェットに、18歳の新人、ウォラウェート・ナワウェティウォンが挑む冒険マッチで、歴戦の雄(13勝11KO1敗1分)のジョンジョン・ジェットは、ウォラウェートには荷が重いと思われたが、ウォラウェート(5勝(1KO))が必死の応戦を魅せて会場を盛り上げた。
ウォラウェートはカオサイ・ギャラクシージムの所属で、コーナー下ではカオサイ・ギャラクシー氏自らが声を張り上げて指示を出していた。
中南米などのベテラン選手にあるような、筋肉がギュッと凝縮された肉体で手が長く、戦うサイボーグのようなジョンジョン・ジェットに対し、まだ18歳で身体が出来ていないようにも見られるウォラウェートだが、眼が良く、カオサイの指示もよく聞いていた。
ジョンジョン・ジェットが何度か仕留めに連打を放つも、コーナーから必死にエスケープしたり、決定的なパンチはかわして打ち合ったり、その度に観客はウォラウェートに拍手と声援をおくった。
しかしながら4回、ジョンジョン・ジェットがロープ際でアッパーを狙い撃つなど多彩なパンチを決め、ウォラウェートが防戦一方になると、レフェリーは試合をストップした。
リング上のアナウンスではWBAスーパーバンタム級7位と紹介されていたジョンジョン・ジェットは、この日出場した選手の中でもレベルはピカイチで、今後、日本人選手とと対戦しても面白いのではないか。
※ただし、ネットでWBA世界ランキングを確認したところ、ジェットの名前はなかった。過去にランクされたということかもしれない。
また会場を沸かせたウォラウェートは、まだ18歳、カオサイの指導の下でどう成長していくか、今後のキャリアが気になるところである。
海外選手や、タイの中小のジム・プロモーターの選手が出場した今回のThe Boxのイベントは、1年ぶりに行われたが、観客も大入りで盛り上がり、大成功だったのではないか。
カオサイ・ギャラクシーとジェフ・フェネックという両レジェンドにも遭遇し、また計量時には同じく元世界チャンピオンのシリモンコン・シンマナサックにも会えたという、なかなか濃密なイベントであった。