タイコラートの刑務所ムエタイで、囚人ファイター対外国人10対10の決戦、中村慎之介も参戦(2023年3月30日)
3月30日、ナコンラチャシーマー(コラート)県のカオプリック農業生産刑務所内で、”リアル・プリズンファイト”なるムエタイのイベントが行われた。
これは関係者のみが会場への入場を許可され、撮影も制限されたクローズドなイベントであるが、囚人ファイター対外国人ファイターの図式で、日本人ムエタイ選手、中村慎之介も出場した。”
カオプリック刑務所では、受刑者が出所後にプロのファイターになるためのムエタイの技能訓練として、現在52名の受刑者が専門のトレーニングを続けており、リアル・プリズンファイトは、このムエタイ技能訓練プログラムの延長として企画されたもの。
主催者側によると、このイベントを通じ、訓練を受けた囚人(受刑者)ファイターがルールを尊重し、社会に対する前向きな姿勢を身につけることが目的だという。もちろん、各囚人ファイターに実際の試合から経験を積む機会を与え、パフォーマンスを向上させることも目的のひとつである。
今回のリアル・プリズンファイトは特別イベントとしての位置づけだが、他の刑務所の囚人ファイターとのオープン戦や、囚人ファイターの全タイ刑務所王者を決めるイベントも定期的に催されている。
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刑務所ムエタイについては、テレビ向けムエタイイベントや、プロボクシングでも活躍している、コントゥアラーイ・JMボクシングジムが、刑務所ムエタイで活躍した囚人ファイターだったということで知られている。
コントゥアラーイは、かつて3階級で全タイ刑務所王者となったこともあるという。プロボクシング元IBF世界フライ級王者のアムナート・ルアンロンも受刑中にその腕を磨いた一人である。
※コントゥアラーイのインタビューはこちら ↓
今回のリアル・プリズンファイトの出場選手、囚人側は、カオプリック刑務所内から選ばれたよりすぐりの10人。
対戦者の外国人チームの一人にピックアップされた中村慎之介は、タイを拠点に5年以上海外でのプロ選手活動を行っており、タイ各地やカンボジアで50戦と濃厚なキャリアを積んでいる文字通りの”ロードウォーリアー”である。対戦者の情報も少ない中での戦い、イベントの試合順もすぐに入れ替わるようなことにも慣れており、リアル・プリズンファイトにうってつけの人選と言える。
※中村慎之介選手のインタビューはこちら ↓
その他の外国人ファイターは主にタイで活動している選手たちで、日本、ドイツ、フランス、インド、イラン、ネパールなど多国籍に渡る。
外部のプロモーターの協力の元、欧米系のレイジファイトアカデミー、イラン系のBWAジム、タイの大手サシプラジム、そして日本人ファイター中村とインド人ファイターのアリを擁するジッティジムがカオプリック刑務所に選手を送り込んだ。
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カオプリック刑務所は、ナコンラーチャシーマーのラムタコンダム湖を通る国道・ミトラパープ通りから脇道に入り、何もない山道を車で30分ほど進んだ中にある。バンコクやコラートの市街から比べると地の果てのような場所で、まさに刑務所にふさわしい立地ともいえる。
出場した外国人ファイターはバンコクで練習しているものが多く、各チームが用意したバンなどでの会場入りだが、バンコクから片道4時間と、この刑務所までやってくるだけでもなかなかの距離である。
ファイターは、試合の前々日に現地入りして刑務所近くのバンガロー、パームロッジにて宿泊するが、バンガローは地の果て、山の中で、その近くには商店もコンビニもない。
前日には刑務所内で計量が行われたが、ファイターの中には、何重もの鉄格子の扉をくぐって刑務所の中に入ったその時点で、その雰囲気に圧倒されてしまったものもいるという。
囚人ファイターたちは圧倒的なホームでの戦いであるが、外国人ファイターたちにとっては超アウェイで、初めから大きなハンデが背負わされていると言える。
イベントの開始時間も当初の13時から、16時、18時と直前まで情報が錯綜し、選手たちは落ち着かない。当日になって、ようやく試合開始時間が16時からと明白となり、選手たちは前日計量に続いて再び刑務所内に入場する。
携帯電話、現金など、各自の殆んどの持ち物は刑務所の入口でロッカーに預けるとこになる。2時間ほどの準備時間の後、イベントが開始の運びとなった。
屋外の運動場に設置されたリングの周りに簡単な客席が設けられた。囚人ファイター側の赤コーナーには、ムエタイの更生プログラム参加者など受刑者約100名が応援団として動員されている。
受刑者の更生活動のPRの為か、駐タイ英国大使、在タイオーストラリア領事館上級幹部、ナコンラチャシマ県スポーツ協会の会長などがVIP席に陣取り、何人かが開始前にリング上で挨拶するセレモニーもあった。
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ウェルター級のドイツ人ファイター・アレックスと囚人ファイター・デットの試合からリアル・プリズンファイトが開始された。ちょうど刑務所の職員の交代の時間のようで、仕事を終えた刑務官が制服姿のまま、どんどん集まってきて、立ち見で声援を送る。
全10試合は、それぞれ3回戦で行われたが、一試合目から熱量が異様に高かった。囚人応援団に刑務官の声援が囚人ファイターを後押しする。外国人側はセコンドなどチームのメンバーのみ、または選手同士が声援を送る。
一見、異様な雰囲気の中だが、リングで行われているのは通常のムエタイと変わりはない。囚人ファイターはプロ外国人選手と比べても見劣りしない、高いレベルにあり、ドイツ人ファイター・アレックスは健闘するも判定で敗れた。
続く二試合目に登場したインド人ファイター・アリは、被弾して弱気な表情となったところを攻め込まれ、囚人ファイター・サンリウムからパンチ、ローキックで3度のダウンを取られてKO負け。
三試合目もネパール人ファイター・バルムが判定負けと外国人ファイターの負けが続く。囚人ファイターは全身にタトゥーが入っているものが多い。
中でもイラン人ファイター・マジドと対戦したペットは首や顔までタトゥーが入り、アメリカのプロボクサーで映画クリードにも出演した、ガブリエル・ロサドを彷彿させる。
マジドは、ガツガツ前に出てパンチを振り回すファイターで、彼もKO勝ちを飾った。判定もやや囚人側寄りの印象で、結局、中村慎之介が登場する8試合目まで、囚人側の6対1と外国人側を圧倒していた。
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中村は、2月のクラビのワンデートーナメント初戦で惜しい星を落としてからの再起戦。登場する際は、イベント開始から3時間が経過していた。
対戦相手のパンサックは、詳しいプロフィールは公開されていないが、熟練のムエタイ選手に見える。歳は30代も後半というところ。
ベテランらしく駆け引きがうまく、老獪に立ち回る。それほど激しい攻撃は見せていないが、初回はパンサックがやや取ったか。
続く2ラウンドは、中村がパンチ、ヒジ、ヒザで激しい攻撃を見せ、クリーンヒットも奪う。ダウンを取るまであと一歩というところだが、このラウンドは中村が確実に取った。
最終回の第3ラウンド、このまま中村が押し切るかと思ったが、パンサックのごまかしになかなか攻めきれず、互角のまま試合終了。中村勝利か、引き分けか、という戦いだったが、判定はパンサック。
イベント10試合を通じて観戦したが、3ラウンドの戦いで、1ラウンド分の1ポイントは囚人側に有利な判定という印象を受けた。
結局、囚人側が8勝2敗と大きく勝ち越した。中村対パンサック戦は、ベストファイト賞には選ばれなかったが、準ベストファイトということで、表彰され、賞金も獲得した。
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写真は報道機関に提供された、囚人ファイターの顔にモザイクが掛かったもののみ使用が可能で、写真でイベントの様子を見てもらえないのは残念なところ。
著者自身、中村選手のチームの一員として同行させてもらい貴重な経験をさせて頂いた。中村選手並び、ジッティジム関係者にお礼を言いたい。
今回のリアル・プリズンファイトへの潜入について、今回の記事では紹介しきれないエピソードがあるので、後日、実録レポートとしてまとめて、noteにて再度公開する予定。
実録レポートも、また読んで頂けると嬉しいです😄
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