パントーが再戦でも石井一成を下す。 吉成名高、クンスクレックの王座戦~ 2024年7月14日のRWS JAPAN
RWS(ラジャダムヌン・ワールドシリーズ)では、日本での興行・RWS JAPANを今年2月から開始しているが、この7月14日にも第3回大会を千葉市のチップスタードームチバで開催した。
当日はメインイベント、セミファイナルとして、スーパーフライ級王者吉成名高、バンタム級王者クンスクレック・ブーンデクシアン出場の、ラジャダムヌンスタジアム認定タイトルマッチが二試合行われた。タイトルマッチの前にはラジャダムヌンのランカー対決として、石井一成対パントー・ポー・ラクブーンの再戦が組まれた。
著者は、昨年10月に行われた石井対パントー第一戦をラジャダムヌンスタジアムで現地観戦していたこともあって、石井対パントーの再戦を個人的に注目しており、今回はこの試合を中心にRWS JAPAN第3回大会の取り上げてみたい。(タイからYoutube等での観戦)
石井一成対パントー・ポー・ラクブーン
石井一成はイッセイ・ウォーワンチャイの名でも活動し、TRUE4U・112ポンド王座、IBFムエタイ世界フライ級王座、WBCムエタイ世界スーパーフライ級王座などを獲得してきた25歳で、これまで45勝15敗4分の戦績を誇る。ジュニア時代からタイでも30戦以上のキャリアを積んできた。昨年からラジャでのRWSは4戦して、3勝1敗、アグレッシブなスタイルで、元ラジャダムヌン王者のジェイジェイ・オー・ピモンシー(JJ)に右ストレートで失神KO勝ちした星が光る。プロボクシングで世界タイトルマッチ出場経験もあるエカタワンにもパンチで打ち勝って初回KO勝ちを収めた。
一方のパントー、リングネームである「パントー」とはタイ語で鉈(ナタ)のこと。パントーはウボンラチャタニ―県出身の元ラジャダムヌンスタジアム認定バンタム級王者で、名前通り鉈のようなパンチやヒジで相手を切り倒すこともある。戦績はこれまで、82勝24敗3分の26歳。この二人の第一戦(三回戦)、石井は右ストレートで初回ダウンを奪われながら、猛攻でパントーに反撃を続け、好勝負を演じた。
パントーは石井第一戦後には、今年3月にクマンドーイ・ペットインディアカデミーとバンタム級王座を賭けて対戦し、これに敗退している。王者となったクマンドーイはクンスクレックに敗れて王座を失った。そしてクンスクレックは、この日、松田龍聖と防衛戦を行った。松田はムエタイ初挑戦の前戦(RWS JAPAN 2)で石井一成とドロー、パントーは昨年9月にクンスクレックと対戦し、判定負け。この辺りの選手、石井、パントー、クンスクレック、クマンドーイ、松田とそれぞれ対戦し、入り乱れている状況だ。
そしてパントーは、ここ三試合はクマンドーイ戦を含めて、いずれも判定負けで連敗を喫しているものの、現在は1階級下げてラジャダムンスタジアムのスーパーフライ級14位にランクされている。一方の石井はバンタム級14位、今回のパントーとの再戦はスーパーフライ級+1ポンドの116ポンド。ランカー同士のサバイバルマッチとも言える。
試合(3回戦)が開始されると、初の海外の試合というパントーだが、1ラウンドの動きを見ても緊張はあまり見られない。前回で自信を持ったのか、よりアグレッシブに攻撃を仕掛けてくる。石井はパントーの動きを観ながら、慎重になっている印象。採点は、結果的にはより的確な攻撃となっていた石井が2者(10-9)、パントーが1者(10-9)と分かれた。
2ラウンド、採点の影響か、パントーがパンチをまとめ、攻撃の圧力を増す。距離が離れたところで、飛び込んでの左ヒザが石井のアゴを捉えてダウンを奪う。立ち上がり、試合が続行となるがダメージが抜けていないように見える石井、パントーは攻め急がず、時折タイミングの良いワンツーを放つ。逆に石井の猛攻に合い、良いパンチももらいそうになる。しかし、パントーはカウンターを狙っていた様子で、石井の攻め込んだところに、カウンターの右ヒジで一撃で2度目のダウンを奪う。パントーは前戦に増して怖さを見せつける。2ラウンドに3ポイント(パントー10-7)を失った石井は、3ラウンドはKOを狙うしかない。しかし攻めきれず、今回もダウンを奪われての判定負けとなった。
ランカー対決を制したパントーは試合後のインタビューで「石井は1回目、2回目とも悪くなかった。良い選手です。でも私のほうがもっと良い」と語っていた。
クンスクレック・ブーンデクシアン対松田龍聖
石井対パントー戦に続いてのセミファイナルではラジャダムヌンスタジアム認定のバンタム級タイトルマッチが行われた。バンタム級王者クンスクレックは、松田に2ラウンドにパンチでKO負けを喰らい王座を失った。
クンスクレックはこれまで41連勝を記録しており、タイからも圧倒的有利の予想だったが、新鋭にまさかの王座交代を許す形となった。ラジャ王座を獲得したクマンドーイ戦、スーパーバンタム級王者ペットサイアムとの対決を制して、今年のMVPの声もあっただけにその敗戦は意外。初の海外での試合だったこと、外国人選手との対戦経験が少ないこと、松田のようなキックボクシングのリズムに慣れていなかったことも敗因だろう。
クンスクレックはタイに戻り「次は負けない。ベルトは返してもらう」と松田との再戦にやる気を見せている。クマンドーイを始め、他のバンタム級強豪と松田との対戦も興味深い。
吉成名高対ジョムホード・シットルアンピーナムフォン
この日のRWS JAPANはタイではRWSの公式Youtubeや、Facebookページから生中継された。通常、土曜の夜にラジャダムヌンスタジアムで行われているRWSにおいても、地上波テレビやYoutubeで無料公開され、それに沿った様子だ。
著者はこの日は本業があり、工場の屋外の仮テントでスマホ画面にて、一部の試合を観戦した。メインイベントについては同僚のタイ人のスタッフと共に観戦した。この3人のタイ人スタッフ(いずれも30代男性)に、吉成、ジョムホード、クンスクレックを知っているか聞いたところ、3人共知っていた選手は古豪ジョムホードだけだった。吉成、クンスクレックは、ライトなムエタイファンである1人が知っていた。
ジョムホードはかつて、地上波7チャンネルのムエタイによく出ていたことからもタイの一般層に認知度が高いという。試合については、第3ラウンド終盤に吉成は左ボディストレート、右フック、左ヒザのコンビネーションからの右ヒジをジョムホードの左アゴに決めてダウンを奪う。
吉成の攻撃力に一緒に観戦していた同僚たちは、2ラウンドあたりから、もうジョムホードは充分だと、勝負あったと白旗を上げていた。吉成は最終5ラウンドは流した形だが、完璧な試合ぶりで圧巻と言える内容だった。
石井とのランカー対決を制したパントーが狙うスーパーフライ級のベルトは、現在吉成が所持している。ジョムホードを完封した吉成に、パントーの「鉈」が届くのかどうかも見てみたい。吉成対パントーのスーパーフライ級タイトルマッチも充分にあり得るカードである。
この日のRWS JAPANは伊藤紗弥、奥脇竜哉、品川朝陽、吉成士門など、日本のムエタイ選手のトップが揃って出場し、タイ側も元K-1王者のパヤーフォン・バンチャメークも出場するなど、超豪華なイベントとなった。次回のRWS JAPANについては、日本に帰国しての生観戦も検討したいところである。
※RWSのFacebook生中継、後日YoutubeのRWSチャンネルでの観戦。
写真はRWSのYoutubeチャンネルより。
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