ブアカーオ対城戸康裕、石井一成対JJ~2023年9月9日のラジャダムヌン(RWS)
9月9日に行われたRWS(ラジャダムヌンワールドシリーズ)では、メインイベントとして、ブアカーオ・バンチャメック対城戸康裕戦が組まれ、当日はスーパーウェルター級トーナメント準決勝と合わせて豪華なカード編成となった。
主催者側は、日本や世界に向けて”RWS”を発信するチャンスとして、開催まで10日を切ったタイミングで、日本人ファイターが絡むカードを三つ追加したと発表した。事前発表のメインイベントのブアカーオ対城戸戦の他、吉成名高(ナダカ・エイワスポーツジム)、伊藤紗弥、石井一成(イッセイ・ウォー・ワンチャイ)が追加となった。日本から来タイした四選手は、この日いずれも3回戦(男子は3分3ラウンド、女子は2分3ラウンド)を戦った。
会場のラジャダムヌンスタジアムには日本からの観戦者や、現地在住の日本人も会場に多く見られたが、そのなかでも、お揃いの黒い応援シャツを着た石井一成の応援団が観客席の一角を占めて、かなり目立つ存在だった。
応援団の声援を一身に受けた石井一成は、元ラジャダムヌンスタジアムバンタム級王者のジェイジェイ・オー・ピモンシー(JJ)と対戦した。初回にポイントを失った一成だが、2回に逆転のKO勝ちを飾った。
JJは主催者発表では35勝5敗2分の戦績だが、ネットでは70戦以上の経験(50勝9敗2分のデータもあり)と紹介されている、ピサヌローク出身の21歳。
この5月にはラジャダムヌンバンタム級王座決定戦に出場したものの、パンコ―・ポー・ラクブンに判定負けで王座を逃し、今回が再起戦となる。
対する一成は41勝13敗2分で、TRUE4U・112ポンド王座を獲得するなど、タイでの経験も豊富な25歳。急遽追加されたカードとはいえ、一成にとっては元ラジャダムヌン王者が対戦相手と緊張感のある試合となった。
初回、JJ は右ミドルキックを連続で放ち、効いてはいないものの、一成は何発かを被弾してしまう。一成側は、パンチを中心に前に出てJJを襲うという展開で、互角のように見えたが、ジャッジは3人ともJJの10-9とつけた。(RWSでは毎ラウンド採点が公開される)
このままミドルとリングワークで一成が抑え込まれる展開が予想される中で、2回、両者ともより積極的な攻撃を見せる中で、一成の左ストレートをJJがかわすも、矢継ぎ早に放たれた右フックは、まともにJJの顎をとらえる。
さらにもう一度右フックをくらって、JJは腰からキャンバスに落ちた後、仰向けに倒れた。レフェリーは即ストップ、一成は強烈な逆転KO勝ちを観客に見せつけた。失神したJJは、すぐに意識を取り戻したが、担架で運ばれた。
そして、この日ラジャダムヌン初出場となった、伊藤紗弥は体格で上回るモンクンペット・キャットカセームに判定負け。微妙だった初回を3人のジャッジが10-9と採点し、そのままモンクンペットに逃げ切られた印象。吉成名高はラオス人選手のソーリカシー・マドランチャラを相手に初回速攻のKO勝ちを収めた。名高は現ラジャダムヌン王者としての余裕を感じさせた。
日本人三連戦の後は、スーパーウェルター級トーナメント準決勝など3試合をはさんで、この日のメイン、ブアカーオ対城戸が開始となる。
元々、70キロ契約だったこの試合、ブアカーオの体調不良により、3キロ重い73キロに契約体重を変更したという驚きの発表もあった。昨年からのラジャでのブアカーオ対日本人のシリーズも、これで三戦目となる。(以下は日本人シリーズ一戦目、二戦目を扱った過去記事)
これまでの三浦孝太戦、佐藤嘉洋戦のエキシビジョンマッチとは異なり、この試合は、キックボクシングルールの公式戦とされた。城戸はブアカーオへの一発を狙って、しっかり仕上げてきて、面白い試合になるだろうと事前の評判だった。
ブアカーオは、11月4日には同じくムエタイのレジェンド選手で盟友のセーンチャイ・PKセーンチャイムエタイジムとのベアナックルボクシングのイベント、BKFCでのベアナックル・ムエタイ対決、来年早々にはマニー・パッキャオとのボクシングでの対戦と2つのビッグマッチが控えている中で、目の前の試合には集中できずに、気を抜いてくるのではないかという見方が多かった。
ブアカーオの入場は、もはや伝統芸能とも言える。この入場で、ブアカーオの入場曲、タイの有名ロックバンド、カラバオのバーンラチャンワンペン(บางระจันวันเพ็ญ)が流れ始めると会場が揺れるほどの声援が飛び交う。
タイのどこの試合会場でも、ブアカーオが入場する際は同じパターンで対戦相手は、ここでまず威圧される。額に入った現国王、前国王の2ショットの写真を掲げ、リングにあがるブアカーオ陣営。試合がなくてもこの入場だけでも食っていけるような気がする。
城戸の2倍以上の時間を掛けての入場、リングで上でも四方向の観客に右手を掲げてPRする。
肝心の試合は、ブアカーオのパンチの回転もよく、城戸を寄せ付けない。初回の終盤にはパンチのクリーンヒットを何発か城戸の顔面に入れ、城戸を腰砕けにして、ダウン寸前に陥れた。
2回は城戸も持ち直すが、ブアカーオの優勢が続く。このまま3ラウンドを戦い抜けば、ブアカーオの勝利は間違いなく、城戸は打開策はないままという印象を受けた。
そして3回、バッティングで額が割れた城戸、おびたたしい出血にレフェリーは試合を即ストップし、ドクターに判断を委ねたが、ドクターは続行を許さず、試合終了。無効試合(ノーコンテスト)の裁定となった。
消化不良の結果だが、ブアカーオ、城戸の両者は揃って観客に手をあげて何やらPR(激闘をPRかファンサービスのつもりか)していた。
リング上インタビューでは、城戸が「頭がパカーンと割れた」と会場の雰囲気を和ませるようなコメントをしてみるも、通訳を通じてもタイ人や外国人観衆には伝わりにくく、反応はあまりなかった。
続いてのブアカーオのインタビューだが、自身でマイクを持ち、独演会のようだった。内容は以下の通り。
ーーーブアカーオ
まず、ひとつ、会場の皆さんに言いたいことがあります。本当は、もう今日はリングに上がることができない、ギリギリのところまでいきました。
試合の直前に私は病気をしてしまいました。身体にも力が入らず、どうしたらいいか分からず、RWSに相談しました。
私の試合がメインイベントで、試合のキャンセルはできなかった。チーム・ブアカーオのみんな、RWS、有難うございました。お陰様で、今日、こうして試合をすることができました。
皆さん、申し訳ありませんでした。本当ならば、今日の試合でもっと蹴りたかった、、でも体調不良で、私の足は歩くのもきつかったです。
ーーーインタビュアー
ブアカーオさんは、どうしてラジャでの試合では、対戦相手に日本人のファイターばかりを選びますか?
ーーーブアカーオ
それは日本人が戦う心を持っているから(戦う人だから)ですよ。
そう、昨夜も今日の試合、どうしたらいいか悩みました。やめるか、リングにあがるか、悩みました。でも、今日は私の戦う気持ちを皆さんに見せることができたと思います。(質問から脱線して独演)
本当に今日は申し訳ありませんでした。今日の試合を観られた方が「ブアカーオはもう力が落ちた」と思っても仕方がない。
もっと試合で蹴りまくって、私らしい姿を見せたかった。最後にもう一度お礼を言います。今日はみなさん応援して下さり、ありがとうございました。
インタビューでは全く、対戦相手の城戸について触れなかったブアカーオ、はたして城戸との再戦は組まれるかなども気になるところであるが、すでに41歳で、第一戦を退いた感もある。エキシビジョンマッチなどを繰り返す姿は、ボクシングのフロイド・メイウェザージュニアとも被る。セーンチャイ、ブアカーオとのレジェンド対決も、”ビッグマッチ”であるが、それぞれが40代と過去の選手同士の試合という印象が強い。
現地のムエタイファンには、タイ人対日本人の対決としてはこの前日、9月8日にルンピニースタジアムで行われたOne Friday Night 32 での、スーブラック・トープラン49対鈴木真治戦のほうが話題となっていた。(スーブラックの2回KO勝ち)
そして、この日のRWSでもセミファイナルのスーパーウェルター級トーナメントが注目を集めており、決勝進出本命のダニエル・ロドリゲス、セーンモラコット・ペットインディーアカデミーの両者が姿を消したことが、各メディアやSNSでも多く取り上げられていた。(セミファイナルの模様は、近日中に別記事で紹介します。)
※ラジャダムヌンスタジアムで現地観戦、写真は著者撮影のものとRWSのYoutubeから。
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