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クンスクレックが熱戦を制して王座返り咲き~2024年9月21日のRWS
9月21日にバンコクのラジャダムヌンスタジアムで行われたRWS(ラジャダムヌン・ワールドシリーズ)興行において、同スタジアム認定のバンタム級タイトルマッチが行われ、挑戦者の前王者、クンスクレック・ブーンデクシアンが王者の松田龍聖に5回判定勝ちし、王座返り咲きを果たした。
今年6月に日本でのRWS JAPANで行われたバンタム級タイトルマッチにおいて、松田が41連勝中のクンスクレックを番狂わせの2回KOで下し、タイトルを強奪していたが、僅か3か月のインタバールで場所と立場を入れ替えての再戦が組まれた。
松田対クンスクレック再戦はRWSの「スーパーファイト」としての取り扱いとされた。「スーパーファイト」では、勝者はファイトマネーとは別に50万バーツ、KO勝ちの賞金は50万バーツ、熱戦には両者に25万バーツのボーナスが提供されている。クンスクレックがバンタム級王座に就いたクマンドーイ・ペットインディーアカデミー戦、スーパーバンタム級王者との対決となったペットサヤーム・チョー・パリーヤー戦も「スーパーファイト」の扱いで、クンスクレック陣営は、ペットサイアム戦では100万バーツのボーナスを得ていた。
「スーパーファイト」は主に著名選手同士のタイトルマッチで採用され、クンスクレックはそのファイトの常連でもあり、ムエタイ界の次世代のヒーローとしての期待も大きい。
クンスクレックはタイの東北部、コンケーン県の出身で、双子の弟のクンスックノーイもラジャのランカーである。それだけに、日本での松田戦でのまさかの敗北は、タイの関係者やファンを驚かせた。松田はキックボクシングも含めたプロ戦績は12勝1分、ムエタイルールの試合は初戦がRWS JAPANでの石井一成戦のドロー、クンスクレック戦のKO勝ちは、ムエタイルールでの2戦目だった。
松田対クンスクレック再戦のこの日は、2024年のRWSトーナメントの男子フェザー級、女子バンタム級の試合も組み込まれる豪華プログラムが用意され、スタジアムは外国人観光客も多いが、満員となっていた。青コーナー側の3階席にはクンスクレックの応援団が陣取って声援を送り、会場全体の盛り上がりに繋がった。主催者側からは観客にクンスクレックと松田の応援ウチワが配られた。
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リングイン、ワイクルー、選手コール、それぞれが、RWSでもめったにみない盛り上がり方で、タイトルマッチの前に組まれたフェザー級トーナメントの好試合(チャイラー対スラサックなど)が霞むほど。松田はリング上で自信に満ち溢れた顔を見せた。「負ける気がしない」、「クンスクレック選手、次も必ず倒すので、覚悟しておいてください」と試合前にも発言していた。一方のクンスクレックは松田に比べて一見気弱な印象を受ける。まだ19歳のクンスクレック、不安がその顔に正直に出ているように思えた。
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クンスクレックの頼りなさげなげな表情を見ると、また松田のパンチでKOされるのでは、と不安を覚える。クンスクレックはこれまでに82勝9敗2分と90戦以上の戦績を誇るが、パンチ主体のキックボクサーは苦手の様子だ。
そして、試合が始まると松田のパンチを浅いながらもらうシーンがあり、緊迫した初回の展開だった。クンスクレックは近距離からのヒジ攻撃も見せて、逆に松田を一撃で倒すことも可能と思わせる。ローキックやミドルキック、前蹴りを効果的に使って松田の前進を止める。ジャッジは3名ともこのラウンド10‐9でクンスクレックを支持した。
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初回の攻防については、松田のパンチ13発に対して、クンスクレックは3発、ヒジは松田がゼロ、クンスクレックは5発、キックは松田が10でクンスクレックは17発とデータが発表されていた。
2回は中盤に松田のワンツーがクンスクレックの顔面を捕らえる。首相撲からのヒザ、ヒジで松田へ対抗し、ゴングが鳴ると両手を広げてコーナーに戻り、安堵の表情を見せた。松田への対応方法はもう掴んだというように。
3回まで進むと、クンスクレックは松田の攻撃に慣れ、余裕が見える。このあたりで、6月の日本でのKO負けの悪夢を払拭したのかもしれない。松田も攻撃の手を休めず、バックハンドブローなども見せるが、クンスクレックの首相撲、ヒザ攻撃が効果的。顔面への前蹴り、ヒジ攻撃が松田を襲った。2回、3回もジャッジは3者ともクンスクレックを支持。
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終盤になるとクンスクレック首相撲からのヒジ、ヒザ攻撃でやや一方的になるも、松田は堪える。クンスクレックのハイキックが松田を捉えるシーンも見られる。そして、クンスクレックは勝利を確信し、4回、5回は流し気味で試合をコントロールしている様子。
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試合終了ゴングが鳴ると青コーナーに駆け上がって勝利を応援団にアピールするクンスクレック、ポイントはジャッジ3者とも50‐45で、完勝で松田にリベンジを果たし、3か月前に日本で失った王座を取り戻した
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リング上では勝利者インタビューが行われたが、内容は次の通り。「おめでとうクンスクレック、チャンピオンに返り咲いて、50万バーツのボーナスも得た。今はどう感じていますか。(インタビュアー)」「チャンプに返り咲くことができて非常に嬉しいことです。今回は勝つことに集中しました。防御については細心の注意を払いました(クンスクレック)」。
インタビュアーは最後に前王者となった松田を呼び戻し、特別ボーナス25万バーツがクンスクレックと松田の両者に送られることを二人に告げた。クンスクレックは合計75万バーツのボーナス獲得となった。クンスクレックの次戦は誰が相手となるかは、タイのファンの話題にもなっている。ラジャダムヌンスタジアム認定スーパーフライ級王者の吉成名高との対戦もファンに期待される。また前王者となった松田の巻き返しにも期待したい。
1960年代に、プロボクシングの世界フライ級チャンピオンだったポーン・キングピッチは、日本で王座を2回失ったが、2回ともタイでのダイレクトリマッチで王座を取り戻した。1度目はファイティング原田、2度目は海老原博幸が相手で、このうち、海老原戦はラジャダムヌンスタジアムで行われたようだ。(1964年1月23日)今回のクンスクレックの王座奪還は、海老原対ポーン戦を彷彿させるようでもあった。
※ラジャダムヌンスタジアムで現地観戦、写真は著者撮影のもの。
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↓ ↓ 松田対クンスクレック2のハイライト動画(タイ以外の国で視聴制限がかかる可能性あり)
↓ ↓ 松田対クンスクレック2のフルファイト動画(タイ以外の国で視聴制限がかかる可能性あり)