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【映画感想文】すばらしき世界 西川美和監督 ※ネタバレあります!

こんにちは。

西川美和監督作品が好きでほとんど全部見ているのですが、今回は監督初の原案小説ありの映画ということで観てきました。

俳優陣も最高の布陣で、一つ一つのシーンがグッときて、すごく印象的な言葉も多くて、映画中ずっと何かを考えていました。
人生とは、社会で生きるってなんだろう、普通に生きることができる人ほど、観たらいい映画なのではないかと思います。

以下、思いっきりネタバレを含む感想になりますので、ご注意ください!
そしてすごい長いです!!!

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物語は、殺人事件を起こして13年の刑期を終えた主人公・三上(役所広司さん)が刑務所を出所するところから始まります。

身元引き受け人の庄司(橋爪功さん)の力を借りながら、なんとか自立を目指し堅気の人間として、社会に取り残されまいともがく日々が続きます。

そんな中、私生児であった三上は、母親を探すために力を貸して欲しいとテレビ局の人間に自身の身分帳を送ります。
それをきっかけにテレビマンである津乃田(仲野太賀さん)と吉澤(長澤まさみさん)出会います。

初めは津乃田も吉澤も彼の人生を「社会に取り残された人間がすごしずつ更生しようともがきながら、母親を探す」というドキュメンタリーとしてうまく利用するつもりでした。

津乃田は三上に密着し、カメラを回し、少しずつ彼のことを知ってきます。
その中で、二人とも少しずつ、でも確実に変わっていきます。

人生の大半(殺人以外にも少年時代から犯罪を繰り返しており、28年間刑務所で過ごしている)を刑務所で過ごした男が、傷ついてもがいて苦しみ、人の助けや自分の心と戦いながら、再出発を目指す姿を描いています。

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役者さんについては、もうまずシンプルに役所広司さんがすごい。
主人公が福岡の出身なのでゴリゴリの福岡弁なんですが、なんの違和感もない福岡弁でびっくりしました。(当方地元が福岡です)
あと、役所広司さん感がなくて、本当に三上という人間にしか見えなかった。

脇を固める北村有起哉さんも六角さんも最高でした〜〜

北村有起哉さんは区のケースワーカーの役なんですが、神経質そうな感じとかちょっとこう地味な感じとか、自然すぎて一瞬気づかないくらいでした。

六角さんはスーパーの店長さんの役です。
ひょんなことから三上と仲良くなるんですが、三上さんがとにかく短気なのですぐ頭に血が上って酷い言葉を吐いたりしちゃうんですね。
それでも三上さんのことをずっと心配していて見守って声をかけて、三上さんが無事に就職決まった時にはお金も貸してあげちゃうんですよ。
就職決まったって話をした時に「本当に?よかったじゃない」とめちゃくちゃ笑う六角さんの笑顔がまだ忘れられない。本当によかったねって思ってる人の顔だった。
最高の役でした。

あと仲野太賀くんすごい。
津乃田(仲野太賀さん)は小説家になりたくてテレビ業界をやめて独立したけど、生活に困ってて三上さんのドキュメンタリーをとるっていう話に乗ったんですけど、だんだんと変わっていって、結局最終的には「僕が三上さんの話を書きますから、どうか戻らないで(暴力団員の世界に)」っていう約束をしたんです。
でも最後ね、持病で三上さん小さなアパートの一室で一人で亡くなってしまうんです。
そのとき、津乃田がめちゃくちゃ取り乱すんですけど、そのシーンがえぐかった。涙全部持って行かれた。

泣いて取り乱しながら「困るんですよ」って何回か言ってて、
小説もまだ書き終わってないのに、これからまだまだいろんな三上さんを知りたかったのに、これから再出発っていう時だったのに、せっかく仲良くなれたのに、
どの気持ちなんだろう、全部なのかなって思わせられました。すごく切なかった。

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そして印象に残る言葉とシーンの多い映画でした。

1個目は、キムラ緑子さん(昔お世話になってた組長の奥さん)が、三上に対していった「シャバは我慢の連続。我慢に対する報酬もない。でも、空が広いと聞いてます。」という言葉。
自由って本当に難しいですよね。自由のためにたくさんの我慢をしないといけない。人に合わせたり、言いたいことを言わなかったり怒りを押し込めて悲しみをゴミ箱に捨てたり。
でも、それでも自由で空が広くて幸せな瞬間がある。だから、それを大切にしないといけないんだろうな。


2個目は、介護施設への就職が決まった三上に対して、身元引き受け人の庄司さんが伝えた言葉。
三上はまっすぐで正直すぎて全てを正面から受け取ってしまう。社会で生きていくには逃げることも勇気、必要なものだけ拾っていらないものは受け流さないとだめだ、意外とシャバの方がみんないい加減に生きてるんだ、みたいな言葉でした。(三上は正義感が強く、また悪意も何もかも全て真正面から受け取ってしまうのでめちゃくちゃ短気ですぐ激昂する傾向があります。)
彼のいってることは確実に正しくて本当にその通りだと思いました。
適当に合わせていい加減に相槌を打って、いろんなことを受け流して生きてる。
でもなんだか、純粋な子供に社会でのうまい生き方を教えているようで、少し切ないような気もしました。


3個目は印象に残ったシーンです。
介護施設に就職が決まった三上、その施設は障害者や前科者も積極的に採用している施設で、障害を抱えながらも楽しそうに働く、あべ君という青年もいました。三上は彼を可愛がっていましたが、他のスタッフは彼をよく思っておらず、ある日、あべ君に対して他のスタッフがいじめをしているところに出くわしてしまう。
今までの三上なら、モップを掴んで二人をすぐにでもめった打ちにしていました。
ただ、彼は「今度こそシャバで真っ当に生きる。」と決めている。
そして、「逃げるのも勇気」だという庄司の言葉。

彼は、その場を立ち去ることを選びました。

その後、スタッフが集まって会話をしている時に、先ほどあべ君をいじめていたスタッフがあべ君の悪口を言い始め、完全に彼をバカにしたモノマネを始めました。

「似てますよね?三上さん??」

そう聞かれた三上は、笑って答えます。

「ええ、似てますね」

そのあと、帰り道であべ君に会って、とびきりの笑顔でコスモスをもらった時の、三上さんの顔がとんでもなく悲しかった。
なんか、うまく生きていくことと引き換えに彼のとても大切なものを、無くしてしまったんじゃないかなという気がしました。

わたしも小学生の頃に、転校した先の学校で、いじめられている女の子がいました。
詳しい事情はわからなかったですがリーダー格の女子グループが彼女を、汚い、といっていじめていたようで、ある日私が水道を使おうとした時に、

「おだんごちゃん、さっきその水道XX(いじめられていた子)が使ってたけど大丈夫?」とニヤニヤしながら聞いてきました。

その時、今の私ならきっと言えたであろう「え、だから何?」が、全然言えなかった。

一瞬の間に「転校したばっかりでうまいことやらなくちゃ」「この人たちに嫌われたら次は私かもしれない」そんな思いが巡って、

「わー、じゃあ使うのやめなくちゃ!」

といってしまった自分がいました。

20年以上立った今でも、自分がきてた服も、いった場所も、その時の彼女たちの嫌な顔も、全部鮮明に覚えています。
自分が、何かを確実に失った瞬間でした。

その時の私にとっては転校先でうまくやっていくことが大切だったし、三上にとってはシャバで真っ当に生きてやり直すことが大切だったし、仕方のないことだったのかもしれない。
ただ、こうやって、自分の心の中にある何かを少しずつ失って削っていかないと生きていけないのが社会なら、悲しすぎるなと思った。

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映画では最後、あべ君にもらったコスモスを掴んだまま彼は息を引き取ります。
どうか、彼にとって大切なものは失ってないまま、息を引き取ったのであれば良いと願いました。

どうして彼はせっかく再出発をした矢先に、映画の最後で彼は死なないといけなかったのかをずっと考えてました。
映画の中で何度も「人を殺したことを反省してるか?罪の意識はあるか?」と三上が問われるシーンがあります。
でも彼は基本的には仕方なのないことだと思っていて、判決も不服、反省はしていません。
それでも一人の尊い命を奪ったことに変わりはない。
その死んだ人間がいきていたら、三上のように優しい人たちと出会ってやり直すチャンスがあったかもしれない。でも三上がそれを摘んだ。
だから、彼はやっぱり死なないといけなかったのかなと思いました。

バナナフィッシュのアッシュを思い出したよ。
アッシュも、どんなに彼がかわいそうな生い立ちでも、たくさんの人を傷つけて殺してきたから、最後死なないといけなかったんですよね。

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超長くなりましたが、本当にいい映画でした。

罪を犯しても理解してそばにいてくれる人がいて、やはり社会で生きていくにはいろんな繋がりが必要。

原作は読んだことないのですが、こんなにも社会と人間についてあらゆる面からあらゆる感情を描いている作品はそうそうないのではないかと思いました。

ぜひ観て欲しいです!

それではまた。



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