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【映画感想文】ラスト・フル・メジャー 彼はその時、一筋の光だった

こんにちは。

ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実をみてきました。

ベトナム戦争の英雄であるウィリアム・H・ピッツェンバーガーについての実話を元にした作品です。

LAST FULL MEASUREというのは、リンカーンの有名な演説から取ってこられた一節だそうです。最後の全力を尽くして、と日本語訳されていました。

とても良い映画でした。前提知識がないので最初の方はちょっと辛かったというか、あれあんまり面白くないかも、、?と思ってしまったんですが、途中からものすごい引き込まれていきました。終わり方も映画らしくてよかった。

!ここから先はネタバレを含みますので未鑑賞の方はご注意ください!


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物語は、主人公ハフマン(国防総省空軍省の人)の元を、退役軍人のタリーが訪れるところから始まります。

彼は、ベトナム戦争で自らの命を顧みずに多くの命を救い戦死した戦友であるピッツェンバーガーに、なぜ最高名誉である「名誉勲章」が与えられていないことに異議を唱えるため、面会に来たのです。

ハフマンは、なぜ30年以上も前に終わった戦争のことをいまさら、ほかの勲章が与えられているんだから構わないじゃないか、名誉勲章となんの違いあるのかと全く意に介しません。

しかし結局は長官命令でしぶしぶ再調査をすることになり、ハフマンは元軍人たちやピッツの家族など、彼を知る人物たちの元へ足を運び、新たな証言を得るために話を聞き出そうとします。

元軍人たちの口から紡ぎ出される戦争の生々しい記憶、後悔、自分への怒り、そして崇高なまでの他者への献身を見せた友人への畏怖の念。
彼らの証言を聞いていくうちに、ピッツという人間の勇敢で崇高な行動に心を動かされ、ハフマンも徐々に変わっていきます。

1966年4月11日、ピッツが命を落としたその日、その場所で一体何が起こったのか。
アメリカ空軍の落下傘救助隊の医療兵で、陸地で戦うはずのない彼が、なぜ歩兵師団と共に戦い命を落としたのか?

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1966年4月11日、「アビリーン作戦」が発動され、歩兵師団は戦地に降り立ちますが、そこにはすでに敵兵であるベトナム兵たちが身を潜めていました。
敵兵が身をひそめる戦地に、まんまと囮兵士として攻め込んでしまったようなもの。

歩兵師団は瞬く間に敵に包囲され、戦場は地獄と化します。
「デンジャー・クロース(隣接至近距離への砲弾)」が要請され、味方が味方を打ってしまう誤砲弾も発生し、さらに混乱を極めます。

そんな状況の中、空軍落下傘救助隊も救助に向かいます。
囮にされた兵士たちが次々と倒れるまさに激戦である状況が上空からでも確認できる中、ピッツは、ヘリから地上へ降りて兵士たちを救護をするといいます。
戦地の状況を見る限り、地上に降りるのは自ら死ににいくようなもの。
空軍の上官も止めますが、それでもピッツは地上へと降り立ちました。

そして次々と負傷した兵士の治療を行い、さらには戦線から飛び立つ最後のヘリに戻ることもせず、戦地にとどまり最前線で仲間の命を救い続け、最終的には頭に銃弾を受けて、命を落としました。

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多くの命を救った勇敢な行動でもあるにも関わらず、30年もの間、名誉勲章が与えられなかったことには理由がありました。
それでも、ピッツの戦友たちは30年もの間、彼に名誉勲章を与えるために戦い続けました。

最終的にはハフマンの尽力で名誉勲章が与えられることになり、ピッツの両親が招かれ勲章授与が行われるシーンがあるのですが、その時の長官の演説がめちゃくちゃよくて号泣した。

たった一人の人間がこれだけの人の心を動かしたんだと。

エンドロールで実際の元軍人の方達のインタビューみたいなものもあるので、ぜひエンドロールまでみたほうがいいと思います。

エンドロールが終わって画面が暗くなった時に胸がいっぱいになって、初めて映画館でうっかり拍手をしそうになりました。
そしたら後ろから拍手が聞こえてきて、すごく嬉しくて、一緒に大きく拍手をして出てきました。映画館マジで最高。

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なんかね、映画の中のピッツがとても美しいんですよ。
一人だけとても綺麗で、美しくて、凛としてるんです。

彼にはきっと信念があったんだろうなあと

その信念は決して揺らぐことはなくて、その信念があるから、怖くても逃げたくても、きっとその時はそれをすることが正しいんだと信じて疑わなかったんじゃないかなと思った。

なんだったかな、たしかハフマンが「なぜ息子さんを戦場へ?」みたいなことを彼の母親に聞いた時に、「結果を恐れずに、正しいことをするということを教え続けてきたから」って答えるシーンがあって。

命がたとえかかっていたとしても、結果を恐れずに、正しいことをする。

その、「ただしいこと」はきっと誰が決めるものではなくて自分の心が決めるもの。
彼は、その正しいことをするために、地上に残って仲間を救い、共に戦ったんだろう。

決して、自ら「死ぬこと」を選んだわけじゃない。「ただしいこと」をすることを選んだ。

戦争ののち退役し、世捨て人と呼ばれるようになった元第一歩兵師団のキーパーに会いにベトナムに行ったハフマンに、キーパーが言うんです。

ピッツが地上に舞い降りてきた時、天使のようだったと。

きっと、そのとき戦場にいた誰しもにとって、彼は間違いなく一筋の光だったんだろうと思いました。

これで助かる!とかそんな生易しいものではなくて、

信念を持って正しいことを行おうとする一人の男が、一筋の光になって全員のいのちにこころに、何かを刻んだんだろうなと思った。

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冒頭でハフマンに会いに行ったタリーも空軍の落下傘部隊にいました。

ピッツにヘリに戻るよう必死に伝えましたが、ピッツは戻ろうとはせず、むしろ危険から遠ざけるためにヘリを撤退させます。

タリーは、物語の終盤で、ピッツのように勇敢な行動を取れなかった自分を、地獄と化した地上へ降りず安全な場所にいられてよかったと安堵した自分を、恥じて苦しみ続けていました。

軽々しく口にできないくらいですが、帰還兵の苦悩って本当にとんでもないものなんだなと今になって思い知りました。
第一歩兵師団にいたビリーも、自身の失敗を後悔し続け、生き残ったけど終身刑みたいなものだと言っていました。

生き残ることは決して罪じゃない。勇敢じゃなかったわけじゃない。命をかけることだけがただしいことなわけじゃない。
ただ、そんなことをどんなに周りが言ったところできっと彼らの心の傷は癒えないし、救われることはない。

眩しすぎるほどの誰かの正しい行動は、時に人を苦しめることもある。

決してピッツの行動が直接人を苦しめてるわけじゃない。全員が彼を愛して彼に感謝をして尊敬をしている。
ただ時に素晴らしすぎる行動や人間は、光となって、人の後ろ暗い部分を浮き立たせてしまうこともある。

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わたしも、主人公のハフマンと同じように、正直に申し上げますと、
死んだ後に与えらえる名誉になんの意味があるんだろうと思っていました。

でも今回この映画を見て、残された人たちのためにあるものなのかもしれない、と思うようになりました。

彼が愛した家族や友人、恋人や戦友たち。
その人たちのためにあるものなんじゃないかなって思いました。

彼が人を愛したからこそ、名誉勲章が与えられた。
勲章が与えられたことで、彼の行動が報われる。
彼の行動が報われたことで、今ここに存在していることを自分で自分に許せる人たちがいる。
彼の死が正しくないものだとされてしまったら、無駄死にだとされてしまったら、その彼に救われた命はどうなるのか。

だからきっと、人を愛せる人のために、故人が愛した人たちのために、勲章は正しく与えられるべきものなだと思った。


また一つ、今まで考えもしなかったことを考える機会になりました。

それではまた。


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