#0108 社会性と経済性を両立している生協(COOP)という存在
皆さんは、生活協同組合(COOP)をご存じでしょうか。
先日参加したPOTLUCK FES 24 SPRINGにおいて、「共助の力で描く、これからのコモンズ社会」というテーマで、NPOミラツクの西村勇哉さん、えぞ財団の成田さん、campfireの家入さんの3名によるセッションで、社会性と経済性を両立できる組織ではないかということで生活協同組合(COOP)がフォーカスされました。
社会性と経済性を両立している生協の存在が、これからの縮小社会で行政や民間企業だけではカバーできないセミパブリック的な役割を担っていくのではないかと思いました。
生協とはなにか、株式会社との違いはなにか、これからの縮小社会において生協がどのような役割を担っていけるのかについて、コープさっぽろを中心にまとめたいと思います。(4098文字)
○生協とは
子供のころ、よく買い物で食料品を買いに行っていたので、スーパーのイメージが強いですが、日本における生協(生活協同組合)は、消費者の利益を守り、生活の質を向上させることを目的とした組織です。生協は組合員の出資により共同で食料品などを購入することで、コストを削減し、品質を保証することを目指しており、みんなでお金をだして共同購入して、みんなで作って売っていこうという精神から生まれました。なので、はじめから利用者目線なのが興味深いです。
原則と目的
共同購入: 組合員は食料品、日用品、衣類などを共同購入し、量販による割引や高品質な商品を手に入れることができます。
サービスの提供: 保険、福祉、教育、健康支援など、組合員の生活をサポートする多様なサービスを提供します。
地域社会への貢献: 地域の環境保全活動や社会福祉活動に積極的に参加し、地域社会の発展に貢献します。
組織形態
消費生活協同組合: 個人消費者が中心となり、生活用品の共同購入やサービスの提供を行います。
生産者協同組合: 生産者が中心となり、生産物の販売や生産技術の向上を目指します。
労働者協同組合: 労働者が中心となり、雇用の創出や労働条件の改善を目指します。
活動内容
食品の安全性と品質の確保: 安全で健康的な食品を提供するために、厳しい品質基準を設け、生産者と直接取引を行います。
環境保護: 環境に優しい商品の開発や販売、リサイクル活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。
教育活動: 消費者教育や環境教育など、メンバーの意識向上を図るための教育プログラムを提供します。
メンバーシップ
組合員になるには、出資が必要です。組合員になることで、商品の割引や様々なサービスを受けることができます。また、組合の運営に参加し、意思決定プロセスに声を上げることができます。
コープさっぽろの場合、1口1000円から組合員に加入することができます。
○生協の意思決定
生協の意思決定もとても興味深く、株式会社と似ているところもあれば、そうでないところもあります。
先述の通り、生協は組合員の生活向上に資することを目的としているのに対して、株式会社は株主の利益の最大化が目的です。利益分配の方法も、株式会社は配当で分配するのに対して、生協は値引きなどで還元します。
最も興味深いのは、「一人一票」の原則というものがあり、出資額、出資比率に関係なく、一人一票をもつという点です。セッションで成田さんが、今の理事長が気に入らないと思ったら、組合員のおばちゃんがまとまって反対票を投じればクビにできると仰っていましたが、マジョリティが意思決定に強い影響力を持つ株主総会とは大きく異なり、より民主主義に近いような意思決定方法だなと感じました。大株主なき大企業といった感じでしょうか。
コープにおける意思決定の仕組み
組合員総会: 最高意思決定機関。年に一度開催され、組合員が参加して組織の重要な方針や計画、予算などを決定します。また、理事や監事の選出も行われます。
理事会: 組合員総会で選出された理事によって構成される理事会は、日常の運営や組合員総会で決定された事項の実施を担当します。理事会は、組合の方針に基づいて具体的な運営方針や事業計画を策定し、実行します。
部門会議や委員会: 特定のテーマや課題に焦点を当てた部門会議や委員会が設けられることがあります。これらは、より専門的な議論を行い、理事会や組合員総会に提案を行う役割を持ちます。
組合員の参加: 生協は組合員の参加によって成り立っています。組合員は、総会への参加、アンケートへの回答、ボランティア活動、商品の選定やサービスの改善提案など、さまざまな形で組織の運営に参加することができます。
株式会社との類似点
所有権: 組合員と株主は、それぞれが加入している生活協同組合や株式会社の一部を所有しているという点で共通。
意思決定への参加: 組合員と株主は、総会などを通じて組織の重要な意思決定に参加し、投票権を行使できる。
利益の配分: 株式会社の場合、利益は株主に配当として分配されることがあります。生活協同組合では、余剰金の配分やサービスの提供を通じて、組合員に利益を還元することがある。
株式会社との相違点
目的: 生活協同組合の主な目的は、組合員の生活の質の向上と福祉の増進です。これに対して、株式会社の主な目的は、利益の最大化と株主価値の向上にあります。
利益の分配: 株式会社では利益が株主に配当として分配されますが、生活協同組合では利益を組合員に直接的な金銭的な形で還元することは少なく、サービスの向上や価格の削減などの形で還元されることが一般的です。
運営の原則: 生活協同組合は「一人一票」の原則に基づいて運営されることが多く、組合員一人ひとりの声が平等に扱われます。一方で、株式会社では持株比率に応じて投票権が異なり、影響力に差が出ることがあります。
このように、生活協同組合の組合員と株式会社の株主は、組織に対する所有権と影響力を持つ点で類似していますが、その目的、利益の分配方法、運営の原則において大きな違いがあります。
この違いが、社会性と経済性を両立できるかを分けているように思いました。
○利益=剰余
生協では、売上を供給、利益を剰余と呼ぶそうです。
私は、どのような気持ちで出されたお金なのかで、お金の使われ方が変わってくるのではないかと思いました。
株式会社の場合は、どれだけ利益を残すかという頭になりますが、生協の場合は組合員に供給してこれだけ余ってしまったよ。じゃあこの余ったお金を使ってより良いサービスを行えるように再投資しようとなる。むしろ株式会社よりも生協の方がお金を世に回しているのでは?とさえ感じます。
生協は組合員のためにある組織なので、この投資も組合員が生活するエリアで循環することになるのではないでしょうか。
多くの地方が東京などの都市部の企業に富が流出し、さらに相続によって地方銀行から都銀に金融資産も流出し始めています。このような状況が今後も地方において拡大していくことを考えると、生協が果たせる役割は、域外に富を流出させない、域内で資金を循環させるという金融の役割も果たせるのではないかと思いました。
○自治を取り戻す
意思決定方法のところで、大株主なき大企業という表現を用いましたが、コープさっぽろの場合、組合員が約200万人ということで、ほぼ北海道の人口とニアイコールです。成田さんも仰っていましたが、コープさっぽろは、実質、北海道共和国みたいな状態です。
組合員のためにをベースにコープさっぽろでは、一般的な小売から宅配サービス、灯油や電気などのエネルギー、フィナンシャルプランナー、子育て、福祉など様々なサービスを展開しています。
世界最大手のフィンランドコープ(売上高3兆円)やスペインのモンドラゴン協同組合は、インフラになっていて、大学進学や海外留学の支援、起業支援、まちづくりといった事業まで展開し、社会性を果たすのは当たり前になっていて、いかに黒字にして剰余を作るかという感覚だそうです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/consumercoopstudies/463/0/463_53/_pdf
組合員全員一人一票を持ってるとすると、まさに大株主がいない国造りみたいなことが実現できるわけで、おそらくフィンランドやスペインの生協はそれが実現できているように思います。
近年、税金や社会保険など納得感が乏しいのは、納めたお金が何に使われて、自分にどのように還ってきているかが分からないことが大きいと思うのですが、生協と組合員の関係性・コミュニティにおいては、明確にお金の使い方・使われ方を感じることが出来、更には一人一票の原則の下、自治を取り戻すことにも繋がるのではないかと思います。
この点、雨風太陽の高橋博之さんのセッションともリンクして、戦後、自ら治めることを国に委託してしまっていたものを、もう一度自分たちの手に取り戻すという意味で生協は重要な機能を果たせると思いました。
北海道弁で○○ささるという表現があります。
自分の責任ではなく、何らかの不可抗力でなってしまったというようなニュアンスも含まれていると感じるときがあります。
開拓時代の厳しい自然を前にした不可抗力だったものが、次第に北海道開発局をはじめとした行政に依存したなかでの不可抗力に変わっていたようにも思います。
お上から与えられることに慣れ過ぎて、自ら治めることを忘れてしまった、その結果が今なのかもしれません。
フィンランドやスペインの生協には、自治を取り戻すヒントが隠れているように思います。また、コープさっぽろには、縮小社会でも社会機能を維持していくためのカギがあるように思います。
こうした観点で改めて、生協ってなんだっけ?とリサーチしたり、できることを考えていきたいと思います。
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