#0150 勝手に空想旅行~霧と夕日と炉端のマチ~
だいぶ間が空いてしまった「勝手に空想旅行」
楽しみにされていた皆さん、大変申し訳ございません。
やっと続編を書きあげることができました。
昼食をOZで過ごした家族は、釧路市内へと車を走らせます。
翌日以降は大自然に触れるつもりでいたので、この日は市内で釧路のマチの歴史に触れようと博物館を目指すことにしました。
↓前回の勝手に空想旅行はコチラ
〇偉大なる釧路湿原
昼食を終えた我々は、釧路の中心部に向かう前に釧路市湿原展望台に向かうことにした。ナビでは30分程度で到着するようだが、僅か30分で大自然にアクセスできるなんて、本当に素晴らしいマチだと思う。
家族と一緒に車で釧路湿原展望台へと向かう。道中、牧草地や釧路湿原の豊かな緑が徐々に視界に広がり、車は丘を登っていく。車内は次第に期待感で満たされていく。展望台の手前でエゾシカのファミリーに遭遇。もくもくと草を食べている。車内は大興奮に包まれながらも、ドライバーの私は常に前を見てハンドルを握る。エゾシカ見たかった笑
到着すると、不思議なたたずまいの建物が見える。釧路を代表する建築家・毛綱毅曠氏の設計で、釧路湿原にあるヤチボウズというものを模した形状のようだ。
まずは、湿原全体を見渡せる屋上展望台に立ち寄る。屋上展望台からは、釧路湿原がどこまでも広がり、遥か彼方に広がる空と地平線が溶け合うような美しい景色が楽しめる。遠くには釧路のマチも見える。大自然と都市のコントラストが何とも言えない。湿原の自然と人間の都市との調和がここにはあるんじゃないだろうかと思った。
ここでの景色も十分に感動的だが、湿原の奥深さをより体感したいと思い、私たちは展望台から続く遊歩道を進むことにした。この遊歩道は、湿原の自然の中に溶け込みながら進んでいく道で、歩を進めるごとに鳥のさえずりや風の音が耳に心地よく響いてくる。丸い草の塊のようなものはたくさん生えている。まさに展望台の建物の形状そのものだ!これがヤチボウズか!かわいいな!
遊歩道をしばらく進むと、またエゾシカにばったり遭遇した。目と目が合った。私は思わず「こんにちは。お邪魔します。」と言った。自然と私たちがお邪魔しているという気持ちが、言葉になって出た。エゾシカは口をもぐもぐさせながら、こちらジーっと見て遊歩道を通してくれた。
サテライト展望台にたどり着く。ここからの景色は、まさに圧巻だ。釧路湿原の端の丘の部分に立ち、180度広がる大自然の中で、自分が自然の一部になったような感覚に包まれる。湿原の広大さと、その静寂の中で息づく生命の鼓動が、じわじわと身体に染み渡ってくるようだ。
足元には湿原特有の植物が広がり、遠くにはタンチョウが姿を見せることもある。ここでしばし、家族と共に静かな時間を過ごしながら、この壮大な自然が持つ力に心を委ねる。
「東京では絶対に見られない光景だね」と、妻が静かに呟く。 「本当に、ここまで来た甲斐があった」と私も応える。
自然が織り成すこの光景は、日常の喧騒から離れた心の休息となり、訪れる者に深い感動を与える。釧路湿原展望台とサテライト展望台からの景色は、一度は目に焼き付けておきたい絶景である。旅行記に綴るべき特別な思い出が、ここにまた一つ刻まれた。
気付くとたくさん蚊に刺されていた。虫よけスプレーをするのを忘れていたようだ。痒い。
〇明治開拓の歴史
痒みを我慢して、展望台をあとにする。
「次はどこに行くの?」と息子が興奮気味に聞いてくる。 「釧路市内の名所を巡るんだよ。サイドストーリーがたくさん詰まっているんだ」と私は地理好きの知識をひけらかすように答えた。
レストラン・オズから車で10分ほど走ると、右手にお城のような建物が急に現れた。大きな石碑には「鳥取村移住地遺跡」と書かれている。これを見た瞬間、私はふと四宮琴絵さんがvoicyで話していた、明治期に旧鳥取藩の人々が集団で入植したという歴史を思い出した。
「そうか。ここか。」と思わずつぶやくと、妻が興味津々で尋ねた。 「ここがどうかしたの?」 「明治時代に鳥取からの移住者たちがこの地に根付いたんだ。彼らの苦労と努力が、この釧路の地に歴史を刻んだんだよ。」
釧路行の飛行機なんかない時代に、きっと何日もかけて船で鳥取から釧路に入植したのか…
車内はしばらく静かになり、全員がその重みに思いを馳せた。
〇五感に訴え体感する博物館
さらに車を走らせ、訪れたのは釧路市立博物館。
不思議なカタチをした建物だ。
調べると、釧路を代表する建築家の設計らしく、随所に様々な哲学が反映された建物のようだ。
釧路市立博物館に足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んでくるのは、巨大なマンモスの骨格標本だ。エントランスホールの中央に堂々と展示されており、釧路がかつてどのような自然環境に包まれていたのかを象徴する存在となっている。子供たちはその迫力に圧倒されながらも、目を輝かせて見上げている。
博物館の1階には、釧路湿原と周辺の豊かな自然をテーマにした展示が広がる。湿原の植物や鳥類、さらにはイトウやヤチボウズといった、釧路ならではの生物たちの生態が詳しく紹介されている。ジオラマや映像を駆使した展示は、まるで湿原の中を歩いているかのような臨場感をもたらし、五感に強く訴えかける。
続いて2階に上がると、縄文時代から続縄文、擦文時代に至るまでの考古資料が展示されている。これらの遺物は、釧路の土地に刻まれた人々の営みを語り継ぐものであり、遠い過去に思いを馳せるきっかけとなる。大昔は釧路は海だったようだ。さらに、ここには北海道遺産に指定された「簡易軌道」に関する資料も展示されており、釧路の産業と交通の発展を鮮やかに伝えている。
そして4階に進むと、アイヌ民族の資料とタンチョウの展示が待っている。アイヌの文化や生活が詳細に紹介されており、その伝統がいかにして釧路の風土に根付いてきたかが理解できる。また、展望室からは太平洋を一望することができ、自然と文化が織り成す釧路の全貌を体感することができる。この日は釧路らしい海霧が海上から釧路のマチに襲来する様子がよく見えた。時間をかけてゆっくりとマチを海霧が包み込んでいく様子は、都会では見ることができない神秘的な光景だ
釧路市立博物館は、釧路の自然、歴史、文化、アイヌの精神世界を深く知り、体感することができる。訪れる人々に釧路の魅力を余すことなく伝える素晴らしい施設だと思った。
子供たちは終始目を輝かせながら、展示物に見入っていた。
ウンチク好きな私の解説なんかは不要で、子供たちなりに五感で感じ取っているようだった。ここにしかない学びがあったのではないかと思う。
〇写真を撮るのも忘れる「世界三大夕日」
博物館を後にして宿泊予定の釧路川沿いのホテルに向かった。マチを包み込んでいた霧が、吸い込まれるように内陸の方へ消えていく。
生涯学習センターの高台から下る道。釧路のマチと夕日がよく見える。
北海道三大名橋「幣舞橋」を通ると、夕日を眺めるたくさんの人が橋に集まっていた。
早々にチェックインを済ませて、幣舞橋へ向かう。
無言に夕日を眺める。写真を撮ることも忘れて、太陽がゆっくりと沈んでいくのをただただ眺めていた。
夕日が沈んで夕焼けが空を茜色に染める。西の空は紫色のように見える。
こんなに空の色が変わるのか。
日が沈んで夜が来る。都会にいるとこの自然現象を単純化してしまうのだが、こんなにもゆっくりと丁寧に、そして芸術的に日が沈むなんて今まで気付かなかった。当たり前のことは当たり前ではない。お天道様に感謝しよう。そんな気持ちにさせられた。
〇酒と炉端の「釧路の夜」
釧路の夜は、独特の静けさを持っている。日が沈み、ガス灯のような灯りがほのかに浮かび上がる頃、私たちは「炉ばた鱗」の暖簾をくぐった。ここは、釧路の風情をそのまま映し出したような場所だ。店内に一歩足を踏み入れると、黒い木材を使った重厚な内装と、控えめな照明が雰囲気を作る。暗めの照明が落ち着いた雰囲気を演出し、炉端の赤く燃え盛る木炭が、その中で際立つ存在感を放っている。
カウンター越しに並べられた新鮮な魚介類が、まるで芸術品のように美しく見える。目の前で丁寧に焼かれていく様子は、見る者の期待感を煽り、炉端ならではのライブ感を存分に味わわせてくれる。
まずは、厚岸産の蠣が登場した。炉端でじっくりと焼かれた蠣は、殻を開いた瞬間に潮の香りがふわりと広がる。口に運ぶと、その濃厚でクリーミーな味わいが舌の上に広がり、釧路の海の恵みを実感させる。次に供されたのは氷下魚(こまい)。この小ぶりな魚は、絶妙な塩加減で焼き上げられ、外はカリッと、中はふっくらと仕上がっている。シンプルな味付けが、素材そのものの美味しさを際立たせる。酒が進む。
続いて、ホッケが網の上で焼かれ始める。皮目がパリッと香ばしく焼ける音が、静かな店内に心地よく響く。箸を入れると、ホッケの身がほろほろとほぐれ、その豊かな脂が口の中でとろける。遠赤外線で焼かれることによって、魚の旨味が最大限に引き出されているのだ。
締めくくりには、焼きおにぎりが登場する。炭の香りが染み込んだおにぎりの表面はカリッと焼き上がり、中からはほんのり温かいご飯が顔を覗かせる。口に入れると、香ばしさと米の甘みが広がり、まさに至福のひとときを味わうことができる。
そして、釧路の銘酒「福司」の「だら燗」がこの食事を一層引き立てる。ぬる燗よりもさらに温度を落としたこの酒は、炉端の熱で温められ、文字通りダラダラ飲むのに適している。透き通った釧路の伏流水が清らかさを演出し、米の旨味が柔らかと広がり、焼き上げられた魚介との相性が抜群だ。暖かくも優しい酒が、炉端の温もりと溶け合い、釧路の夜を静かに彩る。
釧路の炉端焼きは、ただの食事ではない。
炭火の音や香り、そして素材そのものが持つ味わいが、ここでしか得られない特別な体験として心に刻まれる。静かな夜、私はまた一つ、忘れがたい思い出をこの街に残した。
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