小雨降るタクシー乗り場で(通院付添日記)
あのぉ~、ここは予約のみなんですか?
横手から同い年ぐらいの女性に声を掛けられた。
綺麗にメイクされた目元。マスクに隠れて見えないはずの真っ赤な唇が動くのがはっきりと見えた気がした。
アタシはというと、すっぴんマスクにジーンズ。せめてもと朝必死で落ち着かせた髪の毛でさえ、湿気でボワンボワン。
病院前のタクシー乗り場。
一応整列して、順にタクシーがやってくるのを待つ場所。
最前列にアタシと母が居て、少し遅れて彼女も母親らしい年老いた女性と連れ立ってやってきた。
今日はなかなか来ないね…
なんて言いながら、数分待った頃合いで、一台のタクシーが賃走の表示のまま車二台分ぐらい向こう側に滑り込んできた。
お客が下りたら乗れるかな?
なんてことを考えつつ、降車を見守っていると…
腰の曲がったお婆さんに続いて、運手席から運転手が出てきた。
ん?荷物でもあるのかな?
と、遠目に眺めていると、脇の方から歩行器を押したお爺さんと杖をついたお婆さんが、病院前の車寄せのロータリーを突っ切ってくる姿が。
あぶねっ!
と思う間もなく、荷物を下ろした運転手が
乗る?
と、その老夫婦に声を掛けたのが聞こえた。
あらま…
女性に声を掛けられたのは、このタイミング。
予約じゃないですよ。
とだけ答えると彼女の目が、前の老夫婦の方をちらっと見て、眉間に皺を寄せた。
あれは、どういうことなんでしょうか?
とでも言いたげな感じで…。
あぁ・・・、仕方ないですね。ダメなんですけどね。あそこまで行かれてるとね。もうね…。
と、言うしかない。
なんか大変そうですし。まぁ、うちもそこそこ大変なんですけど。あぁ、そちらもね。
我が母も長時間立ってるのはキツイし、おそらく彼女の母親らしき人も。
だから、タクシーを使うんだし。
そうこうしているうちに、次のタクシーが来てアタシたちは帰宅。
帰り際に、件の女性に軽く会釈だけした。彼女たちも数分後には、乗車できてるだろう。
帰宅後、母と少し話す。
あの場所でタクシーに向かってずんずん歩いていく足元の覚束ない老夫婦に対して「順番ですよ!」と、叫んで引き戻せるか?
いやその前に、家族の送迎に乗り付けてくる車も入ってくる場所だから。
警備員さん以外、ウロウロしちゃけない場所だから‥‥。
そだね、あの場合、老夫婦がロータリーに立ち入る前に警備員が止め、その次に「乗る?」と気軽に声を掛けたタクシー運転手にルールを守らせるべき。(タクシー乗り場のルール違反は、後々結構怖いことになる場合もあるらしいことを、以前運転手さんに聞いたことがある)
最終的に、警備員さんの判断ミスが重なったんだろう、あの警備員さんは新米なんだろうということで、母との話は落ち着いた。
通院の付添なんてしてると、納得行かないことなんてザラにある。なんで?どうして?思うこともある。
ルールじゃん!守れよ!って、声を荒げたところで…ねぇ。
まして、お相手に懇切丁寧にルールを説明して差し上げたり、余分に説明を求めたりする気力はないのよ、もうこちらには。
母の機嫌さえ悪くなければ、危険が伴わなければ、周りの雑音は無視する方に舵を切る。
今日、タクシー乗り場で出会った彼女は、色々とこれからなんだろうな…と思ってしまった。
頑張れ……。
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