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琥珀色の蜜


7、8年前になるだろうか。

母とパッピンスを食べている時に、祖父母の家で食べたかき氷の話になった。

あのかき氷は美味しかったと言うと、母は不思議そうな顔をして、そんなものは食べたことがないと言い切る。

は?大きな瓶に満タンに入ってた琥珀色したやつだよ。
細長い持ち手の先に小さなカップみたいなのが付いてる銀色のお玉で掬って、氷に掛けてたよ。


どうせ忘れているだけだと思って、味の説明すれば思い出すかも?と一生懸命考えたけど、なかなか当てはまるものが浮かばない。


甘いけど、お砂糖って感じじゃなくて
トロッとはしてるけど、ドロッとはしてなくて
嫌な感じの後味もなくて


色々考えた挙句


元は蜂蜜かなぁ~?

と言うしかなかった。


おばあちゃんなら、蜂蜜かもな

と、味を知らない母が言う。


祖母は、毎年大量の蜂蜜を一斗缶で幾つも買い込んで、それを小分けにして使ってた。結婚したばかりの頃、買い出しに同行した我が夫がその量にドン引きしていた。


でも、蜂蜜をただ薄めて伸ばしただけじゃあの味にはならない気がする。


もしかしたら、ちょっとレモンも入ってたのかな?

いや、酸っぱさはなかったような

グラニュー糖か氷砂糖とかも少し入れてたんじゃない?


なんて、母娘であーだこーだ言うも、答えは出ない。


夏の午後、長卓の上に置かれた大きな瓶。琥珀色なんて言葉を知らない頃のアタシには、透明の綺麗な黄色だなぁ~ぐらいに思っていた。市販されているかき氷の蜜は、真っ赤なイチゴか緑のメロンぐらいでバリエーションも沢山ない頃。
色味から想像すると、祖母の蜜はみぞれの部類になってしまうんだろうけど、あれとは全くの別物。


昭和も後半になると、かき氷は喫茶店でフラッペと名を変えて、お供にフルーツを従え綺麗なガラスの器に乗って現れた。
平成の世には、バリエーション豊かな韓国版のかき氷・パッピンスが、カフェに現れた。


いままでそれなりの量のかき氷を食べたと思うけど、祖母の蜜に似たものには出会えていない。

母も知らないという蜜の味。祖母が亡くなって30年以上経つ今、それは誰にも再現できない味になってしまった。


祖母ご用達の蜂蜜は、大瓶で我が家にもある。
が、祖母蜜にチャレンジするために、あてにできるのが半世紀近く前の自分の舌の記憶だけというのが、何とも心許なくて今だ決行出来ずにいる。


この記事は、拝啓 あんこぼーろさんの『あの日の景色。あの日の味。』に参加させてもらっています。



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