
日本食を若者へ、寿司とワインが織りなす新食体験

下北沢の新スポット、reload(リロード)に誕生した「はしり下北沢」。ここでは、寿司とワインという意外な組み合わせが、これまでにない驚きの食体験を生み出します。
寿司職人の白須聡(しらすさとし)さんとソムリエの茂野匡晃(しげのまさあき)さんが手がける、唯一無二のペアリング。その魅力に迫ります。
■レストランの先頭を行く「はしり」

下北沢の再開発としてreloadが開業しました。reloadは複合施設で、飲食店や雑貨店などが集まる新しいスポットです。その一つの店舗としてオープンしたのが「はしり下北沢」です。
もともと会員制の日本料理店として「はしり代官山」がありました。日本食を世界に広げるためにサンフランシスコにも進出しています。
(茂野さん)
「サンフランシスコ店をオープンした当時は、日本食に200ドルも払うなんて馬鹿げている、と思われていました。でも、初年度から3年連続でミシュランを獲得しました。アメリカにもカリフォルニアロールなどの寿司はありますが、サンフランシスコ店では伝統的な江戸前寿司を出しています」

サンフランシスコに多くの寿司屋が誕生したのも「はしり」の存在が大きかったようです。
(茂野さん)
「店名の『はしり』は、季節の初めに出回る初物の意味もありますが、レストランの先頭を走っていくというコンセプトでもあります」
■アメリカ帰りの日本食文化「はしり下北沢」

サンフランシスコで成功を収めている「はしり」が、なぜ下北沢に出店したのでしょうか?
(茂野さん)
「日本食を若い人たちへ広めたいという想いから、下北沢にお店を出しました。ここでは、むしろアメリカナイズした寿司を提供しています」
若い世代にとっても手が届きやすいよう、価格設定にも工夫がされています。
(茂野さん)
「最近は寿司の値段が高騰していて、銀座などの店だと3万円から、場合によっては10万円以上することもあります。若い人には手が届きません。『はしり下北沢』では、若い人たちにも楽しんでもらえる金額に設定しました」
日曜日のみのランチコースは8,000円(税込)、ディナーコースは11,000円(税込)からと、確かにリーズナブルな設定です。
演劇や音楽、ファッションといったサブカルチャーがあふれる若者に人気の街、下北沢。お二人にとって、この街はどのように映っているのでしょうか?
(茂野さん)
「下北沢は多様な文化が混じり合う場所です。大衆居酒屋から食通をうならせるレストランまで、幅広い選択肢があります」
(白須さん)
「若い方はもちろん、近隣の高齢者の方々や海外からのお客様まで、さまざまな人々が訪れてくださいます」
特に海外からのお客様が多いこともあり、日本らしいワインを選ぶ工夫をされています。また、楽しんでもらいたいという想いから、英語での丁寧な説明を通じて料理やワインの魅力を伝えています。
■季節を感じるこだわりのメニュー
「はしり下北沢」では、季節に合わせたメニューを考え尽くしています。今の時期はどのような料理が楽しめるのでしょうか?

(白須さん)
「まずはシャンパンに合うように、出汁や酢を使った5品の季節を感じられる前菜をご用意します。その後、昆布の旨みを生かした昆布締めの握り寿司を提供します。焼き物、蒸し物と続き、ウニ混ぜイクラ丼です」



ウニ混ぜイクラ丼は、「はしり」の代表的な一品です。ウニを混ぜた酢飯にイクラと醤油を合わせた、シンプルながら奥深い味わいが特徴です。
(茂野さん)
「実はウニ混ぜイクラ丼が一番ワインと合わない料理なんです。ウニだけ、イクラだけなら合うものはあるのですが、両方を引き立てるワインは何百本を試しても見つかりません」
ペアリングは、一体どうしているのでしょうか?
(茂野さん)
「日本酒をお出しします(笑)」

ソムリエである茂野さんの正直な言葉には、思わず笑みがこぼれます。その穏やかな人柄のおかげで、若い世代でも気軽に足を運べる雰囲気が生まれています。
さらに、白須さんの自慢の本鮪尽くしは、赤身、中トロ、漬け、炙りトロと続き、飽きさせない構成に仕上げています。加えて、穴子や卵焼きといった手間をかけた仕事物、そして水菓子で締めくくられるコースは、食べる人を魅了します。

季節感を大切にした白須さんの料理は、どれも美しく、味わい深い一品ばかり。シンプルでありながら創造性に富んだ料理は、訪れる人々に感動を与えます。
■寿司職人×ソムリエ、調和と意外性のペアリング
昔から食べることが大好きだった白須さんは、お客様とのつながりを大切にする寿司職人の道を選びました。
一方、茂野さんは21歳の頃に出会った一杯のシャンパンに衝撃を受け、23歳にしてソムリエの資格を取得しました。
そんな二人が織りなすペアリングは、どのようにして生まれるのでしょうか?

(白須さん)
「2ヶ月ごとにメニューが変わるので、まず旬のメイン食材を決めます。その後、味の方向性や調理方法の構想をソムリエに相談し、試作品を作ります」
(茂野さん)
「寿司にはさまざまな風味があるので、一品に一杯ずつペアリングすると膨大な量になってしまいます。そのため、できる限り味の方向性をまとめ、一つのコースに一種類のワインをペアリングするようにしています」

具体的なペアリング方法についても教えていただきました。
(茂野さん)
「ペアリングの基本は同調です。メインの食材と香りや味わいが似たワインを合わせます。次に、料理にないものを補う方法です。例えば、レモンを足したら良さそうな料理には、酸味のあるワインを合わせます。最後に、全く予期しないペアリングです。説明はできないけれど、なぜか完璧に調和する組み合わせがあるのです」
白須さんと茂野さんが作り上げる寿司とワインのペアリングは、旨みの相乗効果を引き起こし、新たな味覚の驚きを提供します。

■寿司とは、愛とエンターテインメント
お店の扉に「Sushi&Wine&♡ Hashiri Shimokitazawa」と書かれています。
「&♡」にはどんな想いが込められているのでしょうか?
(茂野さん)
「♡は、愛とエンターテインメントです。愛は心からのおもてなしやお客様に喜んでもらうことです。お店に来て楽しんでもらい、明日からも頑張ろう!と思ってもらいたいです」
(白須さん)
「お客様の前で寿司を握ることはエンターテインメントそのものです。作る工程もキレイにすることを一番に意識しています。あえてオーバーリアクションにしますし、桐箱に入ったネタを見せるのも楽しんでもらうためです」
真剣な表情で魚を捌く白須さんの姿は、まさにサムライ。

寿司を極めたエンターテイナー白須さん、愛をそそぐソムリエ茂野さん。唯一無二のペアリングで生まれる新しい食体験は、下北沢に新たな風を吹き込み、世界中の食通を魅了しています。

はしり下北沢
住所:〒155-0031 東京都世田谷区北沢3丁目19−20 reload 1-6
定休日:水曜日、第二・第四木曜日
営業時間:17:30 – 21:30 L.O.
電話番号:03-6407-1233
HP:https://hashirishimokita.com/
茂野様、白須様、貴重なお話をありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
取材・文:CONOMACHI STORIES編集部