母として、いまの自分らしく──加藤早紀さんインタビュー
2024年9月1日、西日暮里のやなか音楽ホールで開催の「加藤早紀ソプラノ・リサイタル」に向けて、出演の加藤早紀さんのインタビューをお届けします。
「コロナ禍になってから生まれた息子は、先日3歳の誕生日を迎えました。今ではおしゃべりもとても上手になって……成長と時の早さにびっくりします」
優しい微笑みで、息子さんを見つめる加藤さん。愛する存在が増えたことで、声楽家として心境の変化を迎えたと語ります。
「息子が生まれる前は、プーランクの《人間の声》や《ティレジアスの乳房》など、すこし難しめの作品を好んでいましたが、この子が生まれてから歌いたい曲が少しずつ変わってきました。
音楽や詩に尖った要素のある作品よりも、優しい日本語の詩句が用いられた作品や、メロディの美しい作品をこの子に歌いたいと思うようになってきました。実際、子守歌もよく歌うようになりました。そのような優しい気持ちになれる作品を集めて、今の視点で選曲したリサイタルを開催したいと考えるようになりました」
「チャレンジし続ける母の姿を見せられたら、とも思っています。今回のプログラムでは、20代の頃から歌ってきた作品に加えて、半分ほどが初めて取り組む作品となりました。初めての挑戦には緊張もありますが、どれもいい曲なので、取り組んでいてとても楽しいです。
歌ではなく器楽のゲストをお呼びするのは、マッキアートでは初めて。自分の声の相性も良いと思い、ゲストはフルート奏者にお願いしました。高校3年間フルートを吹奏楽部で吹いていたので、私にとってとても身近な楽器なのです。大学の副科でも実は学んでいました。マッキアート設立初期に《魔笛》を上演した際には、こっそり舞台裏で吹いていたこともあるんですよ。当初から応援して下さって、公演をご覧頂いていた方は、覚えていらっしゃるかもしれませんね!」
「木下牧子先生の《花のかず》は、母になってから歌いたいと手に取った歌曲集です。〈竹とんぼに〉を勉強し始めたところ、全曲歌いたい気持ちが湧き上がり、思い切って全9曲に取り組むことを決めました。
実際に全曲に取り組んでみると、〈クルミ〉の可愛らしさや、〈曇り日なら〉での前向きに歩んでいく詩や曲想などがとても心地よいですね。作品に込められたメッセージに自分自身もエネルギーをいただくことが出来ています。
また上田真樹先生とは以前より親交が深く、《かなしみのそうち》は、先生の個展でも歌わせていただきました。川瀬巴水の版画に林 望先生がつけられた3篇の詩に、上田真樹先生が音楽をつけられた朗読と歌のための歌曲集です。思い出の作品でもあり、未出版であまり知られていない作品ですので、今回取り上げることを決めました。
《かなしみのそうち》では、同じひとつの詩が、作品の最初には男性の視線からの朗読で、最後には女性の視線からの歌唱で届けられます。男女の細やかな機微なども描かれたこの歌曲集を、ひとりの女性として、いま歌いたいと取り組んでいます。
この2つの歌曲集に加えて、第一部の冒頭では〈椰子の実〉を歌います。こちらはフルートも加えた編曲でお届けいたします。皆様へのご挨拶として、涼やかに歌うことが出来たら嬉しいです」
「第二部では〈ワルツ〉をテーマとして、ドイツ語・フランス語の作品を集めました。
最初に歌うツェムリンスキーの《トスカーナ地方の民謡によるワルツの歌》は、以前に二期会のサロンコンサートでも演奏した作品。短く愛らしい曲が揃っていて、民謡をベースにした作品ならではの親しみやすさもあるのではないかと感じています。
ツェムリンスキーの次に歌うのは、グノーのオペラ《ファウスト》より〈宝石の歌〉。二十代の頃から、節目節目で歌ってきた作品です。その後の物語を考えると手放しでは喜べない場面ではあるものの、初めての恋を知って胸躍らせるマルグリートの歌う旋律は、とても心浮き立つものです。けれど息子には、ファウストのような不実な男性にはならず、誠実に生きてほしいと強く願います……!
続くシャミナードの〈ポートレート〉は、フルートとのアンサンブルも入った華やかな作品。シャミナードの音楽には、女性ならではの細やかな感性も感じられて、とても好きです。〈歌われるワルツ〉という副題もついていて、詩の内容は他愛のないものなのですが、プログラムの中で一服の清涼剤になればいいですね。
学生時代から愛してやまない作曲家、プーランクの作品からは〈セーの橋〉を取り上げます。昨今の世界情勢を見ると、戦争やテロなど悲しいニュースが続いています。音楽家として自分が何が出来るかと考えたとき、『戦いの舞台となった場で平和を想う』というこの歌を、リサイタルで取り上げようと決めました。
第二部の最後に歌うのは、マイアベーアのオペラ《ディノラ》より〈影の歌〉。これも、人生の節目節目で歌ってきた大事な作品です。正気を失った女性が自分の影と遊ぶ、いわば狂乱の場ですが、とても音楽がチャーミングなのがこの曲の大きな特徴です。カデンツァでは、フルートとの掛け合いもあるので、こちらもどうぞお楽しみに!」
「共演者のお二方は、以前より信頼している音楽仲間です。
ピアニストの矢崎貴子さんには学生時代からお世話になっています。結婚式でも弾いていただきました。ここぞという機会にはいつもお願いしており、安定感と安心感を兼ね備えた稀有な方です。話していてもとても楽しく、合わせはいつも和やかな雰囲気の中で進んでいきます。
フルート奏者の羽鳥美紗紀さんとは、大柴拓さん主宰のアンサンブル・パラ・フローレスでご一緒しています。2018年から音楽を共に作りあげてきましたが、クラシック音楽でご一緒するのは初めて。なので、今回もとても楽しみなんです。
3人とも同世代で、母親でありながら音楽家でもあるという共通点も持っています。子育てをしながら演奏活動を続けていくことは容易なことではありませんが、だからこその喜びもあります。そうした気持ちを分かち合える3人での音楽づくりも楽しみですね」
最後に、お客様へのメッセージをお預かりいたしました。
「リサイタルは、思い立ってすぐに出来るものではありません。次はいつ出来るか……それは巡り合わせ次第なのでしょうね。だからこそ、今回のリサイタルで、『いまの私の歌』をお届けしたいと準備を進めています。9月1日はまだ暑いさなかでしょうが、音楽を通じて心地よさを皆様に感じていただけますよう、励んでまいります。どうぞ、足をお運びいただけますよう、お願いいたします」
オペラカッフェマッキアート58 リサイタルシリーズvol.1
加藤早紀ソプラノリサイタル
日程∶2024年9月1日(日)14:00開演(13:30開場)
会場∶やなか音楽ホール(西日暮里駅より徒歩4分)
出演: 加藤早紀(ソプラノ)、矢崎貴子(ピアノ)、羽鳥美紗紀(フルート)
曲目:
木下牧子作曲:歌曲集「花のかず」より
マイアベーア作曲∶オペラ『ディノラ』より 影の歌 他
チケット∶一般 3500円/学生 2000円
Yahoo!パスマーケット(クレジットカード/PayPay/コンビニ払い)
⇒https://passmarket.yahoo.co.jp/event/show/detail/02qzpiv6y9p31.html
Googleフォーム(銀行振込)
⇒https://forms.gle/2VXJQB52ujwmToF8A
皆様方に、加藤さんの涼やかな歌声をお楽しみいただけますことを願っております。
チケットお申し込みは、下記サイトからお願いいたします。ご不明な点がございましたら、オペラカッフェマッキアート58事務局(operacaffemacchiato58@gmail.com)までお気軽にご連絡ください。
オペラカッフェマッキアート58 noteでは、9/1のリサイタルに向けて、さまざまな記事を更新してまいります。どうぞお楽しみに!
9/1、皆様とやなか音楽ホールでお会いできますことを楽しみにしております。