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ホモスタック(Homo Stuck)を考える
ホモスタックを考えるサーベイ。先にハムフリー Hum-Freeを読むといいかもしれない。
ホモスタック【Homo Stuck】 (名)
[語源] 英語 "Homo" (ヒト) + "Stuck" (立ち往生した) の合成語。「進化的に立ち往生したヒト」の意。
[定義] 現代社会において、人類が約50万年前に獲得した脳と身体の構造的限界によって、様々な問題を引き起こしている状態を指す。 狩猟採集社会に適応した脳の機能や身体能力が、高度に情報化・技術化された現代社会の複雑な状況にそぐわず、不適応や葛藤を生み出すという考え方。
[意味・用例]
・進化の停滞:脳の構造は石器時代からほとんど変化しておらず、現代社会の倫理や複雑な情報処理に追いついていない。 例:「ホモスタックは、SNSの炎上やフェイクニュースに踊らされる」
・身体の限界:直立歩行や出産に伴うリスク、老化など、生物としての制約が、現代社会の要求とミスマッチを起こす。 例:「ホモスタックは、長時間のデスクワークで腰痛に悩まされる」
・感情の不適合:嫉妬、不安、攻撃性など、生存競争に有利だった感情が、現代社会では人間関係の摩擦や精神的な苦痛を生む。 例:「ホモスタックは、ミラーニューロンの過剰反応で共感疲労を起こす」
・倫理観の未熟:部族主義、短期的な快楽優先など、狩猟採集時代の倫理観が、地球規模の課題解決を阻害する。 例:「ホモスタックは、環境問題を軽視し、目先の利益を優先する」
[関連語] Hum-Free(ハムフリー):ホモスタック状態を克服するために、テクノロジーで人間の不完全さを補完しようとする思想。
[対義語] ホモ・デウス(Homo Deus):遺伝子工学やAI技術によって、生物学的限界を超越した「神のような人類」を目指す概念。
[注意点] ホモスタックは、人間存在の根源的な課題を指摘する概念であり、技術万能主義や人間軽視を助長するものではない。
[社会的位置付け] AI、バイオテクノロジー、ブレイン・マシン・インターフェース等の技術革新が加速する中で、人間の生物学的限界と社会の要請とのギャップを浮き彫りにする概念として注目されている。
Homo Stuck
Etymology
A compound term combining "Homo" (human) and "Stuck" (unable to progress), meaning "evolutionarily stagnant humans."
Definition
Refers to the condition where modern humans face various challenges due to the structural limitations of our brains and bodies, which evolved approximately 500,000 years ago. This concept highlights the mismatch between our hunter-gatherer-adapted brain functions and physical capabilities versus the complex demands of our highly information-driven, technological modern society.
Key Aspects and Examples
Evolutionary Stagnation
The brain's structure has remained largely unchanged since the Stone Age and struggles to keep pace with modern ethical demands and complex information processing. Example: "Homo stuck individuals are susceptible to social media controversies and manipulation by fake news."
Physical Limitations
Biological constraints such as bipedal walking, childbirth risks, and aging create mismatches with modern society's demands. Example: "Homo stuck individuals suffer from lower back pain due to prolonged desk work."
Emotional Incompatibility
Emotions that were advantageous for survival competition (jealousy, anxiety, aggression) now generate interpersonal friction and psychological distress. Example: "Homo stuck individuals experience empathy fatigue due to mirror neuron hyperactivity."
Ethical Immaturity
Hunter-gatherer era ethical perspectives, such as tribalism and short-term pleasure prioritization, impede solutions to global challenges. Example: "Homo stuck individuals prioritize immediate benefits over environmental concerns."
Related Concepts
Hum-Free: A philosophical approach advocating the use of technology to compensate for human imperfections and overcome the homo stuck condition.
Homo Deus: An antonymous concept describing humans who transcend biological limitations through genetic engineering and AI technology to become "god-like beings."
Important Considerations
The homo stuck concept identifies fundamental challenges of human existence without promoting technological determinism or devaluing humanity.
Social Context
This concept has gained attention as technological innovations in AI, biotechnology, and brain-machine interfaces accelerate, highlighting the growing gap between human biological limitations and societal demands.
はじめに (Introduction)
人類は高度な知性を持ちながらも、多くの側面で進化的に停滞し「愚かさ」を露呈している。この停滞した人類像を、本研究では「ホモ・スタック (Homo Stuck)」と定義する。ホモ・スタックとは、最新の技術やAIに囲まれながらも人類が停滞・固定化してしまうリスクをはらんだ存在であり、生物学的制約を超えて拡張する可能性と表裏一体の概念である (クリエーションから逃れられない.|落合陽一)。一方、ユヴァル・ノア・ハラリが提唱した「ホモ・デウス (Homo Deus)」は、環境や生命を思いのまま創造・破壊できる神の如き存在への人類の進化像である (Speed Summary: Homo Deus - A Brief History of Tomorrow - Brand Genetics)。しかし現実の人類は、そのようなホモ・デウスへと飛躍できずに「ホモ・スタック」の状態に留まっているのではないか。本稿では、ホモ・スタックとして人類が抱える本質的な愚かさを分析・体系化し、それが如何に人類のホモ・デウス化を阻害しているかを考察する。分析にあたっては、人類の愚行を認知・倫理・環境・技術・社会の観点から分類し、最後にオブジェクト指向的(オントロジー的)モデルでホモ・スタックの性質を整理する。
ホモ・スタックの定義と人類の進化的停滞
「ホモ・スタック」とは進化的に立ち往生した人類を指し、現代の文明環境に適応しきれない様を強調する概念である。エドワード・O・ウィルソンは現代の人類について「旧石器時代の感情、中世の制度、そして神のような技術が同居する進化のキメラだ」と述べている (What Is Human Nature? Paleolithic Emotions, Medieval Institutions, God-Like Technology - Big Think)。これは、人類の感情や本能は先史時代から大きく変わらず(旧石器時代並みの脳と本能)、社会制度は権威主義的な中世の延長上にありながら、一方でテクノロジーだけは飛躍的に発展して「神のような」力を持ってしまったという指摘である (What Is Human Nature? Paleolithic Emotions, Medieval Institutions, God-Like Technology - Big Think)。このアンバランスこそが人類の進化的停滞=ホモ・スタックの本質であり、以下で述べる様々な愚行の根底にあると考えられる。
人類の愚行の体系化 (ホモ・スタックの愚かさ)
人類の愚かさをホモ・スタックの視点から分類すると、以下のようなカテゴリに整理できる。各カテゴリで、人類が陥っている典型的な愚行とその影響を分析する。
1. 認知バイアスの限界 (Cognitive Biases and Limitations)
人間の認知には系統的な偏りや錯覚があり、これが合理的判断を妨げ愚行を招く。 (Confirmation bias - Wikipedia)によれば、人々は自分の信念を支持する情報ばかり集め反証を無視する確証バイアスや、曖昧な証拠を自分に都合よく解釈する傾向が確認されている。これは人間の情報処理能力に限界があり、希望的観測(wishful thinking)などの影響を受けやすいためだとされる (Confirmation bias - Wikipedia)。また、自らの誤りを認めずに自己正当化する心理も強い。認知心理学者のスティーブン・ピンカーは「確証バイアスは人間の愚かさを示す典型例であり、克服が合理性向上の鍵である」と指摘している (論理がわかる人とまるでわからない人の決定的差 人間の非合理さを露呈させる簡単な論理学の問題 | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン) (認知バイアスは内部からどのように感じられるか — EA Forum)。このようなバイアスにより人類は錯覚やデマに騙されやすく、理性的な意思決定が阻害されている。脳の構造上、人間は有限な情報処理しかできず膨大なデータを正確に扱えないため、判断はしばしば歪められる (Confirmation bias - Wikipedia)。この認知的限界こそが、ホモ・スタックとして人類が陥る愚行の第一の要因である。
2. 倫理的未熟さ (Ethical Immaturity)
人類の道徳的・倫理的発達も依然未成熟であり、集団心理や快楽追求に振り回されている。部族主義(トライバリズム)に代表されるように、人間の脳は生存のため小規模な集団への帰属意識や内集団への偏愛を発達させてきた (The Neuroscience of Tribalism | Psychology Today)。その結果、現代社会でも人々は自らの属する民族・政治集団・宗教などを過剰に重視し、他集団に対して非協力的・攻撃的になりがちである。これは世界規模の問題解決(例えば気候変動対策や平和構築)において、大局的な協調を阻む要因となっている。また、短期的快楽主義も人類の愚行として顕著である。快楽を優先し苦痛を避けようとする動機そのものは人間の基本だが、目先の快楽を追い求めるあまり長期的な責任を放棄することが多い。例えば「もし気持ちいいならやればいい。人生は一度きりだ」といった刹那的享楽の姿勢は、一時的な満足のために他者への責任を怠るだけでなく、長期的には自己破滅を招きかねない (The True Meaning of Hedonism: A Philosophical Perspective)。実際、過度の浪費や不摂生は将来の健康や幸福を損ない、社会全体でも借金や環境問題などツケを未来に回す行為につながっている。さらに、人間は感情に流されやすく理性的思考の欠如を示す局面も多い。例えば怒りや恐怖に駆られて衝動的に暴力や差別的言動に走ることがあり、これは倫理的成熟度の低さを物語る。総じて、人類は高尚な倫理観を唱えながらも衝動的・部族的心理に引きずられやすく、その未熟さが愚かな意思決定をもたらしている。
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落合陽一が日々見る景色と気になったトピックを写真付きの散文調で書きます.落合陽一が見てる景色や考えてることがわかるエッセイ系写真集(平均で…
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