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今年の日下部民藝館の展示を考え始めている

ここに追加.サーベイから

以下に示すのは、これまでの議論や引用文献、そして落合陽一氏による展覧会の構想・言及を踏まえ、「刀剣(日本刀)」「鏡」「表と裏の美学」「かすかで確かなもの(沸や匂)」「幽玄と反射」などを軸に組み立てたアカデミックな論考です。特に、刀剣の鑑賞用語である「沸(にえ)」「匂(におい)」の美学的意義を取り上げながら、日本古来の自然観・精神性・芸術表現と、現代におけるデジタル技術や落合陽一氏の展覧会計画との接点を探求しています。少し長文ですが、「かすかで確かなもの」をどのように空間や作品として提示できるかの理論的背景を深く掘り下げることを目的としています。



1. はじめに――かすかで確かなものの探究

21世紀に入り、メディアアートとデジタル技術は、視覚芸術の領域に多大な変革をもたらしている。特に万博や大規模フェスティバルでは、鏡やプロジェクション、LEDディスプレイといった“大きく、派手に、ダイナミックに見せる”演出がしばしば注目を集める。しかし一方で、日本の伝統文化には、じっと目を凝らさなければ捉えられないほど繊細な輝き――“かすかなもの”――を尊ぶ美意識が深く根付いている。
この「かすかなもの」に焦点を当てる際、代表例として挙がるのが日本刀の美学的要素「沸(にえ)」と「匂(におい)」である。研ぎ澄まされた刀身に微かに点在する沸の粒子や柔らかな匂の霞は、集中して観察しないと見逃してしまう一瞬の揺らぎを秘めている。また、鏡面や水面がもつ反射のわずかな変化、曇りと光の揺らぎがもたらす幽玄も同じく“かすかなもの”に属する。
こうした繊細な要素は、単なる装飾効果にとどまらず、神話・宗教・武士道や芸道(茶道・能楽など)の歴史を通じて、日本人の精神文化を形づくってきた。近年、メディアアーティスト・研究者である落合陽一氏が提唱する「デジタルネイチャー」や、万博パビリオン構想の「ヌル/ヌルヌル空間」においても、“かすかだが確かに存在する”光や反射が大きなテーマとなっている。本稿では、刀剣と鏡、そして幽玄や沸・匂という古今の概念を紐解きつつ、落合氏らが目指す現代的な展覧会の可能性を探究したい。

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