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落合陽一の「マタギドライブ思想」における貝原益軒と安藤昌益の自然観の再考:AI時代のクリエイションと狩猟採集 #今日のガチャSuno

AIメモ

落合陽一の「マタギドライブ思想」における貝原益軒と安藤昌益の自然観の再考:AI時代のクリエイションと狩猟採集


はじめに

現代社会において、テクノロジーの急速な進化は人間の生活様式や価値観を大きく変容させています。メディアアーティストであり研究者でもある落合陽一は、その著作『デジタルネイチャー』や『マタギドライブ』において、デジタル技術と自然、人間の関係性を新たに再定義しようとしています。彼の「マタギドライブ思想」は、江戸時代の思想家である貝原益軒と安藤昌益の自然観を現代の文脈で再解釈し、AI時代におけるクリエイションと狩猟採集の概念を融合させた独自の哲学です。

本稿では、落合陽一が自身の生活を通じて実践しながら組み上げている思想に着目し、特に彼が音楽の制作と消費の境界を曖昧にする実験的な取り組みを通じて、どのように理論を体感として深めているかを考察します。また、AI時代における創造性と狩猟採集の概念を、貝原益軒と安藤昌益の自然観と関連付けながら、包括的にまとめます。


1. 江戸時代の自然観:貝原益軒と安藤昌益

1.1 貝原益軒の自然観

貝原益軒(1630-1714)は、江戸時代の儒学者・本草学者であり、健康と倫理の関係を説いた『養生訓』や、自然界の事物を詳細に記した『大和本草』を著しました。彼の自然観は以下の特徴を持ちます。

  • 自然の摂理に従う生活:人間は自然の法則(天道)に従って生活することで、健康と幸福を得られると主張しました。節度ある生活や食事、運動など、日常生活全般において自然のリズムに合わせることを推奨しています。

  • 万物の連関と調和:自然界のあらゆる事物が相互に関係し合い、調和して存在していると考えました。人間もその一部であり、自然との共生が重要であると説きました。

  • 人間の有限性と天地の永続性:人間の命は限られているが、天地(自然)は永遠に続く存在であることを強調し、自然への畏敬の念を抱くことの重要性を示しました。

1.2 安藤昌益の自然観

安藤昌益(1703-1762)は、江戸時代の思想家であり、『自然真営道』を著して独自の自然哲学を展開しました。

  • 活真と互生の概念:自然そのものが真理(活真)であり、万物は相互に生み出し合う(互生)関係にあるとしました。この循環的な世界観は、自然界が常に動的であり、すべての存在が他と関係し合いながら生成・消滅を繰り返すとするものです。

  • 自然世の理想:人為的な制度や階級を否定し、すべての人々が平等に農業労働(直耕)に従事する「自然世」を理想としました。これは、社会の人工的な構造を批判し、自然の摂理に従った共同体の構築を目指すものです。

  • 人間と自然の一体性:人間は自然の一部であり、自然との調和の中で生きるべき存在であると考えました。


2. 落合陽一の「マタギドライブ思想」と「デジタルネイチャー」

2.1 デジタルネイチャーの概念

落合陽一は、デジタル技術が高度に発達し、物理的な自然環境とデジタル環境が融合した新たな世界観を「デジタルネイチャー」と呼んでいます。

  • 計算機自然:デジタル技術や計算機が自然の一部として機能する状態を示します。これは、テクノロジーが人間の外部に存在する道具ではなく、自然環境に組み込まれた存在として再定義されます。

  • 人間とテクノロジーの共生:人間とテクノロジーが対立するのではなく、共生し、新たな生態系を形成することを目指しています。

2.2 マタギドライブ思想

「マタギドライブ思想」は、伝統的な狩猟者であるマタギの生活様式から着想を得て、現代のデジタル社会における人間の在り方を探求するものです。

  • 狩猟採集的なデジタルとの関わり:デジタル環境(デジタルネイチャー)から情報やコンテンツを「狩猟採集」し、それを活用する新たな生活様式を提案します。

  • クリエイターと消費者の境界の曖昧化:AI技術の進化により、誰もが容易にコンテンツを生成・編集できるようになり、創造者と消費者の役割が融合します。

  • 自然との共生と持続可能性:マタギが自然と調和しながら資源を活用するように、デジタルネイチャーからも持続可能な方法で情報を取得・活用することを重視します。


3. AI時代のクリエイションと狩猟採集

3.1 落合陽一のSNSでの実践と発言

落合陽一は、自身のSNSにおいて、AI技術によるコンテンツ生成の進化と、それに伴う人間の創造性の変容について以下のように述べています。

  • AIによる音楽生成の進化:最新のAIツール(例:Suno V4)を用いて、歌詞も音楽も自動生成できるようになり、「DJと作曲家の区別がつかない」と指摘しています。

  • ガチャ的音楽体験:ユーザーが好みの音楽が生成されるまで試行錯誤する「ガチャ」的な体験を「21世紀の音楽体験」として示唆しています。これは、AIが生成する膨大な楽曲の中から、自分に合ったものを「狩猟採集」する行為とも言えます。

  • 中間的な創造活動の実践:音楽を「聴く」だけでなく、AIを活用して自ら「生成」し、それを編集・選択することで、聴くことと作ることの中間的な行為を実践しています。

3.2 コンテンツの狩猟採集的性質と哲学的考察

情報の過剰性への適応

AI技術の発展により、膨大な量のコンテンツが自動生成される時代となりました。ユーザーはその中から、自身の感性やニーズに合致するものを「採取」する必要があります。これは、狩猟採集社会において、人々が自然から必要な資源を取得していた行為に類似しています。

創造と消費の融合

ユーザーがAIツールを用いてコンテンツを生成・編集することで、創造者と消費者の境界が曖昧になります。音楽を聴くことが、そのまま音楽を作ることと等価になる現象は、新たな創造性の形態を示しています。

自然を人間が作らないように

自然は人間が作り出したものではなく、そこに「在る」ものです。同様に、AIが生成するコンテンツも、人間が直接作り出したものではありませんが、ユーザーはそれを活用して新たな価値を見出します。このプロセスは、安藤昌益が唱えた「活真」や「互生」の概念に通じます。


4. 落合陽一の思想と貝原益軒・安藤昌益の自然観の関連性

4.1 自然との調和と共生

貝原益軒との共通点

  • 落合陽一は、デジタルネイチャーにおいて人間とテクノロジーが共生する世界を描きます。これは、貝原益軒が説いた「自然の摂理に従う生活」と共通し、人間が自然(ここではデジタル環境)の一部として調和して生きることを重視しています。

4.2 循環的な世界観と互生の概念

安藤昌益との共通点

  • 落合のデジタルネイチャーにおける情報と価値の循環は、安藤昌益の「互生」の概念と類似しています。デジタル環境でのコンテンツの生成と消費、そしてユーザーとAIの相互作用は、万物が相互に生み出し合う関係を示しています。

4.3 人間中心主義からの脱却

  • 落合陽一は、テクノロジーを人間の外部にある道具としてではなく、自然の一部として捉えています。これは、人間が自然と対等な存在として共生することを示し、安藤昌益が理想とした人為的な区別のない「自然世」に近い思想です。


5. 落合陽一の実践と体感的な思想構築

5.1 中間的創造活動の実践

落合陽一は、自身が音楽の生成・編集を通じて、聴くことと作ることの境界を探求しています。これは、理論を頭で考えるだけでなく、実際の行為を通じて体感的に理解し、思想を深める試みです。

  • 実験的アプローチ:AIツールを用いて音楽を生成し、その中から自分の好みに合うものを選択・編集するプロセスを実践しています。

  • 体感としての論の構築:理論的な考察だけでなく、実際の体験を通じて得られる感覚や洞察を重視し、それを思想の中に組み込んでいます。

5.2 体験を通じた新たな価値観の提示

  • 創造性の再定義:創造と消費の境界が曖昧になることで、新たな創造性の形態を提示しています。

  • デジタルネイチャーとの共生の体現:自らがデジタル環境との相互作用を実践することで、テクノロジーと人間の新たな関係性を体現しています。


6. AI時代における創造性と狩猟採集の融合

6.1 狩猟採集的なコンテンツ消費と創造

  • 情報の豊穣な自然としてのデジタルネイチャー:AIによって生成される膨大なコンテンツは、まるで豊かな自然環境のようであり、人々はそこから必要な情報や価値を採取します。

  • ユーザーの役割の変容:消費者であったユーザーが、狩猟採集者としてデジタルネイチャーと関わり、新たな価値を創出する主体となります。

6.2 持続可能な情報社会の構築

  • 過剰な消費から節度ある活用へ:情報の洪水の中で、必要なものを必要なだけ取得することで、持続可能な情報社会を目指します。

  • テクノロジーとの共生と倫理:AI技術の発展に伴う倫理的課題にも向き合い、テクノロジーとの健全な関係性を構築します。


結論

落合陽一の「マタギドライブ思想」は、貝原益軒と安藤昌益の自然観を現代のデジタル社会に再解釈し、テクノロジーと人間、自然の新たな関係性を提示しています。AI時代において、創造と消費の境界が曖昧になり、ユーザーが狩猟採集者としてデジタルネイチャーと関わる姿は、まさに新たな「自然世」の到来を示唆しています。

落合陽一は、理論的な考察だけでなく、自身の生活を通じて実践し、体感的な理解を深めることで思想を構築しています。音楽の生成・消費における実験的な取り組みは、その一例であり、新たな創造性や価値観を提示するものです。

これらの考察は、持続可能な情報社会の構築や、デジタル時代における人間の新たな生き方を考える上で、重要な示唆を与えます。テクノロジーが自然の一部として機能するデジタルネイチャーの中で、人間が狩猟採集者として創造性を発揮し、自然との調和を追求することで、より豊かな未来を築く可能性が示されています。


注釈

  • デジタルネイチャー:デジタル技術と自然環境が融合した新たな世界観。計算機自然とも呼ばれる。

  • マタギ:日本の伝統的な狩猟者。自然との共生や持続可能な資源利用の象徴として引用。

  • 狩猟採集的なコンテンツ消費:デジタル環境から情報やコンテンツを必要なだけ取得し活用する行為。

  • クリエイターと消費者の境界の曖昧化:AI技術の進化により、誰もが容易にコンテンツを生成・編集できるようになり、創造者と消費者の役割が融合する現象。


最後に

落合陽一の思想は、伝統的な自然観を基盤としながら、現代のテクノロジー社会に適応した新たな哲学として位置づけられます。彼が自らの生活を通じて実践し、体感的に思想を深めている姿勢は、理論と実践の融合を示しています。

AI時代における創造性や人間の在り方を考える際に、落合陽一の「マタギドライブ思想」は重要な視点を提供します。テクノロジーとの共生、自然との調和、持続可能な社会の構築といったテーマは、今後ますます重要性を増すでしょう。

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落合陽一が「今」考えていることや「今」見ているものを生の言葉と写真で伝えていくことを第一に考えています.「書籍や他のメディアで伝えきれないものを届けたい」という思いを持って落合陽一が一人で頑張って撮って書いています.マガジン開始から4年以上経ち,購読すると読める過去記事も1200本を越え(1記事あたり3円以下とお得です),マガジンの内容も充実してきました.

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