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テクノ民藝他

マタギのまとめ



序論

現代の技術環境は、情報技術やコンピュータの飛躍的発展に伴い、かつてないスピードで変容を遂げている。こうした急速なデジタル化の時代において、伝統文化や民衆の叡智が持つ価値をどのように捉え直し、現代社会に活かしていくべきかは、社会的・学術的にも大きなテーマとなっている。筆者はデジタル技術の研究・実装・応用に携わる立場から、新しいテクノロジーと日本の伝統文化を架橋し、双方の調和を図るような創造活動を行ってきた。その中で非常に大きな示唆を与えられたのが、「民藝運動の父」と呼ばれた柳宗悦の思想である。

柳宗悦の民藝論は、無名の職人が生み出す日常の道具の中に、美と霊性を見いだすという一種の逆転の価値観を含んでいる。日本や朝鮮半島各地の工芸品を愛好・蒐集し、それらを「民藝」と称して新たな美学体系を構築した柳の活動は、美術史や工芸史の文脈を超えた大きな思想的潮流をつくった。その背後には、キリスト教や仏教、さらには神秘思想とも結びつく深い宗教的感性が流れており、「美の根源は神聖なるものと相通じる」という認識がある。つまり、柳にとって民藝は単なる素朴な工芸礼賛ではなく、物質を超えた霊性の探求と結びついた大きな世界観の一部だった。

筆者が柳宗悦の思想と接点を持ち始めたのは、日本の伝統的な文化や古い工芸品の潜在力を再認識し、それを現代のデジタル社会に接続することを模索する過程においてである。情報技術と物質世界、あるいは論理と身体といった二項を横断し、そこに生まれる新たな価値を具現化するプロセスにおいて、柳が説いた「民藝」の理念が強い示唆を与えてくれた。たとえば、無名性・無私性の中から立ち上がる美や、使い手と作り手が一体となる空間、その延長にある霊性という思想は、デジタル環境の問題にも応用可能な普遍性を感じさせる。

本論考の目的は、筆者が自身の活動において注目してきた柳宗悦の民藝論と霊性概念を整理し、それらをどのように現代の技術環境に再定位・再解釈してきたかを学術的に示す点にある。筆者の創作実践や研究テーマを交えながら、柳の思想を参照することが、現代社会の課題を照射し、新しい価値観を拓く可能性を示唆できるのではないかと考えている。本稿ではまず柳宗悦自身の思想的背景と、民藝論のなかで語られる霊性の特徴を概観する。その上で、筆者の研究・制作においてそれらの概念がどのように取り入れられ、どのような展開を見せたのかを具体的に示す。さらに、デジタル技術やメディアアートの分野と民藝思想の交差点を考察することで、霊性という概念の再定義や、東洋的・日本的な宗教観がテクノロジーと結びつく意義について論じたい。

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