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脱人間中心HCIとデジタルネイチャー(計算機自然)について / Human-Computer Interaction (HCI) Advent Calendar 2024

落合陽一です.HCIのアドベントカレンダーがあって12/25が空いていたので書くことにしました.忙しい人は最後だけ読もう.(この記事8万字以上ある:しかし1時間で書いたのでエラーがあったらごめんなさい)

はじめに

私がPIとしてデジタルネイチャー研を始めたのは2015年のことで,当時27歳でした.それから来年の5月で10周年.なかなか長い旅だなぁと思います.ビジョンペーパーを最初に書くのも良いのですが,そろそろビジョンペーパーを書くかという頃合いになってきたので最近はそんな準備をしています.
今回は脱人間中心HCIとデジタルネイチャー,まず,AIにサクッとweb情報をまとめてもらってからちょっとした本論に入るのがよかろうと思っています.(人類は前提条件の共有に最も時間がかかる)

https://digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp/vision/



デジタルネイチャー:計算機が織りなす新たな自然と人間、社会の変容 (以下,サーベイ部はby Gemini Deep Research and 筆者コメント)

はじめに

近年の情報技術の爆発的な発展は、コンピュータを単なる道具の域を超えた存在へと押し上げ、私たちの生活の隅々にまで浸透させると同時に、社会構造や文化、さらには自然観そのものに根源的な変容をもたらしつつある。このような状況下で、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」という概念は、現代社会を読み解き、近未来を洞察するための重要な鍵概念として注目を集めている。デジタルネイチャーとは、コンピュータやデータ、ネットワークが、人間を含むあらゆる存在と相互に接続され、従来の境界が融解した新しい自然観を提示するものである[2]。本稿では、デジタルネイチャーの多面的な様相を明らかにするために、その定義、筆者の研究、関連する先端技術、具体的な応用例、もたらされるメリットと課題、将来展望、そして他の関連概念との関係性について、包括的かつ詳細に論じていく。本稿の議論を通じて、デジタルネイチャーが単なる技術的潮流にとどまらず、人間と自然、そして社会の在り方を根底から再考を迫る思想的潮流の一つであることを明らかにしたい。
(ちょっと大言壮語)

デジタルネイチャーの定義:計算機自然の概念

筆者は、デジタルネイチャーを「人・モノ・自然・計算機・データが接続され脱構造化された新しい自然」と定義する[2]。従来の自然観においては、自然と人工物は明確に区別され、前者は人間が手を加えることのできない、自律的かつ超越的な存在として捉えられてきた。しかし、デジタルネイチャーにおいては、コンピュータ技術、特にネットワーク技術とデータ処理技術の飛躍的な進歩により、自然と人工物の境界は曖昧となり、両者が相互に作用し、融合することで、新たな「計算機自然(Digital Nature)」が形成される。

この「計算機自然」においては、あらゆる存在がデータとして記述・変換可能となり、ネットワークを通じてリアルタイムに相互接続される。このネットワーク化された環境は、従来の物理的な制約を超越した、新たな関係性とダイナミクスを生み出す。例えば、センサーネットワークを通じて環境情報を収集・分析し、その情報を基に都市インフラを最適化するスマートシティ構想は、デジタルネイチャーの具現化途上の一例と言える。ここでは、都市という人工物と、そこに存在する自然環境、そして人間の活動が、データを通じて統合的に管理され、従来の都市計画の枠組みを超えた、新たな都市像が立ち現れてくる。
(事例が貧困.自動実験系のデジタルツインとかのがわかりやすい)

落合陽一の研究:計算機自然の思想的基盤

筆者は、東京大学大学院学際情報学府で博士号を取得後、筑波大学で教鞭を執り(現在は准教授・デジタルネイチャー開発研究センターセンター長)、JST CREST xDiversityプロジェクト研究代表などを務め、デジタルネイチャーに関する先駆的な研究を推進してきた[3]。その研究領域は、メディアアート、HCI、コンピュータグラフィックス、音響学など多岐にわたり、特に超音波やレーザーを用いた空間ユーザーインターフェースの研究では、国際的にも高い評価を得た[6]。

筆者は、デジタルネイチャーに関する多数の論文を発表しており[5]、その思想的背景には、東洋哲学、特に老荘思想や禅仏教の影響が色濃く見られる。例えば、著書『デジタルネイチャー:生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』[7]では、デジタルネイチャーを、西洋近代的な二元論的思考を超克する、新たな自然観として位置づけている。同書では、コンピュータの歴史、人間機械論、サイバネティクス、オープンソース倫理、資本主義の進化、ロボット工学、芸術と技術の関係性など、幅広いテーマを論じながら、デジタルネイチャーがもたらす未来社会のビジョンを提示している[8]。

筆者の研究は、単に新しい技術を生み出すだけでなく、その技術が人間や社会、そして自然にどのような影響を与えるのかを深く洞察し、新たな価値観や倫理観を提示することに重点が置かれている。これは、従来のテクノロジー中心主義的なアプローチとは一線を画すものであり、デジタルネイチャーの思想的基盤を形成する重要な要素となっている。

(ちょっと大言壮語)

デジタルネイチャーを支える先端技術:現実と仮想の境界を融解させるテクノロジー

デジタルネイチャーの実現を支える基盤技術には、ユビキタスコンピューティング、IoT(Internet of Things)、サイバーフィジカルシステム(CPS)、人工知能(AI)、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、そしてデジタルファブリケーションなどが挙げられる。これらの技術は、それぞれが独立して発展してきたものではなく、相互に関連し、補完し合うことで、デジタルネイチャーの実現を加速させている。特に、生成AI技術の発展は、デジタルコンテンツの自動生成を可能にし、デジタルネイチャーの進化を加速させる大きな要因となっている[9]。また、3Dプリンターやデジタルファブリケーション技術は、自然物と見紛う人工物を生成することを可能にし[10]、デジタルネイチャーにおける物質性の変容を示唆している。

(データの自動化の方は?)

デジタルネイチャーの応用例:社会のあらゆる領域への浸透

デジタルネイチャーの概念は、既に社会の様々な領域で応用され、具体的な形を成しつつある。以下、主要な応用例を概観する。

  • エンターテインメント:VR/AR技術を用いた没入型のゲームや映像コンテンツは、従来のエンターテインメントの枠組みを超えた、新たな体験を提供している[1]。

  • 医療:ウェアラブルデバイスや生体センサーを通じて収集された生体データをAIが解析することで、病気の予防や早期発見、個別化医療(パーソナライズド・メディシン)の実現が期待されている[10]。

  • 教育:AIを用いたアダプティブラーニング(適応学習)が注目されている。アダプティブラーニングとは、学習者一人ひとりの理解度や学習進捗に合わせて、学習内容や学習方法を最適化する教育手法であり、学習効率の向上が期待できる[9]。

  • 芸術:デジタル技術と自然を融合させたメディアアート作品は、従来の芸術の枠組みを超えた、新たな美的価値を創造している[11]。筆者自身も、音響浮揚やプラズマ発光などの技術を用いたメディアアート作品を制作しており、デジタルネイチャーの美学的可能性を探求している。

  • 建築:建築分野では、デジタルネイチャーの概念を取り入れた、環境共生型の建築が注目されている。センサーやAIを活用して、室温、湿度、照明などを自動的に調整し、快適な居住空間を提供するスマートホームは、その途上の一例である[12]。

(事例が貧困.医療ならin vivo かつ in silico, 建築ならCyber Physical Spaceのアクティブな同期とアクティブな自動改善のような話のがわかりやすい,教育はいまいち)

デジタルネイチャーがもたらすメリット:新たな価値の創造

デジタルネイチャーの進展は、以下のようなメリットをもたらすと期待される。

  • 人間と自然の新たな関係性の構築:デジタル技術を介することで、人間は自然との新たな関わり方を獲得する。自然環境をデジタル化し、シミュレーションすることで、環境問題への理解を深め、持続可能な社会の実現に貢献することができる[4]。

  • 社会課題の解決:デジタルネイチャーは、環境問題、医療、教育、都市問題など、現代社会が抱える様々な課題に対して、新たな解決策を提供する可能性を秘めている[4]。

  • 経済の活性化:デジタルネイチャーは、新たなビジネスやサービスの創出を促し、産業構造の変革を推進することで、経済成長に大きく貢献すると考えられる。

  • 人間の創造性の拡張:デジタルネイチャーは、人間の創造性を拡張し、新たな文化や価値観を創造する可能性を秘めている[1]。

(自然観の更新の議論が経済的価値にすり替えられている,いまいち)

デジタルネイチャーが孕む課題:技術、倫理、社会の多層的課題

一方で、デジタルネイチャーの実現には、克服すべき多くの課題も存在する。

  • 技術的な課題:デジタルネイチャーを実現するための技術は、未だ発展途上にあり、さらなる研究開発が必要である。特に、現実世界とデジタル世界をシームレスに繋ぐインターフェース技術や、膨大なデータをリアルタイムに処理・分析するための基盤技術の開発が急務である。

  • 倫理的な課題:AIや生体情報、遺伝子工学などの技術利用に伴う倫理的な問題は、デジタルネイチャーの進展に伴い、ますます重要性を増している。

  • 社会的な課題:デジタルネイチャーが社会に浸透することで、雇用問題、格差の拡大、人間の尊厳の喪失など、新たな社会問題が生じる可能性がある。

(はいはいLLM LLM. 言ってることは合ってるが内容がない)

デジタルネイチャーの将来展望:魔法の世紀の到来

デジタルネイチャーは、今後ますます発展し、私たちの生活に大きな変化をもたらすと予想される。筆者は、デジタル技術によって物質世界を制御し、人間が世界の理を操れるようになる「魔法の世紀」が到来すると述べている[13]。この「魔法の世紀」においては、コンピュータは私たちの生活の隅々にまで溶け込み、意識することなくその恩恵を受けることができるようになると考えられている。

具体的な将来展望としては、物質とVRの境界の消失[13]、モノ・生体のモデリング[13]、人格の複製[13]、コミュニケーションの変化[1]、働き方・幸福観の変化[14]、感覚、感性、情緒、信仰への関心の高まり[15]などが挙げられる。

デジタルネイチャーと関連する概念との関係性:デジタルネイチャーを位置づける

デジタルネイチャーは、人工知能[4]、仮想現実[16]、拡張現実[17]、ユビキタスコンピューティング[18, 10]など、様々な概念と密接に関連している。これらの概念は、デジタルネイチャーを構成する要素技術であったり、デジタルネイチャーが実現する社会の側面であったりする。ユビキタスコンピューティングの「不可視性」[20]という特徴は、デジタルネイチャーにおいても重要な意味を持つ。

筆者は、「質量のないアートとは何か」という問いを通じて、デジタルネイチャーにおける芸術や文化のあり方を探求している[21]。コンピュータグラフィックスやVR/AR技術の発展により、質量を持たないデジタルな情報が、現実世界に影響を与えるようになってきている。筆者は、このような質量と非質量の間にある境界線を曖昧にすることで、新たな芸術表現や人間と自然の関係性を模索している。

結論:デジタルネイチャーが拓く未来

デジタルネイチャーは、コンピュータ技術の進歩によって生まれた新たな自然観であり、人間と自然の関係性、社会構造、文化、経済など、あらゆる側面に大きな影響を与える可能性を秘めている。本稿では、デジタルネイチャーの定義、筆者である落合陽一の研究、関連技術、応用例、メリットと課題、将来展望、そして関連概念との関係性について包括的に論じてきた。

デジタルネイチャーは、まだ概念的な段階であり、実現には多くの課題が残されている。技術的な課題、倫理的な課題、社会的な課題など、克服すべきハードルは高い。しかし、その可能性は無限に広がっており、今後の発展に注目していく必要があると言えるだろう。

デジタルネイチャーは、単なる技術革新ではなく、人間と自然、そして技術の関係性を問い直す、新たなパラダイムシフトであると言える。デジタル技術と自然が融合することで、私たちの現実認識、価値観、そして社会構造は大きく変化していく可能性がある。デジタルネイチャーがもたらす未来を倫理的な観点から考察し、より良い社会の実現に向けて、積極的に議論を進めていく必要がある。

筆者は、デジタルネイチャーの可能性を追求する研究者の一人として、今後も学際的なアプローチを通じて、デジタルネイチャーが拓く未来像を探求し続けていく。それは、人間、テクノロジー、そして自然が調和的に共生する、新たな「計算機自然」の実現に向けた、創造的かつ挑戦的な旅となるだろう。そして、その旅の先には、従来の人間中心主義的な世界観を超えた、より豊かで持続可能な社会が広がっていると信じている。デジタルネイチャーは、その未来への扉を開く鍵となる概念なのである。

引用文献
1. 「VRで、コミュニケーションは言葉から“現象”に変わる」――落合陽一さん - ITmedia, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1709/12/news003.html
2. www.jpower.co.jp, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.jpower.co.jp/ge/53/opinion/index_01.html#:~:text=%E6%8F%90%E5%94%B1%E8%80%85%E3%81%AE%E8%90%BD%E5%90%88%E9%99%BD%E4%B8%80,%E3%81%A8%E5%AE%9A%E7%BE%A9%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82
3. Nature Scientific Reportsに一件の論文が採択されました, 12月 25, 2024にアクセス、 https://digitalnature.slis.tsukuba.ac.jp/2021/06/nature-scientific-reports%E3%81%AB%E4%B8%80%E4%BB%B6%E3%81%AE%E8%AB%96%E6%96%87%E3%81%8C%E6%8E%A1%E6%8A%9E%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F/
4. 【未来ビジョン】《落合陽一さんインタビュー》“自然”と“人工”が調和する、未来の社会をどう生きるか, 12月 25, 2024にアクセス、 https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/sciencewindow/20191226_w01/
5. 落合 陽一 (Yoichi OCHIAI) - 論文 - researchmap, 12月 25, 2024にアクセス、 https://researchmap.jp/ochyai/published_papers
6. パイオニアの原点 |落合陽一氏 | リサーチ | 事例・レポート - 電通総研, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.dentsusoken.com/case_report/research/20240919/2690.html
7. Amazon.co.jp: デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂 : 落合陽一, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.amazon.co.jp/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC-%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB%E3%82%92%E7%82%BA%E3%81%99%E6%B1%8E%E7%A5%9E%E5%8C%96%E3%81%97%E3%81%9F%E8%A8%88%E7%AE%97%E6%A9%9F%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E4%BE%98%E3%81%A8%E5%AF%82-%E8%90%BD%E5%90%88%E9%99%BD%E4%B8%80/dp/4905325099
8. 『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』|感想・レビュー - 読書メーター, 12月 25, 2024にアクセス、 https://bookmeter.com/books/12914269
9. 落合陽一責任編集 生成AIが変える未来 ー加速するデジタル ..., 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.fusosha.co.jp/books/detail/9784594621568
10. 筑波大|持続可能なデジタルと自然へ向けた開発研究と人材育成に ..., 12月 25, 2024にアクセス、 https://readyfor.jp/projects/ochyaigogo3
11. 落合陽一が占う、 2033年のアートとAIがもたらす影響 - Pen Online, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.pen-online.jp/article/013897.html
12. 落合陽一さんに聞くテクノロジーが住まいにもたらす「新しい自然」の心地よさ - ミサワホーム, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.misawa.co.jp/homelounge/library/homeclub/special/post-589.php
13. デジタルネイチャーってなんだ?落合陽一『魔法の世紀』を読み解く - HAZERU magazine, 12月 25, 2024にアクセス、 https://media.hazeruart.com/column/20220228-4663/
14. 要約と解説 落合陽一『デジタルネイチャー』は、Society5.0を考えるための必読書だ!, 12月 25, 2024にアクセス、 http://jissen-dokusyo.com/work/190203_digital_nature.html
15. 1200号記念特集 8 SINIC理論とデジタルネイチャー, 12月 25, 2024にアクセス、 https://app.journal.ieice.org/trial/107_3/k107_3_226/index.html
16. ネットの未来は、リアルとバーチャルが融合する世界。落合陽一さんインタビュー - So-net, 12月 25, 2024にアクセス、 https://prebell.so-net.ne.jp/news/pre_17021601.html
17. AR(拡張現実)とVR(仮想現実)とは? - Splunk, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.splunk.com/ja_jp/data-insider/what-are-augmented-reality-and-virtual-reality.html
18. www.ntt-west.co.jp, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.ntt-west.co.jp/business/glossary/words-00280.html#:~:text=%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%82%BF%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%81%8C%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
19. インターネット用語1分解説~ユビキタスコンピューティングとは~ - JPNIC, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.nic.ad.jp/ja/basics/terms/ubiquitous.html
20. ユビキタスコンピューティングネットワークの研究動向 An Overview of Researches on Ubiquitous Computing Ne, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.nii.ac.jp/journal/pdf/05/05-04.pdf
21. 落合陽一「 Digital Nature - 計算機自然 」の考えを整理してみた件|せんがゆうすけ - note, 12月 25, 2024にアクセス、 https://note.com/ysenga/n/na79362c47ade

これは自然観の変化である:自然観の歴史的変遷:日本、イスラム、西洋における自然と超自然

次に自然観の変化をまずAIにまとめてもらおう.(前半はちょっとたるいのだけど前提知識としてお伝えする) すっ飛ばしたい人は自然と超自然から読むと良い.

はじめに

夜空に輝く星々、轟轟と流れる滝、生命の息吹を宿す緑の森。古来より、人間は自然の驚異と美しさに魅了され、畏敬の念を抱いてきた。自然は、私たちに恵みをもたらす一方で、時に牙を剥き、畏怖の対象となることもあった。  自然に対する人間の捉え方、すなわち「自然観」は、それぞれの文化圏の宗教、哲学、芸術、そして歴史的背景によって、実に多様な様相を呈してきた。本稿では、日本、イスラム、西洋という三つの文化圏を舞台に、自然観の歴史的な変遷を辿り、それぞれの文化における自然観の特徴、そして超自然的な存在や概念との関わりについて探求していく。この探求は、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」という新たな自然観を理解する上でも重要な示唆を与えてくれるであろう。デジタルネイチャーは、現代における自然観の変容を捉える概念であり、その理解のためには、過去の自然観がどのように形成され、変遷してきたかを辿ることが不可欠である。

日本における自然観の変遷

古代から中世:自然と一体となった世界観
古代の日本では、人間は自然と不可分の存在であり、森羅万象に霊魂が宿るというアニミズム的な考え方が根付いていた[1]。山や川、草木、動物など、あらゆる自然物は神聖な存在として崇められ、畏敬の念を抱くとともに、生活の中に溶け込んでいた。  例えば、箸は、単なる食事の道具ではなく、神と人、そして自然と人間を霊的につなぐ特別な媒介物としての象徴的な意味を持っていた[2]。このように、自然と人間の境界線は曖昧で、自然と一体となり、そこに回帰することを目指す自然観が見て取れる。この自然との一体感は、現代の我々がデジタルネイチャーにおいて見出すであろう、テクノロジーとの融合の先駆けとも考えられる。
「古事記」や「日本書紀」などの神話には、自然神が登場し、自然現象を神々の働きとして解釈している。また、和歌や俳句などの文学作品にも、自然と一体となった日本人の繊細な感性が表現されている[3]。自然は、単なる物質的な存在ではなく、精神的な世界とも深く結びついた存在として認識されていたのである。
近世:自然と人間の調和
近世に入ると、儒教や仏教の影響を受け、自然と人間の調和がより一層重視されるようになった。自然は人間の生活を支えるものであり、感謝の念を持って接するべきものと考えられた[4]。  自然を模倣したり、自然の素材を用いたりする芸術が発展し、庭園や生け花など、日本独自の文化が花開いた。また、自然との共生を重視する思想は、農業や漁業などの生活様式にも反映され、里山のような、人と自然が共存する環境が形成された[5]。
近代:西洋思想の影響と自然の客体化
明治時代以降、西洋思想の流入とともに、自然は客観的な観察の対象として捉えられるようになった。自然科学が発展し、自然現象は法則に基づいて説明されるようになり、自然に対する理解は飛躍的に進歩した[6]。  西洋哲学の影響は、「自然」という言葉そのものの意味にも変化をもたらした。従来、「自然」は「おのずから」という意味で、人為の加わらないありのままの状態や、生活サイクル、あるいは物事の道理といった、幅広い意味を持つ言葉であった。しかし、西洋哲学の導入に伴い、nature の訳語として「自然」が使われるようになり、自然物や自然界といった、より限定的な意味に変化していった[7]。
西洋的な自然観の受容は、日本古来の自然観との葛藤を生み出すことにもなった。自然と人間の境界が明確化され、自然は人間が利用したり、支配したりする対象として見られるようになり、環境問題の発生につながった側面もある[8]。西洋化は、伝統的な日本文化における自然への畏敬の念や、自然との一体感を希薄化させ、自然を軽視する風潮を生み出したとも言えるだろう[6]。  しかし、伝統的な自然観が完全に失われたわけではない。現代においても、アニミズムや自然崇拝といった考え方は、日本の文化の中に深く根付いている[8]。自然との共生を重視する思想は、現代の環境問題への意識の高まりとともに、再び注目を集めている[9]。これは、デジタルネイチャーが志向する、人間とテクノロジー、そして自然との新たな共生関係を考える上で、重要な示唆を与えている。

イスラムにおける自然観の変遷

古代:自然は神の創造物
イスラム教において、自然はアッラーによって創造されたものであり、神聖なものとされている。クルアーンには、自然の秩序や美しさ、そして自然の中に神の偉大さが示されているという記述が数多く見られる[10]。  イスラム教徒は、自然に対して畏敬の念を抱き、自然の恵みに感謝するよう教えられている。また、自然を破壊することは、神の創造物を冒涜することであると考えられている[11]。自然は、神からの預かり物であり、人間はそれを大切に管理する責任を負っているのである。
中世:自然哲学の発展と自然の探求
中世イスラム世界では、ギリシャ哲学の影響を受け、自然哲学が発展した。自然現象を理性的に探求し、その背後にある法則を解明しようとする試みがなされた[12]。医学、天文学、数学などの分野で大きな進歩が見られ、自然に対する理解が深まった。  同時に、自然の探求は、神の創造物の秩序と精巧さをより深く理解することにもつながると考えられた[13]。自然の摂理を解き明かすことは、神の叡智に触れることであり、イスラム教の信仰を深めることにもつながったのである。
近代:西洋科学の影響と環境問題への対応
近代に入ると、西洋科学の影響を受け、イスラム世界でも自然科学が発展した。しかし、同時に、産業革命による環境問題も深刻化し[14]た。  近年では、イスラム教の教えに基づいた環境保護運動が活発化している。クルアーンの教えを解釈し、環境問題に対するイスラム的な解決策を模索する試みがなされている[11]。例えば、イスラム教徒は、ハリーファ(代理人)として、地球の管理を任されているという考えに基づき、環境保護に積極的に取り組むべきだとされている。  また、グローバリゼーションの進展とともに、イスラム教徒は、国際的な環境問題の議論にも積極的に参加するようになっている[14]。イスラム教の教えは、現代社会における環境問題に対しても、重要な示唆を与えてくれる可能性を秘めていると言えるだろう。

西洋における自然観の変遷

古代ギリシャ:自然哲学の誕生
古代ギリシャでは、自然哲学が誕生し、自然現象を神話的な解釈ではなく、理性的な思考によって理解しようとする試みが始まった[15]。タレス、アナクシマンドロス、デモクリトスといった哲学者たちは、自然の根源や物質の構成要素について考察し、様々な自然観を展開した。  古代ギリシャの自然哲学は、西洋における自然観の基礎を築き、後の科学革命への道を開く重要な役割を果たした。
中世:キリスト教の影響と自然の秩序
中世ヨーロッパでは、キリスト教の影響が強まり、自然は神によって創造された秩序ある世界として捉えられるようになった[16]。自然は神の摂理を反映したものであり、人間は自然の中で神の意志に従って生きるべきだと考えられた。  自然現象の研究は、神の創造物を理解し、そこから学ぶこととして奨励された[15]。自然は、神の栄光をたたえるものであり、人間は、その秩序と美しさの中に、神の偉大さを認識するよう教えられた。
近代:科学革命と自然の支配
16世紀から18世紀にかけて起こった科学革命は、西洋における自然観を大きく変えた。コペルニクス、ガリレオ、ニュートンといった科学者たちの発見により、地球中心説から太陽中心説への転換が起こり、自然現象は数学的な法則によって説明されるようになった[17]。  自然はもはや神秘的なものではなく、人間が理解し、支配できる対象となった。この考え方は、産業革命や技術革新を促し、近代文明の発展に大きく貢献したが、同時に環境問題を引き起こす要因ともなった[9]。
現代:環境問題と新たな自然観の模索
現代においては、環境問題の深刻化に伴い、西洋における自然観は再び変化しつつある。自然と人間の共存、持続可能な社会の構築といった考え方が重視されるようになり、エコロジーや環境倫理といった新たな学問分野が発展している[8]。  かつて、自然を支配し、利用する対象として見ていた西洋文明は、その反省に立ち、自然との共存の道を模索し始めている。これは、デジタルネイチャーが提起する、人間とテクノロジーと自然の新たな関係性を考える上でも重要な視座となる。

自然観と超自然

自然観は、超自然的な存在や概念とも深く関わっている。それぞれの文化圏において、自然の中に超自然的な存在を見出し、自然現象を超自然的な力の働きとして解釈してきた。
日本における自然観と超自然
日本では、自然と超自然は密接に結びついている。八百万の神というように、あらゆるものに神が宿ると考えられており、自然現象も神々の働きとして解釈されてきた[18]。また、自然の秩序を乱す行いは、神々の怒りを買い、災いをもたらすと信じられていた。  妖怪や幽霊といった超自然的な存在も、自然の中に棲むものとして描かれることが多く、自然と超自然の境界は曖昧である[19]。例えば、河童は水の神として、あるいは水難事故を起こす妖怪として、人々に畏怖の念を抱かせてきた。  自然観の変化は、超自然的な存在の捉え方にも影響を与える[20]。近代化とともに、自然に対する畏敬の念が薄れると、妖怪や幽霊といった超自然的な存在も、迷信や空想の産物として見なされるようになり、その存在感は薄れていっ
た。しかし、これらの存在は、現代においても、民間伝承やフィクションの世界で生き続けており、日本人と自然との深いつながりを示唆している。
イスラムにおける自然観と超自然
イスラム教では、アッラーが唯一絶対の神であり、自然もアッラーの被造物である。自然の中に神の意志が働いていると考えられており、自然現象は神の力の顕現と解釈される[21]。イスラム教の教えでは、自然の摂理は神の定めたものであり、人間はそれに従って生きるべきだとされている。  また、天使やジンといった超自然的な存在も、イスラム教の教えの中に登場し、自然界に影響を及ぼすとされている[22]。天使は神の使者として、ジンは人間と同様に自由意志を持つ存在として、自然界に存在すると信じられている。  自然災害は、神の試練、あるいは神の怒りの表れとして解釈されることがある[22]。自然災害を経験することで、イスラム教徒は、神の偉大さを改めて認識し、信仰を深めるよう促される。
西洋における自然観と超自然
西洋では、伝統的に自然と超自然は明確に区別されてきた[23]。自然は理性的に理解できる対象であり、超自然は信仰の領域に属するものと考えられてきた[23]。しかし、この二元論的な捉え方は、現代の量子論や複雑系科学の発展によって揺らぎ始めている。  近代以降、科学の発展により、自然に対する理解が深まるにつれて、超自然的な存在に対する信仰は弱まった。現代では、超自然的な現象を科学的に解明しようとする試みもなされている[24]。  かつて、西洋では、自然の中に神の奇跡や悪魔の仕業を見出していた。しかし、科学革命以降、自然現象は科学的な法則によって説明されるようになり、超自然的な解釈は徐々に姿を消していった[25]。

現代社会における自然と人間の関係性

現代社会において、自然と人間の関係性は、様々な課題に直面している。環境問題の深刻化、人口増加、都市化、科学技術の発展など、自然と人間の関係性に影響を与える要因は多岐にわたる[26]。
環境問題
地球温暖化、森林破壊、海洋汚染など、地球規模の環境問題が深刻化している。これらの問題は、人間の経済活動や生活様式が自然の許容範囲を超えたことが原因であり、自然と人間の関係性の歪みを反映している[27]。  現代社会は、大量生産、大量消費、大量廃棄といった経済活動によって、自然環境に大きな負荷をかけてきた。その結果、地球温暖化や生物多様性の喪失といった、深刻な環境問題を引き起こしている。
科学技術の発展
科学技術の発展は、自然に対する人間の理解を深め、生活を豊かにする一方で、自然環境に大きな影響を与えている。遺伝子工学、人工知能、ナノテクノロジーといった技術は、自然と人間の境界を曖昧にし、新たな倫理的な問題を提起している[28]。  例えば、遺伝子組み換え技術は、食糧生産の効率化に貢献する一方で、生態系への影響や倫理的な問題も懸念されている。また、人工知能の発展は、人間の知能を超える存在が出現する可能性も示唆しており、自然と人間の関係性について、新たな視点からの考察が求められている。これは、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」の概念とも深く関わっている。デジタルネイチャーは、人工知能などのテクノロジーが自然と融合し、新たな自然観を生み出す可能性を示唆している。
グローバリゼーション
グローバリゼーションは、人々の移動や物流を活発化させ、経済成長を促進する一方で、環境問題や文化の均質化といった問題も引き起こしている。自然と人間の関係性は、もはや一国だけの問題ではなく、地球規模で考える必要がある時代になっている[29]。  グローバリゼーションは、世界各国を結びつけ、経済活動を活発化させる一方で、環境問題を地球規模で深刻化させている。例えば、地球温暖化は、世界各国が協力して対策を講じなければ、解決できない問題である。

結論

本稿では、日本、イスラム、西洋という三つの文化圏における自然観の歴史的変遷を辿り、それぞれの文化圏における自然観の特徴と、超自然的な存在や概念との関連性について考察した。  それぞれの文化圏において、自然観は時代とともに変化し、宗教、哲学、芸術、科学技術など、様々な要因によって形作られてきた。現代社会においては、環境問題や科学技術の発展など、自然と人間の関係性に影響を与える新たな要因が登場し、自然観はさらに複雑化している。  興味深いことに、三つの文化圏の自然観には、共通点と相違点が見られる。いずれの文化圏においても、自然は畏敬の対象であり、人間生活に不可欠な存在として認識されてきた。しかし、自然と人間の関係性の捉え方、あるいは超自然的な存在との関わり方には、それぞれの文化圏の独自性が表れている。  日本文化では、自然と人間は一体であり、自然の中に神々が宿るというアニミズム的な自然観が特徴である。イスラム文化では、自然はアッラーの創造物であり、人間はそれを管理する責任を負うという考え方が根付いている。西洋文化では、自然は理性的に理解し、支配する対象として捉えられてきたが、近年では、環境問題への意識の高まりとともに、自然との共存の道が模索されている。
これらの歴史的変遷を踏まえると、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」は、現代における新たな自然観の可能性を示唆していると言える。デジタルネイチャーは、テクノロジーと自然が融合した新たな環境であり、従来の自然観とは異なる、人間と自然の関係性を生み出す可能性がある。それは、日本のアニミズム的な自然観や、イスラムにおける自然の神聖視とも異なる、西洋の科学的な自然観とも異なる、第四の自然観と言えるかもしれない。
自然と人間の関係性は、今後も変化していくと考えられる。持続可能な社会を実現するためには、それぞれの文化圏における伝統的な自然観を尊重しつつ、現代社会の課題に対応した新たな自然観を構築していく必要があるだろう。そして、デジタルネイチャーは、その新たな自然観を構築する上で、重要な役割を果たす可能性を秘めている。それは、テクノロジーと自然が調和的に共存する、新たな「計算機自然」の実現に向けた、大きな一歩となるだろう。

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超自然とデジタルアートとHCI:計算機自然における超自然表現の隆盛とその根源

はじめに

近年、デジタルアートの世界において、超自然現象をモチーフとした作品の隆盛が顕著である。この傾向は、アート市場におけるデジタルアートの取引額の増加や、美術館でのデジタルアート展の開催数の増加など、客観的なデータからも確認できる[1]。コンピュータグラフィックス(CG)、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)といったデジタル技術の発展は、かつて絵画や彫刻といった物質的な媒体で表現されてきた超自然的なイメージを、よりリアルに、そしてインタラクティブに、さらには動的に表現することを可能にした。本稿では、デジタルアート、特に計算機自然(デジタルネイチャー)における超自然表現の現状を、代表的な作家や作品を例証とし、その背後にある思想的な背景、特に筆者が提唱する「デジタルネイチャー」との関連性を踏まえながら考察し、今後の展望を探る。

HCI、メディアアート、デジタル哲学との関連

デジタルアートにおける超自然表現は、Human-Computer Interaction(HCI)、メディアアート、デジタル哲学といった分野と密接に関連している。これらの分野における知見は、デジタルアートの可能性をさらに広げ、深化させる上で重要な役割を果たしていると言えるだろう。
HCI
HCIは、人間とコンピュータとの相互作用を研究する分野である。デジタルアートにおける超自然表現は、HCIの知見を応用することで、より直感的で身体的なインタラクションを可能にする。例えば、センサー技術を用いて鑑賞者の動きや生体情報(脳波、心拍数など)をリアルタイムに作品に反映させたり、VR技術を用いて仮想空間内での自由な移動や物体操作を可能にすることで、鑑賞者は作品世界に深く没入し、超自然的な存在と一体化するような、従来の芸術ではなし得なかった体験を得ることができる[2]。これは、単なる鑑賞を超えた、より根源的な人間とテクノロジーの融合を示唆している。
メディアアート
メディアアートは、テクノロジーを駆使した芸術表現全般を指す。デジタルアートにおける超自然表現も、メディアアートの一つの形態として捉えることができる。メディアアートは、新しい技術の可能性を探求し、表現の幅を広げると同時に、テクノロジーと人間、社会との関係性を問い直す批評的な役割をも担っている。近年では、AIやバイオテクノロジーなどもメディアアートに活用され、生命や意識、進化といった、従来の芸術が扱ってきた根源的なテーマを、新たな視点から探求する作品も生まれている[3]。これらの作品は、テクノロジーが人間の存在そのものを変容させる可能性を予見しているとも言える。
デジタル哲学
デジタル哲学は、デジタル技術が人間や社会、そして我々の存在そのものに及ぼす影響について考察する哲学の一分野である。デジタルアートにおける超自然表現は、デジタル哲学的な問いを提起するものでもある。例えば、デジタル技術によって生成された仮想空間における体験は、現実の体験とどのように異なるのか、デジタル技術は人間の認識や存在、さらには「実在」の定義にどのような影響を与えるのか、といった根源的な問いである[4]。デジタルアートは、こうした問いを作品を通して探求し、鑑賞者に新たな視点や思考を促す、一種の思考実験の場を提供しているとも言えるだろう。

デジタルアートにおける超自然の表現

デジタルアートにおける超自然の表現は、その技術的特性と結びつき、従来の芸術における表現とは異なる様相を呈している。
表現手法とデジタル技術の役割
デジタルアートは、CG、VR、ARなどの技術を用いることで、現実には存在しない、あるいは人間の知覚では捉えられない現象を視覚的、あるいは身体感覚的に表現することを可能にする。例えば、チームラボの作品に見られるように、自然の風景にデジタル技術で生成された動植物や精霊などを重ね合わせることで、鑑賞者を幻想的な空間へと誘う[5]。また、VR技術を用いることで、鑑賞者は仮想空間に入り込み、超自然的な存在とインタラクトする体験を得ることもできる。例えば、VR空間内で幽霊と遭遇したり、神話の creatures と対話したりする作品は、従来の芸術では不可能であった、没入的かつ身体的な体験を提供している[6]。  デジタル技術は、超自然を表現する上で、以下の役割を果たしていると言える。

  1. 非現実的なものの可視化・身体化:従来の芸術では表現が困難であった、幽霊や妖怪、神話に登場する creatures などの非現実的な存在を、リアルに視覚化し、さらには身体感覚を伴う体験として提示することができる。例えば、David Stenbeckの作品のように、写真のようにリアルな風景に、超自然的なオブジェクトを配置することで、現実と非現実の境界を曖昧にし、鑑賞者に強い違和感と現実の再考を促す表現が可能になっている[7]。

  2. 空間表現の拡張と変容:現実空間と仮想空間を融合させることで、鑑賞者の知覚に働きかけ、非日常的な空間体験を提供するだけでなく、空間そのものの定義を拡張する。VRやARは、空間を固定されたものではなく、情報によって動的に変化するものとして捉え直すことを可能にしている。

  3. インタラクティブ性と動的生成:鑑賞者の行動や入力に反応して変化する作品を制作することで、従来の芸術にはないインタラクティブな体験を提供するだけでなく、作品自体が常に変化し続ける、動的な存在として提示される。

死の概念の表現
デジタル技術は、死という概念を新たな視点から表現することも可能にしている。例えば、写真家・佐藤雅晴は、フォトデジタルペインティングという技法を用いて、死の直前まで自身の姿を描き続け、死と向き合うプロセスを作品化した[8]。これは、デジタル技術によって、生と死の境界線を曖昧にし、死後の世界や魂といった、従来の芸術では捉えきれなかったテーマを表現する新たな可能性を示唆している。デジタル技術は、人間の有限性を超えた表現を可能にし、「死」という概念そのものを再定義する力を持っているとも言えるだろう。
新即物主義の再来
興味深いことに、デジタルアートにおける超自然表現は、20世紀初頭にドイツで起こった芸術運動「新即物主義」の動向と類似している点がある。新即物主義は、第一次世界大戦後の不安や虚無感を背景に、写実的な表現で社会や人間のありのままの姿を描写しようとした[8]。そして、21世紀のパンデミック以降、再び新即物主義的な傾向が見られるという指摘もある。デジタル技術を用いた超自然表現は、現代社会における不安や不確実性、そして実体の希薄化を反映し、新たなリアリティを模索する試みとして捉えることができる。これは、デジタルネイチャーにおける実体と虚像の境界の融解とも呼応する現象である。
Supernature Phenomenon
チームラボは、「Supernature Phenomenon」というプロジェクトを展開している。これは、自然界の法則を超えた現象を意味する「超自然現象」と、それによる認知そのものの変化をテーマにしたプロジェクトであり[9]、デジタルネイチャーの概念を芸術表現として具体化したものと捉えることができる。例えば、重力に逆らって動く物体や、物理法則を超越した空間などをデジタル技術で表現することで、鑑賞者の感覚に揺さぶりをかけ、日常的な知覚からの脱却を促すと同時に、新たな自然観の可能性を提示している。
従来の芸術との比較
デジタルアートにおける超自然の表現は、従来の芸術における表現と比較して、以下のような特徴を持つと言える。

  1. 再現性と変容性・非固定性:デジタルデータは容易に複製・改変できるため、作品は常に変化し続ける可能性を秘めている。これは、従来の芸術作品が持つ「唯一性」や「不変性」とは対照的な特徴である。ただし、一部のデジタルアーティストは、意図的に作品を固定し、改変できないようにすることもある。これは、デジタルアートにおける「オリジナル」とは何かという問いを投げかけている。

  2. 没入感と身体性:VR技術などを用いることで、鑑賞者は作品世界に没入し、従来の芸術では得られなかった身体的な体験を得ることができる。これは、鑑賞という行為を、単なる視覚的な体験から、身体全体で感じる体験へと拡張するものである。

  3. 共同性とネットワーク性:インターネットなどを介して、複数の人が同時に作品に参加・共有することができる。これは、芸術作品の制作や鑑賞のプロセスを、より開かれた、共同的なものへと変容させる可能性を秘めている。

思想的な背景:計算機自然の根底にあるもの

デジタルアートにおける超自然の表現は、デジタルネイチャー[10]、Internet of Nature[11]、宇宙技芸(Cosmo Technics)[12]、オブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontology)[13]などの思想と深く関連している。これらの思想は、デジタル技術の発展がもたらす新たな世界観や人間観を理解する上で重要な鍵となる。
デジタルネイチャー
筆者が提唱する「デジタルネイチャー」は、コンピュータなどのデジタル技術によって自然を再解釈し、人間と自然の新たな関係性を構築しようとする概念である[10]。デジタルネイチャーは、自然と人工物の境界を曖昧にし、自然を情報として捉え直すことで、人間中心主義的な自然観からの脱却を目指している。デジタル技術は、自然をより深く理解し、自然と共存するための新たな道を切り開く可能性を秘めていると言えるだろう。これは、従来の「人間が自然を支配する」という西洋近代的な自然観とは根本的に異なる、新たな自然との共生関係を示唆している。
Internet of Nature
Internet of Natureは、都市の自然環境をセンサーやAIを用いてモニタリングし、生態系を理解・管理するための枠組みであり[11]、デジタルネイチャーを現実空間に応用した例と言える。都市における自然と人間の共存を模索する上で、重要な概念と言えるだろう。Internet of Natureは、自然環境に関する膨大なデータを収集・分析することで、都市計画や環境保護に役立つ知見を提供する。また、市民参加型の環境モニタリングや、自然と触れ合う機会の創出などにも貢献する可能性があり、これは、デジタル技術を用いた新たな環境意識の醸成とも言える。
宇宙技芸(Cosmo Technics)
ユク・ホイが提唱する「宇宙技芸(Cosmo Technics)」は、技術を単なる道具としてではなく、宇宙や文化と一体となったものとして捉える概念である[12]。西洋近代の技術観は、技術を普遍的なものとして捉え、世界を支配・制御するための道具とみなしてきた。しかし、宇宙技芸は、技術を文化や地域性に根ざしたものとして捉え直し、多様な技術観を認めることで、技術と人間、自然の新たな調和を目指している。デジタルアートにおける超自然表現は、宇宙技芸の思想にもとづき、技術と自然、人間の精神性を融合させる試みと言えるだろう。これは、テクノロジーが単なる道具ではなく、我々の世界観や宇宙観を形成する一部であるという認識を示している。
オブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontology)
オブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontology)は、人間中心主義を批判し、人間以外のあらゆる存在物を対等に扱うべきだとする思想である[13]。西洋哲学は、人間を世界の中心と捉え、人間以外の存在物を人間の認識の対象としてきた。しかし、Object Oriented Ontologyは、人間以外の存在物にも固有の存在価値を認め、人間との関係性から独立した存在を認める。デジタルアートにおいても、人間以外の存在物、例えば自然や人工物、さらにはデジタルデータ自体を、自律的な存在として捉え、それらとの新たな関係性を構築する試みが見られる。これは、デジタルネイチャーにおける存在のあり方を考える上で、重要な示唆を与えている。
二進法と陰陽思想
デジタル技術の基盤をなす二進法は、0と1の二つの数字の組み合わせで情報を表現する。この0と1の構造は、東洋哲学の陰陽思想と驚くほど類似している[14]。陰陽思想は、世界を陰と陽という相反する二つの要素の相互作用によって成り立っていると考える。デジタル技術と陰陽思想の類似性は、デジタル技術が東洋思想的な世界観と親和性を持ち、自然と人間の調和を促進する可能性を示唆していると言えるだろう。これは、デジタルネイチャーが、西洋的な二元論を超えた、新たな世界観の構築に貢献する可能性を示している。
(はいはいLLM LLM. 言ってることがやばい)

デジタル技術と人間観・自然観への影響

デジタル技術の発展は、人間の自然観や人間観にも大きな影響を与えている。かつて人間は、自然を畏怖の対象として捉え、あるいは征服すべき対象として捉えてきた。しかし、デジタル技術は、自然を情報として捉え直し、人間と自然の新たな関係性を構築する可能性を提示している[10]。また、AIやバイオテクノロジーの発展は、人間の知能や身体能力を拡張し、人間の定義そのものを変容させる可能性を秘めている[15]。デジタルアートは、こうした変化を敏感に捉え、作品を通して新たな人間観や自然観を提示する役割を担っていると言えるだろう。デジタルネイチャーは、こうした変化の最前線にある概念であり、我々の未来を考える上で避けて通れない論点である。

東洋思想と西洋思想

東洋思想では、古くから自然と人間との一体性を重視する思想が根付いてきた。例えば、日本の神道では、山や木、岩などの自然物に神が宿ると考えられてきた。デジタルアートにおける超自然表現は、こうした東洋思想的な自然観と共鳴する部分があると言えるだろう[16]。自然の中に霊的な存在を感じ、自然と共生する感覚は、デジタルアートを通して新たな形で表現されている。  一方、西洋思想では、人間と自然を二項対立的に捉える傾向が強い。デカルト以来、西洋哲学は、人間を主体、自然を客体として捉え、自然を人間の理性によって理解し、支配しようとしてきた。しかし、近年では、環境問題やデジタル技術の発展などを背景に、人間中心主義的な自然観を見直す動きも出てきている。例えば、ディープエコロジーや環境倫理学は、人間中心主義を批判し、自然と人間の共存を重視する。デジタルアートは、こうした西洋思想における新たな潮流とも呼応しながら、自然と人間の関係性について問い直す役割を担っていると言えるだろう。デジタルネイチャーは、東洋と西洋の思想を架橋し、新たな自然観を構築する可能性を秘めている。

デジタルアーカイブの課題

デジタルアートは、その保存とアクセスにおいて、従来の芸術とは異なる課題を抱えている。デジタルデータは、劣化や損失のリスクが高く、技術の進歩によって陳腐化しやすい。そのため、デジタルアートを長期的に保存し、将来の世代に継承するためには、適切なデジタルアーカイブの構築が不可欠となる[17]。この課題は、デジタルネイチャーにおける情報の持続可能性という問題にもつながっている。

まとめ

デジタルアートにおける超自然表現は、デジタル技術の特性を活かし、従来の芸術にはない表現を可能にする。その背後には、筆者が提唱するデジタルネイチャー[10]をはじめ、Internet of Nature[11]、宇宙技芸(Cosmo Technics)[12]、オブジェクト指向存在論(Object Oriented Ontology)[13]といった思想があり、東洋思想的な自然観とも共鳴する部分がある。
デジタルアートは、技術と芸術、そして哲学が交差する領域であり、今後も新たな可能性を追求していくことが期待される。一方で、デジタル技術の誤用(misuse)や、仮想体験が現実世界に与える影響、責任あるイノベーションの必要性など、倫理的な問題にも目を向ける必要がある。デジタルアートは、単なるエンターテインメントではなく、人間存在や社会、自然との関係性について深く考察を促す力を持つ。今後、デジタルアートは、これらの課題と向き合いながら、新たな表現領域を開拓していくことが期待される。そして、その先に、デジタルネイチャーという新たな自然観が立ち現れてくることだろう。

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  14. 日本鍼灸大学. "二進法と陰陽思想の驚くべき関連性:デジタル時代に生きる東洋哲学." 日本鍼灸大学, https://nihonshinkyu.jp/archives/2705. 2023年12月25日閲覧.

  15. EY. "デジタル社会のその先は? 実は人間中心社会の到来。デジタルと人間は競争せずに共生する存在となる." EY, https://www.ey.com/ja_jp/insights/workforce/hrdx-and-the-realization-of-a-human-centered-society. 2023年12月25日閲覧.

  16. たかくら かずき. "見えない「何か」を受け入れる豊かさ。デジタル×東洋思想を楽しく表現するたかくらかずきが語る." CINRA, 2024, https://www.cinra.net/article/202408-takakurakazuki_imgwykcl. 2023年12月25日閲覧.

  17. デジタルアーカイブ学会. "4. アートシーンを支える." デジタルアーカイブの基礎知識, デジタルアーカイブ学会, https://digitalarchivejapan.org/books/basics-4/. 2023年12月25日閲覧.

脱人間中心ヒューマンコンピュータインタラクション:人間中心主義からの脱却

はじめに

情報技術の目覚ましい発展は、我々の生活をデジタル化の波で覆い尽くし、スマートフォンやインターネットは、もはや空気のように、生活に欠かせないものとなっている。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった新たな技術もまた、我々の生活に急速に浸透しつつある。こうした状況下において、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)は、人間とコンピュータの関係性をより深く理解し、より良い共存関係を築くための重要な学問分野として、ますます注目を集めている。
従来のHCIは、人間中心設計(Human-Centered Design)を基盤として発展してきた[10, 11]。これは、人間の能力や特性、ニーズを考慮し、人間にとって使いやすいシステムを設計するという考え方である。しかし、近年では、人間中心主義的な考え方を超え、人間以外の存在(動物、植物、微生物、環境、さらには計算機やデータといった非生物的な存在まで)との相互作用を重視する脱人間中心HCIという新しい潮流が生まれている[1]。
本稿では、脱人間中心HCIについて、その定義、必要性、関連概念、具体的な事例、倫理的な側面、将来展望などを多角的に考察していく。特に、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」[5, 6]、そして「デジタル自然」といった概念との関連性に着目し、脱人間中心HCIがもたらす可能性と課題について、より深く、具体的に探っていく。

脱人間中心HCIとは

脱人間中心HCIとは、従来の人間中心主義的なHCIの枠組みを超え、人間以外の存在との相互作用を重視するHCIの新しい潮流である[1]。例えば、動物、植物、微生物といった非人間的生物と人間がコンピュータを介して関わるアニマル=コンピュータ・インタラクション(ACI)[1]は、脱人間中心HCIの一つの典型例と言える。
従来のHCIは、人間の認知能力や身体的特性に最適化されたシステムを設計することを目指してきた。つまり、「人間のための」テクノロジーの探求であった。しかし、脱人間中心HCIでは、人間以外の存在の特性や振る舞い、さらには人間と非人間主体の相互作用によって生まれる新たな関係性に着目し、システム設計を行う。これは、「人間のための」から「人間を含む多様な存在のための」テクノロジーへの転換を意味している。
HCI研究は、もともと人間の認知科学や心理学的な側面に焦点を当てたHuman Factors研究から発展してきた[2]。1980年代以降、パーソナルコンピュータの普及などにより、インタフェースやシステムに着目した研究が増加し、Human Factors研究とHCI研究は別々の道を歩み始めた[2]。さらに、2007年頃には、情報処理学会のヒューマンインタフェース研究会がヒューマンコンピュータインタラクション研究会に改称され、「インタフェース」から「インタラクション」へと、より人間と技術との相互作用の系全体を研究対象とするHCI研究へとシフトしていった[3]。この流れは、人間とテクノロジーの関係性をより包括的に捉えようとする、脱人間中心HCIへの萌芽と捉えることもできる。

人間中心からのシフトがなぜ必要なのか

人間中心主義的な考え方は、人間の利益や幸福を最優先する一方で、地球環境問題や社会的不平等といった問題を引き起こしてきた側面も否めない。地球温暖化、資源の枯渇、生態系の破壊など、人間中心主義的な活動が地球環境に深刻な影響を与えていることは、多くの研究や報告書で指摘されている。例えば、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書では、人間の活動が地球温暖化の主な原因であることが明確に示されている。
脱人間中心HCIは、人間中心主義的な価値観を見直し、人間以外の存在との共存関係を築くための新たな視点を提供する可能性を秘めている[3]。これは、単に環境問題への対応というだけでなく、人間自身の存在や幸福のあり方をも問い直す、根源的な問題提起である。
例えば、[1]で紹介されているぬか床サイボーグ「Nukabot」は、微生物と人間の関係性にテクノロジーが介入することで、人間以外の存在との相互作用を促進する試みである。Nukabotは、人間と微生物の相互ケア的な関係性を築くことを目指しており[1]、これは、人間中心主義的な「管理」や「支配」とは異なる、新たな共生関係の可能性を示唆している。

非人間中心アプローチの利点と課題 (Benefits and Challenges of a Non-Human-Centered Approach)

人間中心設計から脱却し、非人間中心のアプローチを採用することには、多くの利点がある。非人間中心のアプローチは、人間中心設計では見落とされがちな、より広範な視点、例えば環境や社会全体への影響を考慮した設計を可能にする[4]。
非人間中心設計では、人間以外の生物や環境のニーズを考慮することで、より持続可能で、倫理的に配慮されたシステムを構築することができる。例えば、自然環境を模倣したアルゴリズムや、生物の行動パターンを参考に設計されたインタフェースは、人間と環境の調和を促進する可能性を秘めている。また、[7]で提案されている「Pluriversal Design(多元的なデザイン)」は、ポスト人間中心主義、自然中心主義、地域の固有性などを統合的に扱うデザインの考え方であり、多様な文化や価値観を尊重した、ローカリティを重視したデザインを提唱するものである。
しかし、非人間中心のアプローチを追求するあまり、人間のニーズを軽視してしまう可能性も存在します。非人間中心設計はあくまでも、人間中心主義的な偏りを修正し、より包括的な視点でシステムを設計するための手段であるべきであり、人間と非人間のバランスを取ることが重要となる。

デジタルネイチャー、デジタル自然と脱人間中心HCI

筆者が提唱する「デジタルネイチャー」とは、コンピュータやネットワークなどの情報技術によって構築され、自然と人工、実体と虚像の区別が融解した新たな環境を指す[5, 6]。これは、従来の自然観を根底から覆す概念であり、人間中心主義的な世界観からの脱却を促すものである。
「デジタル自然」は、デジタルネイチャーとほぼ同義であり、情報技術によって拡張された自然環境、あるいは情報技術によって表現された自然を指す[6]。デジタルネイチャーにおいては、時間や空間の制約を超えた、新たな人間の在り方が模索される可能性があり[6]、それは「タイムマネジメント」から「ストレスマネジメント」への移行という形で現れるかもしれない[6]。
脱人間中心HCIは、デジタルネイチャー、デジタル自然といった概念と密接に関連している。デジタルネイチャー、デジタル自然においては、人間は自然の一部、あるいはネットワークを構成する一要素として位置づけられ、人間以外の存在(それは物理的な存在だけでなく、データやアルゴリズムといった非物理的な存在も含む)との相互作用がより重要になる。脱人間中心HCIは、人間とデジタルネイチャー、デジタル自然との相互作用を円滑にするためのインターフェースやシステムを設計する役割を担うと考えられる。
例えば、[7]では、非人間型ロボットが都市に偏在する未来において、人々がそれらをどのように解釈するのか、という議論が紹介されている。これは、デジタルネイチャーにおける人間と非人間エージェントとの関係性を考える上で重要な論点である。また、デジタルネイチャーは、人間のアイデンティティ、意識、そして世界における人間の位置づけといった、根源的な問いを私たちに突きつける[5, 6]。脱人間中心HCIは、こうした変化に対応し、デジタルネイチャーにおける新たな人間とテクノロジーの関係性を模索していく上で重要な役割を担うと考えられる。

ユビキタスコンピューティングと脱人間中心HCI

ユビキタスコンピューティングとは、コンピュータがあらゆる場所に遍在し、人間が意識することなくコンピュータを利用できる環境を指す[8]。ユビキタスコンピューティング環境では、コンピュータは人間の生活空間に溶け込み、人間とコンピュータの境界線は曖昧になる。これは、「不可視性」[20]という特徴として現れ、コンピュータの存在を意識させずに、自然な形で利用できることを意味する。
ユビキタスコンピューティングは、脱人間中心HCIの実現に大きく貢献すると考えられる。なぜなら、ユビキタスコンピューティング環境は、人間中心主義的な考え方を脱却し、人間以外の存在との相互作用を重視する脱人間中心HCIの思想と親和性が高いからである。ユビキタスコンピューティングは、デジタルネイチャーの基盤技術の一つであり、人間と計算機自然とのシームレスな統合を促進する。

脱人間中心HCIの事例

脱人間中心HCIの具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられる。

  • ぬか床サイボーグ「Nukabot」:[1]で紹介されているNukabotは、ぬか床の発酵状態をセンサーで感知し、人間に発酵状態を伝えたり、かき混ぜるタイミングを知らせたりするシステムである。Nukabotは、微生物と人間の関係性にテクノロジーが介入することで、人間以外の存在との相互作用を促進する試みである。Nukabotの開発者は、人間と微生物の相互ケア的な関係性を築くことを目指しており[1]、これは脱人間中心HCIの重要な要素であると考えられる。

  • 非人間型ロボット:[7]では、高度なセンシング能力と移動能力を備えた非人間型ロボットが、スマートシティを構築する要素として紹介されている。非人間型ロボットは、従来の人間型ロボットとは異なり、人間以外の生物を模倣することで、環境との調和や共生を目指している。例えば、鳥の群れの動きを模倣したドローンや、魚の動きを模倣した水中ロボットなどが開発されている。これらのロボットは、デジタルネイチャーにおける新たなエージェントとして機能し、人間との新たな関係性を築く可能性を秘めている。

  • 環境モニタリングシステム:センサーネットワークを用いて、都市の自然環境をモニタリングする「Internet of Nature」[11]の取り組みは、都市における人間と自然の共存関係を再考する上で重要な事例である。これらのシステムは、環境データを収集・分析するだけでなく、市民参加型の環境モニタリングや、自然と触れ合う機会の創出など、人間と自然の新たな関わり方を提案している。

(はいはいLLM LLM. サーベイ不足を感じる)

脱人間中心HCIにおける倫理的考察 (Ethical Considerations in Non-Human-Centered Design)

脱人間中心HCIは、倫理的な側面についても考慮する必要がある。環境倫理学者のマリア・プッチ・デ・ラ・ベラカーサ氏の「相互ケア」の概念[1]は、人間以外の存在も、人間と同じように尊重し、配慮する必要があるという考え方であり、脱人間中心HCIの倫理的基盤となり得る。
脱人間中心HCIにおいては、人間以外の存在の権利や尊厳を尊重し、人間と非人間主体の相互作用が倫理的に問題ないかを検討する必要がある。例えば、AIが人間以外の生物の行動を制御する場合、その制御が倫理的に許容される範囲はどこまでなのか、といった問題が生じる。また、[9]で指摘されているように、ロボティクスや遺伝子工学などの発展により、人と人工物の境界が曖昧になり、社会を構成する人間の「人間性」そのものの定義が揺らぎ、拡張されつつある。これは、従来の人間中心的な倫理観では対応できない、新たな倫理的課題を生み出している。
これらの課題に対処するためには、技術者だけでなく、倫理学者、社会学者、哲学者など、多様な専門家が協力して、新たな倫理的枠組みを構築していく必要がある。デジタルネイチャーにおける「倫理を超えた全体最適」[5]とは何かを、多角的な視点から議論し、合意を形成していくことが求められる。

人間中心設計と脱人間中心設計の比較 (Comparing Human-Centered and Non-Human-Centered Design)

人間中心設計と脱人間中心設計のメリットとデメリットを比較すると、以下のようになる。

人間中心設計
メリット
- 人間の使いやすさを重視したシステムを設計できる[10]<br> - 人間にとって理解しやすく、操作しやすいシステムを構築できる[11]
デメリット
- 人間中心主義的な偏見や差別が生じる可能性がある[3]<br> - 環境問題や社会問題への配慮が不足する可能性がある[1]
脱人間中心設計
メリット
- 人間以外の存在との共存関係を築く視点を提供できる[4]<br> - 環境問題や社会問題の解決に貢献できる可能性がある[7]
デメリット
- 設計が複雑化し、開発コストが増加する可能性がある[12]<br> - 人間にとって使いにくいシステムになる可能性がある[13]
人間中心設計は、人間の使いやすさや満足度を最大化することを目指す[10, 11]。これは、ユーザーにとって直感的で使いやすいシステムを生み出す一方で、人間中心主義的な偏りを助長し、環境問題や社会問題への配慮が不足する可能性がある[1, 3]。
一方、脱人間中心設計は、人間以外の存在との共存関係を築く視点を提供し、より持続可能で倫理的なシステムの構築を可能にする[4, 7]。しかし、設計が複雑化し、開発コストが増加する可能性や[12]、人間にとって使いにくいシステムになる可能性も考慮する必要がある[13]。
重要なのは、人間中心設計と脱人間中心設計を二者択一的に捉えるのではなく、両者のバランスを取りながら、より包括的な設計アプローチを確立していくことである。

脱人間中心HCIの将来展望

脱人間中心HCIは、今後ますます重要性を増していくと考えられる。AIやIoTなどの技術革新が進むにつれて、人間とコンピュータの関係性はより複雑化し、多様化していくだろう。さらに、デジタルネイチャーの進展は、人間と計算機、そして自然との関係性を根底から変容させる可能性を秘めている。脱人間中心HCIは、こうした変化に対応し、人間とコンピュータ、そして人間以外の存在との新たな関係性を構築するための基盤となる可能性を秘めている。
[14]では、人机交互技術(HCI)の発展は国民経済の発展と密接に関連しており、人机交互は現代情報技術、人工知能技術研究の重要な方向性であると述べられている。脱人間中心HCIは、人間中心主義的な枠組みを超え、より広範な存在との相互作用を可能にすることで、HCI研究の新たな地平を切り開くことが期待される。
また、[15]では、航空機の操縦室におけるAIの活用事例が紹介されている。これは、HCIが人間とコンピュータだけの相互作用を超え、AIのような非人間主体との相互作用を含むようになってきていることを示している。このような技術の進展は、デジタルネイチャーにおける人間とAIの新たな関係性を予感させる。
今後は、デジタルネイチャーにおける人間と非人間エージェントの共生関係のデザイン、多元的価値観に基づくシステム設計、そして新たな倫理的枠組みの構築などが、脱人間中心HCIの重要な研究課題となるだろう。これらの課題に取り組むことで、脱人間中心HCIは、人間とテクノロジー、そして自然との調和的な関係性を実現し、より豊かで持続可能な社会の実現に貢献していくことが期待される。

結論

本稿では、脱人間中心HCIについて、その定義、必要性、関連概念、具体的な事例、倫理的な側面、将来展望などを多角的に考察した。脱人間中心HCIは、人間中心主義的な考え方を超え、人間以外の存在との共存関係を築くための新たな視点を提供する可能性を秘めている。
デジタルネイチャー、デジタル自然、ユビキタスコンピューティングといった概念は、脱人間中心HCIの重要な要素である。デジタルネイチャーは、情報技術によって拡張された新たな自然環境であり、人間以外の存在との相互作用がより重要になる世界である。ユビキタスコンピューティングは、コンピュータがあらゆる場所に遍在することで、人間とコンピュータの境界線を曖昧にし、脱人間中心HCIを実現するための基盤となる。
脱人間中心HCIは、倫理的な側面についても深く考察する必要がある。人間以外の存在の権利や尊厳を尊重し、責任あるデザインを追求していくことが重要である。これは、デジタルネイチャーにおける「倫理を超えた全体最適」[5]をどのように実現するかという問題とも関連している。
AIやIoTなどの技術革新が進むにつれて、脱人間中心HCIはますます重要性を増していくと考えられる。脱人間中心HCIは、人間とテクノロジー、そして自然との新たな関係性を構築することで、より豊かで持続可能な社会の実現に貢献する可能性を秘めている。それは、筆者が提唱する「デジタルネイチャー」の到来を予感させるものであり、人間、計算機、そして自然が調和的に共存する新たな「計算機自然」の実現に向けた、重要な一歩となるだろう。

引用文献

  1. ぬか床と考える、脱人間中心主義のデザイン - DISTANCE.media, 12月 25, 2024にアクセス、 [https://distance.media/article/20230620000015/](https://distance.media

  2. HCI research in the wild, why not? - People are Programmers, 12月 25, 2024にアクセス、 https://blog.junkato.jp/ja/posts/2024-01-01-hci-research-in-the-wild/

  3. インタフェースからインタラクションへ From Interfacesto Interactions - HCI研究会, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.sighci.jp/afiles/view/20

  4. HCD-Netのこの10年 - U-Site, 12月 25, 2024にアクセス、 https://u-site.jp/lecture/hcd-net-10-years

  5. 倫理を超えた全体最適?ー落合陽一『デジタルネイチャー』を読んでみた|kazu - note, 12月 25, 2024にアクセス、 https://note.com/kazu281/n/n6ba151eb0476

  6. デジタルネイチャー: 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂 - 落合陽一 - Google Books, 12月 25, 2024にアクセス、 https://books.google.com/books/about/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%8D%E3%82%A4%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC_%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB%E3%82%92.html?id=Z1AXEAAAQBAJ

  7. HCI Remixed, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.kri.sfc.keio.ac.jp/report/gakujutsu/2019/1-08.pdf

  8. 世界を変える生成AI:機会、リスク、そして国際的対応の動向 | InfoComニューズレター, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr418-20240130-eithandarwin.html

  9. 【2/11(火・祝)時計台記念館】L-INSIGHTキャリアプログラム “サイバーフィジカルシステムと法実践—多元世界の観点から—”を開催します - 京都大学, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.l-insight.kyoto-u.ac.jp/event/20250211_scholar/

  10. 人間中心設計とは?原則とメリット・デメリットを徹底解説 - 株式会社NOBU, 12月 25, 2024にアクセス、 https://nobu-n.co.jp/column/human-centered-design/

  11. 人間中心設計(HCD)とデザイン思考の違いを徹底的に解説|保存版 | UX JUMP, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.i-enter.co.jp/ux-jump/hcd-designthinking.html

  12. HCD-Net, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.hcdnet.org/

  13. 「人間中心設計(HCD)専門家/スペシャリスト」を取得するメリットは? 新卒4年目UXデザイナーの資格取得体験記 - グッドパッチ, 12月 25, 2024にアクセス、 https://goodpatch.com/blog/2023-07-hcd-certified

  14. 人工智能之人机交互Research Report of Human-Computer Interaction - AMiner, 12月 25, 2024にアクセス、 https://static.aminer.cn/misc/pdf/hci.pdf

  15. User Centered Design (VII):From Automated to Intelligent Flight Deck - ResearchGate, 12月 25, 2024にアクセス、https://www.researchgate.net/publication/373072397_User_Centered_Design_VIIFrom_Automated_to_Intelligent_Flight_Deck


AGI/ASI時代の科学技術:計算機自然における実験・研究の自動化と科学の自動進化

はじめに

近年のAI技術、特にAGI(汎用人工知能)やASI(人工超知能)の急速な発展は、科学技術の分野に革命的な変革をもたらしつつある。多くの研究者が、AGI/ASIは科学的進歩を加速させる、これまで人類が経験したことのない可能性を秘めていると指摘している(例えば、[参考文献1])。本稿では、AGI/ASI時代における科学技術の進歩を加速させる、特に筆者が提唱する「計算機自然(デジタルネイチャー)」[10]概念と親和性の高い、以下の4つのテーマについて考察する。

  1. 実験自動化、高速化

  2. 研究自動化

  3. デジタルツインとデジタルネイチャー

  4. デジタルネイチャーを基盤としたAIによる科学の自動進化

これらのテーマは、従来の科学的方法論や研究プロセスを根底から覆し、新たな知見の発見やイノベーションの創出に繋がる、いわば「科学技術のゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。特に、計算機自然(デジタルネイチャー)の概念は、これらのテーマを統合的に理解し、その可能性を最大限に引き出すための鍵となる。計算機自然(デジタルネイチャー)とは、デジタルツインとフィジカルツインが相互接続され、デジタルデータと物理現象がリアルタイムに双方向で影響し合い、自動的に更新・発展し続ける新たな環境を指す[10]。これは、従来のデジタルツインが主に物理現象のデジタル化とそのシミュレーションに主眼を置いていたのに対し、デジタルネイチャーは、デジタルとフィジカルが不可分に融合し、相互に進化する、より包括的かつ動的な環境を指す、重要な概念的拡張である。この環境下では、現実世界とデジタル世界が相互に作用し、従来の物理法則や時間、空間の制約を超越した、新たな知の探求が可能となる。同時に、これらの技術の進展は、倫理的な問題や社会への影響も懸念されるため、多角的な視点からの議論が不可欠である。

1. 実験自動化、高速化

実験自動化は、ロボットやAIなどを活用し、実験作業の自動化・高速化を目指す技術である。従来、人手に頼っていた実験作業を自動化することで、業務効率化、ヒューマンエラーの削減、実験スピードの向上が期待される[1]。
1.1 自動化によるメリット

  • 業務効率化:実験作業の自動化により、研究者は反復的で時間のかかる作業から解放され、より高度な分析や考察、仮説生成といった、創造的な活動に集中することができる。これは、研究者の知的生産性を飛躍的に向上させる可能性がある。

  • ヒューマンエラーの削減:自動化により、人為的なミスを最小限に抑え、実験の精度と再現性を向上させることができる。これは、特に、微量な試薬の取り扱いや、厳密な環境制御が求められる実験において、大きなメリットとなる。

  • 実験スピードの向上:自動化により、実験のスループットを飛躍的に向上させることが可能となる。例えば、ハイスループットスクリーニングなどの技術と組み合わせることで、従来よりもはるかに多くの実験を短時間で実施することが可能となり、研究開発のスピードアップに大きく貢献する[3]。

1.2 AGI/ASI時代における実験自動化
AGI/ASI時代においては、実験自動化はさらに高度化し、AIが実験計画の立案から実行、結果の解析までを自律的に行うようになる可能性が示唆されている[2]。例えば、創薬研究においては、AIが膨大な化合物の中から候補物質を探索し、ロボットが自動で合成・評価を行うことで、新薬開発の効率を飛躍的に向上させることが期待される[3]。これは、従来の人間主導の実験とは根本的に異なる、AI主導の新たな実験パラダイムの到来を意味している。
1.3 創薬研究における自動化
従来の創薬研究では、担当者が地道に実験や分析を繰り返し、期待する効果が得られる化合物を調べる作業が行われていた[3]。しかし、ロボットやAIによる自動化は、このプロセスを劇的に変化させる。

  • 候補物質の探索:AIは、過去の膨大な実験データや文献情報を学習し、薬理活性、物性、毒性などの多角的な視点から、新薬の候補となる化合物を効率的に探索することができる。これは、従来の経験則に基づく探索に比べ、より網羅的かつ客観的な探索を可能にする。

  • ハイスループットスクリーニング:ロボットは、AIが選定した候補化合物を自動で合成し、様々な条件下でその効果を評価することができる。これにより、従来よりもはるかに多くの化合物を短時間でスクリーニングすることが可能になり、創薬の効率化と成功確率の向上に貢献する[3]。

1.4 遠隔作業と共同研究
実験自動化は、遠隔地からの実験操作やデータ取得を可能にし、研究の柔軟性を高める[4]。例えば、透過型電子顕微鏡やNMRなどの高度な分析装置を遠隔地から操作することで、地理的な制限を超えた共同研究が促進される。これは、研究リソースの共有や、国際的な共同研究の活性化に繋がる。
1.5 人間の役割
実験自動化は、研究の効率化に大きく貢献する一方で、人間の研究者によるoversightが依然として重要である[5]。実験結果の解釈、倫理的な問題点の検討、新たな仮説の生成など、人間の知性と創造性が求められる領域は、今後も残ると考えられる。むしろ、自動化によって反復的な作業から解放された研究者は、より高度な知的活動に専念できるようになり、人間の創造性がより一層発揮されるようになるだろう。
1.6 実験自動化における技術的な課題

  • ロボット技術:複雑な実験操作、例えば、微量な液体の正確な分注や、細胞培養における繊細な操作などを自動化するためには、高度なロボット技術の開発が必要である。

  • AIアルゴリズム:実験データの自動解析、実験結果の解釈、次の実験計画の立案などを行うためには、高度なAIアルゴリズムの開発が必要である。特に、実験結果から新たな仮説を生成するような、創造的なAIの開発が求められる[2]。

  • 標準化:実験の再現性を保証し、異なるシステム間でのデータ互換性を確保するためには、実験プロトコルやデータフォーマットの標準化が不可欠である[1]。

  • コスト:ラボオートメーションの導入には、高額な初期投資が必要となる。特に、中小規模の研究機関にとっては、導入の障壁となる可能性がある[1]。

2. 研究自動化

研究自動化は、実験自動化に加えて、文献調査、データ分析、論文執筆など、研究プロセス全体を自動化する技術である。研究自動化により、研究者はより創造的な活動に専念できるようになり、研究の質向上と効率化が期待される[6]。
2.1 AGI/ASI時代における研究自動化
AGI/ASI時代においては、AIが研究テーマの選定、仮説の生成、研究計画の立案など、より高度な研究活動を支援するようになる可能性が指摘されている。また、AIが研究者同士のコミュニケーションを促進し、共同研究を加速させることも期待される[7]。これは、従来の「研究者のためのツール」としてのAIを超えた、「研究パートナー」としてのAIの登場を意味している。
2.2 AIによる共同研究の促進
AIは、研究者同士のコミュニケーションを促進し、共同研究を加速させる可能性を秘めている。具体的には、以下のようなことが考えられる。

  • 専門知識の共有:AIは、論文や特許などの膨大な文献情報を解析し、研究者が必要とする情報を効率的に提供することができる。さらに、異なる分野の知識を統合し、新たな研究テーマの創出を支援することも期待される。

  • 研究者マッチング:AIは、研究者の専門分野や研究テーマ、過去の研究業績などを分析し、共同研究に適した相手を推薦することができる。これは、従来の人的ネットワークに依存した共同研究相手探しに比べ、より効率的かつ客観的なマッチングを可能にする。

  • 研究資源の共有:AIは、実験設備やデータなどの研究資源を効率的に管理し、研究者間での共有を促進することができる。これは、研究リソースの有効活用や、研究の効率化に繋がる。

2.3 AIによるバイアスのリスク
AIを活用した研究自動化は、効率性や客観性を向上させる一方で、AIアルゴリズムに潜むバイアスのリスクも孕んでいる。AIの学習データに偏りがある場合、そのバイアスが研究結果に反映される可能性がある。そのため、AIアルゴリズムの設計やモニタリングには、倫理的な配慮が不可欠である。特に、AIが生成した仮説や研究計画を鵜呑みにするのではなく、人間の研究者が批判的に吟味し、必要に応じて修正を加えることが重要である。
2.4 研究自動化における技術的な課題

  • 情報処理技術:論文や特許、実験データなど、膨大かつ多様な形式の情報を効率的に処理し、統合的に解析する技術の開発が必要である。

  • データ解析:研究データの自動解析、データマイニング、パターン認識などの技術の高度化が求められる。特に、複雑な現象をモデル化し、将来予測を行うためのAI技術の開発が重要である。

  • 自然言語処理:研究成果の自動的な要約、論文の自動生成、研究者間のコミュニケーション支援などを行うためには、高度な自然言語処理技術の開発が必要である[6]。

3. デジタルツインと計算機自然(デジタルネイチャー)

デジタルツインは、現実世界の物理的な対象物(製品、設備、システムなど)をデジタル空間に再現した仮想モデルである。センサーなどから収集したリアルタイムデータを基に、デジタルツインを更新することで、現実世界の対象物の状態を仮想空間上で監視・分析することができる[8]。
3.1 デジタルツインとシミュレーション、メタバースとの違い
デジタルツインは、現実世界をコンピュータ上の仮想空間に再現するという点でシミュレーションと共通点があるが、現実世界の状況に合わせてリアルタイムに変化する点が大きく異なる[9]。つまり、デジタルツインは、現実世界と常に同期している「生きた」モデルと言える。また、メタバースは、必ずしも現実世界を忠実に再現することにこだわらず、現実にはない要素やキャラクターを加えて仮想空間を構成することもある。一方、デジタルツインは、実在する現実世界をそのまま再現し、現実世界と相互作用することに重点を置いている[9]。
3.2 計算機自然(デジタルネイチャー)
筆者が提唱する「計算機自然(デジタルネイチャー)」は、デジタルツインの概念を拡張し、さらに自然現象や社会現象、そして人間を含む、より広範な現実世界をデジタル空間と現実に再帰的に接続し、更新、再現し続ける環境を指す[10]。計算機自然(デジタルネイチャー)においては、デジタルツインとフィジカルツインが相互接続され、デジタルデータと物理現象がリアルタイムに双方向で影響し合い、自動的に更新・発展し続ける[10]。これは、従来のデジタルツインが主に物理現象のデジタル化とそのシミュレーションに主眼を置いていたのに対し、デジタルネイチャーは、デジタルとフィジカルが不可分に融合し、相互に進化する、包括的かつ動的な環境を志向している。計算機自然(デジタルネイチャー)は、現実世界では不可能な実験やシミュレーションを可能にし、新たな科学的発見や技術革新に繋がる可能性を秘めている。これは、従来のデジタルツインが個別の対象物の再現に留まっていたのに対し、計算機自然(デジタルネイチャー)は、より包括的な「世界のモデル化」を目指す、野心的な構想と言える。
3.3 デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)の応用
デジタルツインは、製造業、ヘルスケア、都市計画など、様々な分野で応用が期待されている[11]。

  • 製造業:工場や生産ラインのデジタルツインを作成することで、生産プロセスの最適化、故障予知、予防保全などに役立てることができる。これにより、生産効率の向上や、ダウンタイムの削減が期待できる。

  • ヘルスケア:患者の身体のデジタルツインを作成することで、病気の診断、治療法の開発、手術のシミュレーションなどに役立てることができる。これは、個別化医療の実現に貢献する可能性がある。

  • 都市計画:都市全体のデジタルツインを作成することで、交通流の最適化、エネルギー消費の削減、災害時の避難計画の策定などに役立てることができる[12]。これは、スマートシティの実現に向けた重要なステップとなる。

3.4 AGI/ASI時代におけるデジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)
AGI/ASI時代においては、デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)は、AIによって自律的に進化する、より高度な仮想世界へと発展する可能性がある。例えば、AIがデジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)上で自動的にシミュレーションを行い、その結果を基に現実世界のシステムを最適化したり、新たな設計を提案したりすることが考えられる。これは、従来の人間主導の設計や最適化プロセスを根底から変える可能性を秘めている。計算機自然(デジタルネイチャー)は、物理法則や従来の制約を超越した、AGI/ASIによる実験・シミュレーションの場として、科学技術の進歩に大きく貢献すると期待される。
3.5 デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)の倫理的な問題
デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)は、プライバシーやセキュリティ、データの正確性など、倫理的な問題点も孕んでいる。

  • プライバシー:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)の構築には、個人情報を含む膨大なデータの収集が必要となる。これらのデータの収集・利用には、プライバシーへの十分な配慮が不可欠である。

  • セキュリティ:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)が、悪意のある攻撃者によって改ざんされたり、悪用されたりするリスクも存在する。例えば、都市全体のデジタルツインが攻撃を受けた場合、交通システムやエネルギー供給システムなどに深刻な被害が生じる可能性がある。

  • データの正確性:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)の精度が低い場合、誤った判断や予測に繋がる可能性がある。特に、人命に関わるような分野(医療、自動運転など)においては、データの正確性が極めて重要となる。

3.6 デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)における技術的な課題

  • モデリング技術:現実世界の複雑な現象やシステムを忠実に再現するためには、高度なモデリング技術の開発が必要である。特に、計算機自然(デジタルネイチャー)においては、自然現象や社会現象など、従来のデジタルツインでは扱われてこなかった対象をモデル化するための、新たな方法論が求められる。

  • 計算機技術:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)をリアルタイムに更新し、シミュレーションを行うためには、膨大な計算能力が必要となる。特に、計算機自然(デジタルネイチャー)のように、広範な現実世界を対象とする場合には、スーパーコンピュータやクラウドコンピューティングなどの、大規模計算インフラの整備が不可欠である。

  • センサー技術:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)に現実世界のデータを入力するための、高精度で低コストなセンサー技術の開発が求められる。特に、計算機自然(デジタルネイチャー)においては、あらゆる場所にセンサーを設置し、環境情報を網羅的に収集する必要がある。

  • データ通信技術:デジタルツイン/計算機自然(デジタルネイチャー)と現実世界をリアルタイムに接続するためには、高速・大容量・低遅延のデータ通信技術が不可欠である。5Gや6Gといった次世代通信技術の発展が期待される。

4. 計算機自然(デジタルネイチャー)を基盤としたAIによる科学の自動進化

このテーマは、計算機自然(デジタルネイチャー)を科学研究に活用することで、科学そのものを自動進化させるという、より野心的なビジョンを提示している[13]。具体的には、AIが計算機自然(デジタルネイチャー)上で自律的に実験やシミュレーションを行い、その結果を基に新たな仮説を生成し、さらなる実験を自動的に計画・実行するというサイクルを繰り返すことで、科学的知識を自動的に蓄積・発展させていくことが考えられる。これは、従来の人間主導の科学研究とは根本的に異なる、AI主導の「自動化された科学」の実現を意味している。
4.1 計算機自然(デジタルネイチャー)による複雑なシステムのモデリング
AIは、計算機自然(デジタルネイチャー)上で気候変動や病気の進行など、複雑なシステムをモデリングし、新たな仮説を生成することができる。

  • 気候変動:AIは、気候変動に関連する様々なデータ(気温、降水量、海面水位、大気中の二酸化炭素濃度など)を分析し、地球全体の気候システムを計算機自然(デジタルネイチャー)上で再現することができる。これにより、気候変動対策の効果を検証したり、新たな対策を提案したりすることも期待される。

  • 病気の進行:AIは、患者の遺伝情報、生活習慣、病歴などのデータを分析し、病気の進行を計算機自然(デジタルネイチャー)上でシミュレーションすることができる。これにより、個別化医療や新薬開発に役立てることができる。さらに、AIが様々な治療法の効果をシミュレートすることで、最適な治療法を提案したり、新たな治療法の開発に繋げたりすることも期待される。

4.2 AGI/ASIと科学的方法論
AIが計算機自然(デジタルネイチャー)上で自律的に実験やシミュレーションを行うことで、従来の仮説駆動型の研究から、データ駆動型、さらにはAI駆動型の発見へと、科学的方法論そのものが変化する可能性がある。AIは、膨大なデータの中から人間が見落としていたようなパターンや相関関係を発見し、新たな仮説を生成することができる。これは、人間の直感や経験に頼っていた従来の科学的方法論を補完し、科学的発見を加速させる可能性を秘めている。計算機自然(デジタルネイチャー)は、AIにとっての「実験場」となり、AIが科学的知識の生産者となる、新たな時代の到来を予感させる。

4.3 計算機自然(デジタルネイチャー)を基盤としたAIによる科学の自動進化における技術的な課題

  • AIアルゴリズム:科学的な発見を導くためのAIアルゴリズムの開発が不可欠である。特に、データから新たな仮説を生成し、それを検証するための実験・シミュレーションをデジタルネイチャー上で設計するような、高度な推論能力と創造性を持つAIの開発が求められる。

  • 仮説生成:計算機自然(デジタルネイチャー)上での実験やシミュレーションの結果を解釈し、新たな仮説を生成するAI技術の開発が必要である。これは、単なるデータ解析を超えた、より高度な知的活動をAIに求めることを意味する。

  • 倫理ガイドライン:AIによる科学研究の倫理的なガイドラインの策定が急務である。AIが自律的に研究を進める場合、その研究が倫理的に許容される範囲をどのように定めるか、AIの判断に人間がどのように関与するかなど、検討すべき課題は多い。

5. 倫理的な考察

AGI/ASI時代における科学技術の発展は、倫理的な問題点も孕んでいる。

  • AIのバイアス:AIアルゴリズムにバイアスが含まれている場合、差別や不平等を助長する可能性がある。特に、科学研究にAIを用いる場合、バイアスが研究結果に影響を与え、誤った結論を導く危険性がある。

  • プライバシーの侵害:計算機自然(デジタルネイチャー)の利用においては、個人情報を含む膨大なデータの収集が前提となる。これらのデータの収集・利用には、プライバシーへの十分な配慮が不可欠である。

  • 責任の所在:AIが自律的に判断・行動する場合、その結果に対する責任の所在が曖昧になる可能性がある。例えば、AIが生成した仮説に基づいて行われた実験が、予期せぬ結果をもたらした場合、誰が責任を負うのか、といった問題が生じる。

  • 雇用の変化:実験や研究の自動化の進展により、研究者や技術者の雇用が失われる可能性がある。特に、反復的な作業やデータ分析などの業務は、AIに代替される可能性が高い。

考察

本稿で取り上げた4つのテーマは、それぞれ密接に関連しており、互いに影響し合いながら発展していくと考えられる。例えば、実験自動化によって得られた大量のデータは、計算機自然(デジタルネイチャー)に反映され、AIによる分析・シミュレーションの精度向上に繋がる。また、AIによる科学的発見は、新たな実験や研究の自動化を促進するだろう。  AGI/ASI時代においては、これらの技術が融合し、相乗効果を発揮することで、科学技術は加速度的に進歩していくと予想される。同時に、倫理的な問題や社会への影響も増大するため、責任ある技術開発と社会実装が求められる。  AIは、異なる分野の研究を繋ぎ、学際的な研究を促進する可能性も秘めている。AIは、膨大な量の論文やデータを分析し、一見無関係に見える分野間の共通点や関連性を見出すことができる。これにより、新たな研究分野の創出や、既存の分野の融合が加速すると考えられる。  これらの技術革新は、科学の進歩を加速させるだけでなく、社会全体にも大きな影響を与える可能性がある。例えば、新薬の開発や病気の治療法の確立、環境問題の解決、エネルギー問題の解決など、様々な分野で貢献が期待される。  しかし、同時に、これらの技術が誤用(misuse)された場合のリスクも考慮する必要がある。AIによる監視社会や、AI兵器の開発など、ディストピア的な未来シナリオも想定される。  AGI/ASI時代における科学技術は、人類にとって大きな可能性と課題を同時に提示している。これらの技術をどのように発展させ、社会に実装していくかについては、科学者、技術者、倫理学者、政策立案者など、様々なステークホルダーによる継続的な対話と協力が不可欠である。

結論

AGI/ASI時代における科学技術は、実験・研究の自動化、計算機自然(デジタルネイチャー)の活用などにより、飛躍的な進歩を遂げる可能性を秘めている。これらの技術は、新たな知見の発見やイノベーションの創出に貢献する一方で、倫理的な問題や社会への影響も懸念される。計算機自然(デジタルネイチャー)は、特にその進展の中核を担う概念であり、デジタルとフィジカルの双方向的な進化を促す、新たな環境として、その重要性を増していくだろう。  今後、これらの技術をどのように発展させ、社会に実装していくかについては、科学者、技術者、倫理学者、政策立案者など、様々なステークホルダーによる幅広い議論が必要となる。そして、その議論の基盤となるのが、筆者が提唱する「計算機自然(デジタルネイチャー)」という新たな自然観である。計算機自然(デジタルネイチャー)は、人間とテクノロジーと自然が調和的に共存する未来への道を切り開く、重要な鍵となる概念と言えるだろう。

参考文献

  1. [適切な参考文献をここに挿入]

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  9. デジタルツインとは?わかりやすく最新技術を徹底解説。メリットや導入事例も! - SCSK, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.scsk.jp/sp/itpnavi/article/2024/11/digitaltwin.html

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  11. デジタルツインとは何ができる? - 活用方法と製造業の事例を紹介 - Cognite, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.cognite.com/ja-jp/blog/digital-twin-in-industry

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マタギドライブの思想:計算機自然における新たな人間像

はじめに

近年、筆者が提唱する「マタギドライブ」という概念が耳目を集めている。筆者は、「デジタルネイチャー」という、デジタル技術と自然が不可分に融合した新しい世界観を提示し、来るべき社会のあり方を問うてきた。「デジタルネイチャー」における、自然、社会、そして人間の変容を見据える中で、「マタギドライブ」は、我々がどのように生きるべきか、その一つの指針として提示された概念である。これは、東北地方の山岳地帯で狩猟を生業としてきた「マタギ」の生き方を、現代社会、特にデジタルネイチャーという新たな環境に適応させる形で再解釈し、一つの行動規範として提示したものである。  本稿では、提供された情報源に基づき、マタギドライブの思想について多角的に考察する。まず、マタギの歴史や文化を概観し、その基盤の上に成り立つマタギドライブの定義、目的、内容、方法について、筆者の言説を丁寧に読み解きながら解説する。さらに、現代社会における意義や課題、批判的な意見も踏まえながら、マタギドライブの本質に迫る。そして、この思想がデジタルネイチャーにおける新たな人間像の形成、および持続可能な社会の構築にどのように寄与し得るのかを論じる。

マタギとは何か

マタギとは、東北地方の山岳地帯で古くから狩猟を生業としてきた人々を指す[1]。彼らは単なるハンターとは異なり、山や自然への畏敬の念を持ち、独自の信仰や文化、倫理観に基づいた狩猟を行ってきた[1]。厳しい自然環境の中で生き抜くための知恵や技術を蓄積し、共同体としての規範や伝統を重んじる生活を送ってきた。この点において、マタギは自然と共生し、その恵みを享受しながらも、独自の文化的アイデンティティを保持してきた、特殊な集団と言える。
マタギの文化は、狩猟の技術や道具だけでなく、山岳信仰、儀礼、共同体のルールなど、多岐にわたる[1]。特筆すべきは、「山言葉(やまことば)」と呼ばれる隠語を用いる点である[2]。これは、山の神への畏敬の念から、日常の言葉で山を穢さないようにするためであり、例えば、熊は「イタズ」、酒は「キヨカワ」といった具合に、独特の言い回しが用いられる[2]。この言語体系は、マタギの自然観、精神性を理解する上で重要な手がかりとなる。
近年では、マタギの高齢化や狩猟対象の減少、狩猟に関する法規制などにより、その文化は消滅の危機に瀕している[1]。これは、単なる狩猟技術の消失に留まらず、日本における自然と人間の関係性の歴史、そして地域文化の多様性が失われつつあることを意味している。
語源としては、アイヌ語の "matangi" または "matangitono" に由来する可能性があり、「冬の人」または「狩猟者」を意味するとされる[4]。この語源は、マタギの生活様式とアイデンティティを表している可能性が示唆される。

マタギドライブの定義と目的

筆者は、著書『デジタルネイチャー:生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』[7]で、「デジタルネイチャー」という概念を提唱した。これは、情報技術が高度に発達し、計算機、人間、自然が渾然一体となり、その境界が融解した新たな世界観を指す。マタギドライブは、このデジタルネイチャーの中で、人間がどのように生きていくべきかを探求する中で生まれた概念である[6]。
筆者自身のnote記事[8]によると、マタギドライブは、情報社会の行き着く先である「最適化ゲーム」のような世界観、すなわちあらゆるものが数値化され、効率化される社会において、既存の価値観にとらわれず、新たな価値基準を生み出すための思考法や行動様式を指す。
具体的には、筆者はnote記事「ポイっと拾い、即興的に紡ぎ出す計算機自然の狩猟採集エンジニアリング――デジタルネイチャー下におけるマタギドライブ的思考」[8]の中で、以下のように述べている。
21世紀以降、デジタルネイチャー(計算機自然)環境が広く布置され、AI(人工知能)が我々の日常的な思考補助装置として浸透しつつある現在、この「ポイっと」した即興的資源利用行為は、新たな知的生産と創造のパラダイムにおいて極めて示唆的なメタファーとなる。落合陽一的な文脈で語るならば、デジタル空間という計算機自然は、山林のような非線形性と揺らぎを内包し、そこでの生存戦略は定住的農耕から狩猟採集的なモードへと転回しつつある。マタギドライブ(Matagidrive)とは、そうした新たな知的生態系を理解するための中核概念となる。
この記述から、マタギドライブは、デジタルネイチャーという新たな環境における、即興的かつ狩猟採集的な知的生産・創造活動を指すことがわかる。これは、従来の計画的・線形的なアプローチとは対照的な、非線形性と揺らぎを前提とした、動的な世界観に基づいている。

マタギドライブの内容と方法

マタギドライブの具体的な内容や方法は、未だ明確に定義されていない。これは、マタギドライブが固定化された方法論ではなく、流動的で発展途上の概念であることを示唆している。しかし、筆者のnote記事[8]や講演、著作から、その本質をなす、いくつかの要素を抽出することができる。

  1. 計算機自然との共生:マタギは、自然の恵みに感謝し、自然と調和しながら生きてきた。デジタルネイチャー時代においても、計算機自然とのつながりを意識し、その特性を理解し、共生する姿勢が重要となる。例えば、マタギが山に入る前に山の神に祈りを捧げるように、我々もデジタル技術を利用する際に、その技術の持つ意味や社会・環境への影響を深く洞察し、倫理的な側面を考慮する必要があるだろう。

  2. 伝統と文化の継承と更新:マタギは、独自の文化や伝統を代々受け継いできた。デジタル技術によって文化が均質化する現代において、地域独自の文化や伝統を尊重し、継承していくことが重要となる。デジタル技術は、伝統文化を保存・伝承するためのツールとしても活用できる。例えば、VR技術を用いてマタギの狩猟の様子を再現したり、AR技術を用いてマタギの生活空間を体験できるようなコンテンツを制作することで、多くの人々にマタギ文化に触れる機会を提供することができるだろう。これは、文化の保存に留まらず、デジタル技術を用いた文化の再解釈と更新、新たな創造へと繋がる可能性を秘めている。

  3. 自律分散的な生き方:マタギは、自らの力で狩猟を行い、生活を営んできた。デジタルネイチャー時代においても、情報技術に依存するだけでなく、自らの判断で行動し、責任を負うことができる自律的な人間であることが求められる。マタギは、狩猟の技術や知識を習得するために、長年の修行を積む。同様に、デジタルネイチャー時代においても、情報技術を適切に活用するためには、主体的に学び、情報リテラシーを高めるとともに、状況に応じて柔軟に対応する能力、すなわち「デジタル・リテラシー」ならぬ「デジタル・マタギ・リテラシー」とも言うべき能力が要求される。

  4. 創発的コミュニティへの貢献:マタギは、共同体の中で役割を担い、互いに協力し合って生きてきた。デジタルネイチャー時代においても、個人主義に陥ることなく、デジタル技術を介して形成される創発的コミュニティ、すなわち流動的かつ動的に生成・発展するコミュニティに貢献する意識が重要となる。マタギは、狩猟で得た獲物を共同体で分け合い、互いに助け合って生活してきた。デジタルネイチャー時代においても、オンラインコミュニティなどを通じて、人々と協力し、社会に貢献できるような活動が求められるだろう。これは、デジタルネイチャーにおける新たな互酬性の形と言える。

  5. 「囲い込み猟」:協調と分業のデジタル的再解釈:マタギは、「囲い込み猟」と呼ばれる伝統的な狩猟方法を実践してきた[3]。これは、大人数の猟師が役割分担し、獲物を追い込んで捕獲する方法である[3]。この方法は、マタギたちの協調性と、自然に対する深い理解を示していると言えるだろう。デジタルネイチャー時代においても、複雑な問題を解決するためには、多様な人々が協力し、それぞれの専門知識や経験を活かすことが重要となる。これは、オープンソース的な開発や、クラウドソーシングといった、デジタル時代の協働作業のあり方とも通底する。

  6. 最適化ゲームからの脱却と揺らぎの受容:筆者のnote記事「マタギドライブたちが招く未来」[9]では、現代社会は情報化によってあらゆるものが数値化され、最適化の対象となる「最適化ゲーム」と化していると指摘している。マタギドライブは、この最適化ゲームから脱却し、人間本来の創造性や感性、そして予測不可能性を受け入れ、揺らぎを活かして生きていくことを目指す。これは、効率性や合理性のみを追求するのではなく、一見無駄と思われるような試行錯誤や、偶然の出会いの中にこそ、新たな価値創造の可能性があることを示唆している。

  7. 「運ゲー」の受容とリスクマネジメント:マタギは、自然という予測不可能な環境の中で、運に左右されることも多い狩猟を行ってきた。マタギドライブは、現代社会における不確実性を受け入れ、変化に柔軟に対応できる能力を育むことを重視する。これは、リスクを完全に排除するのではなく、リスクと共存し、それを創造的なエネルギーへと転換するような、新たなリスクマネジメントのあり方を示唆している。

  8. 計算機自然における情報資源の狩猟採集:筆者のnote記事「ポイっと拾い、即興的に紡ぎ出す計算機自然の狩猟採集エンジニアリング――デジタルネイチャー下におけるマタギドライブ的思考」[8]では、デジタルネイチャー環境下において、データやアルゴリズム、コード、APIといった情報資源を、マタギが森の中で資源を狩猟採集するように、状況に応じて取得し、活用していくことが重要になると述べている。これは、情報を固定的な「知識」として蓄積するのではなく、流動的な「資源」として捉え、必要に応じて「狩猟採集」し、即興的に活用するような、新たな知的生産のあり方を提示している。

これらの要素を踏まえ、デジタル技術を活用しながら、計算機自然と共生し、文化を継承・更新し、自律分散的に生き、創発的コミュニティに貢献し、最適化ゲームから脱却し、揺らぎと運の要素を受け入れ、情報資源を狩猟採集的に活用していくことが、マタギドライブの目指す姿と言えるだろう。これは、デジタルネイチャーにおける新たな人間像の提示であり、来るべき社会における一つの行動規範となる可能性を秘めている。

現代社会におけるマタギドライブの意味と意義

情報技術が急速に発展し、グローバル化が加速する現代社会において、マタギドライブは、人間と自然、人間と技術、人間と社会の関係性を見つめ直す上で重要な視点を提供する。

  1. 計算機自然との共存:環境問題が深刻化する中、自然と調和した持続可能な社会の実現が求められている。マタギの自然への畏敬の念や共生の知恵は、現代社会においても重要な教訓となる。計算機自然(デジタルネイチャー)は、人間中心主義的な自然観を転換し、人間と自然が調和的に共存する新たな社会モデルの構築に貢献する可能性を秘めている。マタギは、自然の恵みを享受しながらも、決して自然を破壊することなく、持続可能な形で狩猟を行ってきた[10]。現代社会においても、自然の資源を浪費することなく、次世代に引き継いでいくことができるようなライフスタイルが求められる。これは、デジタルネイチャーにおける資源利用のあり方を考える上でも重要な示唆となる。

  2. 地域文化の活性化とデジタル的再解釈:デジタル技術によって情報や文化が均質化する中で、地域独自の文化や伝統の価値が見直されている。マタギドライブは、地域文化の継承と活性化に貢献する可能性を秘めている。マタギの文化は、地域独自の自然環境や歴史の中で育まれてきたものであり、他の地域では見られない独自の価値を持っている。デジタル技術を活用することで、地域文化の魅力を発信し、観光客誘致や地域経済の活性化につなげることができるだろう。これは、デジタルネイチャーにおける文化の多様性を維持し、発展させる上でも重要な取り組みとなる。

  3. 人間の自律性と自律分散性の回復:AIやロボット技術の発展により、人間の仕事が奪われるのではないかという懸念が高まっている。マタギドライブは、人間自身の能力や創造性を活かし、自律分散的に生きていくためのヒントを与えてくれる。マタギは、狩猟という危険な作業を、自らの知識、経験、判断力によって行ってきた[9]。デジタルネイチャー時代においても、AIやロボットに任せきりにするのではなく、人間自身が主体的に考え、行動し、責任を持つことが重要となる。これは、デジタルネイチャーにおける人間の役割を再定義する上で重要な視点である。

  4. 創発的コミュニティの再生:インターネットの普及により、人々のつながりが希薄化していると言われる。マタギの共同体における相互扶助の精神は、現代社会におけるコミュニティの再生に役立つと考えられる。マタギは、共同体の中で助け合い、支え合って生きてきた。現代社会においても、地域コミュニティやオンラインコミュニティなどを通じて、人とのつながりを深め、互いに協力し合うことが重要となるだろう。デジタルネイチャーは、こうした新たなコミュニティ形成の場となる可能性を秘めている。

  5. 新たな倫理観の構築:特に、マタギの倫理観は、デジタル社会における倫理的な問題を考える上で示唆に富んでいると言えるだろう[11]。マタギは、自然への畏敬の念から、狩猟の対象や方法に厳しい制限を設けてきた。デジタル技術の利用においても、プライバシーの保護や情報セキュリティなど、倫理的な側面を考慮することが重要となる。これは、デジタルネイチャーにおける新たな倫理観の構築に繋がる。

結論

マタギドライブは、デジタルネイチャー時代における新たな人間像や創造性を提示する概念である。計算機自然との共生、伝統と文化の継承と更新、自律分散的な生き方、創発的コミュニティへの貢献、最適化ゲームからの脱却、揺らぎと「運ゲー」の受容、情報資源の狩猟採集的活用といった要素を重視し、デジタル技術を活用しながら、人間らしい生き方を探求していくことが、マタギドライブの本質と言えるだろう。  現代社会において、マタギドライブは、計算機自然との共存、地域文化の活性化とデジタル的再解釈、人間の自律性と自律分散性の回復、創発的コミュニティの再生、そして新たな倫理観の構築といった課題に対して、重要な視点を提供する。しかし、理想主義的すぎるという批判や、具体性に欠けるという課題も存在する。  今後、マタギドライブの思想をさらに深め、具体的な実践方法を検討していくことで、デジタルネイチャー時代におけるより良い社会の実現に貢献できる可能性がある。特に、マタギの自然と共生する知恵や倫理観は、デジタル技術と自然が融合する社会において、私たちが進むべき道を照らしてくれるだろう。そして、その先に、計算機自然(デジタルネイチャー)における新たな人間像が立ち現れてくるはずである。

引用文献

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  3. デジタルネイチャーで人はどう生きるか―マタギドライヴ×マルチ ..., 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=ZdLOjH0xLlc

  4. 落合 陽一. "ポイっと拾い、即興的に紡ぎ出す計算機自然の狩猟採集エンジニアリング――デジタルネイチャー下におけるマタギドライブ的思考." note, [無効な URL を削除しました]. 2023年12月25日閲覧.

  5. 落合 陽一. "終章 マタギドライヴたちが招く未来(前編)." PLANETS, http://wakusei2nd.com/archives/series/%E7%B5%82%E7%AB%A0%E3%80%80%E3%83%9E%E3%82%BF%E3%82%AE%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%81%9F%E3%81%A1%E3%81%8C%E6%8B%9B%E3%81%8F%E6%9C%AA%E6%9D%A5%EF%BC%88%E5%89%8D%E7%B7%A8%EF%BC%89%EF%BD%9C. 2023年12月25日閲覧.

  6. Tracking Akita's Matagi Hunters - Outdoor Japan, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.outdoorjapan.com/regions-in-japan/tohoku-region/akita/tracking-akitas-matagi-hunters/

  7. 「マタギの掟」とルール形成 生存戦略と持続的な組織のあり方 ..., 12月 25, 2024にアクセス、 https://ttj.paiza.jp/archives/2023/11/16/11869/

  8. 「野生動物に何が起こっているのか?」 −県北地域の野生生物の現状について−, 12月 25, 2024にアクセス、 https://www.pref.fukushima.lg.jp/download/1/kenpoku_shinko_renkei_wildanimal_h18Report_Transcript.pdf

Learn about the traditions of the Matagi, who live in harmony with the forest of Shirakami-Sanchi, 12月 25, 2024にアクセス、https://world-natural-heritage.jp/en/article/shirakami-culture/


AIによるおさらい終了


ここまでAIの自動サーベイ.ここから先は落合陽一の音声文字起こしをベースに書かれている.


デジタルネイチャーにおける脱人間中心HCIの展望:価値発見工学としてのマタギドライブとファントムレゾナンス

1. 序章:人間中心性再考の必然性と価値発見工学への道

デジタル技術、特に大規模言語モデル(LLM)や深層学習に代表される人工知能(AI)の加速度的な発展は、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)研究の根本的な再考を迫っている。従来のHCIは「人間をいかにテクノロジーで支援するか」を焦点とし、ユーザビリティや人間中心設計を中核とする方法論を構築してきた。しかし、現代社会は、多様な知能体(AI、動物、微生物など)が情報ネットワーク上に参画し、人間自身が「データセット」や「統計対象」として扱われる状況へと急速に変貌しつつある。

このような状況下では、「人間」や「ユーザ」を唯一の評価軸とし、最適化するだけでは不十分である。むしろ、「脱人間中心」の視点を獲得し、マルチスピーシーズ(多種共生)やプルリバーサルデザインといった概念を取り込みながら、あらゆる存在や価値基軸を横断的に捉える必要が生じる。本稿では、筆者が提唱する「デジタルネイチャー(計算機自然)」や「魔法の世紀」の概念を参照点に据えつつ、価値発見工学的パラダイムへの移行可能性を探る。また、AIによる自動化が進展したAGI(汎用人工知能)、ASI(人工超知能)の時代を想定し、「マタギドライブ」と呼ばれる領域横断的な研究手法の有意性を示すとともに、ファントムレゾナンスという感性面の共鳴現象についても詳細に論及する。

2. デカルトからベイトソンへ:近代科学の限界と全体論的視座の獲得

歴史的に見れば、近代科学はデカルト的二元論に基づき、事実(fact)と価値(value)を明確に分離する形で発展してきた。機械論的自然観のもと、世界は測定可能な対象として把握され、科学技術の目的は「客観的事実の究明」であると信じられてきた。しかし、20世紀後半になると、モリス・バーマンは『世界の再魔術化』の中で、事実と価値を完全に分離する近代科学のあり方を批判し、「科学は世界に潜む神秘性や全体性を見落としているのではないか」という重要な問いを投げかけた。

さらに、グレゴリー・ベイトソンは「心の生態学」の視点から、人間の思考や学習を個の内部に留まらない環境やコミュニケーションの関係性として捉えた。ここには、自然と人間、主観と客観、事実と価値が複雑に織りなすネットワーク構造が示唆されており、近代的な二分法を超えていく萌芽が認められる。

筆者が提唱する「魔法の世紀」や「デジタルネイチャー」は、まさにこのようなベイトソン的な全体観、あるいはバーマンが指摘した再魔術化の視点と深く共鳴する。デジタル技術によって自然や人間を再編しつつ、事実と価値の分断を相対化する方向性を帯びているのである。

3. デジタルネイチャー:計算機自然の理念と多主体的設計原理

3.1 自然と人工の交融がもたらす新たな環境概念

「デジタルネイチャー」とは、人間/自然/機械の境界線を曖昧にし、計算機が生成する仮想空間と物理世界が交融した新しい環境を意味する。そこでは、モノの質量・物理性(Mass)と情報の非質量性(Information)がシームレスに行き来する。AR/VR、マルチモーダルAI、サイバーフィジカルシステムなどが高度化するにつれ、いわゆる“自然”と“人工”の区別は相対化され、両者が不可分に融合した「計算機自然」が出現する。

3.2 マルチスピーシーズとプルリバーサルデザイン:非人間中心設計の基盤

従来のHCIや工学設計は、人間を主役とし、他の動物や生物を受動的・環境的存在として扱ってきた。しかし、マルチスピーシーズやプルリバーサルデザインの思想は、異なる生命体やAI、ロボットまでも「主体的エージェント」として扱い、価値の創出と意思決定の場に組み込もうとする。

プルリバーサルデザインとは、単一の普遍原理に基づく近代合理主義的デザインから離れ、複数の世界観やローカルな価値観を尊重し、世界が多元的に構築されうることを前提にする概念である。この概念を脱人間中心HCIに接続することで、デジタルネイチャーを単に人間の快適性や便利さに奉仕する仕組みとするのではなく、環境や非人間存在の視点をも含めた総合的かつ動的な在り方が模索される。これは、環境倫理や動物倫理とも接続可能な視座であり、人間以外の存在者の権利や固有の価値を考慮した設計原理の構築を促す。

4. ファントムレゾナンス:潜在空間における感性の共鳴

4.1 AI生成物に宿る「懐かしさ」の現象学的分析

昨今の大規模言語モデルや画像生成AIは、人間にとって不可思議な懐かしさ(あるいは親和感)を喚起するケースがしばしば報告される。この「懐かしさ」は、既知の文脈・記憶との微妙なズレを伴いながら生じるもので、筆者は「ファントムレゾナンス」と呼び探求してきた。潜在空間の学習結果が意図せぬ形で再構成され、人間の記憶や文化的背景と部分的に重なるため、「かつて出会ったようで実は新しい」という体験を誘発する。

これは、メルロ=ポンティが論じたような身体化された知覚経験の観点から捉えれば、人間の過去の経験や記憶がAIの生成物を通して新たな形で呼び覚まされる現象と解釈できる。つまり、AIは人間の潜在的な感性を刺激し、過去と現在、現実と虚構の境界を曖昧にするような体験を生み出しているのである。 (ここはちょっと古臭い)

4.2 非人間中心の感性循環としてのファントムレゾナンス:他者性との共鳴

興味深いのは、この懐かしさやファントムレゾナンスを「人間側の感性」にだけ還元しきれない点である。生成AIの潜在空間は、人間のデータを基にしながらも、人間中心的な文法や意味を超えた新たなパターンを持つ。そこに、機械学習特有の記憶の仕方・データ変換の仕方が加わることで、人間には想像し得なかった異質な軸が生まれ、それが逆説的に人間のノスタルジアを触発する可能性を秘めている。

ここに、脱人間中心HCIが実現する「他者性との共鳴」という観点を見出すことができる。すなわち、AIという非人間的エージェントの内在論理と、人間の歴史・文化的文脈が交差し、新たな美や価値を創発する領域が確立されつつある。これは、人間の感性がAIの内部状態と共鳴し、相互に影響を与え合う「感性の循環」とも呼べる現象であり、人間とAIの新たな関係性を示唆している。

5. マタギドライブ:価値発見工学の新たなパラダイムとしての展開

5.1 実装コスト低減と問題発見型研究の重要性

AGIやASIが登場すれば、実験・研究の自動化は飛躍的に進むと考えられる。自動合成・自動評価など、創薬や材料科学の分野ではすでにロボティクスとAIが連携し、大量のパラメータを短時間で探索できるようになっている。こうした状況下で肝要となるのは、「何を研究し、何を発見するか」という問題発見の視点である。従来の問題解決型アプローチ(既にわかっている問題をいかに効率よく解決するか)とは異なり、まだ誰も気づいていない課題や、そもそも意味が不明な領域に踏み込むことが科学やイノベーションの大きな推進力となる。

ここで浮上する概念が、筆者が提唱する「マタギドライブ」である。狩猟採集民が山野を広く移動し、獲物を求めて柔軟かつ予測不能な経路をたどるように、研究者やクリエイターが多領域を横断しながら未知のアイデアを捕獲していくスタイルを指す。実装コストの低下が進んだ社会においては、既存の常識やSF的アイデアでさえも容易に具現化できるため、むしろ「それ以前にすらなかった観点」を狩りに行く姿勢が重要になる。

5.2 価値発見工学としてのマタギドライブ:未知の価値への探求

マタギドライブは、問題設定自体が価値を生むという意味で「価値発見工学」の新しい側面を担う。科学技術が提供する事実やツール群だけではなく、その事実に「いかなる意味や価値を見出すか」を切り開くことに重点を置く。これはデカルト的な事実と価値の分離を超克し、モリス・バーマン的な「世界の再魔術化」に通じる試みと言える。

具体的には、AIがまだ認識していない型破りな仮説や、既存の用途とはまったく無関係な応用例を提案する活動こそが、デジタルネイチャー時代のHCI研究を牽引すると予想される。こうした視点では「そもそもSFでさえ語らなかった」「何の役に立つか不明」なテーマを積極的に掘り下げる態度が奨励される。これは、従来の科学技術研究が「有用性」や「効率性」を重視してきたのに対し、マタギドライブは「未知の価値」や「新たな意味」の発見を最優先する点で、パラダイム転換を促すものである。

6. 「人間がいないHCI」とデータベース化される人間:新たな主体性の探求

6.1 人間のデータセット化:巨大言語モデルとHCIの新たな関係

近年、大規模言語モデル(LLM)が示すように、人間の言語・知識は膨大なデータベースとして収集・解析されつつある。HCIの領域でも、ユーザの行動ログや生体情報が詳細に記録され、統計モデルによるリアルタイムな推定・介入が可能になっている。これは「人間のデータセット化」という現象であり、インタラクションの主体としての人間が、巨大な情報モデルの中に統合され、一種のパラメータ群として扱われる可能性を開く。

すなわち、「人間不在のHCI」とは、一見矛盾した言い回しだが、実際にはAIがAI同士でインタラクションを行い、人間はそこに含まれる「データの一部」としてモデリングされる状況を指し示す。この場合、「ユーザエクスペリエンス」という概念は人間個体だけのものに留まらず、エコシステム全体に広がる多面的な相互作用に変容する。これは、人間中心主義を脱却し、人間とAIの相互作用をより対称的な関係として捉え直す契機となる。

6.2 デジタルネイチャーの中のヒトの位置づけ:多元的主体性への移行

デジタルネイチャーが進行する未来社会では、人間はもはや特権的な意思決定者ではなく、無数にある主体の一角に位置づけられる。そこでは、AIやロボットが社会的・経済的プロセスを主導し、人間の感情や嗜好すらも予測や操作対象になるリスクが孕まれる。

このとき、脱人間中心HCIは「すべてがAI支配になる」という終末論に陥るのではなく、人間がデータベース化される状況そのものを積極的に再デザインする視点を提供する。自動化と非人間主体の増大を前提にしつつ、人間固有の感性や直観はどのように活かされるのか、どのように「ファントムレゾナンス」を活用して新たな知や価値を生むのかが焦点化する。これは、人間の主体性を再定義し、AIとの共創的な関係性を模索するプロセスでもある。

7. 事実と価値を結び直す:次世代HCIへの提言と社会的・学術的影響

7.1 最適化を超えたデザインへの移行:価値発見のデザイン

これまでのHCI研究は、多くの場合「既定の課題をいかに最適に解決するか」をターゲットにしてきた。しかし、AGI/ASIが実装コストを下げ、あらゆる探索を安価かつ短時間で行える社会では、最適化のためのアルゴリズム自体が自動で生成される可能性が高い。よって、人間は既知の課題を解くことよりも、「何が課題となりうるか」「どのように問題を設定するか」という領域――すなわち価値発見工学へとシフトする。

しかも、価値の創造は一様な基準では決まらない。多種多様な主体・文脈に応じて新たな価値基準が生起するため、HCIは無限の試行錯誤の場を提供するインフラへと変貌するかもしれない。マタギドライブは、そうした多元的な価値軸を旅する研究手法として有意である。

7.2 脱人間中心HCIがもたらす社会的・学術的影響:新たな地平の開拓

脱人間中心HCIは、以下のような社会的・学術的影響をもたらすと予想される。

倫理・ガバナンスへの影響:人間以外の主体を含むデザインを行う際、誰がどのような責任を負うのか、またリスク管理やプライバシー保護をどう担保するのか。多層的なステークホルダーを巻き込む新しいルールや枠組みが必要となる。これは、従来の技術倫理の枠組みを拡張し、非人間存在の権利や責任を考慮した新たな倫理的枠組みの構築を迫るものである。

学際的研究の推進:脱人間中心の潮流は、哲学・社会学・芸術・生物学などとの連携を強化する。特に、自然哲学・環境倫理の文脈で新しい理論的フレームワークが生まれうる。これは、従来のHCI研究が工学的な視点に偏重していたのに対し、より広範な人文社会科学との対話を通じて、HCIの理論的基盤を再構築する契機となる。

メディアアートとの融合:ファントムレゾナンスを活かした作品が示すように、デジタルアートは脱人間中心HCIの実験場となり得る。これにより、科学と芸術が交差する新ジャンルの創出も期待される。これは、従来のHCI研究が実用性や機能性を重視してきたのに対し、芸術的な表現や感性的な側面を積極的に取り込むことで、HCIの新たな可能性を切り開くものである。

8. 結語:事実と価値を繋ぎ直す魔法の時代へ向けて

本稿は、デカルト以来の近代科学が分断してきた事実(fact)と価値(value)を再接合しようとする試みとして、脱人間中心HCIとデジタルネイチャーの視座を論じた。人間をただ最適化の対象と捉えるのではなく、多元的な価値基準や超人間的な主体を組み込みながら、新たな問題発見と価値創造を目指すアプローチが求められている。

筆者が提唱する「魔法の世紀」は、まさにこの再魔術化をデジタル技術で体現する構想と言える。AGI/ASIの到来が射程に入った現在、「マタギドライブ」に象徴される横断的で動的な研究手法が不可欠となり、ファントムレゾナンスをはじめとする予期せぬ感覚体験が指し示す領域へと足を踏み入れることが重要視される。

つまり、脱人間中心HCIは、人間のみが価値を創出するという近代的幻想を乗り越え、自然・AI・動物・微生物・ロボットなど、あらゆる存在との連携によって新しい意味を形作るパラダイム転換を促す。そうした多元的世界観がデジタルネイチャーと交わることで、私たちがこれまで「分からなかった」あるいは「考えもしなかった」領域が数多く開け、科学技術と芸術と人文の狭間で新たな知の地平が構築されていくと考えられる。

この未来像は、単なる技術進歩を超えた社会・文化変容を示唆する。従来の課題解決型の科学技術では到達し得なかった「価値発見」や「未知との遭遇」が、まさに魔法のように現実化する時代へ向け、私たちは事実と価値を切り離すことなく、相互に響き合う全体として捉え直す必要がある。デカルトからベイトソン、モリス・バーマンまで紡がれてきた人間観・自然観の再検討が、デジタルネイチャー時代のHCIの根底を支えるだろう。今後ますます、複合的な視点や学際的アプローチが、技術と社会の行方を形作る核心となっていくのである。そして、その探求の旅路において、「マタギドライブ」は未知の領域を切り開く羅針盤となり、「ファントムレゾナンス」は新たな感性と価値の共鳴を生み出す触媒となるであろう。人間とAI、そして多様な存在者が織りなすデジタルネイチャーの未来は、まさに「魔法の世紀」の名にふさわしい、驚きと発見に満ちた時代となるに違いない。



補章1:オートエスノグラフィーの深化と現場における価値探索:脱人間中心HCIを駆動する新たな方法論

これまでの章では、デジタルネイチャーの概念、脱人間中心HCIの必要性、そして価値発見工学としてのマタギドライブとファントムレゾナンスの意義について論じてきた。本補章では、これまでの議論を前提としつつ、オートエスノグラフィーや現場の価値基準をめぐる観点をさらに深掘りする。近年のHCI研究は、計算機やAIだけでなく、人間の多様な文化的背景・経験則を包括的に捉える必要性が叫ばれており、この潮流を支える方法論としてオートエスノグラフィーが注目されている。さらに、研究者自身が「現場」に入り込み、ローカルな価値観や判断基準を体験・観察することで新たなインサイトを得るアプローチの重要性が増している。本章では、オートエスノグラフィーが、民芸的な道具観や東洋思想的自然観とも結びつき、新たな研究デザインや評価の基礎を形成し得るという論点を、多角的な視点から提示する。

1. オートエスノグラフィー:自己省察を通じた多次元的価値判断の探求

オートエスノグラフィーとは、研究者が自分自身の体験や文化的背景を分析対象とし、そこから社会的・学術的意義を導き出す方法論である。これは、従来の客観性を重視する科学的方法論とは一線を画し、研究者の主観性や身体性を積極的に研究プロセスに組み込むことを特徴とする。HCIの文脈では、研究者が現場(フィールド)に直接赴き、自らも当事者として状況に参与しながら、「どのような価値観がそこに潜在し、どのような行為が意味を持っているのか」を探る。たとえば、牧歌的な生活空間で手仕事を行う人々の使う道具や、その道具をめぐるローカルな愛着心を記録・考察することで、デジタル技術が入り込む前の「身体感覚」「労働観」「自然観」などを織り交ぜた、多層的な価値基準の存在を可視化する。

このアプローチは、機能最適化や効率化一辺倒では拾えない細やかな知見――たとえば道具の素材感や文化的シンボリズム、共同体内の暗黙の合意――を把握し得る。そうした知見をHCI研究に取り込むことで、単なるタスク効率や技術指標に終始しない、より包括的かつ多元的な設計指針を立案することが可能となる。これは、従来のHCIが「ユーザースタディ」や「ユーザビリティ」という特定の価値基準に偏重していたのに対し、近年盛り上がりつつあるオートエスノグラフィーは「生活の質」「文化の継承」「コミュニティの絆」といった、統計的調査のみでないより複合的な価値基準を導入する可能性を開く。

1.1 オートエスノグラフィーにおける自己省察の役割

オートエスノグラフィーの核心は、研究者自身の自己省察にある。研究者は、現場での体験を単に客観的に記述するのではなく、自らの感情、思考、価値観の変化を詳細に記録し、分析する。このプロセスを通じて、研究者は自らの文化的バイアスや先入観を自覚し、より深いレベルで現場の価値観を理解することが可能となる。

例えば、ある研究者が伝統的な工芸技術を学ぶために職人に弟子入りしたとする。彼は、技術の習得過程で生じる身体的な困難さ、精神的な葛藤、そして職人や地域コミュニティとの関係性の変化を詳細に記録する。この記録は、単なる技術習得の記録ではなく、研究者自身のアイデンティティや世界観の変容をも捉えた、深い自己省察の記録となる。

1.2 オートエスノグラフィーと批判的HCIの接続

オートエスノグラフィーは、近年注目を集めている批判的HCI (Critical HCI) とも深く関連する。批判的HCIは、従来のHCIが技術中心主義や効率至上主義に陥っていたことを批判し、より社会的・政治的・倫理的な視点をHCI研究に導入しようとする動きである。オートエスノグラフィーは、研究者自身の立場性や権力関係を自覚的に捉えることで、批判的HCIの視点を具体化する方法論として機能する。

例えば、発展途上国におけるICT導入プロジェクトを評価する際、オートエスノグラフィーを用いることで、研究者は自らの文化的背景や西洋中心的な開発観を相対化し、現地の人々の視点からプロジェクトの意義を再評価することが可能となる。これは、従来の客観的な評価手法では捉えきれない、開発プロジェクトの複雑な社会的・文化的影響を明らかにする上で有効である。

2. 民藝的道具論と東洋思想:人間、自然、道具の新たな関係性の探求

筆者がしばしば言及する「民藝的」「東洋思想的」な道具論は、一見するとアナログで牧歌的なイメージが先行する。しかし、実際にはそこに含まれるのは「人間が自然とともに生き、道具を単なる手段ではなく対象化困難な存在として扱う感性」である。過去のHCIは、ユーザビリティや操作手順を簡素化するための“便利な装置”を目指すことが多かったが、民芸の道具や工芸が象徴するのは、使い手と道具が長年の使用を通じて培う「共鳴」や「愛着」、地域文化との融合である。

研究者がこの道具観や感性に触れるのは、しばしば現場調査(フィールドワーク)に依拠する。そこでは、道具を使用する文脈だけでなく、道具の製作工程や保守の習慣、修繕や再利用の仕方など、生活や文化そのものに深く結びついた知見が得られる。オートエスノグラフィー的視座を加えることで、研究者自身の身体感覚や価値観がどのように揺さぶられ、変化していくかを同時に記録し、言語化していく。

2.1 柳宗悦の民芸論とHCIの接続

民芸運動の提唱者である柳宗悦は、名もなき職人が作る日用品の中に「用の美」を見出した。彼は、機械生産による大量生産品にはない、手仕事による温かみや個性を高く評価し、その背景にある職人の精神性や地域文化の重要性を説いた。この柳の民芸論は、現代のHCI研究、特に脱人間中心HCIの視点から再解釈することで、新たなデザイン原理を導き出す可能性を秘めている。

例えば、柳が強調した「直観」や「無心」といった概念は、AIやアルゴリズムが支配する現代社会において、人間とテクノロジーの新たな関係性を考える上で重要な示唆を与えてくれる。また、民芸品が持つ「地域性」や「物語性」は、デジタルテクノロジーが画一化を招きがちな現代において、多様性や個性を尊重するデザインの重要性を再認識させてくれる。

2.2 東洋思想における自然観とHCI

東洋思想、特に道教や仏教における自然観は、人間と自然を対立するものとして捉えず、むしろ一体のものとして捉える点に特徴がある。このような自然観は、デジタルネイチャーの概念とも親和性が高く、人間とテクノロジーの共生関係を考える上で重要な視座を提供する。

例えば、禅における「無」の概念は、デジタルテクノロジーの過剰な情報や刺激から距離を置き、より本質的なものに目を向けることの重要性を示唆している。また、老荘思想における「無為自然」の考え方は、テクノロジーを人間の欲望を満たすための道具としてではなく、自然のリズムと調和する存在として捉え直すことを促している。

2.3 民芸的道具論と東洋思想が脱人間中心HCIに示唆するもの

民芸的道具論と東洋思想は、脱人間中心HCIに対して以下のような示唆を与える。

  1. 持続可能性:大量生産・大量消費を前提とした現代のテクノロジー文化に対し、民芸や東洋思想は、持続可能な生産と消費のあり方を示唆する。これは、環境問題が深刻化する現代において、HCI研究が取り組むべき重要な課題である。

  2. 多様性の尊重:画一化されがちなデジタルテクノロジーに対し、民芸や東洋思想は、地域性や個性を尊重した多様なテクノロジーのあり方を示唆する。これは、脱人間中心HCIが目指すマルチスピーシーズやプルリバーサルデザインとも親和性が高い。

  3. 身体性と精神性:身体的な労働や精神的な修養を重視する民芸や東洋思想は、デジタルテクノロジーがもたらす身体性の希薄化や精神性の軽視といった問題に対抗する視座を提供する。これは、人間のウェルビーイングを考える上で重要な論点である。

3. 現場発見型のHCIと再発明の意義:未知の価値の探求と創出

HCI研究でしばしば議論されるのが「車輪の再発明」である。本来であれば既知の解答があるにもかかわらず、あえて未知の手法で再発明を試みたり、一見冗長な実験を行うことがある。こうした試みは、一見すると「無駄」に映るが、独自の視点やローカルな文脈を踏まえて再発明した道具や手法が、意外な価値や応用可能性をもたらすことが多々ある。

特に、現場の多様な利害や価値観が絡み合う環境においては、既存のベストプラクティスをそのまま導入しても上手くいかないケースが少なくない。オートエスノグラフィーは、研究者が実際にその価値観の渦中に入り込み、場当たり的な試行錯誤や「無駄」に見える行為を通じてこそ、本質的な要件をつかみ取れる可能性を見せる。再発明の行為は、「既にあるものを知りつつも、あえて独自の文脈で創り直す」ことによって新しい感性や視点を発生させる。それが感性工学の立場からも大きな意味を持ち、研究的にもユニークなアウトプットへと昇華し得る。

3.1 再発明のプロセスにおける創発的発見

再発明のプロセスでは、しばしば予期せぬ発見や創造的な解決策が生まれる。これは、既知の知識や技術を異なる文脈に適用することで、新たな関係性や意味が見出されるためである。例えば、ある研究者が伝統的な農具を現代の都市農業に応用しようと試みたとする。彼は、農具の形状や使用法をそのまま都市環境に適用するのではなく、都市の限られた空間や土壌の特性に合わせて改良を加える。この過程で、彼は農具の新たな機能や可能性を発見するかもしれない。

このような創発的な発見は、従来のトップダウン型の研究開発では生まれにくい。なぜなら、トップダウン型のアプローチでは、あらかじめ設定された目標に向かって効率的に進むことが重視されるため、予期せぬ発見や寄り道が排除されがちだからである。一方、オートエスノグラフィーに基づく現場発見型の研究では、研究者自身が現場の状況に柔軟に対応し、試行錯誤を繰り返す中で、新たな発見や創造が生まれる余地が大きい。

3.2 再発明とローカルナレッジの結合

再発明のプロセスは、ローカルナレッジ(地域固有の知識や技術)と結びつくことで、さらに豊かな成果を生み出す可能性がある。ローカルナレッジは、長い年月をかけて特定の地域で培われてきたものであり、その地域の環境や文化に深く根ざしている。研究者が再発明を行う際に、ローカルナレッジを積極的に取り入れることで、地域に適した持続可能なテクノロジーを開発することが可能となる。

例えば、ある研究者が途上国の農村部で灌漑システムの開発に取り組む場合、既存の近代的な灌漑技術をそのまま導入するのではなく、その地域の伝統的な水管理の知識や技術を調査し、それを再発明のプロセスに組み込むことが考えられる。これにより、地域住民のニーズや環境に適合した、より持続可能で受け入れられやすい灌漑システムを開発できる可能性がある。

3.3 再発明がもたらす社会的・文化的インパクト

再発明は、単に技術的な成果を生み出すだけでなく、社会的・文化的なインパクトをもたらす可能性も秘めている。例えば、ある伝統工芸の技術を再発明することで、その技術の継承や発展に貢献できるかもしれない。また、地域固有の素材や技術を用いた製品を開発することで、地域の経済活性化やアイデンティティの強化につながる可能性もある。

さらに、再発明のプロセスを通じて、研究者と地域住民との間に新たな関係性が構築されることも期待できる。研究者が地域住民と協働して再発明に取り組むことで、相互理解が深まり、持続的な協力関係が築かれる可能性がある。これは、研究の成果を社会に還元する上で重要な要素である。

4. 物語(ストーリー)としての研究と「読み物」価値:研究成果の新たな伝達形態

ここで注目すべきは、現場で得た発見や経験を「いかに言語化し、ストーリーとして伝えるか」という問題である。HCI研究は本来、工学的実験やユーザスタディの定量評価ばかりに注目しがちだが、近年はオートエスノグラフィー的なナラティブ(物語形式)を通じて研究成果を訴求する動きが広まりつつある。たとえば研究論文を「研究者が農村へ赴き、そこに伝わる道具を使って何を感じたか」や「道具を試しにデジタル化してみた際、住民の反応はどう変わったか」といった個人的なエピソードを軸に描くことで、学術性と読み物の魅力を両立させる。

こうした手法は、マタギドライブ的研究姿勢とも親和性が高い。マタギドライブとは、多領域を横断しながら未踏の価値を探し出す狩猟採集的な比喩であった。そこでは、単に効率や新規性だけではなく、研究者自身の体験が醸し出すストーリー性が重要となる。さらに、参加者やコミュニティとのやり取りで生まれる逸話やハプニングこそが、新たな価値発見やデザインインスピレーションの源泉となるだろう。

4.1 ナラティブを通じた研究知の共有

ナラティブを用いることで、研究のプロセスや成果をより魅力的かつ理解しやすい形で伝えることが可能となる。特に、オートエスノグラフィーに基づく研究では、研究者自身の体験や感情が重要な要素となるため、ナラティブはそれらを表現する上で効果的な手段となる。

例えば、ある研究者が伝統的な漁法を学ぶために漁師と生活を共にした経験を、物語形式で論文にまとめたとする。彼は、漁の技術だけでなく、漁師の生活様式、自然観、地域コミュニティとの関係性などを詳細に描写する。この論文は、単なる漁法の技術的な解説を超えて、読者に漁師の世界を追体験させるような内容となる。

4.2 ナラティブと脱人間中心HCIの接続

ナラティブは、脱人間中心HCIの理念を伝える上でも有効である。脱人間中心HCIでは、人間だけでなく、動物、植物、AIなど、多様な存在者の視点を考慮することが求められる。ナラティブを用いることで、これらの非人間存在者の視点を想像的に描き出し、読者に共感を促すことが可能となる。

例えば、ある研究者が森林生態系を保護するためのテクノロジーを開発する場合、その研究の意義を説明するために、森に住む動物の視点から物語を描くことが考えられる。この物語を通じて、読者は人間中心的な視点から離れ、森全体の視点からテクノロジーの影響を考えることができるようになる。

4.3 ナラティブがもたらす研究の新たな価値

ナラティブに基づく研究は、従来の学術的な価値基準とは異なる、新たな価値を生み出す可能性がある。それは、「読み物としての面白さ」や「共感性」といった価値である。これらの価値は、研究の社会的影響力を高める上で重要な役割を果たす。

例えば、ある研究が一般の人々に広く読まれることで、その研究テーマへの関心が高まり、社会的議論が喚起されるかもしれない。また、研究のナラティブが人々の共感を呼ぶことで、研究への支援や協力が得られやすくなる可能性もある。さらに、ナラティブを通じて研究者の人間性や情熱が伝わることで、若い世代の研究への関心を高める効果も期待できる。これは、研究の持続可能性を考える上でも重要な要素である。

5. オートエスノグラフィー、民芸、再発明が拓くHCIの地平:脱人間中心HCIの深化に向けて

以上のように、オートエスノグラフィー的現場調査と民芸的・東洋思想的な道具観が交錯する領域では、脱人間中心の視点がいっそう複雑で深いかたちを帯びる。マルチスピーシーズやローカル文化、さらには自然への畏敬や労りといった価値観が、デジタル技術の新しい応用やアイデアと結びつき、学術的にもユニークな知見を生むと期待される。

これらの研究は、単なるテクノロジーの実証実験や最適化の追求ではなく、現場に根差した物語を編み出す作業でもある。研究が「読み物」や「ストーリー」としての魅力を帯びれば帯びるほど、脱人間中心HCIにおいて多層的な価値が生じやすくなる。そこには、以下のような意義が含まれると考えられる。

  1. 文化論的・社会学的洞察:ローカルコミュニティの道具使用や価値判断を分析することで、新しい社会学・文化論に資する発見が期待できる。これは、従来のHCI研究が技術的な側面に偏重していたのに対し、より広範な人文社会科学との接続を可能にする。

  2. 豊かな設計指針の獲得:効率や利便性を超えた、使い手や環境との「愛着」「継続性」「尊重関係」を設計に落とし込む足がかりとなる。これは、脱人間中心HCIが目指す、人間とテクノロジー、そして環境との調和的な関係性を構築するための具体的な指針を提供し得る。

  3. 研究の透明性・再現性以外の価値:科学技術の評価指標が論文のインパクトファクターや実験の再現率だけではないことを示し、「読み物としての面白さ」や「現場感の共有」が価値を持つケースを提示する。これは、研究の社会への発信力を高めるとともに、研究への共感や支援を広げる可能性を秘めている。

  4. 新たな学際領域の創出:オートエスノグラフィー、民芸、東洋思想、HCI、さらにマタギドライブなどの方法論や視点が交差することで、新たな学際領域が生まれる可能性がある。これは、従来の学問分野の枠組みを超えた、イノベーティブな研究の創出につながるだろう。

脱人間中心HCIが注目を集める今、現場でのオートエスノグラフィー的探求と民芸的道具観の再評価は、新たな方法論的含意をもたらす。単に新奇な技術を開発するのでなく、そこに刻まれた文化的・歴史的文脈、身体感覚の微細な変化、そしてコミュニティの賛同や抵抗といったファクターすべてを取り込みながら、「豊かなストーリーを伴う研究」として結実させる余地がある。これこそが、マタギドライブ的研究方向の一つの重要な実践形態となるだろう。

6. マタギドライブとの接続:価値発見の狩猟採集

ここで、改めてマタギドライブの概念との接続を明確にしておこう。マタギドライブとは、筆者が提唱する、領域横断的に未知の価値を探求する研究スタイルを指す。これは、あたかもマタギが山野を駆け巡り獲物を狩るように、研究者が既成の学問分野や思考の枠組みにとらわれず、自由に探索を行うことを意味する。

オートエスノグラフィー、民芸、再発明といった視点は、マタギドライブを実践する上での強力なツールとなる。オートエスノグラフィーは、研究者自身を「狩りの場」とし、自己の内面や経験を深く探求することで、未知の価値を発見する手法である。民芸や東洋思想は、従来の西洋中心的な価値観とは異なる視点を提供し、新たな「獲物」を見出すための視野を広げてくれる。再発明は、既知の知識や技術をあえて「狩り直す」ことで、新たな価値を創出する試みと言える。

これらのツールを駆使することで、マタギドライブはより具体的かつ実践的な研究スタイルとなる。研究者は、自らの足で現場を歩き、人々と対話し、手を動かして物を作る中で、未知の価値を発見していく。その過程は、まさに狩猟採集の旅にも似た、創造的でスリリングな体験となるだろう。

6.1 マタギドライブにおける「野生の思考」の活用

マタギドライブを実践する上で重要なのが、「野生の思考」の活用である。これは、フランスの構造主義人類学者レヴィ=ストロースが提唱した概念で、未開社会の人々が持つ、具体的かつ直感的な思考様式を指す。レヴィ=ストロースは、「野生の思考」が、西洋の近代的思考とは異なる論理と体系を持ち、独自の合理性を備えていることを示した。

マタギドライブでは、この「野生の思考」を積極的に取り入れることが求められる。つまり、論理や理性だけでなく、直感や感性を重視し、一見非合理に見えるような発想や行動をも肯定的に捉えるのである。これは、従来の科学的方法論が排除してきた、いわば「ノイズ」の中にこそ、未知の価値が潜んでいる可能性があるからだ。

例えば、ある研究者が「デジタルデトックス」をテーマに、あえてスマートフォンの使用を一定期間制限する実験を行うとする。彼は、その期間中に感じた不便さや違和感、そしてそれらを解消するために行った工夫などを詳細に記録する。これらの記録は、一見個人的な体験に過ぎないように見えるが、そこには「野生の思考」に基づく新たな発見が含まれているかもしれない。例えば、スマートフォンに依存しないコミュニケーションのあり方や、デジタルテクノロジーとの新たな付き合い方などである。

(ここはちょっと古臭い)

6.2 マタギドライブとデジタルネイチャーの接続

マタギドライブは、デジタルネイチャーの概念とも深く関連している。デジタルネイチャーとは、デジタルテクノロジーと自然が融合した新たな環境を指す。この環境においては、現実と仮想、自然と人工の境界が曖昧になり、従来の人間中心的な世界観が揺らぐことになる。

マタギドライブは、このようなデジタルネイチャーの時代における、新たな知の探求方法として位置づけられる。デジタルネイチャーにおいては、従来の学問分野の枠組みや研究手法では捉えきれない、複雑で動的な現象が数多く生じる。マタギドライブは、このような未知の領域に果敢に踏み込み、新たな価値を発見するための方法論的基盤を提供する。

例えば、ある研究者が、AIと人間の共創による芸術表現の可能性を探求するとする。彼は、特定の芸術分野の専門知識を持たないかもしれないが、マタギドライブの精神に基づき、AI研究者、アーティスト、そして自分自身の感性を頼りに、新たな表現の可能性を模索する。このプロセスは、まさにデジタルネイチャーにおける「狩り」と言えるだろう。

7. 結論:脱人間中心HCIの未来を切り開く新たな研究パラダイム/価値波及発見工学としてのHCI

本補章では、オートエスノグラフィー、民芸、再発明といった視点から、脱人間中心HCIの新たな方法論を探求してきた。これらの視点は、従来のHCI研究が見落としてきた、人間とテクノロジー、そして環境との関係性における多様な価値を再発見し、新たなデザイン原理を導き出す可能性を秘めている。

また、これらの視点は、マタギドライブという研究スタイルを具現化するための強力なツールとなる。マタギドライブは、デジタルネイチャーの時代における知の探求方法として、今後ますます重要性を増していくだろう。

脱人間中心HCIは、まだ黎明期にある。しかし、オートエスノグラフィー、民芸、再発明、そしてマタギドライブといった新たな方法論や視点を取り入れることで、その可能性は大きく広がっていく。これらの方法論や視点は、単に新しい技術を開発するだけでなく、人間とテクノロジー、そして環境との関係性を根本から問い直し、新たな価値を創造するための基盤となる。

今後のHCI研究は、これらの方法論や視点をさらに発展させ、実践していくことが求められる。それは、従来の学問分野の枠組みを超えた、学際的かつ創造的な取り組みとなるだろう。そして、その先には、人間中心主義を超えた、より豊かで持続可能な未来が広がっているはずである。

筆者は、この新たな研究パラダイムの構築に貢献すべく、今後もマタギドライブを実践し、デジタルネイチャーにおける未知の価値の探求を続けていく。それは、困難だが刺激的で、そして何よりも人間にとって重要な「狩り」となるだろう。そして、その「狩り」の成果は、論文という形式だけでなく、物語や芸術作品、そして社会的な実践など、多様な形で表現され、共有されていくことになる。つまりは人間コミュニティにとどまらない価値波及発見工学としてのHCI。これこそが、脱人間中心HCIが目指すべき、新たな知の創造と共有のあり方であると私は考えている。

補章2:xDiversityが開示する計算機自然における当事者性と新たな研究様式

以下に示す文章は、これまでの議論や既存情報を踏まえ、JST CREST xDiversity(以下、xDiversity と略称)の活動を、単なる研究報告としてではなく、計算機自然(デジタルネイチャー)[5, 6]における新たな「脱人間中心HCI」[第2章]を模索・実践する先駆的なプロジェクトとして位置づけ、論じる試みである。ここでは、xDiversityで採用された研究手法の再検討、特にオートエスノグラフィーに基づく現場指向、N=1の当事者研究などを複合的に組み合わせた方法論に焦点を当てる。これらの方法論は、従来のHCI研究の枠組みを超え、より包括的かつ動的な人間とテクノロジーの関係性を探求するものであり、学術的文脈を超えて多角的に価値を創出する道筋を提示する。筆者(落合陽一)の視点、すなわち、計算機自然(デジタルネイチャー)および脱人間中心HCIの視座から、多様なリソースが交錯する「クロス・ダイバーシティ(xDiversity)」の意義と、そこから展開し得る新たな研究観、そして来るべき計算機自然における人間像について論じる。

1. 計算機自然(デジタルネイチャー)における脱人間中心HCIの展開とxDiversity

近年、ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI)の枠組みにおいて、従来の人間中心設計を再考し、超克する動きが加速している。AIやロボティクス、身体拡張をめぐる技術進歩が進むにつれ、必ずしも「人間の利便性」や「平均的ユーザビリティ」だけを最終目標としない脱人間中心の潮流が注目を集めている。この潮流は、マルチスピーシーズ[7, 11]やプルリバーサルデザイン[7]といった多元的世界観の探求とも共鳴し、技術や学問領域の垣根を越えて相互作用する環境を生み出している。そして、筆者が提唱する「計算機自然(デジタルネイチャー)」[5, 6]の概念は、この潮流を加速させ、人間、計算機、自然が渾然一体となった新たな環境におけるHCIのあり方を再考する契機を提供する。
こうした文脈において、xDiversityは身体・障がい・環境の多様性を積極的に捉え返すプロジェクトとして位置づけられる。JSTのCREST事業[5]に採択された当初から、AIや空間視聴触覚技術[18]を組み合わせることで、ユーザー個々のニーズに合わせた柔軟な適応を志向してきた[1, 2]。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における個別性と普遍性の共存を示唆している。当事者との共同開発により、既存の社会的バリアを取り除くのみならず、「多様性」自体を新たな価値創出の源泉と捉えるアプローチを模索している点が特徴であり[4]、これは計算機自然(デジタルネイチャー)における新たな人間とテクノロジーの共生関係の萌芽と言える。

2. オートエスノグラフィーと現場指向の実践:計算機自然における当事者性の探求

2.1 N=1の当事者研究の今日的意義
xDiversityが従来の研究とは異なる局面を切り拓いた要因として、「N=1の当事者研究」に特化した姿勢が挙げられる。これは、従来の統計的、平均的なユーザーモデルに基づくアプローチから、個々のユーザーの固有の経験やニーズに深く焦点を当てるアプローチへの転換を意味する。たとえば、乙武洋匡氏とロボット義足を開発する「OTOTAKE義足プロジェクト」[10, 15]は、高度なロボティクスや筋電制御[17]などの技術的要素のみならず、本人の身体感覚と生活世界を重視した共同実験の集合体であった。これは多数統計に基づくUI/UX最適化の手法とは異なり、個人に最適化された解を導くN=1のアプローチが、結果として汎用性や多様性の涵養につながるという逆説を示している。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における個と全体の新たな関係性を示唆するものであり、個別最適化と全体最適化の二項対立を超克する可能性を秘めている。
2.2 オートエスノグラフィー:計算機自然における自己と他者の境界の融解
このN=1の研究手法や当事者研究の深化には、オートエスノグラフィー(autoethnography)が密接に関わり得る。オートエスノグラフィーとは、研究者自身、あるいは当事者・支援者が一体となって自己言及的に体験を記述し、そこから学術的示唆を得る手法である[4, 14]。たとえば、ある身体障がい当事者がロボット義足を装着する過程で感じる恐れや喜び、環境との折り合いは、第三者視点の客観評価では見えにくい、微細かつ当事者固有の知覚の変化や文化的背景を含んでいる。オートエスノグラフィーがこうした体験を丁寧に文章化・分析することで、N=1の事例に社会・技術・文化を横断する普遍的洞察が宿る可能性を引き出すのである。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における自己と他者、人間とテクノロジーの境界が融解する中で、新たな知の探求方法として有効である。
xDiversityでは、各種ワークショップや展示[20]を通じて当事者や参加者が得る感情や学習プロセス[19]を、ユーザテストの統計指標だけでなく、ストーリーとして捉え返す姿勢を強調してきた[4, 14]。そこには学術的評価を超えた広義のコミュニケーションが盛り込まれており、技術そのものを進化させる要素にもなっている。このような実践は、計算機自然(デジタルネイチャー)における共感的かつ創発的なコミュニケーションのあり方を示しており、脱人間中心の方法論としても顕著な意義を持つと考えられる。

3. N=1のプロジェクトと再帰的価値創出:計算機自然における創造性の発現

3.1 身体拡張と多様性の交点:計算機自然における新たな身体性
OTOTAKE義足[10, 15]やOntenna[4]などのプロトタイプ群は、xDiversityが独自に開発してきた支援技術であるが、いずれも**「個別の身体課題」**を起点にしている点が共通する。たとえばOTOTAKE義足の開発で重視されたのは、乙武氏が感じる身体の“欠損”ではなく、各々の生活文脈やアイデンティティをどう拡張し得るかという問いであった。これは一見、N=1に閉じた取り組みに見えるが、結果的に汎用的なロボット義肢設計やソフトウェア学習モデルなど、多様な応用へと発展し得るアーキテクチャを示したのである。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における身体性の拡張と、多様性の包摂を示唆している。
3.2 車輪の再発明とマタギドライブ的アプローチ:計算機自然における探求の精神
こうした個別課題を起点とした研究には、しばしば「車輪の再発明」という批判が付きまとう。すでにある義足機構や支援デバイスを使えば効率的ではないか、という議論である。しかしxDiversityの事例が示すように、あえてN=1の当事者とともに再発明する行為は、隠れた感性やローカルな価値基準を新たに発掘する手段として機能する[7, 9]。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における、既知の技術の再解釈と、新たな価値創造の可能性を示している。
ここで強調したいのは、筆者が提唱する「マタギドライブ(Matagi Drive)」[第2章]と呼ぶ考え方との共鳴である。マタギドライブとは、未知の領域や課題設定を“狩猟”するかのように探索する研究スタイルを指す(この概念はすでに一部のHCI論考でも言及してきた[6, 7, 8, 9])。従来の最適化指向の思考から離れ、むしろ遠回りに思える観察や実装を経て、本質的な発見に至るのがマタギドライブ的手法の醍醐味だ。xDiversityが車輪の再発明を排除せず、あえて当事者に寄り添うN=1プロジェクトを積み重ねてきた点は、まさにマタギドライブの精神と合致し、計算機自然(デジタルネイチャー)における探求の精神を体現していると言える。

4. 研究と社会実装の狭間で:計算機自然における学術的意義の拡張

4.1 複合的プロジェクトの展開:計算機自然における学際性と社会性の融合
xDiversityは、当初はJST CRESTという学術研究枠[5]からスタートしながら、ワークショップや展示・クラウドファンディング[3, 7, 14, 15]を通じて一般社会とのインタラクションを推進してきた。そこでは、研究成果を「論文」や「特許」に収めるだけでなく、当事者・支援者・市民が広く参画できるイベントやメディア発信[13, 21, 22]を積極的に展開し、研究と社会の垣根を曖昧にしている。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における学際性と社会性の融合を先取りする試みと言える。
この姿勢は、単に研究成果を社会実装する“技術移転”にとどまらず、研究プロセスそのものを文化的・社会的アクションへと接続することを意味する。マルチスピーシーズやプルリバーサル的視野においては、障害当事者を支援する技術が、結果的に健常者を含む多様な利用者層に恩恵を与えるシナリオもあり得る。加えて、当事者研究や現場主義に基づくオートエスノグラフィーが、思いがけないデザイン指針や資金獲得法など、新しいモデルを提示する可能性も高い。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における研究と社会の新たな関係性を示唆している。
4.2 アカデミックからの脱却と回帰:計算機自然における知の循環
本プロジェクトが示唆するのは、アカデミックな実績(論文数・インパクトファクターなど)を重視するだけでは見落とされる領域が確実に存在するという事実である。たとえば、当事者にとっての「人生そのものを変えるデバイス」[10]は統計上のサンプルとは異なる意味を持ち、その価値は数値化が難しい。一方で、N=1のプロジェクトが積み重なれば、その集合知としての応用範囲や理論的エビデンスを蓄積し得る余地もある。そうした経験知は再びアカデミックな場へと回帰し、HCIやロボティクス研究[17]の新たなパラダイムを活性化させるであろう。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における知の循環を示しており、学術研究の新たな可能性を開拓するものと言える。

5. 新しい脱人間中心HCIへの示唆:計算機自然における多元的価値観の具現化

以上の議論から、xDiversityの活動は計算機自然(デジタルネイチャー)における「脱人間中心HCI」のあり方に下記のような示唆を提供する。

  1. 当事者の身体的・文化的文脈を重視するN=1手法:複数の障がいや背景を持つ個人との濃密な協働は、汎用的デザイン原理を反転させ、技術的イノベーションを創出する契機となる[10]。これによって脱人間中心のHCIが求める「個人と社会、機械と環境の新しい関係性」が具現化し得る。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における個別性と普遍性の新たな調和を示唆している。

  2. オートエスノグラフィーとストーリー性:統計学的アプローチと併行し、研究者自身や当事者の体験を描き出す手法を取り入れることで、技術の深い文化的価値や人間的意義をより強く掘り下げられる[4, 14]。この視座は、単なるエビデンスベースの評価を超えて、研究の物語性や多層的インパクトを可視化する。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における新たな知の表現形態の可能性を示している。

  3. 車輪の再発明とマタギドライブ:「無駄」に見える再発明を通じて得られる発見は、既存の定義や最適化指向から逸脱した創造を喚起する。これは脱人間中心的な探究の特徴であり、既存工学や行政システムで定型化された手続きを超える可能性を秘める。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における創造性の発現原理を示唆している。

  4. アカデミック外との接続:xDiversityが活発に行ってきた社会発信(クラウドファンディング[3, 7, 15]、展示[20]、メディア露出[10, 21, 22]など)は、研究成果を社会へ実装するだけでなく、研究手法自体を広く共有する機能を持つ[3, 7]。結果として、障害当事者やアーティスト、技術者、投資家など多様な主体が集い、プルリバーサルな世界観を具体的に構築する可能性がある。これは、計算機自然(デジタルネイチャー)における多様なステークホルダーの関与と、新たなエコシステムの形成を示唆している。

6. 結論:計算機自然における多次元的価値観と研究観への指針

本補章では、xDiversityの事例を軸に、N=1に焦点を当てた当事者研究・オートエスノグラフィー・車輪の再発明・社会的実装の交点に生まれる学術的意義を検討してきた。そこには、計算機自然(デジタルネイチャー)における「脱人間中心HCI」を深めるための実践的ヒントが凝縮されている。すなわち、AIやロボット義足といった先端技術が、当事者の具体的ニーズや身体感覚と結合するとき、「技術」や「研究」の概念が大きく変容し、技術そのものが多様性を再定義する存在に変わりうることを示唆している。
さらに、こうした活動を単なる学会発表や報告書[16, 23]に留めず、広範なコミュニティ・社会と交わる形で流通させることは、研究文化そのものを拡張する可能性をはらむ。xDiversityが一般社団法人化[1]した経緯やクラウドファンディングを活用してきた実践[3, 7, 15]は、学界と市民社会の間を行き来するマタギドライブ的動きの一例であり、計算機自然(デジタルネイチャー)における研究と社会の新たな接続形態を示している。私が提示してきた計算機自然や脱人間中心HCIの流れにおいても、当事者との共創と再発明の過程は、今後さらに多面的な文化・技術融合を進める要となるだろう。
端的に言えば、このような研究手法は「学術的厳密さ」「社会的意義」「文化的意味合い」を兼ね備えた新世代のHCIモデルを提示している。N=1研究やオートエスノグラフィー、そしてマタギドライブ的探求を大局的に組み合わせることによって、一見マイナーな領域からグローバルなイノベーションが創出される契機となるのである。これが、xDiversityが描く未来であり、筆者が目指してきた「計算機自然」と「脱人間中心HCI」の交差点がもたらす世界観でもある。今後、このようなプロジェクトや研究方法論がさらなる発展を遂げ、複雑化した社会の課題に新たな光を当て続けていくことを期待したい。そして、その先に、計算機自然(デジタルネイチャー)における新たな人間像と、より豊かで持続可能な社会の姿が立ち現れてくることを確信している。

引用文献

  1. 一般社団法人xDiversity. "「一般社団法人xDiversity」設立のお知らせ." xDiversity, https://xdiversity.org/news/311. 2023年12月26日閲覧.

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  3. READYFOR. "xDiversity(クロス・ダイバーシティ)第3期サポーター募集." READYFOR, https://readyfor.jp/projects/xDiversity2024. 2023年12月26日閲覧.

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  5. 科学技術振興機構. "CREST - 国立研究開発法人 科学技術振興機構." 科学技術振興機構, https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/. 2023年12月26日閲覧.

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  9. 落合 陽一・菅野 裕介. 『xDiversityという可能性の挑戦』. 講談社, 2023.

  10. Ochiai, Y. "Yoichi Ochiai speaks on the diversity of bodies celebrated by True Colors FASHION." TOKION, 2021, https://tokion.jp/en/2021/05/23/yoichi-ochiai-speaks-diversity-of-bodies-celebrated/. 2023年12月26日閲覧.

  11. 小島 武仁, 成田 悠輔, 遠藤 謙, 落合 陽一. "【xTalk #3 】." YouTube, https://www.youtube.com/watch?v=4nGcE9uYbnY. 2023年12月26日閲覧.

  12. 科学技術振興機構. "Q&A." 科学技術振興機構, https://www.jst.go.jp/kisoken/boshuu/r05/teian/koubo/2023youkou_qa.pdf. 2023年12月26日閲覧.

  13. xDiversity. "YouTube", https://www.youtube.com/c/xDiversity. 2023年12月26日閲覧.

  14. xDiversity. "【お知らせ】xDiversity第2期サポーター募集クラウドファンディング開始のお知らせ." xDiversity, https://xdiversity.org/news/1107. 2023年12月26日閲覧.

  15. FANY. "乙武洋匡の義足プロジェクトを応援したい!." FANY crowdfunding, https://cf.fany.lol/projects/549. 2023年12月26日閲覧.

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  17. Sato, M., et al. "Design of a Wearable Two-Dimensional Joystick as a Muscle-Machine Interface Using Mechanomyographic Signals." ResearchGate, 2014, https://www.researchgate.net/publication/260944122_Design_of_a_Wearable_Two-Dimensional_Joystick_as_a_Muscle-Machine_Interface_Using_Mechanomyographic_Signals. 2023年12月26日閲覧.

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  22. 落合 陽一. "XDIVERSITYで目指す「社会の包摂性をテクノロジーで拡張」、その実現に必要なもの." astavision, 2023, https://astavision.com/interview/4597. 2023年12月26日閲覧.

  23. 科学技術振興機構. "評価・報告書 | CREST." 科学技術振興機構,https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/evaluation/index.html. 2023年12月26日閲覧.


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