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東京科学大での質疑応答

この前東京科学大で講義してたんだけどその時の質問とその回答のあたり.このあとAIエージェントでワークショップしてみんなでいろんな研究しました.楽しかった.



デジタルネイチャーとマタギドライヴ思想の概観

1. デジタルネイチャーの概念

落合陽一氏が提唱する「デジタルネイチャー」は、従来の「物質的・物理的な自然」と「情報的・計算的な人工物」の境界が曖昧となり、自然と計算機が融合した新たな世界観を指す[1][2][7]。具体的には、自然現象の背後にある様々な因果律やデータ構造、情報環境といったものが区別なく繋がり合い、森羅万象と計算機が一体化していくようなビジョンである[7][13][21]。この融合により、「従来の自然」は単なる物理的環境から計算機と一体化した環境へと変容し、人間はその中で「情報と物質が不可分に絡み合った世界」を生きることになる[3][7][27]。

このようなデジタルネイチャーの時代には、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)、あるいはIoTや量子コンピューティングなど、多岐にわたるテクノロジーが物質世界と情報世界をシームレスに接続する[12][20][21][36]。その結果、外部環境としての「自然」は、巨大な計算プロセスの一部ともみなしうるようになる[7][13]。一方で、人間の身体や知覚も拡張されることにより、新たな文化・社会システムが構築され、私たちが“主体”としての役割をいかに確立するか、あるいは“客体”として単にデータ化されるのかが大きな論点として浮上する[4][19][27]。

2. マタギドライヴ思想

デジタルネイチャー時代において、人間は従来の「計画的・農耕的」な合理性に縛られるのではなく、狩猟採集民(マタギ)のような偶発性を重視する心性を取り戻すべきだという提言が、落合氏の「マタギドライヴ」という概念に集約されている[27][28][31][35]。これは、人類が農耕革命以降に培ってきた「定住・計画型」思考に偏る一方、近年の情報化社会ではアルゴリズムや効率化の波がさらなる最適化をもたらしている。そのなかで、あえて非最適・偶発的・流動的な要素に価値を見いだし、新たな創造やイノベーションを起こす態度が重要になるという考え方である[14][19][23]。

マタギの生き方は、自然のなかを動き回り、局所的・瞬時的な判断を行いながら獲物や資源を手に入れていく「狩猟採集」の発想に基づく[19][28]。デジタルネイチャー時代の人類も同様に、膨大な情報環境(アルゴリズムに最適化された世界)を遊泳しつつ、計算機に抗うのではなく計算機と共創する形で偶発性を拾い上げ、新たな価値や美を発見していく主体となるべきだ、というのがマタギドライヴの主張である[19][27]。

この視点から見ると、AI技術の進化によって私たちが「客体化」される恐れはあるものの、それを嘆くのではなく、むしろ積極的に“計算機環境を狩猟”していく行為が求められる[27][28]。デジタルネイチャーの森をマタギのように歩き回ることで、想定外の結果や未知の関係性を見出し、まったく新しい創造や発想を得ることが可能になる[27][28]。

3. 計算機による客体化社会と「外部」の変容

AIやビッグデータの発展により、あらゆる存在が計測・分析・最適化の対象となる「客体化社会」が到来しつつある[8][9][23]。この状況下で「外部」は再定義を迫られるが、落合氏は東洋思想の「空(くう)」や「無」と計算機概念の「null(ヌル)」を重ね合わせることで、無限の可能性を内包した外部として再提示している[35][37]。デジタルネイチャー時代には、従来の物理的な「外部」のみならず、アルゴリズムが生み出す仮想・シミュレーション領域こそが、新たな未知やカオスを含む外部となる[27][28][35]。

そのため、科学やアートの探究も「メタ科学」「メタアート」といった形で、生成プロセスの自体を俯瞰する探究へ進化するだろうと考えられている[19][27][35]。計算機的曼荼羅(オブジェクト指向仏教)などの実験的アートや研究手法は、この方向性を先取りしている例とも言える[35]。


質問への回答

ここからは、上述のデジタルネイチャー/マタギドライヴ思想を踏まえ、事前アンケートで頂戴した9つの質問に回答していきます。あわせて最後に、講義形式や撮影許可に関する依頼事項についても言及します。


質問1:AIのスペシャリストになるには、何をしたら良いか?

1-1. 「農耕型学習」と「狩猟採集型学習」の組み合わせ

AI技術を習得する際には、まず基礎的なプログラミングや数学(特に線形代数・微分積分・確率統計)を着実に学ぶ必要があります[20][21]。これはある意味で「農耕的」な計画学習です。たとえば大学やオンライン講座を利用し、体系的なカリキュラムに従って少しずつ地力を養う。これは遠回りに感じるかもしれませんが、基礎理論を押さえておくことで、長期的には応用力が大幅に向上します[20][21][36]。

一方で、マタギドライヴ思想の観点からは、単に最短ルートで「定石」を学ぶだけではなく、偶発的な興味・関心に従って幅広い情報を狩猟的に収集する姿勢も大切です[19][28]。具体的には、最新のオープンソースプロジェクト(GitHubなど)を探索し、面白そうな実装を試してみる、ハッカソンやコミュニティに飛び込み、自分のアイデアを小さくプロトタイプする、などが挙げられます[14][16]。こうした「狩猟採集的」アプローチにより、本来なら偶然出会えなかった問題設定やツールに触れ、独自の強みを得られるかもしれません。

1-2. AIリサーチの多様性とメタ視点

特に近年のAI研究は深層学習一辺倒から徐々に多様化し、物理シミュレーション・量子コンピューティング・強化学習・大規模言語モデルなど多岐にわたっています[21][36]。ある程度ベースが身についたら、自分の関心領域のどこを深めるか(ビジョン、NLP、ロボティクスなど)を絞りつつ、「他領域と連携して何ができるか?」というメタ視点も大切にするとよいでしょう[12][21]。

また、落合陽一氏のアプローチを参考にするならば、「科学とアートを横断するような研究テーマ」を自分なりに設定するのも有効です[1][27]。例えば、計算美学、メディアアート、自然言語処理と創作の組み合わせなど、AI技術を使って身体的・感覚的体験を拡張する試みに挑戦すると、新たな地平が開けます[3][4][7]。その過程で専門外の研究者やクリエイターとコラボレーションし、予期せぬ相乗効果が得られることも多いでしょう[2][19]。

1-3. 結論

  • 基礎理論+最新動向のキャッチアップを「農耕的」に継続する。

  • 興味や閃きに従い「狩猟採集的」学習・実験を繰り返す。

  • 他領域との協働、メタ視点を持つことで幅広い活用可能性を探る。

以上が、AIのスペシャリストを目指す際に重視すべきポイントです。短期的なスキル習得にとどまらず、長期的な自己成長を志向する姿勢が求められます。


質問2:「落合陽一塾」で得た知見を生かして大学を1から作るなら?

2-1. 「落合陽一塾」と学びの場の特徴

落合陽一氏が主宰するコミュニティ(通称「落合陽一塾」)は、オンラインやオフラインの場を通じて、多様な背景を持つ人々がクリエイティブな対話を行う実践型の学びのコミュニティとして機能している[15][16][38]。そこではメディアアートやコンピュータサイエンスの最新トピックのみならず、哲学・社会学・デザインなど広範なテーマが扱われ、領域横断的な活動が行われる点が特徴的である[16][18]。また「遊び」や「ふざけ」を取り入れながら真剣な研究や創作を行う姿勢が実践されているという。

2-2. 従来の大学との違い

もしこの知見を生かして大学を1から作るなら、以下のようなポイントが「従来の大学」と大きく異なると考えられるでしょう。

  1. 学部・学科の枠を超えたメタ学習プログラム

    • 従来の大学では学部ごとに専門領域が分割され、それぞれのカリキュラムを履修する形式が多い。しかし新設するなら、領域横断的・学際的なプログラムを核とし、常に「複数の分野をハックする」視点を持つカリキュラム設計を行う[15][19]。

    • 例:自然言語処理 × 宗教学 × デザイン思考 といった組み合わせで履修を推奨するモジュール制の構築など。

  2. 「狩猟採集型」学習を重視

    • プロジェクト単位で学習し、学生が興味を持った課題を自由に探索できるような仕組みを設ける。メンター(教員・外部リサーチャー)が伴走し、必要な理論や技術をオンデマンドに学ばせる方式を基本とする[16][28]。

    • 従来の一方向的な講義よりも、ワークショップ型ハッカソン型研究ラボ型の活動が中心となる。

  3. テクノロジーを用いた身体的・感覚的体験学習

    • AR/VRやホログラムなどを積極活用し、講義・演習をリアルとバーチャルのハイブリッド空間で行う。たとえば落合氏が研究している空中触覚技術などを学習に組み込み、身体を使った学習体験を重視する[3][19][27]。

    • 単に知識を詰め込むのではなく、**「触れる」「作る」「感じる」**場を提供することで、学びのモチベーションや深度を高める。

  4. 「ふざけ」の文化と偶発性の尊重

    • 大学運営の中に「遊び」や「無駄」を意図的に取り入れ、学生や教員が想定外のアイデアを歓迎するような雰囲気を醸成する[14][19][28]。

    • 研究成果の評価も短期的な指標(論文数など)に偏らず、「面白いかどうか」「先鋭的なアイデアを実装しているか」という評価軸を並行して用いる。

2-3. 教育のゴールとビジョン

このような大学のゴールは、AIや最先端技術の使い手を育成するだけではなく、**「計算機自然の中で新たな価値を狩猟する主体」**を育てることにある[27][28]。つまり学生自身がマタギドライヴ的な実践者となり、デジタルネイチャーの環境下で社会課題を解決したり、次世代の表現・研究手法を切り拓いたりする人材を輩出するのが狙いだと言えます。


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落合陽一が「今」考えていることや「今」見ているものを生の言葉と写真で伝えていくことを第一に考えています.「書籍や他のメディアで伝えきれないものを届けたい」という思いを持って落合陽一が一人で頑張って撮って書いています.マガジン開始から4年以上経ち,購読すると読める過去記事も1200本を越え(1記事あたり3円以下とお得です),マガジンの内容も充実してきました.

落合陽一が日々見る景色と気になったトピックを写真付きの散文調で書きます.落合陽一が見てる景色や考えてることがわかるエッセイ系写真集(平均で…

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