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日本のコーポレートガバナンスコードに関する包括的調査

ちょっとサーベイ(日米対立を調べる上で)


はじめに

日本のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)は、上場企業の健全な企業統治のための指針として2015年に導入された。これは安倍政権下の成長戦略の一環として位置づけられ、2014年の日本版スチュワードシップ・コード策定に続いて導入されたものである。CGコードは**「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」**の手法を採り、法的拘束力はないが、原則を実施しない場合はその理由を説明することが求められる。本稿では、CGコードの歴史と改訂の経緯、基本原則の詳細、最近の動向、国際比較、実務上の課題と対応策、さらに将来的な廃止の可能性と影響について、最新の資料や専門家の見解を踏まえて論じる。

1. 歴史と改訂の経緯(2015年導入~2021年改訂)

2015年 – CGコード導入: CGコードは2015年6月に初めて施行され、日本取引所グループの上場規則に組み込まれた。背景には、長引く日本企業の収益力低下を改善し「稼ぐ力」を取り戻すべく、企業統治改革で企業価値の中長期的向上を図る狙いがあった。CGコード策定はOECDのコーポレートガバナンス原則とも整合しており、国際的な基準を参考に日本企業の統治水準引き上げが図られたとされる () ()。

2018年 – 第1回改訂: CGコード導入から3年後の2018年6月、初の改訂が行われた。この改訂は金融庁・東証のフォローアップ会議の提言を受けたもので、形式的な遵守から**「実質的なガバナンス改革の深化」**を目指す内容であった。改訂の主なポイントとして、(1) 経営環境の変化に対応した経営判断や投資戦略の方針開示、(2) CEOの選解任プロセスと後継者計画の明確化、(3) 経営者報酬の透明性向上、(4) 指名委員会・報酬委員会といった独立した諮問委員会の活用、(5) 独立社外取締役の活用促進と取締役会の多様性向上、(6) 政策保有株式(いわゆる持ち合い株)の縮減方針の開示、(7) アセットオーナー(機関投資家の受託者責任)の明確化等が挙げられる。特に原則1-4の改訂により、企業同士の持ち合い株について経済合理性の検証や削減方針の開示が求められるようになった。

2021年 – 第2回改訂: 新型コロナ禍や東京証券取引所の市場区分再編を背景に、2021年6月に2度目の改訂が実施された (コーポレートガバナンス・コード | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI))。この改訂では特に以下の点が強化された:

  • 取締役会の機能強化: プライム市場上場企業に対し、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要に応じ過半数の検討)を求め、指名委員会・報酬委員会の設置を奨励(プライムでは委員会の過半数を独立社外取締役)。また、取締役会が備えるべきスキルを特定し、各取締役のスキルとの対応関係(いわゆるスキルマトリックス)の開示が求められた。

  • 中核人材の多様性確保: 管理職層における女性・外国人・中途採用者の登用について方針と数値目標を設定し、その進捗を開示することが盛り込まれた。企業内の人的資本に関する情報開示を充実させ、組織の多様性と活力を高める狙いがある (コーポレートガバナンス・コード | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI))。

  • サステナビリティへの対応: 気候変動などESG課題への取組み強化が求められ、プライム企業にはTCFD提言等に沿った気候関連情報の充実が推奨された。また、サステナビリティ基本方針を策定し、自社のESGへの取組状況を開示することが期待されている。

  • その他の改革: 親子上場企業への社外取締役過半数選任または利益相反防止の委員会設置、株主総会の電子プラットフォーム活用や英文開示の促進など、資本市場の国際化に対応した措置も導入された。

このように、日本のCGコードは2015年の制定以来、企業と投資家の対話を深めつつガバナンスの実効性を高める方向で段階的に強化されてきた。

2. コーポレートガバナンス・コードの基本原則と適用

CGコードは5つの基本原則から構成され、それぞれの下に詳細な原則・補充原則が設けられている (コーポレートガバナンス・コード | 用語解説 | 野村総合研究所(NRI))。5つの基本原則とは、(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務の遂行、(5)株主との対話である。以下、それぞれの内容と具体的な適用状況を概観する。

  • 基本原則1:株主の権利・平等性の確保 – 企業は全ての株主に対し平等な待遇を確保し、株主権利(議決権・配当・株主提案権等)を不当に侵害しないことが求められる。例えば買収防衛策(ポイズンピル等)導入時には原則1-5に基づき十分な説明と合理性の検証が必要とされ、政策保有株式(持ち合い株)については原則1-4で保有目的や経済合理性を開示し、縮減方針を示すことが求められている。これにより、従来不透明だった企業間持ち合いや経営陣による支配の固定化への牽制が働いている。

  • 基本原則2:株主以外のステークホルダーとの適切な協働 – 企業は顧客、従業員、取引先、地域社会などステークホルダーの利害を尊重し、協調して企業価値の向上に取り組むことが重要とされる。具体的には、社内で女性や外国人等の多様な人材活用を促進し、中長期的な価値創造に繋げる取組みが推奨される。また環境や社会貢献への配慮も重視され、ESG要素を組み込んだ経営戦略の策定やサステナビリティ報告の充実が求められている。

  • 基本原則3:適切な情報開示と透明性の確保 – 財務情報のみならず、非財務情報(ESG関連情報や人的資本に関する情報等)の開示が重視される (改訂コーポレートガバナンス・コードの公表 | 日本取引所グループ)。企業は株主や投資家が判断できるよう、リスクやガバナンス体制、役員報酬や取締役会のスキル構成などについても積極的に開示することが奨励される。例えば2021年改訂では人的資本や気候変動への対応状況の開示強化が盛り込まれ、実際に多くの企業が統合報告書やガバナンス報告書でこれら情報を提供し始めている。

  • 基本原則4:取締役会等の責務(経営監督) – 取締役会は経営の意思決定と監督の責務を負い、社外取締役の独立した視点を活かして経営の監督機能を強化することが求められる。CGコードでは取締役会に複数の独立社外取締役を置くことが期待され(改訂前は2名以上、2021年改訂後はプライム市場で1/3以上) (グローバル投資家の視点から見た日本のコーポレートガバナンス改革 - 日本取締役協会)、また指名・報酬といった重要事項は独立性の高い委員会で審議することが推奨されている。さらに、CEO後継者プランや内部統制システム整備、取締役会実効性評価の実施と開示など、取締役会によるガバナンス実践の具体策が示されている。

  • 基本原則5:株主との対話 – 企業と株主(特に機関投資家)との**建設的な対話(エンゲージメント)**を促進する原則である。経営陣や取締役会はIR活動や株主総会を通じて株主の声を真摯に聴き、経営戦略や課題について双方向の意思疎通を図るべきとされる。金融庁はCGコードと並行して「投資家と企業の対話ガイドライン」も策定し、対話の具体的指針を示している。このような枠組みの下、日本企業ではトップマネジメント自ら海外投資家と対話するケースや、株主提案に対する取締役会の対応方針を開示する動きが広がっている。

以上のように、5つの基本原則は企業行動の指針として多角的な側面をカバーし、実務上は**「コンプライ・オア・エクスプレイン」**によって各社の状況に応じ柔軟に適用されている。もっとも、形式的な遵守に留まらず各原則を経営に落とし込むことが、真に企業価値を高める鍵であるとされる。

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