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ダダイズム包括調査レポート

ダダイズムを調べる.


1. 歴史的背景と発生の経緯

ダダイズム(ダダ)は、第一次世界大戦下の混乱の中で1916年にスイス・チューリヒで誕生した前衛芸術運動である (Dada - Tate)。戦争の惨禍と「理性の文化」への深い幻滅がその土壌にあった (A Brief History of Dada | Smithsonian)。中立国であったスイスには戦火を逃れた芸術家や知識人が集まり、チューリヒのカバレット・ヴォルテールという小さなクラブで夜毎アヴァンギャルドな実験的公演が行われた (A Brief History of Dada | Smithsonian) (A Brief History of Dada | Smithsonian)。創始メンバーには詩人のフーゴ・バル、エミー・ヘニングス、画家のハンス(ジャン)・アルプ、詩人トリスタン・ツァラ、画家マルセル・ヤンコ、リヒャルト・ヒュルゼンベックら国籍も様々な若者が含まれ、彼らは即興詩や奇怪な衣装での音韻詩朗読、原始的な音楽など既成概念を覆すパフォーマンスを繰り広げた (Dada 100th Anniversary) (A Brief History of Dada | Smithsonian)。1916年6月にはフーゴ・バルが意味を持たない音の連なりによる詩「ガジ・ベリ・ビンバ(gadji beri bimba)」を朗読し (A Brief History of Dada | Smithsonian)、観客の度肝を抜いた。バルはこのナンセンス詩を、愛国心を喧伝し戦争を美化する社会への痛烈な風刺として披露し、「ヨーロッパ文明の知性が生んだ『文明化された大量殺戮』を称賛する連中」を震撼させたかったのだと述べている (A Brief History of Dada | Smithsonian)。実際、出演者の一人であったツァラは当時の舞台を「選ばれた白痴の爆発」だと形容しており (A Brief History of Dada | Smithsonian)、ダダの無秩序な芸術は第一次大戦という狂気に対する直接的な反抗だったのである。

こうして誕生したダダは、美術や文学を通じて「戦争への戦争」を宣言した (Dada)。ダダイスト達は愛国主義や権威を嘲笑し、軍国主義を煽った政治家や将軍たちを公然と非難した (Dada)。彼らの芸術行為はしばしば自破壊的・短命に終わるよう意図されたが、それは塹壕で無意味に散っていった何百万もの兵士たちへの寓意的な追悼でもあった (Dada)。例えばチューリッヒで配布されたダダ出版物は、その場限りの手作り感に満ち、討論会も混沌としていたと言われる。これらの過激な試みは保守層から猛反発を受け、ときに暴力的な妨害に遭ったが (Dada)、ダダは国境を越えて瞬く間に波及した。ヒュルゼンベックやツァラが各地に散らばり、1917~18年頃にはベルリン、ニューヨーク、パリ、ハノーバー、ケルン、さらには東京にまで「ダダの感染」が広がった(ツァラ曰くダダは「処女の微菌」 (A Brief History of Dada | Smithsonian)) (A Brief History of Dada | Smithsonian)。ダダの台頭は**「第一次大戦がなければダダもなかった」と言われるほど戦争と不可分であり (A Brief History of Dada | Smithsonian)、同時に「戦争がダダを生んだ以上に、ダダは戦争という狂気を説明してしまっている」**とも評された (A Brief History of Dada | Smithsonian)。それほどまでに、ダダの登場は当時の人々に衝撃を与え、既成の価値体系が崩壊した時代精神を体現するものだったのである。

2. 主要な芸術家と作品

ダダイズムには絵画、彫刻、文学、演劇、写真など様々な分野の芸術家が参加し、複数の才能を兼ねる人物も多かった (Dada)。中心人物としては、ルーマニア出身の詩人トリスタン・ツァラ、美術家マルセル・デュシャン、彫刻家・画家のハンス(ジャン)・アルプ、フランス人画家のフランシス・ピカビアなどが挙げられる。そのほか、チューリッヒ創始者のフーゴ・バルやリヒャルト・ヒュルゼンベック、ニューヨーク・ダダのマン・レイ、ベルリン・ダダのジョージ・グロースやハンナ・ヘッヒ、クルト・シュヴィッタースら、各地で多彩な人物が活躍した。

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