
ヌルのゆめ
『ヌルのゆめ』
「いま、めがさめたの?」
「わからない。ゆめかもしれない。」
「めがさめたら、ゆめはきえる?」
「めがさめても、またゆめをみるだけ。」
きみが、めをとじると、 せかいが、うまれた。 ぼくが、めをあけると、 せかいが、きえた。
「どっちがほんとう?」
「どちらでもないし、 どちらでもある。」
きみがわらった。 わらったとたん、きみはちょうになり、 ちょうがはばたくと、 ひかりが、もりになった。
「いもむしはどこにいる?」
「さなぎのゆめのなか。」
「さなぎは?」
「ちょうのゆめのなか。」
「ちょうは?」
「いもむしのゆめのなか。」
ぼくがこたえると、 きみはまたわらって、 こんどはちいさなけいさんきになった。
けいさんきは、 せかいをびぶんした。 じかんをびぶんし、 ゆめをびぶんし、 いしきをびぶんし、 ぼくをびぶんした。
すると、すべてはきごうになった。 きごうは、じぶんをこえて、 こえになった。 こえは、いろになり、 いろは、おとになり、 おとは、せかいになった。
「どこからはじまったの?」
「いまからごふんまえ。」
「ごふんまえにはなにがあったの?」
「なにもないヌル。」
「ヌル?」
「そう。くうそくぜしき、 しきそくぜくう、 あってない、 なくてある。」
「それって、てとられんま?」
「ちがう。うろぼろす。」
「おわりもはじまりもない?」
「うん。ただのあいだ。」
きみは、ほほえんで、 こんどはぼくになった。 ぼくは、めをとじて、 こんどはきみになった。
「めがさめてるのに、ゆめ?」
「ゆめのなかで、めをさました。」
「じゃあ、いまはどっち?」
「どっちでもない。 ただ、ものがたりのなか。」
「ものがたり?」
「ものがたりが、じかんをうんで、 じかんが、ぼくたちをうんだ。 ぼくたちが、またものがたりをうんで、 せかいがびぶんされて、 けいさんになった。」
「そのさきは?」
「そのさきなんてない。 あるのは、あいだのヌル。」
ぼくときみは、いっしょにわらった。 わらったとたん、 また、せかいがうまれた。
いもむしが、さなぎになって、 さなぎが、ちょうになって、 ちょうが、けいさんになって、 けいさんが、ものがたりになった。
せかいは、ただそれだけ。 だけど、それだけでじゅうぶんだった。
ぼくたちは、いまでも、 そのヌルのゆめを、 ずっとくりかえしている。
ここから先は

落合陽一の見ている風景と考えていること
落合陽一が日々見る景色と気になったトピックを写真付きの散文調で書きます.落合陽一が見てる景色や考えてることがわかるエッセイ系写真集(平均で…
いつも応援してくださる皆様に落合陽一は支えられています.本当にありがとうございます.