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Deep Researchのテスト

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落合陽一における鏡面・「ヌル」テーマの作品群の総合分析

はじめに

メディアアーティスト・研究者である落合陽一は、最新テクノロジーと芸術表現を融合し、「デジタルネイチャー(計算機自然)」と称する新たな自然観を提唱している (落合陽一 - Wikipedia) その創作テーマの中でも鏡面(鏡)は重要なモチーフとなっており、初期のアート作品から近年の大型プロジェクトまで一貫して現れる。また近年では「ヌル」(Null)という概念を軸に、コンピュータ科学における未定義状態と東洋哲学の空(くう)を重ね合わせる思想的展開も顕著である (〈開催レポート〉落合陽一氏が9月14日、日下部民藝館で"ヌルの神様"を祀る神社創建と神おろしの儀式を初めて執り行う|北日本新聞webunプラス) 本稿では、落合陽一の鏡面・鏡をテーマとした全作品および「ヌル」に関連する作品を網羅的に取り上げ、その技術的・視覚的特徴思想的・哲学的側面を分析する。さらに各作品間の共通点や進化の流れを整理し、落合陽一の表現世界における鏡面とヌルの位置づけを体系的に明らかにする。

技術的・視覚的特徴の分析:鏡面を用いた作品群

初期の浮遊する鏡像彫刻:Levitrope (2017) と Silver Floats (2018)

落合の鏡面作品はまず、物理現象と最先端技術を組み合わせたインスタレーションとして登場した。その代表が2017年の *「レビトロープ (Levitrope)」*である。レビトロープは「levitation(浮揚)+ trope(回転)」に由来する造語で、金属製の鏡面球体を磁気浮上させ、空中で回転させる装置である (レビトロープ | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 鏡面球は周囲の景観を球面上に映し出しながら宙に静止・回転しつづけ、重力に抗う反重力的な鏡の彫刻として機能する (レビトロープ | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) この技術的特徴により、鑑賞者は高解像度に輝く鏡面の映像と、それに映り込む空や雲のぼやけた光景との対比を目の当たりにする。視覚的には、鏡の持つ鮮明な反射美浮遊による非現実感が融合し、不思議な没入感を生み出している。

2018年にはさらに進化した作品として 「Silver Floats」 が発表された。Silver Floatsでは波源の形をした鏡のオブジェが用いられ、磁気浮上により空中に浮かんで自転することで周囲の風景を歪め映し出す (落合陽一 - Wikipedia) TDKとの技術協力により実現したとされるこの作品では、鏡の形状が球体から波打つ有機的形状へと複雑化している点が特徴的である (落合陽一 - Wikipedia) 技術的には高度な磁気制御が必要とされるが、それにより鏡面が空中を漂いながら波のような映像効果を生み出す。視覚的には、環境の光景が鏡の湾曲によってまるで水面の波紋のように変容し、鑑賞者は現実空間が動的に再構成される光景を体験することになる。このように初期の鏡作品は、鏡面×浮遊技術により物質世界の常識を超えた視覚効果を狙ったインスタレーションであり、「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」という命題を体現するようなメディアアート的実験であった。

鏡による風景の変容:波の形をした鏡 (2019) と 風景を変換する鏡 (2020)

2019年の 「波の形をした鏡」 は、Silver Floatsで追求された波打つ鏡面表現を発展させた作品である。メディアアートの祭典「Media Ambition Tokyo 2019」で公開された本作は、一見すると大型の湾曲した鏡の彫刻であり、その表面自体にはテクスチャ(模様)は存在しない (波の形をした鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) しかし観客がその鏡を見ると、現実の景色が鏡面によって波打つ風景へと変換される。 (波の形をした鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 落合はこの作品について「鏡の形はそれ自体にテクスチャを持たず,波のように光景を風景に変換する」と述べ、波打つ鏡越しに世界と接続される一瞬の感覚を捉えたいと語っている (波の形をした鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 技術的には素材としての鏡の物理的変形(おそらく精巧に湾曲加工された鏡面板)と光学効果のみで成立しており、デジタルな映像投影は用いず純粋にアナログな光学現象で勝負している点が特徴だと言える。その視覚効果はシンプルながら強力で、鑑賞者の見る風景に時間的な歪み波の運動を感じさせ、現実の風景を詩的に再解釈させる。これは落合が好む「風景の中にある波」というモチーフを直接視覚化したものでもあり (波の形をした鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 技術の力で自然現象(波)と視覚世界(風景)とを結びつける試みと位置付けられる。

翌2020年には 「風景を変換する鏡」 と題する作品が発表された。これは渋谷モディで開催された個展「未知への追憶」(2020)で展示されたもので、一連の鏡作品のコンセプトを写真作品として定着させたものである (風景を変換する鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) プラチナプリントという古典技法による静止画作品でありながら、「鏡は高解像度で高速な映像装置」であり、その鏡で変換される風景を眺めている——という短い言葉が添えられている (風景を変換する鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) すなわち実際の映像装置や動的インスタレーションではなく、一枚の平面作品として鏡による風景変容の瞬間を切り取ったものである。技術的・視覚的特徴としては、恐らく前述の湾曲鏡ないし類似の光学効果で捉えた実写のイメージをプリントしたもので、高精細な鏡像と被写体が歪む様を静止画ながら感じ取れる。鑑賞者は写真を見ることで、「鏡を通じて現実を見る」とはどういう体験かを想像することになる。落合は鏡そのものを「超高速・高精細なディスプレイ装置」と見立てており (風景を変換する鏡 | Art | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) この作品は鏡=メディアという視点を視覚的に示す試みであると言える。デジタル技術全盛の時代にあって、物理的な鏡の持つ性能(現実をリアルタイムに映す解像度や速度)は極めて高いことへの着目でもあり、デジタルとアナログの境界を再考させる点でも興味深い。

インフィニティ・ミラーによる空間拡張:Reflector∞ (2023)

2023年になると、落合の鏡作品はさらに大規模で複合的なインスタレーションへと発展する。その代表例が秋葉原UDXで展示された 「Reflector∞: Resonance of Electrical Echoes」(2023年11–12月)である (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) この作品では、無限鏡(Infinity Mirror)の構造が巧みに取り入れられた巨大な立体作品が登場した。電子部品(LEDなど)とガラス・鏡を素材に用い、正方形の筐体内部で鏡像が無限に反射する構造(インフィニティキューブ)を形成している (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 技術的には、鏡を平行に向かい合わせに配置し、その間に電子的な発光体を配置することで奥行きの錯覚を生み出す典型的な無限鏡効果を用いている。Reflector∞ではこれを現代的な都市空間=秋葉原の文脈で再解釈し、鏡面に映る無数の電子的な残響(Electrical Echoes)によって未来的な都市像を表現した (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 視覚的には、鑑賞者が作品内部を覗き込むと鏡のトンネルが果てしなく続くように見え、物理的な空間以上の広がりと深みを感じることになる。その無限の反射は単に空間が拡大するだけでなく、広がりゆく可能性をも示唆している (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一)

Reflector∞のユニークな点は、技術的仕掛けだけでなく歴史的・文化的意匠も込められていることである。コンセプト解説によれば、本作は「東京・秋葉原という現代的な日本文化の特異性と、古代からの伝統的な慣習との対話」を試みる作品である (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 具体的には、日本文化における鏡の神秘性・象徴性(神話的宝物としての鏡など)を下敷きにしつつ、電子部品という現代の素材を新たな民藝(民衆的工芸)の形に昇華させようという意図がある (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 鏡は古来より物質界と霊的世界を区切る境界として機能してきたが、Reflector∞ではその境界性がデジタルとフィジカルの接点として利用されている (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 無限鏡の中に広がる鏡像空間は現実の物質空間とデジタルな虚空との境を曖昧にし、鑑賞者の視覚体験を拡張するメディア装置となっている (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 加えて、人工知能との対話によって生成された計算機上の自然(=デジタルネイチャー)のイメージを取り入れることで、都市体験を再評価させる意図も示されている (秋葉原:「Reflector∞:Resonance of Electrical Echoes」|落合陽一) 以上のようにReflector∞は、鏡+デジタル技術+文化的文脈を組み合わせた総合的インスタレーションであり、物理的・視覚的な驚きとともに、鏡が持つ象徴的意味までを一つの作品空間に取り込んだ点で画期的である。

鏡と光による「ヌル」の共鳴:「ヌルの共鳴」展 (2023)

同じく2023年末、落合陽一は山梨県の清春芸術村(安藤忠雄設計「光の美術館」)において個展 「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」 を開催した (落合陽一展「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」 | Exhibition | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) この展示はタイトルに「ヌル」を冠しているように、鏡作品群に加えて**“Null”の概念を正面から扱った思想的な色彩の強いインスタレーション群であった。その中核となったのが、新作の「有機的な変形ミラー」とLEDによる「ヌルのインスタレーション」である (落合陽一展「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」 | Exhibition | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 技術的には、一方に柔軟に形状を変える鏡(有機的形状の可変鏡面オブジェ)、他方にプログラム制御されたLEDビジョンないしプロジェクションが設置され、両者が向かい合うように配置されたと考えられる。公式ステートメントによれば、これら二つの装置は相互に影響を与える合わせ鏡の関係として機能し、物質と非物質、デジタルと有機的、現実と非現実の狭間に新しい共鳴を生み出すと説明されている (落合陽一展「ヌルの共鳴:計算機自然における空性の相互接続」 | Exhibition | 落合陽一公式ページ / Yoichi Ochiai Official Portfolio) 鏡と映像が向かい合うことでお互いの像を無限に反射しあい、一種のメタ的な鏡像空間**が生まれていた可能性が高い。

視覚的特徴としては、鏡面の緩やかな歪み変形による光の揺らめきと、LED映像から発せられるデジタル光が融合し、空間全体が現実離れした光学体験の場となっていたと推測される。まさに「光と影を操るレンズとミラーが、見る者の意識を反映し歪曲する構造物」という批評もあり (落合陽一の個展が麻布台ヒルズの「舞台裏」で開催。体験 ... - 美術手帖) 鑑賞者の立つ位置や動きによって鏡像と映像が重なり合い変化するインタラクティブな空間が実現されていたようだ。技術的には、変形ミラーの制御(機械的あるいは素材的な可変性)と、リアルタイム映像生成のプログラムが組み合わさり、動的な鏡像インスタレーションを構成している。

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