毛髪戦争〜番外編〜2 「私のハゲ履歴書」
いきなりだが、私の人生は「禿げ」とは無縁であるはずだった。
両親の家系にハゲは存在しない。
強いて言えば、母方の家系は髪が細いのだが、量が無い訳では無い。
そんな私が何故、戦争を始める事になったのか?
歴史を振り返って行きたい。
元々私は、坊主やスポーツ刈りを好む人間であった。
ある程度髪を伸ばした所で、飼い主に呼ばれた従順な犬の如く、回頭を始める。
「天パ」だ。
写真撮影当時の職業も、スポーツ刈り程度迄しか髪を延ばせなかったし、帽子を被る事が仕事の一環であった為に
ヘアケアと言うのもあまり気にしていなかった。
しかし、若さと言うのは半分、罪である。
無茶をしても四六時中、身体中からPOWERが漲るが故に
自らに課した修練に目を向ける事は無いのだから。
異変が訪れたのは、20代中盤。
ハッキリ覚えているのは25歳の頃だ。
この頃私は、深夜勤務の接客業で5年目だった。
お水では無く、チェーン店の最終シフトで働いていた。
25歳の時、風呂でふと湯を張った洗面器を見た。
そこには、今となっては語る事すら恐ろしい光景が広がっていた。
そのまま自分の手を見ると…..
これ以上は言うまい…..
しかし、写真を見てもらっても分かる様に
毛髪大量離職開始から1年後でも「あー、こいつ、来てね?」程度だ。
この頃はまだ、その後起こるカタストロフまでは考えていなかったのだ。
敗北。勇気ある撤退。ふんわりワカメ。
この写真を見て、私はある映画のシーンを思い出す。
「エイリアン2」だ。
分かる方には分かると言う事で、割愛しながら話すが
通路に設置したセントリーガンでエイリアンを迎え撃つ際、モニターを見守る宇宙海兵隊員とリプリーが、どんどん減って行く弾数を見て絶望する。
残弾が50発を下回ると、モニターに「CRITICAL」と表示され、警告音が鳴り響く。
この写真はまさに「CRITICAL」であり、この時に抵抗しなかった私は順当に敗北した訳だ。
そして前述の写真から1年、大地の枯渇が始まった。
この頃私は、半年程本州に出稼ぎに行ったのだが
先輩や上司と仲良くなってからよく言われた言葉がある。
「・・・ハゲとるやないか!」
そう。
私は令和元年、ハゲになったのだ。
しかし、この時の私は、さして重要な事とは捉えず、「ハゲたら諦めれば良い」と言うスタンスで居た。
実は、今もあまりそのスタンスは変わっていない。
じゃあ何故、発毛を志したかと言えば
まだもう少しだけ遊びたい気持ちが芽生えたからだ。
これは「CRITICAL」になる直前、接客業を辞める年に撮った写真。
私は、とにかくお客様に対して目立ちたくて
ゲーム「メタルギアソリッド4」に登場するジョナサンと言うキャラの髪型にした。
上層部は苦笑いであったが、お客様からは非常に評判が良く、若いお客様からは「ジョナサンですよね!?」と興奮気味に声を掛けられた。
他にも、ジャーヘッドや、たまに趣向を変えていつもの理髪店でソフトモヒカンにしてもらったり
天パで選べる髪型は限定されてくると言う状況ではあったが
少し前の私は、間違いなく髪の毛で自分のアイデンティティを示していた事を思い出してしまったのだ。
決して流行りの髪型などのテンプレートをなぞりたい訳では無い。
髪をイジってバッチリキメたい訳でも無い。
これでこそ自分
そう言う単なる自己満足の為に、私は薬を飲む道を選んだのである。