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北村直也『男はつらいよ寅次郎恋やつれ』を語る

北村直也さんがFMラジオ「ムービーボヤージュ」で『男はつらいよ寅次郎恋やつれ』について語っていました。


(町田和美)今日もよろしくお願いします。もう外は蒸し蒸し。

(北村直也)どうもです。寝苦しい季節になって来ましたね。この湿度だけはなんとも。今日はそんな中で、山田洋次監督の第13作目「男はつらいよ寅次郎恋やつれ」についてです。

(町田和美)北村さん、おすすめの。

(北村直也)はい、大好きな中でも一番か二番じゃないですかね。とにかく泣けます。

(テンパープラザ広瀬)泣ける作品なんですね。

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(北村直也)「男はつらいよ」の中でも、もう名作中の名作でしょうね。とにかく、この作品は第9作の「柴又慕情」に引き続いて、マドンナ役で吉永小百合さんが出演されます。

(町田和美)歌子ちゃん!

(北村直也)よくご存知ですね。本当に可愛い歌子役としてご出演されます。「柴又慕情」と「恋やつれ」これは、吉永小百合さん演じる歌子ちゃんの物語の前編と後編でセットですね。ちなみにとらや(くるまや)のおいちゃんこと松村達雄さんも第9作でおいちゃん役として出てきて、この第13作でおいちゃん役を卒業されるんです。

(テンパープラザ広瀬)吉永小百合さんで始まって吉永小百合さんで終わるっていう。

(北村直也)まさにそうなんですよ。だからこの二作品は前編後編で綺麗に出演されている方たちも同じようにご出演されてたり、すごく細部に拘っておられます。

(町田和美)ふんふん。

(北村直也)物語は、寅さんが柴又に帰ってくるところからなんですが、結婚を匂わせた重大発表をみんなの前でするってことで、とらやが大騒ぎになるところからスタートするんです。まぁ、みんな待ちに待っている話ですから、もう浮き足立つんですよ。おばちゃんなんか、八百屋さんで、よかったねぇなんて言われたりして。

冒頭で振られる寅さん

(テンパープラザ広瀬)風呂敷、広げちゃうんだ。

(北村直也)はい、結局寅さんの思い上がりじゃないかって話に行きついて、もうてんやわんやの大騒ぎというか大喧嘩になるんですけども。その寅さんの思いをよせる人がもしかしたら将来のお嫁さんになるかもしれないですし、一度見に行ったらどうだってことで、寅さんについて、妹のさくらと裏のタコ社長が一緒に島根県の温泉津町へ行くことになるんです。

(町田和美)え、はるばる東京から。

(北村直也)そうなんですよ。大阪に寄る用事がたまたまあったからだそうですが、タコ社長、ついて行ってくれるんですよ。いつも無茶苦茶言われてるのにですよ。前回なんかタコの干物をお土産にもらったりして。

(町田和美)人がいいっていうかねぇ。

(北村直也)本当に人情豊かですよね、社長さんは。で、最終的にそのお嫁さん候補とおぼしき女性と会えるんですけど、なんでも蒸発した旦那さんが2日前に帰ってきたとかで寅さんはその女性に御礼を言われたりするんですけど、ついて来た二人はどうなるんだって話で。

(テンパープラザ広瀬)いい迷惑だよ。

(北村直也)そんなこんなの末に、二人と寅さんはこの土地で別れるんですけど、それから運命が回り出すんです。そこから少し離れた島根県の津和野で歌子と寅さんは再会するんですよ。僕、もうこのシーンが一番好きで。時が止まったような二人の掛け合いが。

(町田和美)はいはい。

(北村直也)寅さんは歌子に旦那も含めて元気にしてたか、って聞くんですけど、歌子のご主人は病気ですでに亡くなくなっているんですね。

(町田和美)え!あの前回エンディングで結婚を決めたっていう。


(テンパープラザ広瀬)うそだ。。

(北村直也)まぁそういうことで、歌子さんの表情はなんか悲しいんですよ。2年ぶりに寅さんにそれも偶然にも会えたんですし、もちろん嬉しい筈なんですが、やっぱりまだ悲しみを乗り越えていないんです。歌子は彼のお墓のあるご実家、それが島根県の津和野なんですが、そこで姑たちと暮らしているわけなんですが、もう限界なんですよ。

(町田和美)あの歌子さんですもの。思いっていうか。

「いま、幸せかい?」

(北村直也)いろんな思いなんでしょうね。もちろんそこにはご主人を病気で亡くした辛さやその後の寂しさもあるでしょうけれど、僕は一番、いつまでもこうしてちゃいけないっていうそこの思いだと思うんですよ。

(テンパープラザ広瀬)なるほどなぁ。

(北村直也)それを寅さんもわかってるんですよ。別れ際のバス停で「歌子ちゃん、いま、幸せかい?」って聞くんですよ。

(町田和美)うわぁ。。。

(北村直也)もちろん幸せなわけなんてないですよ。でもこの言葉があったからこそ、歌子は寅さんに背中を押されることになるんですよ。歌子は結局、葛飾柴又のとらやを尋ねるんです。津和野の仕事も辞め、まわりの反対を押し切って、喧嘩してうちも出て来ちゃうんですよ。

(テンパープラザ広瀬)決心したんだ。

(町田和美)すごいなぁ、歌子ちゃん。

(北村直也)でも東京へ出てきた歌子の中には、お父さんが重くのしかかってるんです。わだかまりというか、確執というか、お父さんのことを許してないだけに歌子は会おうとしないんですよ。

(町田和美)確か、前回も出てこられたお父さんですね。

(北村直也)はい、この役を宮口精二さんという俳優さんがされてるんですけど、もうこの作品、すべてこの人が持ってっちゃうくらいすごい演技なんです。とにかく寡黙というか、頑固親父というか、心が通い合ってないんですよ、親子の間で。歌子の旦那が亡くなったって時も、葉書一枚寄越してきて、葬式が終われば東京にすぐ戻ってこい、って言うような。

(テンパープラザ広瀬)ひでぇな、それは。

(北村直也)歌子は自分の進む道について逡巡するんですよ。東京に戻ってきたのも、もとを辿れば自分の道を探すためじゃないですか。答えを見つけなきゃならないわけです。歌子は大島の養護施設で働くことをどうしようかと迷ってまして。父親に仮に相談しようと思っても、反対されるだけだからと、前に進めないんですね。父子のわだかまりをまず解かないといけない、それはわかってるんだけれども、どうしたらいいかってところで思い悩んでいるわけです。

親子の確執と映画のクライマックス

(町田和美)そりゃつらいわ。あのお父さんだし。

(北村直也)そこへ寅さんが高見家に乗り込んでいくんですよ。

(テンパープラザ広瀬)出た。

(北村直也)ほんとになんの対面も気にせず行くんですよ、寅さんは。で、好き勝手するんです。今回は、勧められてもないのに勝手にナポレオンを空けてしまってたりとか。

(町田和美)嫌だなぁ、なんか。

(北村直也)嫌ですよね、普通。のこのこ家に上がってきて、いつまで待たせるんだよ、とか言いながら、高いウイスキー空けちゃってるとか。

(テンパープラザ広瀬)寅さんしかできない。

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(北村直也)そうですね。寅さんしかできないんです。でもそれを寅さんはやっちゃうんです。交渉とか駆け引きなんて寅さんの中にはないんですよ。あるのは「俺がひと言、言ってやる」だけなんですね。で、今回、宮口精二さん演じる歌子のお父さんところに行って、「歌子ちゃんに手ついて謝りゃそれでいいんだよ」ってやるわけですよ。初対面の人がですよ。

(テンパープラザ広瀬)すげぇな、寅さん。

(北村直也)とりあえず言いたいことだけ言って、バンチだけ打って、「じゃあな」って帰るわけですよ。「この家なんかざらざらしてんな、掃除してんのかよ」とか「清潔にしないと、いい小説書けないよ」とか、まあ言いたいこと言い放ってるだけなんですけど、でもすごい痛いとこ突いてるわけです。

(町田和美)それでそれで。

(北村直也)でもよくよく考えると、前編の「柴又慕情」では寅さんとこの親父さんは会ってないんです。今回が実は初めての対面なんですね。きちんとこの後編の「恋やつれ」で山田洋次監督は、このふたりに勝負させてるわけですよ。寅さん風に言えば、「けじめをつける」って感じかもですが。

(テンパープラザ広瀬)なるほど。

(北村直也)で、これまた寅さんはその後、とらやでもう、こっ酷く叱られるんです、みんなから。なんでそんな恥さらしみたいなことしたんだって。

(町田和美)正論だわ。

(北村直也)でも今回の寅さんには、面白いほどそのみんなの主張が伝わらないんです。なぜ駄目なのか、なぜいけなかったのか、理解不能なんですね。だからもう、余計怒っておいちゃんもモノで殴るわ、大騒ぎで。

(町田和美)そんなにまで。

(北村直也)ただ、今回ばかりは寅さんの言うことも、僕、全うな気がしてまして。「俺が電車賃出してこっちから行ってやってるんじゃねぇか」とか「本来なら向こうから来て当然じゃねぇか」とか、その口ぶりはよくないかもですが、実はまともな事なんですよ。当時、まぁ70年代でさえ、そのまともな大切なことがすでに薄れかけてきてたんでしょうね。これじゃあまずいだろってことで、山田洋次監督の警鐘にも感じるんですけれども。

(テンパープラザ広瀬)いまよりずっと時代古いのにねぇ。

(北村直也)結局、喧嘩や言い合いがついにピークに達した時に、とらやに歌子ちゃんの親父さんが現れるんですよ。

(町田和美)ええ??来たの??

(北村直也)来たんですよ。そして、そこで娘の歌子と久しぶりの再会を果たしてしまうんです。

(テンパープラザ広瀬)え、、どうなるの。

(北村直也)そうですね。ここがこの話、この作品のクライマックスであって、また全てを物語るシーンとなります。もうね、是非映画館でこのシーンを見て欲しいですよ。

(町田和美)私絶対見に行こ。

(北村直也)是非是非。もう泣けますから。これ言っちゃうとアレなんですけど、今回、この前編後編で、吉永小百合さんのシリーズは完結するんですけど、実は本当は続編が予定されてたそうなんです。

(テンパープラザ広瀬)うっそ、まじで。

(北村直也)またこの話はどっかでしましょう(笑)

(町田和美)(笑)北村さんが、今日紹介して下さった作品、「男はつらいよ寅次郎恋やつれ」は、大阪ステーションシネマ他で【7/17(金)~7/30(木)】に期間限定で4K上映されます。私もこれは絶対見に行きます。北村さん、今日もありがとうございました。

(北村直也)ありがとうございました。


<書き起こし終わり>



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