【『miss you』レビュー】Mr.Childrenは舞台を降りた
はじめに
2023年10月4日、前作『SOUNDTRACKS』から2年10ヶ月の時を経てMr.Childrenの21枚目のオリジナルアルバム『miss you』がリリースされました。
言いたいことが溜まりに溜まっているので、主観も客観もごちゃ混ぜで全部吐き出したレビューを作ってみます。
拙い文章で、しかも結構長いですが気持ちはこもってます。最後まで読んでいただければ幸いです!!
『miss you』一歩目
最初に大雑把な結論から語ろうと思います。
『miss you』はこれまでのMr.Childrenの作品の中で、最も急進的で、オルタナティブで、それゆえに大衆を置いてけぼりにしてしまう作品です。
言ってしまえば、これまで大衆の求めるミスチル像を自覚的に演じ続けた彼らが、その舞台を降りた結果がこのアルバムなんだと思います。
これまでの作品の中で、本作に近いのは『DISCOVERY』(1999),『Q』(2000)でしょうか。リスナーに寄り添うよりもむしろ、芸術として音楽を追求し、同時代のオルタナティブな音楽を貪欲に取り入れた作品。
それゆえに、賛否両論巻き起こっております。そしてそのことが、今作が名作である根拠のひとつです。
それら含めた諸々を語ってみようと思います。まずはリリース前の話から。
『SOUNDTRACKS』が良すぎて
前作『SOUNDTRACKS』はまさに、"50歳のミスチルが生み出しうる最高のアルバム"でした。
自由な曲展開、UKアレンジの妙、一貫したコンセプト、上質なアナログ録音…
桜井和寿、そしてMr.Childrenが、"終わってゆくこと"の悲しみ・儚さ・美しさを、その音と言葉をもって、これ以上無い形で表現した傑作です。
そして私は頭を抱えたのでした。
これより先なんて一体どうすればいいんだ???
何度も言うようですが、『SOUNDTRACKS』は2020年のミスチルが作るべき最高の作品でした。そして私には、これがもうMr.Childrenのゴールに思えて仕方がありませんでした。"これ以上のものは作れない" "これで最後にしたい"はリスナー側からしても「そりゃそうだよな」なのでした
そんなわけで、Mr.ChildrenのNextアルバムに関して私は、「サントラ越えは厳しいだろうけど新曲出るだけで嬉しいぜ!」というスタンスで構えていたのでした。
サントラの発展形…?
『miss you』発売前時点での最新曲『生きろ』。この曲の印象は"マッチョなサントラ"。ストリングスは引き続きUK委託だったので、アンサンブルはサントラの曲と近いです。ただ、大きく違うのがその仰々しさ。作為の感じられない"さりげなさ"が魅力であるサントラに対して、『生きろ』は歌詞もメロディもアレンジもマッチョ・壮大・暑苦しい。
ある意味、サントラに別のチャームポイントを付け足した"発展系"と言えそうですが、ここで引き合いに出したいのが先行配信曲『ケモノミチ』。
またもUKストリングスが印象的な一曲で、さらに詞もメロディも『生きろ』に通ずる仰々しさと来ました。が、
桜井以外を感じない…
これはみなさんも結構、感じていたみたいで。例に漏れず私もそんな印象でした。そして、なるほどと。『miss you』って多分こういうアルバムやなと。すなわち
サントラ由来のUKストリングス
大げさミスチルのカムバック
打ち込み・宅録感という新領域
こんな感じになると予想しました。そして発売前日の先行配信『Fifty's map 〜 おとなの地図』。
ほぼくるみの焼き増しMVで話題を攫ったこの曲も、多分UKストリングスで、『ケモノミチ』よりは大分バンド感が増した印象。
とはいえ、上記3つの予想は当たってそうやなと。この曲でその考えはより強まりました。
『miss you』発売
フラゲ日、10/3の夕方。ついに届いた『miss you』。雑に包装を破いて、すぐさまCDを読み込み、ヘッドフォンを耳に被せ、目を閉じる。
再生。
〜〜〜
再生終了。
やられた。
これサントラの発展系なんて生易しい代物じゃない。いやむしろ過去の全てのミスチルと比べても、あまりにも異色。
30周年を超えた「半世紀への長きに渡るロード」を再び走り始めた、という説明も大げさではなく、間違いなく今作から、Mr.Childrenの新たなムーブメントが始まったんだという確信がドデカくのしかかってきました。
それゆえにこのアルバムについて何か話そうとすること自体が難しいです。発売から日も浅いので、これからいくらでも印象は変わっていくでしょうが、ひとまず発売直後の分析として『miss you』に挑もうと思います。
革新と懐古
曲ごとに語る前に、まず今作の曲を3つに分けます。
①新しいミスチルオルタナティブ
②サントラ発展系
③セルフプロデュース以前の空気感
①に関しては曲ごとに見ていきます。
②については、先ほど語りましたね。
そして③。先ほど「過去と比べて異色」とは語りましたが、ファンが懐かしさを覚えるような楽曲も実はいくつかあるんですよ。これが意図的か否かはともかく、急進的な内容を既存ファンに聴かせるうえで、緩衝材の役割を担っていると感じます。実際、そういった曲をフェイバリットに推す声も多く見られました。
これから曲ごとのコメントに入りますが、今あげた3つの分類と絡めて、あと現時点での個人的評価を10点満点で点数をつけながら見ていこうと思います。こういうの苦手な方いるとは思いますが、自分なりに価値観を表したくて本記事を作ったのでご了承を。
M1『I MISS YOU』
9.5点/10 分類①
アコギの美しいアルペジオから始まり、重なるアコギ。いきなりツインアコギのアコースティックなオープニング。サビの鍵盤のフレーズも含め、なんとなくスピッツっぽいノスタルジーと感じたのは私だけでしょうか。そういった類の耽美って、ミスチルには無かったモノじゃないですか?大好物ですありがとう。
今作を形容する上で外せない語である"アコースティック"。これに関しては、下に補足的余談と題してちょっと喋りました。
端っこでコロコロ鳴っていた田原エレキが、ギターソロでようやく本格登場。この人のギターソロはやっぱり絶品ですね。手数は多くないですが、感情を動かしてくる。
個人的にはラスサビの途中から四つ打ちのリズムに変わるところが最高にツボだったんですが、すぐに終わってしまって残念。そこがもうちょっと長かったら満点つけてましたね。
あと歌詞の途中でsyrup16gみたいなこと言ってます。
補足的余談
今作で重要なキーワードのひとつがアコースティック感(≒エレキ少ない)。このへんも「桜井のソロっぽい」という声が多い理由なのでしょうが、個人的にはインディーフォークからの影響を強く感じます。21世紀の音楽界における最も大きなムーブメントの一つであるインディーフォーク。Big ThiefやBon Iver、邦楽だとROTH BART BARONなど、国内外問わず優れたアーティストが存在しますが、ミスチルの皆さん、絶対こういう人達のことを熱心に追ってる。
こういう現行のオルタナシーンを熱心に追う姿勢ってある時期の彼らと被るんですよね。最初に言いましたけど、『DISCOVERY』の頃です。
Radiohead,U2,ニュースクールHip-Hopなど、90年代のオルタナミュージシャンに憧れ、真似して、追いつき追い越そうとしていた当時の彼らを思い起こすと、"他のミュージシャンへの憧れ"ってミスチルの本分のひとつですらあるんじゃないかと思えてきますが、今作はそういう側面が強く出ているように思います。
M2『Fifty's map 〜 おとなの地図』
8.0点/10 分類②
正直曲名ダッセェ〜と思ってました。すみませんでした。
この曲はメロディが素晴らしいですね。ギミックやジャンルだけではなく、ソングライティングにおいても新しいことをしようという気概が見えます。
コンポーザー桜井和寿の特徴として、無理矢理転調癖というものがあると私が勝手に名付けて提唱しているのですが、
(過去曲では『抱きしめたい』『終わりなき旅』『潜水』など)
この曲ではそれが大炸裂してます。転調以外でも、かなりダイアトニック(通常使うべきコード)から外すとこが多くて、実はかなり滅茶苦茶やってます。ただ圧倒的なメロディセンスと、煌びやかでポップなアレンジでそれを中和している。このバランス感覚が素晴らしい。
歌詞はすごく個人的ですね。桜井和寿のドロドロした内面がぶち撒けられています。こういうのもポップネスで中和してる所為でハッピーな曲に聴こえてしまうのがまた巧妙です。曲名や内容に尾崎豊からの引用があることは言うまでもないでしょう。
M3『青いリンゴ』
9.5点/10 分類①
疾走感あふれるフォークロック。またもツインアコギ。伸びやかなスライド奏法を組み込んだリフレインが印象的で、乾いた草原を抜ける風のような心地よいイントロ。今作最強というか、ミスチルのキャリアでもトップクラスに完成されたイントロだと思います。
歌に入ると音節が多く、リズムに細かなキメが多く挟まれています。JEN&ナカケー大活躍ソングですね。バンドの軽やかなドライブ感は、かなり動きながらアンサンブルを阻害しないベースラインの賜物。ナカケーの音楽センスの高さよ…。ミスチルの凄さって、間違いなく田原ナカケーJENのプレイングにこそあるんですけどね。世間からの注目が全然足りてません。
全体の雰囲気としては"若々しいロック"と捉えられそうですが、サビのメロディの抜けきらなさやブラスセクション・トランペットソロの醸すジャジーな質感にバンドとしての老い・成熟が感じられます。
"アダルティ&爽やかロック"、相反する2要素が混在しながら理想的に絡んだ、癖になる佳曲です。
M4『Are you sleeping well without me』
7.5点/10 分類①
M3と打って変わって、夜露のように重く湿った一曲。この曲が第一のクセモノですね。アルバムが難解とされるひとつの理由だと思います。それもそのはずで、
・暗い
・ギターレス
・ベースレス
・展開が大きくない
・コードが特殊
と一般的なポップミュージックとはかけ離れた実験性。ただ派手の曲展開は無くとも、1秒1秒の旋律の美しさでもう白米ドカ食いできますよ。実験性との両立というよりはむしろ、その実験性こそが美しさの正体でしょう。不安定さが生む儚さ、これをリスニングを重ねて掴むことで、曲の魅力が数段階上がってみえると思います。まさにスルメ曲ですね。
もうひとつ注目したいのが、歌詞がまたsyrup16gっぽいところ。
なんていうでしょうねこのシロップ感。言葉遣いとかはもちろん違うんですけど、「日常を描きつつ、とっくに会えなくなったあの人を思う」みたいな構図がすごくぽいんですよ。あとは「汚して 拭き取って」を繰り返すことによる"精神おかしくなってる人視点"感。メンヘラ御用達ソングですね。
M5『LOST』
10/10点 分類①
満点をつけました。今の段階でのフェイバリットです。シンセベースに、ドラムは打ち込みですかね。なんにせよ、これまた今までのミスチルには無かったアンサンブル。
内容はなんというか、神々しいです。有機的なアコギ、ピアノ、分厚いコーラス。その下で低く唸るシンセベースの不気味さが、かえって荘厳さに拍車をかけてます。こういう合わせ方、私はシューゲイザー×電子音系を聴くときと似た感動を覚えます。神々しいでいうと『Hallelujah』とか『and I love you』が好きな人はピンと来るんじゃないですかね(俺)
しかしこういうバンド外の音を用いて秀逸なアレンジをするのって小林武史の役割だったじゃないですか。彼抜きでここまでのものを作られると、もう大概のことバンド内で完結できますよ。
個人的にはそういうアレンジメントを誰がどのくらいやってるのか、すごく気になります。
M6『アート=神の見えざる手』
6.5点/10 分類①
出ました。今作屈指の問題児。
急進的と評される今作の中でもいちばん尖っているこの曲はある意味リードトラックと言えるのかも。
ミスチルが初めて作ったHip-Hop。
音楽的なところに関しては、10年代〜現在にかけて勃興したジャズ×Hip-Hop。ストリングスの乗せ方がスタイリッシュで良いですね。で、Hip-Hopと言っても押韻をバチバチに決めてくるわけではなくて、むしろ言葉の意味を重視したリリック。内容を見てみましょう。
突然の殺人の告白にドン引きですが、ドン引きだけしてても大事なことが見えてきません。これ桜井自身のことを言っているのか、世の中の開き直ってる悪い奴らのことを言っているのか、どっちだと思います?
この一節にはドキッとしてしまいました。「刺激が足りない」って言う「みんな」の中に俺入ってんじゃね??と。
なのでそういう方向で私は解釈しました。つまりミスチルとファンとの関係なんだろうと。そして、それについての桜井の内面をぶち撒けた曲。なるほどと納得しました。桜井和寿って、世間から求められる姿と自分が作るべき音楽っていうところで自殺を考えるぐらい悩んだ人なので。だからその感情が直接的になほどに、この曲も尖っていったというか、Hip-Hopにならざるを得なかったのかなと推測しました。
こいつ極左か?と言いたくなりますが、そんな感じのスタンスで臨んでも真意は見えません。私はこれ、『タガタメ』と同じことを言ってると思ってます。
桜井和寿って物凄くリベラルな人間なんですよ。いやこれも左翼だとか言いたいわけではなくて。彼が繰り返し発するメッセージのひとつが、分断への嘆き、そして他人への想像力です。
国やイデオロギーを隔てた相手にも穏やかな生活がある。その当たり前を思い出させ、分断に対するささやかな挑戦を突きつけた名曲です。他にも2015年のスタジアムツアーのMCにて「愛って想像力なんじゃないか」と語って『and I love you』繋げて『タガタメ』を演ったこともがあって、この言葉も私は同じような意味だと考えてます。
このように桜井和寿のこの姿勢って一貫してて、『アート=神の見えざる手』も言葉選びこそ攻撃的ではあるけど、同じことを言っているんだろうなというのが私の解釈です。
M7『雨の日のパレード』
8.5点/10 分類①
また雰囲気が大きく変わり、ミニマルで都会的で、流麗な音景色の一曲。雨と霧で視界が朧げな街中が、サビで一気に晴れるイメージ。
似てるなと思ったのは山下達郎。打ち込みのドラムとシンセという引き算的なアンサンブルで歌を聴かせる、"静かなシティポップ"的なAメロ。またもや近年の音楽シーンへの意識を感じる曲ですね。
で、サビで大きく雰囲気変わります。ぶっといエイトビートのベースがおどろおどろしいほどの迫力。生音っぽい気もしますがこの曲のベースも独特ですね。鐘の音やウィンドチャイム(キラキラしたやつ)、コーラス等が神々しい霊性を担い、強い低音の不気味さを演出するという意味では『LOST』とは似通う部分があるでしょう。こういう曲これからじゃんじゃん作ってくれませんかね。
M8『Party is over』
7.0点/10 分類③
今作唯一の弾き語り。ここで初めて3に分類しました。『独り言』『Surrender』『蒼』等が近い曲ではないかなと。すなわちクッソ暗いミニマル編成の曲。この曲はまだかわいげがありますが、そういう曲が私ツボなんですよ。落ち込んだときに聴きがちですね。
なんかメンタルに来る歌詞ですね。私は桜井の弱音だと解釈しました。なので、落ち込んでるときに寄り添ってくれて、一緒に落ち込んでくれる曲になりそう。そういう意味でも先ほど挙げた3曲と似てる気がします。
あと言葉選びにどことなく岡村ちゃん臭がするのですが気のせいですかね。
リズムセクションが独特なうえ主張が強いアルバムなので、箸休めとして肩の力を抜ける点もGood。聴くのにカロリーを要しないので長く付き合っていくことになりそうです。
M9『We have no time』
9.0点/10 分類①
またも近年の音楽シーンからの影響された曲で、今度はミスチル流ブレイクビーツ。ただそこにブルージーなギタープレイとブラスセクションを乗っけるセンス。そして桜井のがなる歌い口がまたセクシー。過去曲『Door』を思い起こさせます。
この曲は展開が面白い。まずヴァース・コーラスの2部構成なんですが、ヴァースが先ほど言ったようにブルースだとすれば、コーラスで四つ打ちのドリーミーな曲調に大きく変化するんですよ。雰囲気に合わせてか、今度の桜井は繊細に歌い上げます。相変わらず物凄い表現力ですねこの人は。
そしてこの曲、SNSを見るとファン評価そこまで高くなさそうなんです。これがすごく残念。この曲こそファン以外の耳が肥えたオタクたちに聴いてもらいたい!!と切に思います。だからこそ配信が1ヶ月も遅れたのは痛かった。今度からそういうことしないでね。
M10『ケモノミチ』
5.5点/10 分類②
今作で最初に配信された曲です。最初の方で言いましたが、桜井&ストリングスオンリー。ソングライティングやギミックに突飛さは無いので、個人的にはやっぱり他3人の音を入れてほしかったところ。ただ今作の中ではまだ"ミスチル感"はある方なので、先行配信に選ばれたのは納得です。
特筆すべきは歌詞ですね。深海ボレロの頃に匹敵するほどの外向きの攻撃性、直接的な表現。
時代は移れど一貫する桜井和寿の中の正義、分断への嘆き。直接的でパワフルな言葉たちは、さながら桜井和寿の感情がそのまま溢れ、羅列されているかのよう。今作がここまでメッセージ性の強い作品になるとは、正直予想していませんでした。
というのも、SOUNDTRACKSが内向きで文学的なアルバムだったことが原因でして。てっきりここから更に内省へと進んでいくと思っていたんですよ。そして今作、あからさまに社会的なメッセージを孕んだ曲以外だと、創作やリスナーに対する思いとか人生観みたいな、内面を描いた歌詞も多いんですが、それらも"リスナーに対する発信"という性質が強いように思います。ある意味桜井和寿の弱音というか言い訳というか、
「みんなが何を求めるかなんて分かってんだよ」
「こっちだって頑張ってんだよ」
みたいな。あくまでリスナーへの発信なんですよね。ここが前作サントラとは異なる点。外向きになったということはある意味、若さ・エネルギーを取り戻したとも受け取れます。この点も今作の再出発感を強めるエレメントのひとつ。曲解説のハズがアルバムの解説になってしまいましたが次の曲いきましょう。
M11『黄昏と積み木』
8.0点/10 分類③
今作で最も、"ファンが安心する一曲"だと思います。
『HOME』『SUPERMARKET FANTASY』に入っていても違和感は無さそう。曲でいうと『水上バス』『秋がくれた切符』あたりと近いかもしれません。ベースラインは『ラララ』と似てますね。ここからもう少し肌寒くなった頃の季節に合いそうなハートフルな曲調。
一聴で爪痕残すようなインパクトはありませんが、聴けば聴くほど愛着が湧きそうな暖かな曲です。このアルバムはラスト3曲がこんな感じで、急進的な前半とは対照的に、既存ファンがスッと聴ける曲が並んでいます。Xでよく見かける「後半が弱い」という声の原因はおそらくそこでしょう。
個人的にも1周目ではその印象だったんですけど、何周かするうちに「"後半弱い問題"は時間が解決してくれそうだな」と感じるようになりました。このアルバムは本当に、時が経てば経つほど愛される作品だと思います。
M12『deja-vu』
7.5点/10 分類③
この曲は尺が3分足らずで、今作でも最も短い曲。ラストの直前に置かれた小品のような趣。
この曲も"噛めば噛むほど"タイプではないかなと感じています。ブラスセクションが醸すなんともいえない哀愁が胸に響いてきますね。季節感で言ってもM11と並べて聴きたい、晩秋が似合う一曲だなと。
ここまでかなりギスギスした詞が続きましたから、ここでようやく救いようにミスチル流の希望と感謝が歌われています。
「良いことも悪いこともあるのが現実。だけど全て受け入れて、前に進まなくてはいけない。」
ミスチル流の希望。形を変えながら、繰り返し彼らが発してきたメッセージです。
そして伝えられる、あまりに真っ直ぐな感謝の言葉。「彼らが互いに支え合」った存在には間違いなく我々ファンも含まれている。涙腺に来ますねこの曲は。
M13『おはよう』
7.0点/10 分類③
ラジカルなアルバムを閉める、暖かなエンディング。ラスト3曲はセットと考えてよさそう。既存ファンに優しいと先ほど語りましたが、この曲かなりファン人気高いですね。
アレンジはポップで、編成もバンド4人+ピアノとスタンダード。"これぞミスチル"と言わんばかりの丸すぎる大団円ですが、アルバムが尖ってるのでこれぐらいでちょうどいいんです。
アウトロの口笛がまた切ない。感情を揺さぶられます。このラスト3曲を聴くと季節感への意識を感じますね。リリース時期に合わせてる部分はあると思います。
やけに解像度が高いですよね。こんな日常を桜井和寿も送ってるんだよな…
M10までは外向きでスケールの大きな詞世界が続きました。そこから徐々にスケールは萎んでいき、この『おはよう』では圧倒的にミクロな視点から具体的日常を描いています。このスケールの縮小がアルバムエンディングの余韻を高めてくれてますね。
曲の最後、そしてアルバムを通して最後の一節。今作の歌詞を全て通過してから、この一節。
一体どれほど多くの感情が乗せられているんでしょう。
ときに海の先の人々に、ときにイデオロギーを隔てた人々へ思いに馳せ、リスナーからの期待を背負い、不安と自信を同時に抱え、ときにペニスにカッターを当て…
なにひとつ問題は解決していないまま、視点は僕らの日常に移り、生活は続く。
「今日はきっと良い日だ」
自信も不安も諦めも、全部受け止めて尚、希望を見出す。
実にMr.Childrenらしいエンディング。
さいごに
「賛否両論であることが、『miss you』が名作である根拠だ」と最初に語ったのを覚えているでしょうか。
現在の音楽評論において、Mr.Childrenの最高傑作とされているアルバムは『深海』と『Q』です。そしてこれらは発売時の批判が多くあった二作(ブラオレ?知らんな)でもあります。
発売からまだ日が浅い『miss you』。おそらくこの二作と同じ道を歩むのだろうなと、私勝手に予想しております。
経験則でしかありませんが、そう信じてしまうほどの凄みがこのアルバムにはある。私から言いたいのは、
「とにかく聴け」
ファン以外の人にもというか、むしろファン以外に聴いてほしいです。きっと想像と全然違うから。そして
「嫌でも聴け」
ファンの中には戸惑う方も多いと思いますが、繰り返し聴いてください。きっと好きになります。そういうアルバムです。
ファンからの愛着が増し、ファンダムの外にいる音楽オタクにも届いたとき、このアートは完成するはずです。
では。
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