【過小評価】GRAPEVINEアルバム4選
アケオメです。
いまだに"令和5年"の響きに違和感を覚える時候ですが令和4年といえば、GRAPEVINEですよね(強引)
そうなんです、令和4年に僕が最もよく聴いたアーティストこそGRAPEVINEなんです。
別記事にて語ってはいるのですが、存在を知るだけだった彼らを本格的に追い出したのが去年でして。
「広告は3回見ると買っちゃう」みたいな話がありますがキッカケはまさにそれで、Twitterで音楽好きの方々がよく名前を挙げていたんですね。
以前Twitterで行われた『邦楽オールタイムベストアルバム』という企画にて、投票された作品の数が最も多かったらしく。要は多作でどれも超良いという話でした。
実際聴いてみると本当にその通りで、僕が最初に聴いたのが『光について』『スロウ』『棘に毒』『ねずみ浄土』の4曲。この時点でもう音楽としての幅が広すぎるじゃないですか。
ブルース色の濃い初期の代表曲2つにUSオルタナ的なザラついた質感の激しくも哀愁ある美メロ、そしてディアンジェロ以降の現代ソウルの解釈をギター偏重で歪みに歪めた引き算の極致。
年代がそれぞれ90年代、00年代、20年代に渡っている点で彼らのキャリアの濃さを伺い知ることにもなりました。
で、4月のアラバキロックフェスにて、初めて彼らのライブパフォーマンスを見ることになります。
彼らの写真すら見たことなかった僕だったので、当然彼らの顔も知りません。
どんな感じなのかとリハーサルを見てると、ステージ脇で背伸びをしている白シャツの細いオッサンがひとり。
「めちゃくちゃカッケェ…」
田中和将とのファーストコンタクトでした。
そして演奏前の音鳴らしをする亀井さんアニキ金戸さん高野さん、全員ビジュアルつよい。ミュージシャンを見た目で判断するのは不健康だと自覚しながら、演奏前にして既に惚れてました。
そんなイケオジたちによるライブパフォーマンスは圧巻。最後の曲が『FLY』だったんですけど、圧巻でした。圧巻。マジで。
それまで代表曲をさらう程度だったGRAPEVINE熱が、その日から一気に高まる結果に。
こんな感じで彼らに夢中になったプロセスを喋ってきましたが、全アルバムについて語れるほどはまだ深く聴けてないです。夢中とはいえ数ヶ月程度の付き合いなので、全作取り上げたミスチルに比べるとまだまだ僕の知見が足りてません。
が、好きすぎて彼らについて何かしら書きたくなってしまいました。これからも長く続くであろうGRAPEVINEとの付き合いのチェックポイントの1つとして、いま本当に好きなアルバム4つについて語っていきます。
another sky(2002)
最初に聴いたアルバムです。
なぜ最初に聴いたかというと、去年のツアーが本作のリビジッドツアーだったからですね。
「覚えなきゃ」つって手をつけましたが今では愛着あるアルバムです。
全体的な印象としてはキーボードの音に象徴されるような色彩豊かなサウンドという感じで、前作『Circulater』前々作『Here』とバンドアンサンブルの厚みをつける、ある意味回帰的な直近のムーブメントとからすると、方向転換したと言えると思います。
(2023.3.6追記
『Circulater』っていろんなモノに手を出してて、"回帰"というよりはむしろ"革新"に近い作品なんだな、とリスニングを深めて思い直しました。それにともなって、『another sky』の印象も、前作で広げた可能性の結実という意味では"転換点"というよりはむしろ"洗練"が相応しいのではと思い直したので一応追記を。)
そんな本作、開幕『マリーのサウンドトラック』でまず度肝を抜かれます。
あのコーラスの不気味さはわざと演出されているらしいのですが、オープニングナンバーとして100点です。ギョッとして一気に心を掴まれます。
続く『ドリフト160(改)』も僕すごい好きで、2コードをGRAPEVINEの中でトップクラスに速いテンポで進む疾走感のある曲なんですが、やはりキーボードやコーラスの質感か、どこかサイケデリックで異国情緒的なノスタルジーを感じるんですよ。
序盤はこんな感じで、"ノレるんだけどサイケデリックな叙情が入り混じる" みたいな曲が続きます。
中盤の『それでも』『colors』なんかは穏やかに美メロを聴かせる曲ですね。第一印象はそこまで強くなかったんですけど聴けば聴くほど沁みてきます。
そして後半が強いんですこのアルバム。『ナツノヒカリ』は初めて聴いた時から今まで大好き。本作に通底するノスタルジーを象徴するような曲。
『Sundown and Hightide』。割とストレートな、カッコいいロックンロールに乗せてドエロイこと歌ってます。なんだい「カスタードを指でなすりつけた」って。全くよ。
そして『アナザーワールド』です。圧倒的キラーチューン。イントロのリフ一回で「あこれ名曲だわ」と声が漏れます。アニキお得意のスライドギターによるギターソロもエモーショナルで素敵。この記事を読んだGRAPEVINEを知らないANATAはこの曲だけでも聴いといてください。
とここまで、異国情緒とは言いましたがそうした印象の美しく、どこか遠い世界観で進んできた本作は『ふたり』という曲で、我々と近い距離感で温かく終わります。田中和将の詩には珍しく、一人の女性との日々、心の動きを具体的に歌っていて、『アナザーワールド』の向こうにこんな曲を置くあたりもなんか憎いですね。良いですよね。
というわけで『another sky』でした。正直ディスコグラフィーの中で地味めな位置だとは思うんですけど、最初に聴いたのがこれでよかったなと今では思います。
イデアの水槽(2003)
西原さんが抜け、3人+サポメン2人体制となった初の作品。
よく言われていることですが、"自由な作風"です。
1曲目『豚の皿』からかなり攻撃的ですよ。リアルタイムで聴いてた人に当時どう思ったかを聞いてみたい。これの前作が『another sky』なんで、落差がすごいです。
攻撃的な曲でいうと『アンチ・ハレルヤ』もそうです。終始ハイテンションで乱痴気騒ぎみたいな曲ですが、ワイハ旅行のくだりの歌詞も好きですね。
田中さんの言葉選びの音のハメ方のセンスを感じます。遊んでるけど真面目風に仕上げてる感じがね。ちなむと田中和将が日本最高の作詞家だと思ってます。
『11%MISTAKE』なんかもかなり変で良いですね。離れすぎたユニゾンのハモリがキショくて中毒性があります。あとこれたぶんチ○ポの歌です。(個人の意見です)
そして最後の『鳩』。本作2番目のお気に入りです。田中さんの作曲はアバンギャルドで好きですね。そしてがなりまくる歌唱も聴きどころ。こんな風に歌えたら楽しいでしょうね。カズマサ大活躍ソング。
では1番のお気に入りはというと、最後から一個前の『公園まで』。奔放でどこか投げやりな気質の本作の中での良心。メロも歌詞もアレンジも真っ直ぐにハイクオリティ。歌詞にも出てきますが年末の空気感を物凄く感じます。愛する子供を想う親の心を歌った温かさがその空気感と相まって、胸が締め付けられるほど情緒的に仕上がった名曲。
というか、『公園まで』で終わっとけばいいものを、そのあと最後にあんな変な曲ポッポを入れるのも捻くれてて好き。
名盤として名前が挙がる機会を見ることが割と多い作品ですが、このアバンギャルドさを好む音楽好きが多くいるのも納得です。
From a Smalltown(2007)
これに関しては別記事でも触れていますが、個人的なGRAPEVINE最高傑作です。
どの曲も本当に質が高い。『Lifetime』は他の邦楽の名盤と並べて語られることが多いですが、本作もそういった扱いを受けるべきクオリティだと思います。多作ゆえに過小評価されてる感が否めない。
全体の雑感は前の記事にて語っているので、まだ触れてない曲について語っていきます。
まずは『スレドニ・ヴァシュター』。これイギリスの短編小説がモデルなんですね。田中さんの教養の深さを伺い知れます。で、この曲ほんとに歌詞が面白いです。
僕には意味不明です。背景知識もいるだろうし、そもそも歌詞について深く考えることが少ないので。ただ、これが音として流れてくるだけで快楽を感じるんですよ。
日本語詞で、言葉を "物理的な音" としてのみ聴かせるときに快楽を感じさせられるアーティストは多くいます。僕が好きなミスチル、アジカン、佐野元春、syrup16gなどなど。彼らの曲は、聴いていても歌っていても気持ち良いです。
ですがこの観点で見れば、GRAPEVINEの詞は頭二つ抜けています。当然言葉が意味から抜け出すことはないので "物理的な音" としてのみ聴く瞬間はありません。ただ僕みたいな聴き方をする人間からすれば、「それにしてもお前」と「神の御前ぞ」がこんなに近くに同居してるという意外さだけで、意味性の観点からも評価してしまうんですよね。
似たような聴き方で面白い曲は『I Must Be High』。
この「リサイクルと憧憬」の部分、実際は「不細工と童貞」って歌われてるんですね。
他の邦楽ではおよそ聴いたことのない単語じゃないですか。暗喩されるテーマではあっても。
このフレーズだけで感動するといえば浅はかですけど、予想していない言葉が飛んでくるだけで注目を持ってかれてしまうのは事実です。
この曲、他の部分の詞もめちゃくちゃ皮肉っぽくて面白いです。歌詞だけ見てても、Twitterの悪口をオシャレに言い換えてるみたいで読んでて楽しいので歌詞だけでも検索してみてください。
歌詞に注目して見てきましたが、音楽的に優れていることは言うまでもありません。『smalltown, superhero』なんかは曲が永遠に続いてほしいと思ってしまうほど、ピアノのフレーズもメロディも美しいです。この種の美メロは亀井さん作曲だと思っていたんですけど、クレジットを見ると作曲者がGRAPEVINE名義なんですよね。
コード進行は単純なのでセッションの可能性も無くはないかなとは想うんですけど、曲の成り立ちに詳しい方にぜひ教えて頂きたいです。
あと個人的に外せないのは『FORGE MASTER』。シンプルにカッコよすぎる曲です。分かりやすく盛り上がるサビのメロディや、がなる田中和将の声、サビ前のギターカッティング。
ギター上手くなったらギタボでカバーしたい曲第1位です。
アルバムの構成美についてここでも語りたいんですけど、エンディングに相応しそうな『棘に毒』という名曲の後に、さらに超然とした『Juxtaposed』という曲が配置されています。
ちなみにこれも田中さん作曲のエンディングナンバーですね。型にはまらない好き勝手さが亀井さんと対照的で役割補完が良いなぁと。
前に語った2枚でも触れたので個人的に傾向を見出しました。GRAPEVINEはいかにも最後の曲っぽいキラーチューンの後に、方向性は違えど何かしら一曲を配置しがちです。
はい、横道逸れましたが『From a Smalltown』を見ていきました。ライト邦楽リスナーに広く知られるほどの評価ではないですが、GRAPEVINEファンからの支持は厚いのでこれからもっと評価されていくんじゃないですかね。そう願ってます。
新しい果実(2021)
現状最新作であり、客観的に見れば最高傑作と呼んで差し支えない評価です。
僕も参加させていただいているTwitterのファンコミュニティがあって、そこで7〜80人規模の投票企画があったんですけど、アルバムではこれが1位でした。
ファン以外からも騒がれていたようで、実際リリース当時このジャケットを目にする機会は多かったです。あのとき聴かなかったのを後悔しています。絶対2021年の年間ベストに入れてたのになぁ。
このアルバムの凄さ、最も大きいのは『ねずみ浄土』が一曲目に置かれている点でしょう。
最初と同じこと言いますけど、"引き算の極致" です。 モチーフはあるんでしょうけど似てる曲が無いですよ。
あそこまで空白の多い曲を成立させるグルーヴはこのキャリアだからこそ生み出せるものでしょうね。
最初にキラーチューンが続きます。2曲目『目覚ましはいつも鳴り止まない』。ロックとR&Bを融合させた最高に心地の良いナンバー。ここまでで分かるようにブラックミュージックに接近した内容です。2017年『ROADSIDE PROPHET』あたりからその傾向はありますが、本作がキャリアで最も黒い作品でしょう。
もうひとつ重要な点ですがこの冒頭2曲、田中和将による作曲です。周知のように彼らのメインコンポーザーはドラマーの亀井亨です。が、本作では作曲への寄与が若干田中さんの方が大きいほどになっています。それに加えて冒頭の2曲から分かるようにその質の高さたるや。
まだこれ以降の作品が発表されていない以上無責任なことは言えませんが、この変化はバンドの創作において可能性を大きく広げるのではないかと思います。彼らの未来に期待を抱くばかりです。
アラバキで初めて彼らを目撃したときに聴いた『Gifted』『阿』。これからライブで重要なレパートリーになっていきそうな曲ですよね。特に後者。2008年にも『CORE』にて、『The National Anthem』的なベースリフでグルーヴを聴かせる曲で一つの完成を見せましたがそれから13年、詩曲両面でオリエンタルな質感を獲得してまた別の完成形を示しました。
田中節の押韻がこれでもかと炸裂しています。
ラスト3曲も円熟を感じさせつつ新たな試みを見せます。
プリンスの引用を用いた疾走感ある80sR&Bナンバー『josh』。しかしギターロックバンドらしく間奏で伸びやかなギター2本の絡みを見せます。
続いてこちらも疾走感あるハンバーグナンバー『リヴァイアサン』。
国語の教科書に載ることで話題になった「群れず集まる」で田中さん自身が語っていますが、"聴き手になにかを与えよう" という作為を批判する内容でしょう。それにしてもこれ以上ないほど鋭く攻撃的です。
(2023.3.7 追記
またもや知見が浅かったというか、この『リヴァイアサン』、日本社会全体を捉えた、もっとスケールの大きな批判だという解釈を見かけてそっちの方が自然だなと。というか曲名や「サラマンダー」という語からも、聖書の引用があってそらクリエイターだけに向いた批判なハズがないわなと納得してます。ポップミュージックを深く味わううえで、そろそろ聖書や日本の歴史書などの知識も必要だなと思い始めた契機。)
またまた コォォォォォ!!!!! が高らかに響くハンバーグナンバー『最後にして至上の時』。前に紹介した3作とは打って変わって、これ以外ない、と曲名から分かるアルバムのエンディング曲です。
この曲リズムセクションが独特で、個人的にはRadioheadの『Mornig Bell』がモチーフではないかと推測しています。なんにせよこのようなユニークなフォーマットの曲は田中和将のお手のものです。
というわけでハイライトを攫っていきました『新しい果実』。二十余年のキャリアを持ちながらここにきて胸を張って最高傑作と呼べる作品を生み出すGRAPEVINEにも、懐古主義に陥らずフラットに今の作品を評価できるGRAPEVINEのファンにも、素晴らしいなぁと感心してしまいます。
というわけでGRAPEVINEとの出会い、彼らの好きなアルバムを語ってきました。
色々言いましたがまだまだ深く聴けてません。10年代の作品なんかは特に。
彼らほどの数と質を持つアーティストなら、まだまだ沼は深そうです。2023年も深く深く潜っていくとしましょう。
それでは読んで頂いたみなさんに、
ドウモサンキュー、アリガトサン。