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#648:鮎川哲也編『トラベル・ミステリー④ 殺人列車は走る』

 鮎川哲也編『トラベル・ミステリー④ 殺人列車は走る』(徳間文庫, 1983年)を読んだ。順番に読んできたこのシリーズの4冊目。収録されている作家は、順に、夢野久作、蒼井雄、渡辺啓助、鮎川哲也、安永一郎、中町信、おかだえみこ、の計6名。

 編者自身の作である「碑文谷事件」は中編に相当する分量の作品。本作を読むのは、3回目くらいになると思うが、典型的なアリバイ崩しの作品である。鮎川氏の作品らしく、容疑者の鉄壁に見えるアリバイが、鬼貫警部によって一歩一歩攻略され、崩されていくプロセスが読みどころである。

 安永氏の「復讐墓参」は少年犯罪がテーマになっている。一見動機が不明の通り魔的犯行に見える事件で、事件を起こした少年が黙して語らないその背景を、捜査官が丁寧な捜査を積み重ねて、特異な動機が形作られた少年の生い立ちと心理的背景に迫るという作品。印象に残る作品である。

 中町氏の「偽りの群像」は中町氏のデビュー作にあたるとのことだが、それにしては堅実にまとめられた見事な作品だと思う。鮎川氏の作品と同様、アリバイ崩しもの。編者が解説に、「あまり高らかな声で言いたくないが、編者たるわたしは、わたし自身の「碑文谷事件」よりもこちらのほうが数段よく書けているように思っている。」(p.277)と書かれているのに、私も同感である。

 全6冊の本シリーズは、残すところ未読はあと2冊になった。