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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しが…

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人知れず世間の片隅で時流に抗いつつ片意地を張ってひっそりと生きる冴えない初老の孤立しがちな乱読者。心理臨床界隈の住人。ほとんどはただの独り言ですが、どこかで耳を傾けてくれる人がいれば、そこに思いがけない意味が宿るのかもしれません。私自身も思いがけない場所にたどり着けたら。

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    自分が読んだ本についての、感想、コメント、連想を、気ままに書いています。

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#650:アガサ・クリスティー著『パディントン発4時50分』

 アガサ・クリスティー著『パディントン発4時50分』(ハヤカワ・ミステリ文庫, 1976年)を読んだ。原著刊行年は1957年。原題は、4.50 from Paddington。現在は、同じ早川書房のクリスティー文庫から新訳版が出ているようだが、本書は旧訳版の方。  本書も確か高校生の頃以来の再読になる。幸いなことに、印象的な冒頭のシーン以外は、綺麗さっぱりと内容を忘れていた・・・と思ったら、結末近くで、ミス・マープルが再登場したあたりになって、どのようにして犯人の名が告げら

    • #649:今井むつみ著『学力喪失 認知科学による回復の道筋』

       今井むつみ著『学力喪失 認知科学による回復の道筋』(岩波新書, 2024年)を読んだ。発売されたばかりの新刊。ちょうど現在準備を進めている仕事に関係する内容が含まれているように思われたので、早速購入して読んでみた。著者の本としては、去年話題になった、秋田喜美氏との共著の『言語の本質』(中公新書)が刺激的だったが、本書もまた、私には大いに学ぶところのある本であった。  個人的な関心から言えば、私にとっての本書の主要キーワードは、「記号接地」と「アブダクション推論」である。本

      • #648:鮎川哲也編『トラベル・ミステリー④ 殺人列車は走る』

         鮎川哲也編『トラベル・ミステリー④ 殺人列車は走る』(徳間文庫, 1983年)を読んだ。順番に読んできたこのシリーズの4冊目。収録されている作家は、順に、夢野久作、蒼井雄、渡辺啓助、鮎川哲也、安永一郎、中町信、おかだえみこ、の計6名。  編者自身の作である「碑文谷事件」は中編に相当する分量の作品。本作を読むのは、3回目くらいになると思うが、典型的なアリバイ崩しの作品である。鮎川氏の作品らしく、容疑者の鉄壁に見えるアリバイが、鬼貫警部によって一歩一歩攻略され、崩されていくプ

        • #647:日本エッセイスト・クラブ編『父と母の昔話 '96年版ベスト・エッセイ集』

           日本エッセイスト・クラブ編『父と母の昔話 '96年版ベスト・エッセイ集』(文春文庫, 1999年)を読んだ。文藝春秋から1996年に刊行された単行本を文庫化したものとのこと。本書に収録されている文章は、いずれも初出誌紙が1995年に刊行されたものとのことである。  本書には65篇のエッセイが収録されているとのことだが、私の印象に残ったものを収録順に挙げれば、杉浦昭義「“世界一”の叔母」、古田紹欽「山、人を見る」、坂村瞳「バースデイ・スーツ」、早坂暁「時計は溶けて」、田辺聖

        #650:アガサ・クリスティー著『パディントン発4時50分』

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        • #648:鮎川哲也編『トラベル・ミステリー④ 殺人列車は走る』

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          #646:天藤真著『大誘拐』

           天藤真著『大誘拐』(双葉文庫, 1996年)を読んだ。本書は双葉文庫から刊行された「日本推理作家協会賞受賞作全集」の第37巻にあたる。ネットで調べると、この全集は第95巻まで発売されたことが確認できた。以後、刊行は止まったのだろうか?  本作品が最初に刊行されたのは1978年とのことで、翌1979年に第32回日本推理作家協会賞を長編部門で受賞している。文庫版としては、はじめ角川文庫に収録され、現在は創元推理文庫から刊行されているものが入手しやすいはずだ。私は本書を、日本推

          #646:天藤真著『大誘拐』

          #645:河合隼雄著『日本人とアイデンティティ 心理療法家の着想』

           河合隼雄著『日本人とアイデンティティ 心理療法家の着想』(講談社+α文庫, 1995年)を読んだ。巻末に、創元社から1984年に刊行された本を文庫化にあたって再編集した旨の編集者によるものと思われる記述がある。調べてみると、創元社版の方は『日本人とアイデンティティ 心理療法家の眼』のタイトルで刊行されている。ネットで調べてみた範囲では、詳細はわからなかったが、文章の収録順が大幅に変えられ、収録された文章につけられたタイトルが一部変更されているようだ。  著者が「文庫版まえ

          #645:河合隼雄著『日本人とアイデンティティ 心理療法家の着想』

          #644:アーシュラ・K・ル・グウィン著『風の十二方位』

           アーシュラ・K・ル・グウィン著『風の十二方位』(ハヤカワSF文庫, 1980年)を読んだ。原著刊行年は1975年とのこと。17篇の作品を収録した短編集である。本書の存在は若い頃から知っており、ずっと気にはなっていたが、なかなか手を出せずにきた。  私は著者の作品を、ゲド戦記の初めの三作の他に、やはり若い頃に『闇の左手』と『所有せざる人々』を読んだことがあるのみ。内容はすっかり忘れてしまっているが、『所有せざる人々』には感銘を受け、『闇の左手』はよくわからなかったという印象

          #644:アーシュラ・K・ル・グウィン著『風の十二方位』

          #643:村上靖彦著『すき間の哲学 世界から存在しないことにされた人たちを掬うこと』

           村上靖彦著『すき間の哲学 世界から存在しないことにされた人たちを掬うこと』(ミネルヴァ書房, 2024年)を読んだ。私がこれまで読んできた著者の本にはさまざまな形で刺激を受けてきたが、本書もまた、私にとっては刺激に富んだ本であった。  本書のテーマは、大づかみに言えば、さまざまな個人が抱える社会の中での生きづらさが不可視化されていくプロセスと、そのようにして不可視化された人々のあり方に私たちがどのようにして出会うことができるかという実践のあり方と、そのような出会いが私たち

          #643:村上靖彦著『すき間の哲学 世界から存在しないことにされた人たちを掬うこと』

          #642:池内紀・川本三郎・松田哲夫編『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』

           池内紀・川本三郎・松田哲夫編『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』(新潮文庫, 2015年)を読んだ。本巻に収録されているのは、16人の作家による短編作品。  読み応えのある作品揃いの中で、とりわけ私の印象に残った作品を挙げるなら、吉村昭「梅の蕾」(1995)、浅田次郎「ラブ・レター」(1996)、重松清「セッちゃん」(1999)、村上春樹「アイロンのある風景」(1999)、吉本ばなな「田所さん」(1999)、山本文緒「庭」(2000)

          #642:池内紀・川本三郎・松田哲夫編『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』

          #641:池見陽編著『フォーカシングへの誘い 個人的成長と臨床に生かす「心の実感」』

           池見陽編著『フォーカシングへの誘い 個人的成長と臨床に生かす「心の実感」』(サイエンス社, 1997年)を読んだ。フォーカシングに関連する書籍として、最近、村上正治編著『フォーカシング・セミナー』(福村出版)を読んだばかりだが、本書はその『フォーカシング・セミナー』と同時に中古書店で入手したもの。そういう縁もあって、間をおかずに本書を読んでみることにした。  本書のテーマは、さまざまな現場で、さまざまな目的で、フォーカシングがどのように実践され、どのように応用されているか

          #641:池見陽編著『フォーカシングへの誘い 個人的成長と臨床に生かす「心の実感」』

          #640:本格ミステリ作家クラブ編『見えない殺人カード 本格短編ベストコレクション』

           本格ミステリ作家クラブ編『見えない殺人カード 本格短編ベストコレクション』(講談社文庫, 2012年)を読んだ。本書には9人の作家の短編と、1篇の評論が収録されている。解説は我孫子武丸氏。  収録作の中では、黒田研二「はだしの親父」が、私の印象に最も残った。父親が病死したときの奇妙な状況と家族の情とを絡めた作品で、ぎこちなさは感じるが、うまく構成された佳作であると思う。  東川篤哉「殺人現場では靴をお脱ぎください」は、後にシリーズ化され、映像化もされたヒット作品の第一作

          #640:本格ミステリ作家クラブ編『見えない殺人カード 本格短編ベストコレクション』

          #639:相沢沙呼著『午前零時のサンドリヨン』

           相沢沙呼著『午前零時のサンドリヨン』(創元推理文庫, 2012年)を読んだ。2009年に東京創元社から刊行された本を文庫化したものとのこと。本作は2009年度の第19回鮎川哲也賞の受賞作だそうだ。著者の作品については、これまで城塚翡翠シリーズしか読んだことがなく、興味津々で読んでみた。  基本的にはライトノベル系の作品と言えるだろうか。男子高校生を語り手として高校を舞台とした作品である。4篇の短編作品から成る連作短編集の体裁を取りながら、一本の長編として着地させるタイプの

          #639:相沢沙呼著『午前零時のサンドリヨン』

          #638:村山正治編『フォーカシング・セミナー』

           村山正治編『フォーカシング・セミナー』(福村出版, 1991年)を読んだ。ずいぶん前に、たまたま近所の中古書店で見かけて買って、ずっと積読状態になっていたのだが、この度、思い立って手を伸ばしてみたという次第。  編者による「はしがき」によれば、本書は、1987年9月に東京で開催されたジェンドリン夫妻によるセミナーの記録を中心に編集された本であるとのこと。当時の熱気と参加者たちの興奮が行間からこぼれ落ちるように伝わってくる本であった。  本書の特徴は、セミナーの主要部分の

          #638:村山正治編『フォーカシング・セミナー』

          #637:森嶋通夫著『サッチャー時代のイギリス その政治、経済、教育』

           森嶋通夫著『サッチャー時代のイギリス その政治、経済、教育』(岩波新書, 1988年)を読んだ。タイトルだけを見ると、回顧的に振り返って評価する内容の本のようにも思われるが、本書を読んでみてわかったのは(本書の刊行年とサッチャーの首相在任期間を対照すれば気がつくことではあるが)、本書がリアルタイムに進行中のイギリスの社会状況を描写し、分析し、近未来についての見通しを述べた本であることだ。  著者の本を読むのは、これが4冊目だと思うが、どの本を読んでも、背筋がピシッと伸びた

          #637:森嶋通夫著『サッチャー時代のイギリス その政治、経済、教育』

          #636:アガサ・クリスティー著『マン島の黄金』

           アガサ・クリスティー著『マン島の黄金』(ハヤカワ文庫, 2001年)を読んだ。原題は、When the Light Lasts and Other Storiesで、原著の刊行は1997年。著者の死後、かなり経ってから、単行本未収録の作品を中心に編まれた短編集とのことである。そういう経緯もあって、内容的には、ややごった煮感は否めない。  イギリス版とアメリカ版とでは収録作品に違いがあり、アメリカ版の方が一篇多いとのことで、この日本語版はアメリカ版に準拠して全10篇の作品が

          #636:アガサ・クリスティー著『マン島の黄金』

          #635:野田知佑著『日本の川を旅する カヌー単独行』

           野田知佑著『日本の川を旅する カヌー単独行』(新潮文庫, 1985年)を読んだ。日本交通公社から1982年に刊行された本を文庫化したものとのこと。「あとがき」によれば、日本交通公社(現JTB)から発行されていた『旅』誌(調べてみると2012年に廃刊となっている)に連載されたものがまとめられているとのことである。解説は椎名誠氏。本書の存在はリアルタイムで認識していたが、これまでは読む機会を作らずにきた。たまたま中古書店で目に留まったのをきっかけに、ようやく読むことができた。

          #635:野田知佑著『日本の川を旅する カヌー単独行』