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#646:天藤真著『大誘拐』

 天藤真著『大誘拐』(双葉文庫, 1996年)を読んだ。本書は双葉文庫から刊行された「日本推理作家協会賞受賞作全集」の第37巻にあたる。ネットで調べると、この全集は第95巻まで発売されたことが確認できた。以後、刊行は止まったのだろうか?

 本作品が最初に刊行されたのは1978年とのことで、翌1979年に第32回日本推理作家協会賞を長編部門で受賞している。文庫版としては、はじめ角川文庫に収録され、現在は創元推理文庫から刊行されているものが入手しやすいはずだ。私は本書を、日本推理作家協会賞の受賞直後くらいに一度読んでいる。当時の私は中学生だったが、生意気にもすでにいっぱしの推理小説読みで、当時メディアで話題になっていた本書を、図書館から借りて読んだはず。たぶん単行本の方を読んだのではと思うが、調べてみると角川文庫に収録されたのは1980年と早いので、もしかすると文庫で読んだのかもしれない。いや、やはり図書館で借りて読んだのなら、単行本の方ではないか。どっちでもいいか(笑)

 というわけで、今回は約45年ぶりの再読になる。初読時もめっぽう面白かった記憶があるが、今回再読してもやはり面白い。ストーリーも大部分きれいさっぱりと記憶から消えているので、次々と意表を突いてくるその展開を存分に楽しんだ。

 タイトル通り、誘拐事件を扱った作品であるが、国内のこのジャンルの作品としては、トップクラスのクオリティを誇る傑作であると思う。本作の特徴は、犯人一味と被害者との間に生まれる関係にあり、奇想天外な方向へとストーリーが転がりつつ、荒唐無稽になる手前で踏みとどまっているところに、著者の腕前の見事さが光る。飄々とした味わいの、ペーソスとユーモア味豊かな、それでいて犯人側と捜査側の知恵比べがほどよいサスペンスを生み出している、驚くほどバランスの取れた作品である。手放しで賛辞を送りたい傑作、いや名作である。

 著者の代表作にして、「面白いよ」と、自信を持って人に勧めることができる作品である。