12月27日 世はボリューム満点激安ジャングル
極寒。5時50分目が覚める。
起床と共にダウンのポケットからタバコを取り出し、束の間の休息。
机の上に、頭の悪そうなフォントで「BIG」と書かれているペプシ缶。
飲みかけだったので、即灰皿になった。
「シュワ〜」という音は炭酸なのか、消化の音なのかどっちなんだろう、どっちもかな?と思いながら5時55分に家を出る。
5分で家から出れるのは、この家が極寒だからである。暖房の効果は無く、ありとあらゆる所から隙間風が吹いている。
頭が寒いと思ったら、枕元のコンセントの穴からビュンビュン突風が吹き込んでいて、画面が映らないipod nanoを無駄に充電する事で穴を塞いでいる。
なので僕は、ダウンを着て生活している。
ダウンを着て寝るのであれば、パジャマもクソもない。
それならば、中にバイト着を着て、ジーンズを履きながら寝てしまえば、
一丁上がり。起きた瞬間に出勤できるという訳だ。
日が上がる前の冬の朝は、非常にテンションが下がる。
真っ暗な中、煌々と光り輝く百円ローソンはテンションが高く、それを見てまたテンションが下がる。
最近僕は、「衝動的でも 得したね〜。今夜はナニがあるのかな〜。ドンドンドンドーンキードンキーホーテー 激安なんとか格別トンネル〜〜♩と口ずさむ。
これを歌うと何故か元気が出る。
「衝動的でも得したね」は予定以上に買いすぎてしまった自分への言い訳、合理化に聞こえるのに、「今夜はナニがあるのかな」と二日連続行っちゃってるこいつが愛らしい。
「(昨日は)衝動的でも得したね」って、二日目の駐車場で友達と話してるシーンっぽくてなんか好きだ。
「ミラクルショッピング」を聞きながら上機嫌に歩いていると、
この前、歩きタバコを注意してきた30代前半男性のランナーが遠くから走ってきたのが見えた。
前回注意された時は、目の血も走っちゃってる感じで、超怖かったので思わず「す(吸)いません」と言ってしまい、タバコ注意された系エピソードの中で最悪のオチを自ら作ってしまった事を深く後悔した。
僕はあれ以来一切の歩きタバコをやめた。
だから堂々と歩いた。
何なら「見てください!!あなたの言う通りに私辞めました!!」
くらいの感じでいた。
「おお!ナイスやで!」的な事を言われると思った。
がしかし、また血走った目でタバコを注意された。とても怖かった。
自分でも反省が足りなかったと思う。
もう本当にタバコを吸うのをやめよう。
僕は俯きながら、急行を見送り各駅停車に乗った。
もうすぐ日が昇る。
~FIN~
いやおかしい。待って欲しい。日なんて上がってないし。くそ寒いし。真っ暗だし。
僕はタバコを吸っていない。怖い。めっちゃ怖い。
余白が多すぎる。
考えよう。
一回目に彼と会った時、彼が僕に向けた言葉は、もしかしたらタバコに関する事ではなかったのではないか。
僕は出勤中は常にイヤホンをしている。なので実際の所、彼が発した言葉を耳にしていない。「朝」「ランニング」「歩きタバコ」「怒られる」この要素を組み合わせた結果、「朝ランニングしている人に、歩きタバコをしている僕が怒られる」という結論に至っただけだ。
もっと言うと、一回目に怒られた時も、その瞬間タバコは吸ってなかったのだ。
彼とすれ違う三十秒前にはタバコの火を消していた。
頭の中がグワァ〜〜と混乱してきた。
少し落ち着こう。ホームの椅子に腰掛けながら電車が到着するまでに、自分は何に怯えているのか、これからどうすれば良いのかをまとめる事にした。
彼の恐るべき点は大きく挙げて二つだ。
一つは、「浮かび上がらない動機と明確な攻撃性」点だ。
思い返すに、注意内容が口の動きからして「バカ!」「あほ!」「くだばれ!」的な単語ではなかった。
10秒くらいかけて、割としっかりとした一文を何かを喋っていた。
何かしらの「メッセージ」を俺だけに向けられている事の感じの悪さったらない。
どんな述語を使い、どんな格助詞や形容動詞を華麗に駆使して、何をどう修飾して、如何に連帯修飾語を用いたのだろうか。
想像のしがいがありすぎる。
分かっているのは主語に「僕」を指す言葉を用いた事と、動詞にかなり攻撃性の高い言葉を使ったという事だ。
そして二つ目は、「朝から運動をしている。」という点。
これが動機もクソもない、単なる頭のおかしいおっさんなら気にする必要がない。がしかし、まだ冬だ。山手線の春ではない。
早朝6時からランニングをするような奴は、「守る」ものがある人だ。
健康・長寿を切に願い、仕事前に起き、躊躇なく行動に移せる人間。
意地汚い程理性的な人間の怒りというのは、余程しっかりとした動機があって僕に何かを言っているに違いがない。
しかし動機が見当たらないのだ。
曖昧な記憶を思い返すと、なんだか「お」行が多かった気がする。
となると「お前を殺す」的なアレなんじゃないかとさえ思えてくる。
彼が「タバコが原因で怒っている」もしくは「単に頭がおかしい人」であって欲しい。
その線もない訳ではない。
〜二回目の遭遇〜
この前、ワテがランニングをしている時、タバコを吸っているクソガキがいた。綾野剛に似ていたが、それとこれとは別だ。
俺が気持ち良く走っている所を邪魔しやがって。
怒鳴り散らしてやったさ。
もしまた今日あいつがタバコを吸っていたら怒鳴りちらしてやろう。
てかあいつは今日も絶対タバコを吸っている。綾野剛顔で。
キレてやる。てかもうキレたい。わくわくしてきた。
綾野剛が向こうから歩いてきた。怒鳴りちらしてやろう。
あと五十m、四十m、三十m、、、、十m、一m
今だ!!!!!!!
「いや吸ってへんのかい!!!!!!!」
的なね。
また、よくよく考えれば前回遭遇した曜日と同じ曜日だった事が分かった。
週一回の運動なら頭がおかしい人の可能性だってまだ微かにはある。
何にしろ怖い。
次から肺機能を高める目的の内に、「僕を追う」事が追加されているかと思うと夜も眠れなそうだ。
何かしらの対策を打たなければならない。
その日のバイト先での出来事はほとんど覚えてない。
とにかく急いで家に帰って僕は作戦を練る事にした。
作戦の目的は恐怖心を薄める事。
そこで僕が考えた案は、彼よりも「怖く」なるという事である。
僕は次の日からライターを少し多めに持ち、受験の時母親から貰った伊勢神宮のお守りをリュック内の小さなポケットに入れた。
そしてパンツを二着程持ち歩くようにした。
それは何故か。
彼が僕の事を注意したからである。
彼がこの事に気がつく事はない。だが僕は彼が原因で下着を二枚持ち歩き、ライターを多めに所持している。とゆう事実が起きてしまっている。
僕は彼よりも怖くなったはずだ。
今日また彼とすれ違った。目が会うと彼はまた血走った目で何かを言っていた。
でも怖くなかった。何故なら僕はパンツを持っているから。
僕は立ち止まり、後ろを振り返った。彼は走っている途中に一度左手にある、セブンイレブンを見た。
彼に対して「殺戮マシーン」的な印象を持ち合わせていたので、「セブンが見たい(あっおでん始まったかも〜)」といったような、人間的な行動に正直ホッとした。
記憶の中で彼の口の動きを反芻した所、彼はおそらく「見てんじゃねえよ!」と言っていた。
そりゃ見るだろ。理性を失った彼を見ていないと何をされるか分からないのだから。
イヤホンからは
「衝動的でも 得したね〜。今夜はナニがあるのかな」と聞こえた。
こえ〜〜〜〜〜〜。
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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。