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12月30日 深海。誠。

寒い。何て寒い朝なんだ。
今年の冬は「冬ベスト盤~DJ KAORI Remix~」に収録されている、過去の冬達と比べても一番サムいのではないだろうか。
きっと若手の冬なのだろう。今季結果を残さないと今後使ってもらえない。
その焦りが裏目に出ちゃってるよ。
執拗に手を叩いて笑う感じの若手と同じ嫌な感じがする。
「冬も大変ですな〜」なんて思いながら、カレンダースマホのねを見ると、明日は大晦日。
病院の売店だから年末年始はお休み。
今年最後のバイトだし、今日は気合いを入れて出勤した。

十三時出勤。遅番はとても苦手だ。
「おはようございま〜す。」と店に入ると、空気がすでに出来上がって
しまっている。午前中に何か問題が起きていると、店内の雰囲気はピリついているし、何も起きていないといつも通りの感じ。

今日は前者だった。社員さんに呼び出され、一枚の紙切れを渡された。
「髪が長い男の店員さんは、この病院の雰囲気とあってない気がします。
また彼はとても無愛想です。ここは病院であり、何かしらを患った人が多く来ます。皆、気持ち良く買い物がしたいのです。それなのに彼の接客を受けると気分が云云云云。カンヌンカンヌン〜〜〜」
と書いてあった。
投書箱に投稿された、僕へのクレームだ。
「すいません。年明け切ります。」と適当な事を言って、
その場を済ませた。

だが、釈然としない。
接客態度が劣悪なのも、食品を扱う場でもあるのに髪が長いのも、
決して良い事ではない。それは僕が間違っている。
だから腹が立つ。

話は打って変わって投げて七回裏表。
新聞が店に届かない。遅い。約束の配達時間をとうに過ぎている。
イライラする。キレたい。絶対僕悪くない。
来たら超怒ってやろう。
三十分遅れてやってきた配達の人が「すいませ〜〜ん」と
言いながら新聞を置くのが見えた。
「おい!待てや!我コラ!すいませんじゃなし〜〜に、何遅れて来てくれてまんねんでんがな!他のお客様に失礼やろがい!!」
ああ〜スッキリした。
と、想像するだけで何だかもうキレたくて、ワクワクしてたら、
一時間遅れてやってきた配達の人がこっそりと新聞を起き、何も言わず
僕の前を通り過ぎて行くのが見えた。

僕は怒る気がしなかった。相手の分があまりにも悪すぎて
これから全うな事を言う僕の言葉に、一種の暴力性みたいなものを感じてしまったからだ。
何だろう。この気持ち。
相手に反論の余地がある時は、説き伏せてやろうと躍起になって激怒するのだが、返す言葉が「すいません」のみの場合。
両腕を後ろにブンブン回して、今にも落ちそう、崖際よろしくな人を突き落とすような事をするのはなんだか憚かる。
やはりキレるというのは、相手を崖に追い詰めて行く事に快感を感じるのであって、突き落とす事はエンタメ性に欠けるのではないだろうか。
というかもう相手が百悪い時に、ワクワクしている時点で僕の方が「悪」なのではないか。と云う考えに至った。

戻って三回裏ネクストバッターサークル。
「髪が長い男の店員さんは、この病院の雰囲気とあってない気がします。
また彼はとても無愛想です。ここは病院であり、何かしらを患った人が多く来ます。皆、気持ち良く買い物がしたいのです。それなのに彼の接客を受けると気分が落ち込みます。云云云云。カンヌンカンヌン〜〜〜」

「とても無愛想です」。までで僕は崖っぷち。
問題はその後の、「ここは病院であり」からである。
確実に筆がノッテいるのが手に取るように分かる。
日々蓄積したイラつきが、言葉に込められている。
「ここは」の時点で僕はもう崖から飛び込んでいる。
深海にまで落ちてしまったのに、遠くの光の方で「それなのに、彼ゴボゴボ接客を〜」と聞こえてくる。
僕は全身の力を込め、海底を蹴り、水面から顔を出し叫ぶ
「言い過ぎじゃね!!??」と。
絶対俺が悪いのわかって、そんな「言い方」する?と
「言い方」に関して指摘をする事で割と五分の感じでやりあえる気さえしてきた。

とか何とか言ってもお客様は神様ですので、僕は大人しく髪を切る。
今年の冬のように若手の神を、余裕で許す僕は、きっとこの店で神以上の存在なのだ。

がしかし、接客態度を変えるのは中々難しい。
それは何故かというと、僕はコンビニで働いている事をとても恥ずかしく思っているからだ。
客としてコンビニ行く時、感じの良い店員さんに当たるととても良い気持ちになる。
「頑張ってるな〜。」と思い、僕も客としての態度を良くする。
頑張ってるな〜というのは、「コンビニ店員」なのに明るく一生懸命で偉いな〜。という事だ。偉いというのがもう上から目線だ。
僕は感じの良すぎるお客さんが大嫌いだ。
感じも良すぎると、自己満足に切り変わる。

高三の頃からコンビニで働く事が夢で、親に反対されながら上京し、東京のオフィスビルで「いらっしゃいませ〜」と言って三十年経過する人なら別だが、「コンビニ店員さん」だっていないと困るし、立派な仕事じゃないかと言う人は今一度しっかり考えて欲しい。
誰でも出来る仕事というのは辛い。
人件費の無駄だし短髪で愛想の良いAIが店員を務めるべきだと思う。
実際に無人レジとかもう出てきてるし。

コンビニ店員のおっさんが、夕方、店の駐車場を掃除している保険か何かのCMがテレビで流れてた。
通りかかった主婦が彼を見つめる。カメラが引いていって空撮に切り替わり、小さくなったおっさんに向かって、見知らぬ主婦が言うのだ。
「あなたの頑張り見てますよ。」
何ておこがましい女なんだ。ふて寝をしてしまいそうだ。

「いらっしゃいませ〜〜!」と大きな声で言う同い年くらいの店員をみると阿呆かと思う。何ておめでたい奴なんだと。
「現状を把握してこうよ!二十四にもなってヤバいじゃん俺らさ!少し将来について話さない?」と飲みに誘っては、朝まで夢みたいな話で熱くり、そのまま死んだ顔で出勤したい。

僕は何てダサいのでしょう。女の子の目が気になる。
同い年くらいの女の子が、最近物凄く大人で現実的になってきていると感じている。嫌、僕が気がついてなかっただけで、ずっと前からもう
「これだから男って。」だったのだろう。

僕は病院の売店で働いている。客はAVでお馴染みのおな〜〜すだ。
いつかの「あ〜さ〜く〜ら〜」みたいに彼女達に追いかけられたい願望を持っている身としては、「あの人コンビニ店員なのに感じいいよね〜〜。いい人。」と思われたくない。
それより「なんかキャレとってもク〜〜ルじゃない?なんかやる気ない感じとか、まほろ駅前の行天みたいだし〜、貧乏から来る色気っていうかさ。
私達の知らない世界?っていうの?ダンスとかからかけ離れてる感じ?
きっとこれだけやる気がないって事は、このコンビニにかけてないってコトじゃん。俳優さんか何かかな?」

帰宅。髪がさっぱりとした。
「いらっしゃいませ〜」と鏡にニッコリ。なんだかイケそう。
バイトをクビになる訳にはいかないのだ。

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落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。